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フリージア王国備忘録<第二部>  作者: 天壱
支配少女とキョウダイ

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Ⅱ49.支配少女は息を抜く。



「……プライド。本当に大丈夫かい?大分疲れているようだけれど」


学校三日目の晩餐。

エリック副隊長の家から瞬間移動で城に戻ってから、瞬く間の内に時間が過ぎて夕食の時間にまでなってしまった。こうして食事を口に運んでいる間も気が付くと溜息が漏れそうになる。まだ学校が始まって一週間も経っていないのに、こんなに色々なことが待ち構えているとは思わなかった。

釣られるようにステイルとティアラが心配してくれる中、私はグラスを傾けて喉を潤す。心配かけてごめんなさい、と返しながらテーブルの向かいの席に座る人物に笑いかける。


「折角来てくれているのに溜息なんてごめんなさい、レオン。例の件で色々あって」

アネモネ王国第一王子、レオンとの晩餐。

今日が訪問日だったレオンは、こちら側の都合に合わせていつもの時間帯より遅い、夕食の時間に招かれてくれた。「気にしなくていいよ」と滑らかな笑みで答えてくれるレオンは同じようにグラスを傾け、にっこりと私に笑いかけてくれた。


「そういえば、学校の方はあれからどうだい?」

さっきまではアネモネ王国の話をしてくれていたレオンだけれど、話し終わってからの私のうっかり溜息でもう察しがついたように尋ねてくれた。

レオンの話中は私もアネモネや貿易や国外の事を楽しんで聞けたけれど、一度会話が途切れてしまうとどうしても今日の事をぐるぐる思い起こしてしまった。彼も私がそれで今うっかり溜息を吐いたと気づいてしまったのだろう。

折角のレオンとのディナーなのに、別の事を考えるとか失礼過ぎると後から猛省する。瞬きを繰り返して私を見るティアラと一緒に、ステイルも目を細めて私を見た。……ステイルに至ってはやっぱりまださっきのことを怒っているのかなと思う。

まぁそうだろう。だってエリック副隊長の家から城に帰った後ステイルには


ものすっごく呆れられたもの。


エリック副隊長の家を去った後、私としてはわりと上手くフォローできたかなとすら思っていた。

けれどステイルとしては余計なアドリブだったらしく「あそこまでするとは……‼」と頭を抱えられてしまった。それどころか怒らせてしまって顔は真っ赤だし、アーサーも腕で口元を押さえたまま私から顔を背けてしまった。「エリック副隊長生きてっかな……」と大分時間が経ってから呟いていたし、それほど私がフォローのしようのない発言をしてしまったことだけはわかった。

だけどエリック副隊長が大好きですと、あそこで私からもアピールした方が弟さんのキースさんにも納得して貰えると思ったし……と折角のステイルからのフォローを台無しにしてしまったらしいことを謝ってから伝えたけれど、それでも二人の反応は変わらなかった。

しかも「確実にキースさんに誤解を受けました」「俺この後休息時間なンでエリック副隊長迎えに行ってきます!」「何故そうも俺達の心臓強度を試されるのですか?!」と抽象的な怒り方だったので、具体的にどう悪かったのか未だに掴めない。聞いても二人してそこだけは固く口を閉ざしてしまった。代わりにアーサーへステイルが、ノーマンから貰った焼き菓子を「第一王子命令だ。いま食え味わえ、このことは誰にも話さずそして忘れるな」と口へ八つ当たりのように詰め込んでいた。

それからはもう着替えの為にと二人ともそそくさと部屋を移動しちゃったし。……取り敢えず明日エリック副隊長にあったらちゃんと謝ろう。


「ええ、まだ始動したばかりだから殆ど毎日ジルベール宰相とも打ち合わせをしているわ」

あはは……と思い出し笑いを零しながら、レオンに返す。

視線を感じて振り返ると、事情を知らない近衛任務中のアラン隊長とカラム隊長も気になったらしく、こちらに視線を向けていた。二人にも心配をかけて申し訳ない。

着替えを終わった後にステイルは一度挨拶にきてくれた後はヴェスト叔父様の元へ行ってしまったし、アーサーもすぐ私に挨拶をして走って行ってしまった。

そして、……ジルベール宰相とも打ち合わせを済ませ、「プライド様のお許しがあればいつでも実施可能に」と嬉しい報告を貰えて、セドリックに話を聞きに行って、休息時間を貰ったティアラが会いに来てくれて色々今日のことを話したけれど、流石に可愛いティアラにまで呆れられるのは泣きっ面に蜂過ぎるので「ステイルが上手く言い訳を作ってくれたわ」としか言えなかった。

そうしてあっという間に約束の時間にレオンが会いに来てくれて、夕食の為に身支度を整えて……と。本当にここ最近一日があっという間だ。

でもそれは私だけじゃなくて、仕事しながら学校に通っている生徒達もきっとこんな感じで一日が瞬く間の内に過ぎているのだろう。そう考えると頭が下がる。あっちは掃除洗濯食事調達全て自己負担だもの。


「……一応未だ大きな問題はないわ。ただ……ちょっとまた困ったこともあって」

定期訪問に来てくれたレオンにこれ以上心配をかけられない。

アラン隊長とカラム隊長には後程私から自白してエリック副隊長への無茶振りアフターケアもお願いするとして、今は目の前のレオンに改めて意識を集中させる。

肩を竦めて返す私に、レオンは音もなくグラスを降ろした。困ったこと?と聞き返してくれるレオンは心配するように翡翠色の瞳を揺らしていた。

今この場には私達の専属侍女や従者、給仕と護衛以外は誰もいない。けれど、レオンには一応まだ公式には学校潜入のことは話していない。

知っているのは一部の人間だけだし、下手をすると芋づる式でジルベール宰相の特殊能力も頭の良いレオンには勘づかれてしまう。

どんな〝困ったこと〟なら話しても平気かしら……と笑顔を作りながら検討すると、私が答えるより先に「失礼します」とステイルが皿にフォークとナイフを置いて手を上げた。


()()()()()……レオン王子。宜しければ、この後僕と一緒にワインでもいかがでしょうか?色々ご提案したいこともありますので」

にっこり、と社交的な笑顔を浮かべたステイルにレオンの目が一瞬だけ見開かれた。

レオンの返事を待ちながらステイルは遊ぶようにグラスをくるくる揺らして中のワインを回して見せる。話を逸らしてくれたようにも聞こえるステイルの発言にすぐ滑らかに笑うと「……良いですね」と落ち着かせた声で答えた。

真っすぐとステイルと目を合わせて見つめ合っている間、妖艶に光ったレオンの眼差しに一瞬ぞくっとする。


「レオン王子と兄様は本当に仲が宜しいですねっ」

ふふっ、とそれを見て悪戯っぽくティアラが笑うけれど、なんか絶対そんな微笑ましい感じじゃないと思う。

ステイルも若干笑顔に黒い気配を感じるし、昔の私だったら確実に二人が私の暗殺計画を企てているのではないかと思ってしまうほどの案件だ。一言でいえば、すっっごく怖い。

前回もそうだったし、ステイルもレオンも明言はしないけれど、やっぱりレオンも私の学校潜入について知っているんじゃないかなぁと思う。ティアラも同じ意見じゃないだろうか。

ハナズオ連合王国の一件あたりから気が付くとそれまで以上に仲良しになっていたステイルとレオンだけど、最近はまた一層親交深いと思う。こうして今もまた私に内緒で何かやっている気がするし。まぁステイルもレオンも信用しているし、悪巧みではない筈だから深くは聞かないけれど。

ティアラからの言葉にも笑みだけで返すステイルは、そこで思い出したように「あぁ、そういえば」と言葉を漏らした。それから私とティアラを見比べ、最後に肩ごとレオンに向けてグラスを掲げて見せる。


「〝先日お話した件〟……母上から正式に許可を頂きました。御都合が合う日はどうぞ()()()()()


……それは、一体。

またステイルから謎のワードが飛び出した。

えっ、と流石に母上も絡んでいる内容に私もティアラも声を上げるけれど、ステイルは目もくれない。にっこりと笑みを崩さないでレオンに向けた横顔に、やっぱり今日のことを根に持ってるのかなと確信する。

ステイルの言葉に当然理解したらしいレオンは「本当ですか……⁈」と目を輝かせた。ちょっと待って、やっぱり二人の世界に私達も入れて。


「レオン王子であれば無碍にはできないと、最上層部の総意です。僕もレオン王子ならば信頼できると思いましたから」

「ありがとうございます、ステイル王子。早速、城に帰り次第に書状も送りますね」

「宜しくお願いいたします。それと、ティアラの……いえ。これはまた後ほどに」


気になる!すっごく気になる!!!!

父上やヴェスト叔父様を含む最上層部まで出てきてるいるし!しかもティアラまで入っている。

まさかティアラも何か知って……⁈と目を向けたらティアラ本人も「えっ、兄様、私……⁈」と目をぱちぱちさせていた。どうやら彼女も知らないらしい。もう腹黒天才策士ステイルの考えは私に読めない。

どういうことっ?とステイルへ向けて訴えるティアラに、ステイルは軽く目を向けると「その内教えてやる」と一言で切ってしまった。軽くあしらわれたティアラが怒ったようにぷくっと頬を膨らまし、皿用のナイフをぎゅっと握った。テーブルを囲っていなかったら、ステイルの裾を引っ張るか耳か頬をつねるくらいしたかもしれない。……いや、むしろ今この距離ならナイフを命中させることもできたのだろうなと思う。主人公チートとヴァル仕込みなナイフ投げの腕ならば確実に。

そう思ったところでふと別の事を思い出す。「あ」と小さく口に出てしまうと、その一音も聞き漏らさずにこちらへ三人が注意を向けた。彼らの視線にそういえばと、心配になったことを私から投げかける。


「ところでレオン。あれからヴァルには会っていない?」


レオンとヴァルはもう三年ほど前から友人だ。たぶん。

結構頻繁に夜に飲み会をしていたらしい二人だけれど、……多分ここ近日はないのだろうと思う。そして、確実にヴァルのことだからレオンに全くの断りもなしにそうしている。まだ三日目ではあるけれど、レオンが心配するか気にする前にちゃんと確認しておかなければと思う。


「最後に会ったのはー……三日前、かな。彼がどうかしたのかい?」

やっぱりこの三日間は会ってない。

だけど、まさかその前日には会っていたんだなと逆に少し意外に思う。レオンの口ぶりからするとやはり事情は何も知らないらしい。

まぁ今回の仕事を受けてくれることになった際、ヴァル もステイルからしっかりと仕事についての口止めを受けていたから外部に漏らすわけはないけれど。


「いえ、その……彼には実は最近仕事をお願いしていて、だから多分暫くは会えないと思うの。彼の事だから貴方には言っていないと思って、一応私から」

「それは残念だな。暫く……ということは一体何年くらいだい?」

いやそんな長くはないけれど!!

わりと予想を斜め上行くほど、あっさりと受け入れたレオンに思わず返事の前に苦笑してしまう。具体的に一ヶ月、と言ってしまうと明らか過ぎるから言えないけれど。

少なくとも百日も掛からないわ、と言うとレオンは「なんだ」と安心したように息を吐いて笑った。レオン曰く、配達さえなければこれまでもヴァルが何の予告もなくひと月ふた月程度現れないことは普通にあったらしい。そういえば、知り合った頃はレオンから私も毎回ヴァル は居ないかと尋ねられていた。

レオンもそれを全く気にしない辺り、なんとも男同士らしいあっさりした関係だなぁと思う。


「また飲む時までにゆっくりお酒を揃えて待つよ。三日前もすごい量を飲み干していたから」

うちのヴァルがごめんなさい、と謝りたくなる。

確実に酒の量が凄まじかったのは、翌日から始まる学校潜入が嫌でヤケ酒していたのだろう。レオンに挨拶で飲みに行ったのかなと一瞬考えたけれど、むしろこれでは八つ当たりの可能性が強い。


「なんか、珍しく機嫌が良かったから。買い物に付き合わせてくれるなんて僕も初めてで嬉しかったよ」


え⁈

レオンの爆弾発言に今度は私とステイル、ティアラの声が綺麗に重なった。

機嫌良かったの⁈あの嫌な任務で⁉しかもレオンとお買い物まで⁈

アネモネ王国の多忙な第一王位継承者を買い物に付き合わせたことよりも、そっちに驚いてしまう。一体どういうこと⁈と尋ねるとレオンは「具体的には言えないけれど」と言いながら、フフッと思い出し笑いを零した。


「珍しく夜じゃなくて午後に来てくれたから不思議だったんだけど。……まぁ、それで流れで僕も買い物に付き合うよと言ったら、ね」

驚くくらいすんなり了承してくれたよ。と言うレオンは嬉しそうだった。

つまりは良い買い物ができてそれで学校潜入の機嫌が治ったということだろうか。ヴァルのことだから、酒以外だとどんな物騒な物を買ったのかが心配だけど。

でもレオンに「ついでにこの事については話したのはヴァルには触れないで欲しいな」と口止めされたので、もう尋ねられない。どういう経緯であれ、レオンと買い物をするほどには仲良くなったレオンとヴァルの関係を崩したくはない。

私達からそれを了承した後に、ステイルが「ちなみに機嫌が良さそうというのは……?」と尋ねると、レオンは「うーん」と一度宙に視線を浮かべた後、ニコッと悪戯っぽい笑みを浮かべた。


「機嫌が良いと思ったのは単なる僕の主観だから確証はないけれど。でも、理由は多分……。……うん。ほら、翌日があれだったから……じゃないかな?」

苦笑気味に眉を垂らして笑うレオンに、私達は首をひねる。

翌日は彼の仕事初日。つまりはジルベール宰相に年齢操作される彼にとって最悪の日だ。実はその任務が楽しみだったとは思えないのだけれど。しかも、レオンはヴァルがその仕事にあたる日だとは知らない筈だ。なら、一体どういう理由が……。

食器を置いて口元に人差し指の関節を添えて考え込むステイルと、細い首を左右に振って考えるティアラに私も混ざって視線を彷徨わす。答えを求めるように意味もなく背後を振り返ると、アラン隊長は深くは考えてないように首を一度だけ捻って返してくれた。そしてカラム隊長は、……何か、すごく納得したように一人頷いていた。わかったのかしら、と見つめてしまうと、カラム隊長から「自分からは」と言わんばかりに無言で頭を下げられてしまう。すると、それを追うようにティアラが「!あっ」と声を漏らしたのが聞こえた。

振り返ると、気付いたらしいティアラはほくほくと機嫌良さそうに笑っている。そのティアラの反応に、今度はステイルも口を「あ」の形に開けて頷いた。わからずに誰か答えを言ってくれないかなと二人を交互に見つめると、ティアラがくすくすと可愛らしく笑いかけてくれた。


()()、すっごく嬉しいからわかりますっ」

「……!あぁ」

ティアラのその台詞に、やっと私も思考が追い付いた。

私がわかったことを確認して、レオンが敢えて答えは言わないまま柔らかな笑みをこちらに向けてくれた。首を軽く傾けて「ねっ?」という動作で伝えてくれたレオンに私も笑いながら頷く。

まぁ確かにそう考えると彼が機嫌が良かったのも頷ける。もともとそれを楽しみだと言っていたし、むしろ当然のご機嫌だ。


セフェクとケメトの学校入学。


前日の入学申し込みに参加していない彼らにとって、二日前が初めての登校日だったのだから。

なんだかんだで、その記念すべき日を私の所為で仕事を絡ませて台無しにしてしまったことに今更ながら反省する。せめてセフェクとケメトにとっては良い学校生活を送ってもらえるように、私も全力を尽くそうと改めて考える。

食後にはレオンはまたステイルの部屋に招かれてしまったけれど、ティアラもステイルも忙しくなった今、こうして四人で食事と談笑できる時間を取れたのは本当に有意義な時間で楽しかった。


明日も頑張ろうと、そう思えるくらいに。


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