表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
フリージア王国備忘録<第二部>  作者: 天壱
見かぎり少女と爪弾き

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

612/1000

Ⅱ399.見かぎり少女は駆けつける。


瞬きが幾千も走り貫いた。


「なんだアイツは⁈」

「馬鹿!あんなもん放って逃げろ‼︎」

「馬鹿はテメェだフリージアだぞ⁈ガキ一人でもいくらになると」


バチィッ‼︎と。弾けた音の瞬間、子どもを縛った腕ごと引っ張り去ろうとした盗賊は腕から肩が焼けるように痺れた。

グアッ⁈と叫んだのも遅い。引っ張られた子どもは転び倒れただけで済んだが、男は焼けた腕を押さえたまま蹲り動けなくなる。今まで味わったことのない種類の激痛に、自分の腕がまだくっついているのかも目を開けないとわからない。子どもが尻餅をついたまま後退る中も男は「アッアアア゛」と声を漏らすだけだ。

その隙に村の大人が手を伸ばし子どもだけを自分の元へと抱き寄せた。

目の前にたて続ける厄災に、村人は子どもは勿論のこと大人も何がどうなっているのかすらわからなかった。


いつものように山に囲まれた村で細々と暮らしていたら、火をつけられた。

炙り出されるように外に出れば盗賊に捕まり、川岸まで引き摺り出された。そうでなくても火に撒かれた時の避難場所であるそこに、村人がほぼ全員集められるのも時間はかからなかった。

自分達の財産である家を焼き抵抗さえしなければ怪我もさせられなかった。大柄な馬車を用意していた相手は人身売買だということだけは理解はできた。

彼らの目的は商品となる村人。古く安物の遺産よりも、彼ら一人一人の方が価値は遥かに高い。


纏めて両膝を付かされ目の前に銃を掲げられ、それで動ける者など村に誰もいなかった。動けば自分だけでなく、傍にいる人間も殺されかねないのだから。


自分達の痕跡情報全て消す為に村を焼くのはもちろんのこと一人も証人は残してはいけない。

村を回り尽くした仲間が帰還次第、村人全員を馬車に押し込み逃げる筈だった。だが、いつまで経っても監視に回る係が戻って来ない。

更には、囚われていた内の一人である青年が放った言葉がその場に押し留めた。

きっかけは仲間を待っている間、人身売買からのお決まりの揺さぶりである。そして村の青年は一人喉を張り上げた。



特殊能力者ならいます、と。



『特殊能力者を寄越せば、他の全員を見逃してやる』

そう、餌をぶら下げてみせた盗賊の言葉にまんまと乗った。

一人居る、この場にはいないが確かにいる、まだ残ってる、きっとこれから連れてこられる筈だと。村人の制止も聞かずそう言い張った村の青年の言葉に、盗賊達も下品た笑みを広げて待った。

もし本当ならば儲けもの、そして嘘であろうともみすみす生き証人である商品でを逃すつもりもない。村の大人達もそのつもりだとは最初からわかっていた。


結果として村人達はまだ馬車に乗り込まされず、川岸で全員待たされることになった。

しかしその特殊能力者がいなければ見せしめに二、三人は手足一本覚悟しろと言われた村の青年は喉が干上がった。

まだこの場にいないなら、死んでるか逃げている可能性も高い。そしてその特殊能力者が、家族の為ならばまだしも自分達なんかの為にここまで助けに来るなどあり得ない。彼の兄ならばともかく彼自身が自分達を見捨てる理由はあっても助ける理由はないと思う。

このまま彼が見つからずこの場をやり過ごす為の嘘だと思われれば、他人を売ろうとしたしっぺ返しは自分と自分以外に返ってくるのだと理解し、村の青年の顔は早くも蒼白に成り果てた。

そして本当にいつまで経っても彼は現れない。盗賊の仲間すら戻ってこない膠着状態に村の誰もが息を飲む音しか零せなくなった時、……とうとう現れた。




バチバチと全身を放電させた青年が。




村の何人かには、見覚えもあった。

時折訪れる小間物行商人の荷物持ちをしていた青年だ。身体つきもがっしりとし顔つきも整い、温厚で人当たりも良い青年だった。

だが、彼らが待ち続けていた特殊能力者は当然ながら彼ではない。

村人どころか、雇い主の前でも彼は自分が特殊能力者だと明かしたことはなかったのだから。……今日、この日までは。


なんだ、と。最初は村とは正反対から現れた青年に盗賊達も眉を寄せるだけだった。バチバチと妙な音はしたが、太陽の下では光にもあまり気付けなかった。

膝をつけ、殺されたくなかったら大人しくしろと銃や剣を片手に近づいてくる男達に青年の目は鋭い。ギラリと空色の眼孔が弾けるような光を放ち、歯を食い縛ったまま怒りに唇は引き上がっていた。金色の短髪がまるで無重力を得たように逆立ち、男達が近付くごとにバチリとまた周囲で瞬き弾けた。


立ち止まるどころか銃を持つ男に真っ直ぐ歩み寄る青年は、眼前に銃を突きつけられてもまるで見えていないように怯まない。

横切られた男がナイフを片手に掴みかかろうとしたが、彼に触れようとした時点で間違いだった。指先が触れるより前に、バチィッ‼︎‼︎と凄まじい音と共に青年の全身を包む電流が男を弾き返した。指先とはいえ、高圧の電流を直接受け取った男は数メートル吹き飛んだ。


仲間が突然吹っ飛んだことに「死にたいのか⁈」と慌てて銃を持った男が目を血走らせた。

特殊能力らしき意味不明の攻撃に、銃口を青年の額へ向け突きつけた。馬鹿、殺すなと商品価値を知る仲間が叫ぶのも束の間に、躊躇いなく青年は銃身を自ら鷲掴むと彼ら以上に鍛え抜かれた太い腕で男を振り殴った。

バキン、と骨まで入ったような音と共に倒されれば、今度は警告ではない銃が中距離から足へと放たれた。


銃声が響いたが、銃弾は足を撃ち抜かなかった。バチィッ‼︎と耳に痛い音と共に銃弾そのものが弾き返された。

逆に跳ね返った銃弾が自分の肩へ掠めたことに、撃った本人が声を上げて一目散に逃げ走った。特殊能力者を狙う彼らは、同時に特殊能力を相手にする危険性も知っている。

逃げるその背中へ、青年は腕を差し伸ばすだけで全身から電流を撃ち放った。落雷に貫かれたと同義の攻撃に悲鳴を上げた男はそのまま流れるように無力化された。

銃を放つ度、バチィッバチィッと弾ける音だけで跳ね返される。近付けば意味不明の攻撃で倒される。文字通り厄災そのもののような青年に、盗賊達が撤退を決めるのは彼が想定した以上に早かった。


馬車に村人を詰める時間も惜しみ馬を走らせようとすれば、今度は別方向から車輪が破壊された。

響いた銃声に仲間からの流れ弾かと思い今度は判断が早い者から馬車ではなく引く馬に直接飛び乗ろうとしたが、それもやはり潰された。何度も故意に放たれる銃声に、厄災青年以外にも敵がいるとやっと彼らもそこで理解した。


なんだ、どうなってやがると叫んだ瞬間、白の団服に身を包んだ乱入者達に誰もが目を剥き声を荒げて喚き怒鳴った。

たった数秒の間に場は混沌しきる。盗賊を狙う特殊能力者、混乱に乗じて逃げようとする盗賊やそして捕えられていた村人、特殊能力者を捕らえるか殺そうとする盗賊、村人を人質にしようとする盗賊、騎士の登場に目を輝かす村人、騎士から逃げ切ろうと銃を乱射する盗賊、道連れを狙う盗賊、そして








「化け物‼︎‼︎」







そう、特殊能力者へ向け叫んだ〝村人〟に。

電気の特殊能力者、パウエルは目を見開いたままいとも簡単に思考が白へと染まった。

大嵐の日にしか聞かない落雷音に酷似したそれに、騎士以外の全員が悲鳴をあげた。




……




「パウエル‼︎‼︎」


突如として轟いた放電音に、プライドは馬上から喉を張り上げた。

先ほどまでの弾き音が可愛いと思えるほどの激しい音に、思わず身を強張らせる。混乱の先で光る柱が表出したのは、アーサーと共に馬に跨ってから間もなくだった。

バチバチと太陽の下でもわかるほどの熱量が現時点では自分を狙う盗賊達にしか向いていないが、彼の力なら村人まで届かせるのも難しくないとプライドは考える。

しかも、視界に捉えた今の彼は盗賊と抗戦中どころではない。頭を抱え、痛むかのように背中まで丸める彼が意識的に能力を放わないようにしていることは明らかだった。


「ッどうしたンすかね⁈もしかして撃たれたとかっ……」

違う、そんな簡単じゃない。

頭の中だけでそう答えながら、プライドはアーサーと共に手綱を掴む手に力を込めた。

パウエルのその状態にも、覚えがあった。ゲームで彼が自身の能力を暴走させた時と全く同じ状態である。電気の特殊能力を持つ彼はゲームではもっと簡単に自身の感情で能力を暴走させていた。

むしろ今までの彼があまりにも落ち着き能力を制御できていたのだと、ゲームを知るプライドは考える。


「能力が制御できていないのよ‼︎早く止めないと‼︎これ以上は危険だわ!」

橋を渡り、川の向こう岸まで辿り着いたプライドだが馬で走れたのもそこまでが限界だった。

突然のパウエル乱入により、村人も盗賊も騎士も全てが四方に散らばっている。騎士は村人の保護に集中しているが、パウエルの特殊能力に怯え膝をつかされた状態から逃げ遅れている者も多い。このまま騎士全員が馬を走らせれば、盗賊どころか村人までも混乱の中で踏み殺しかねない。


1番隊の指揮を執るアランからも、逃走を図る盗賊の追討以外は馬車を降り戦えと指示が入る。

現時点で馬で走れる空間は盗賊が退路として向かう川岸向こうと、そして厄災地であるパウエルの周辺のみである。


「アーサー‼︎なるべくパウエルの近くに‼︎」

「ッやばくなったら飛び降りますからね⁈」

村人を轢かないように細心の注意を払い、馬を走らせる。

アランの指示で盗賊追討班とプライド周辺中心の敵を払う班以外の騎士は速やかに馬を飛び降りた。盗賊やプライドを追うでもなく、川岸で混沌した村人と盗賊を分けるのに馬は適さない。空いた馬を奪われないように見張り役を立てる。

橋前でそれぞれ分断した騎士達の中プライドとアーサー、そして背後に付くカラムは真っ直ぐにパウエルへと向かった。


盗賊と村人が逃げ惑う中、パウエルに近付けば近付くほど人は減り代わりにバチバチとその周辺が弾けて光る。

やっと声も届くほどの距離まで来れたプライド達だが、そこからは馬の方が動けなくなった。静電気に当てられ、前足を跳ねさせ仰け反り嫌がる馬にプライドもこれ以上は諦めた。

頭を両手で抱えるパウエルにプライドは、馬から飛び降りながら彼の名を呼ぶ。



「パウエル‼︎‼︎」



〝来るな〟と。直後に放たれた雄叫びに、プライドは迷わず地面を蹴った。


アニメ化感謝御礼

https://twitter.com/ten1ch1/status/1588157862941007874?s=46&t=yY3WCi0Dd6OYvMNHvg395g

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ