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フリージア王国備忘録<第二部>  作者: 天壱
支配少女とキョウダイ

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Ⅱ44.支配少女は後悔する。


「なぁフィリップ!今日もエリック副隊長に会って良いだろ?」


三限と四限の中休みで見た一組とニ組では収穫は無く、そのまま四限を終えた放課後。

クラスの男子が再び私たちの前に集まってきた。初日に私達がアラン隊長の身内、且つお迎えにエリック副隊長が来てくれていると知ったことで、昨日に続いて三度目の校門前まで集団下校希望だ。知ってはいたものの、本当に騎士は民の憧れなんだなぁと思う。

私達の中で一番はっきりと良し悪しを言うステイルにいつもの男の子が投げ掛ければ、便乗するように他の子達も集まってきた。まだ三日目だけれど、日に日に人数が増えている気がする。

しかも今日は騎士の噂を聞きつけてか、女の子も一緒だった。女の子にとっても騎士は憧れなのだろうけれど、同時にステイルとアーサーへの人気もあるだろう。八歳で養子になった時には既に周囲から王族フィルターがかかっていたことを抜いても、ステイルは昔から女性の目を奪っていた。そして同年齢でも抜きん出て身長も体格もしっかりしているアーサーも未だ、登下校の度に男女関係なく人目を引いている。

セドリックの食堂出現イベントや同じ学年のクロイがセドリックと仲良くしていることで噂の的だけは外れたけれど、それでもやっぱりすれ違えば二人とも目立つのは今も変わらない。


「僕は構いませんが、……ジャンヌとジャックは?」

勿論、と言葉を返せばアーサーも同意の言葉を続けてくれた。

私もこれを機会に女の子とも親交を深めたいなとも思う、……けれど。やっぱり彼女らの興味は私ではなくステイルとアーサーだ。男女にモテモテとか、二人とも本当に流石過ぎる。せめて一緒に帰る時に少しだけでも女の子達と話せたらなと今から思う。

数人の女の子達の中に、第二作目主人公であるアムレットは残念ながらいない。下校を言い渡された途端、彼女はこちらに一目もくれずに友達の子達と帰っていた。ゲームでも、噂の的だったり女子人気の高かった攻略対象者に興味を大して示さなかったし、きっとアーサーやステイルにもクラスメイト以上の興味はないのだろう。乙女ゲームの主人公は総じてそんなものだ。ステイルはアムレットと何やらあるみたいで、出来る限り関わりたくないみたいだし、彼としてはその方がありがたいのだろうけれど。

昨日からは、アーサーもステイルがどれだけアムレットから目立たないように気配を消したり避けたりしても何も指摘しなくなった。むしろ時々自分の背を貸してアムレットの視界から何気なくステイルを隠してあげている。やっぱりステイルも親友のアーサーには、アムレットとの事情か何かを話したのかなと思う。……ちょっぴり仲間外れは寂しいけれど、こればかりは仕方ない。

ステイルが隠したがっていることを私が無理に聞き出すわけにもいかない。こっちだってがっつり隠し事があるのだから。ステイルだけ全部話して欲しいなんて虫のいい話はしたくない。どちらにせよ、私個人はアムレットと関わりたいと思っちゃっている。主人公である彼女は攻略対象者とも深く関わっている重要人物なのだから。……ステイルが上手く避けつつ、私だけ関われるような方法があれば良いのだけれど。


「ねぇジャンヌ、でしょ?いつもフィリップとジャックと仲良いわよね」


へ⁇と思わず間の抜けた声で私は振り返る。教室を出ようとしてすぐ、一緒に帰る女子の一人が私に話しかけてきてくれていた。

社交界での王女相手とは違う距離の近さで、女の子達に左右で囲まれていて思わずびくっと肩が上下する。ステイルとアーサーが前方の男の子達と私をまるで隔てるかのように歩いていた分、私の背後はガラ空きだった。のたのた歩いている間に、後続の女の子達に混ざってしまったらしい。

慌てて彼女達に言葉を返しながら、一人一人私は女の子達の顔と名前を照合する。全員同じクラスだし、出欠確認で顔と名前も確認してるから大体は覚えている。


「良いなぁ、私の家の周りは女の子ばっかりだもん」

「ジャンヌは家に女友達とかはいる?」

「二人とは子どもの頃から仲良いの?」

あまりにも女子らしい話の山々に一気に前世の学校生活を思い出す。

今のところ敵意も感じないし、普通にクラスメイト感覚で話そうと私も息を整える。ちゃんとステイルとアーサーとの関係設定も頭に入っているし大丈夫、と頭の中で繰り返す。

実家には親戚の女の子が数人いる。二人とは幼馴染だと返せば、興味深そうに全員が相槌を返してくれた。予想外に早速話しかけてくれたのは嬉しいけれど、こうも大勢にゼロ距離で話されるとは思ってなかったから緊張してしまう。中には私より背の高い女の子もいるもの。

クラスメイト、と思えば緊張する必要もないと思うけれど、目の前にいる少女達は仮にも学園乙女ゲームの世界の住人でもあると思うと少しだけ怖くなる。

格好良い男の子達の周りに集まる女子群って、基本的にゲームだと黄色い悲鳴を上げるか、ライバルでもある女子を潰したり校舎裏に呼び出すポジションだ。第二作目の攻略対象者ではないにしろ、格好良い上に注目を浴びているステイルとアーサーとずっと一緒の女子である私にもそのイベントがないとは言い切れない。

二人とは幼馴染、と返せば合わせるように「良いな〜」と女子独特の返事がいっせいに返されて、思わず息を引く。前世でも地味に生きてきた私はこういう女子カースト順位の高いだろう女子集団とも縁遠かった。彼女達に悪気はないと頭ではわかっていても、どうしても勝ち組女子集団からのイジメイベントを彷彿としてしまう。

大丈夫!この子達はいい子だし、私だって仲良くなりたかったのだからここはちゃんと飛び込まないと‼︎


「う、嬉しいわ。実はずっと女の子とも話したくて。私、山育ちで親戚以外と話したことが殆どないから緊張していたの」

貴方達とも仲良くしたかったんです‼︎とその意思を込めて笑って見せる。

すると、女の子達が少しだけ意外そうに私を見た後、それぞれ少し可笑しそうに笑った。専属侍女のロッテの笑い方に似た可愛らしい笑顔だ。その柔らかい笑みに返事を聞く前から少し肩の力が抜ける。良かった、やっぱり良い子達だ。


「良かった。ジャンヌはずっと二人と一緒だから、私達とは関わりたくないんだと思ってた」


え⁈

全く嫌味のない口調で、さらりととんでもないことを言われてしまう。しかも、それを言った女子の周りの子達までうんうんと頷いて顔を見合わせている。

待って、いつの間にそんなに私壁を作っちゃってたの⁈やっぱりこのラスボス顔とか威圧感とかの所為⁈黙っているだけで人と距離を作ろうとして見えたとか最悪過ぎる。いや自分からこの子達に話しかけなかった私が全面的に悪いのだけれど‼︎

休み時間はすぐにステイルとアーサーとセットで男子達に囲まれるか、もしくは三人で内緒話だった。けれど、本命のアムレットにすら私一人で話しかける度胸もないのに、既にグループになっていた彼女達に単身で話しかける時間も度胸も持ち合わせていない。いまの私は一般庶民なのだから。

そんなことないわ‼︎と全力で否定しながら、どうしてそんな誤解がと尋ねる。すると彼女らは口々に「だって」「ねぇ?」と一言だけで互いに顔を見合わせた。目で会話する、と言わんばかりの彼女らにまた肩が上がりそうになる。

緊張気味になった私に気づいた一人が、それを見て苦笑しながら口を開いてくれた。さっきとは違い、前方にいる男子達に聞こえないように声を潜めながら。


「ジャンヌは、フィリップかジャックが私達と話すのが嫌なのかなって」


…………やっぱり、ここは乙女ゲームの世界だ。

いや、乙女ゲームの世界じゃなくても学校ではあるあるだ。

とうとう来た女子トークに私は一人戦慄する。足が止まらないようにと反射だけで動かすけれど、少しだけ彼らとの距離が開く。ステイルもアーサーも気がついてこっちを向いたけれど、二人とも男子達との会話でこっちの話までは聞こえていないようだった。

どうしたのか、と心配するように私を見る二人に私は彼女達に見えないように降ろした手を軽く振って見せた。大丈夫、まだ虐められてはいない。

……でもこれってつまり、私がイケメン二人を取られたくなくてこの子達を威圧か警戒して見えたってことよね?


「だってあんな格好良い幼馴染いたら、独占したくなっちゃうし」

「ね!二人もずっとジャンヌと一緒だし、好きなのがどっちなのかまではわからないけど」

「ジャンヌってどっちと付き合ってるの?それとも許嫁?」

やめて泥沼恋愛ルートに強制連行しないで!

第二作目の舞台で全く新しい悪役ポジションに落ちそうだと背筋が冷たくなりながら、私は笑顔だけを必死に保つ。社交界で鍛えられた表情筋で平静を装いながら、彼女達を軽く見回せば、全員の視線が集中していた。取り敢えず今は〝命大事に〟コマンドで乗り切りたい。


「そんなのじゃないわ。二人ともただの親戚よ」

お爺様に強く言われているから世間知らずの私の面倒を見てくれているだけ、とステイルとアーサーを弁護する。誓っても私が二人の弱みを握って左右に引き連れているわけではないと、自分の弁護も含めながら。

私の答えに、予想どおり彼女達は全員「えーー」と納得いかないように悪戯っぽい声を漏らした。本当に学校の女子って全世界共通だなぁと思ってしまう。

前世の学校でも憧れの野球部主将と良い感じという噂の女子に対してその子の友達がこうして囃し立ててたなぁと思い出す。

「本当に?」「でもすごく仲良いし」「二人はジャンヌのこと好きでしょ」「告白とかされなかった?」「そういう素振りも⁇」と尋ねられ、どれも丁重に否定する。

このままだと二人の女性の趣味まで疑われてしまう。ティアラと恋に落ちていない今の二人の好みのタイプがどうなっているのかは知らないけれど、少なくとも誤解は解かないと‼︎私の所為で二人に不名誉な容疑は着せたくない。ティアラだったら庶民として潜んでも学園のアイドル化しておかしくない可愛いさだし、イケメン二人に恋心を向けられても全校生徒が納得できるけど‼︎

なるべく穏便に、そして彼女達に納得して貰えるように私は必死に頭を捻らせる。


「本当よ。だってフィリップもジャックも兄弟みたいに育ったし、今回もお爺様に言われて仕方なく一緒にいてくれるだけ。それに……」

嘘ではない。

実際ステイルは義弟で、アーサーとも私達は子どもの頃からの仲だ。今までも補佐と騎士として傍にいてくれた。……まぁ実際は、二人も私のことを心配して一緒にいてくれているのだけれど。

でもここでそんなことを言ったら、二人に恋心を寄せているかもしれない女子達との仲を壊しかねない。できれば仲良く!且つ穏便に彼女達とも関係を築きたい!

今のところ話してみても嫌味のない良い子達だもの。今世ではまだ叶わなかった女友達を今度こそ!とこっそり湧き出た野望を胸に、私ははっきり女子全員に聞こえるように前回使った完璧な言い訳を声に張る。


「二人は全然私の好みじゃないもの!」


ゴンッ!ガンッ!

……直後、突然前方から物凄く痛い音が響いた。

驚いて前を向けば、ステイルとアーサーが二人揃って壁や障害物に衝突していた。顔面をぶつけたのか、アーサーに至ってはまだ慣れていない眼鏡まで落としてしまっている。……これって、もしかしなくても私の所為?

しまった、と思いながら強張った笑顔で二人を見返す。いくら嘘とはいえ、今のはあまりに本人達を前に失礼な言い方だったと今更後悔する。合コンとかで同じことをやったら十人中十人から不興を買うレベルの失言だ。

ステイルは廊下の柱に、アーサーは階段へと曲がる前の角で頭をぶつけたようだった。いつも気を払っているステイルもそうだけど、反射神経がずば抜けているアーサーまで壁にぶつかるなんて珍しい。

壁にと額を同化させたままこっちを振り返らない二人は、まるで石像のようだった。うん、絶対怒っている。

でもここで嘘ですとか言ったら今度は周りにいる女の子達を敵に回す気がして言えない。引き攣った口のまま固まる私と同じように、女子だけでなく男子までいつのまにか足を止めていた。それどころかよくよく思い起こすと、前方から話し声が聞こえなくなったのはいつからだったかなと思う。

女子に囲まれた緊張で全然気付く余裕もなかったけれど、もしかして女子どころかちょうど沈黙してた彼らにも聞こえたのかもしれない。男子達はアーサーの眼鏡を拾ってあげたりステイルを心配したりする以外こっちの方に顔を向けない。けれど、何か怒ってる気がする。横顔が赤いし、無言でグッと拳握っているし、何より明らかに二人に失言した私の方を誰も見ようともしないのがその証拠だ。……あれ、これ完全に女子の前に男子を敵に回したか軽蔑されたんじゃないの。


「……すみません……なんでもありません……」

「俺もです……急に、目眩が……」

心配してくれた男子達からアーサーが眼鏡を受け取り、ステイルも自分の眼鏡を押さえながらまたふらふらと歩き出す。

やっぱり私の方を振り返ってくれない二人に、怒らせたなと思う。後でちゃんと謝って事情を説明しないと。何も知らずにさっきの台詞だけ聞いたら私が彼らのことを扱き下ろしたとしか思われない。

こっちを見ないで歩み出す二人にこの場で掛ける言葉が見つからず、行き場のない手を伸ばす。当然届くわけも気づいてもらえるわけもなく、二人を怒らせたことに反省しながら歩むと今度はポンと隣を歩いていた女子に肩を叩かれた。正直な反射で彼女に顔を上げると、ものすごく苦い顔を向けられていた。


「……それ、もう二人に言っちゃ駄目よ……?」


可哀想だから、と。そう付け加えた言葉は、自分の好きな人を貶された怒りというよりも、単純に誹謗中傷された二人に同情するようだった。更には周りにいた女子も何か不憫そうに二人と私を見比べ、頷いた。

「はい……」と年下の同級生に窘められた私は、そのまま肩を落とすしかできない。幼馴染に対して女子の前で失礼発言とか最低過ぎる。見回せば周囲の女子は、きらきらと頬を染めて肩の丸いステイルとアーサーを見るか、私と見比べて可哀想なものを見る目を二人に向けるか、もしくは「本当に、本当に駄目?」「あの二人より格好良い人、私知らないよ?」と私の失言をフォローする機会を必死にくれるかのどれかだった。……うん、やっぱりこの子達すっごく良い子だ。


「なら、ジャンヌはどんな男の子が好み?」

再び場を和ませるように投げられた女子トークに、私は今度こそ二人に迷惑も誤解も与えないようにと言葉を選ぶ。

教師に言ったのと同じことを言おうと思ったけれど、そうすると確実に二人をまた困らせてしまうことになると、唇をきつく絞る。加点方式に言えないなら、次は減点方式で言えば良いだろうか。それなら本当に自分の条件を言っても問題ない。どうせ当て嵌まる人なんてこの場にはいない。

階段を降りる前方の男子達がステイルとアーサー同様に無言だったけれど、聞かれて困ることでもない。この場の誰を誹謗中傷する内容にさえならなければ良いのだから。


「……私の家を乗っ取ろうとしたり部下を見捨てたり私へ嘘の好意をぶつけたり私の大事な人を傷付けたりしない人、かしら」


素の返答で言ってしまった私の発言に、今度は男子もちらちらと振り向いた。

少なくともそんな子はこの場にいないだろうと思って言ったけれど、まさか何か覚えでもあるのだろうか。清廉潔白なステイルとアーサーも、今度は自分たちが貶されたわけではないと思ってくれたらしく、丸くなった姿勢が綺麗に戻った。むしろこっちを向かないまま二人とも同じタイミングでうんうんと頷いている。多分、誰のことを特定したのかわかったのだろうなと思う。


……女子から心配そうに「何か男に嫌な思い出でもあるの?」「まさかあの二人が」と心配されてしまってから、今のもベストアンサーではなかったことに気がついた。


口は災いの元、という言葉がぐるぐる頭に回った。


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