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フリージア王国備忘録<第二部>  作者: 天壱
支配少女とキョウダイ

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Ⅱ43.支配少女は見に行き、


「へぇー、あれが噂の王弟セドリック王子か。やっぱ王族って雰囲気からして違うな」


昼休みの食堂。

初日から人が全く途切れないどころか寧ろ日に日に人口密度を増している食堂に今日、私達は来ていた。

ランチを持参して食べることも許される食堂で、パウエルと一緒に他の生徒達より一足早く場所を取る。食事を買わなくて良い分、走らなくても席をとることはできた。昨日のセドリックとクロイが気になって仕方がなかった為、今日こそと様子を見る為だ。

パウエルには「噂の王弟殿下をひと目見てみたいの」という理由で、食堂での食事を提案したら快く了承してくれた。「ジャンヌもそういうのに興味あるんだな」と意外そうに言われた時はちょっぴり恥ずかしかったけれど。


「フィリップはセドリック王弟見たことあったか?」

「いや俺もない。でもあんなに目立つならクラスの噂になるのも頷けるな」

パウエルの投げかけにステイルがさらりと嘘を通す。

そのまま交換したパンをパクリと囓るステイルは、目だけで人の隙間を縫うようにセドリック達へ向けていた。パウエルも椅子に座ったまま一度背筋を伸ばしてセドリックを見た後は、またサンドイッチにかぶりつく。フリージア王国の王族にはすごく興味があった様子の彼なのに、セドリックに関しては大して興味もないらしい。我が国の王族に興味を持ってくれること自体は嬉しいけれど、どうしてこうも興味の差がはっきりしているのか。まさかパウエルが一部の我が国の民至上主義者と同じとは思いたくないけれど。

そう思いながら、私は一度パウエルへとずらしてしまった視線を改めてセドリック達へと向ける。


クロイ・ファーナム


そう初対面で私達へ名乗った彼が今、セドリックに肩を抱かれて縮こまって隣を歩んでいた。

私達が食堂に着いた時には忠犬のようにセドリックを待って食堂の前で佇んでいた。私達は人混みに紛れて彼に気付かれないように横切ったけれど、とても緊張しているように顔に力が入っていた。更には昨日のことでセドリックの友人として噂になっていたのか、他の生徒達にも何度も振り返られたり視線を浴びて細い身体が更に縮こまっていた。口の中を強く噛んでいるように閉ざし、俯くまいとしながら顎が下を向いていた。そして今、セドリックと並ぶ彼は


「それで、今日はどのメニューが良いと思う?」

「あ……ええと、その……ぼ、僕はっ……」


カッチカチに固まっていた。

何か言い篭るように視線を泳がす彼は、私達と今まで相対したどの彼とも別人だった。メニュー表を前に遠目でもわかるくらいにまごついてしまい、顔が僅かに火照ってるようにも見える。

食堂に入って来た時はそうでもなかった気がしたのに、メニュー表を前にした途端にあれだ。集まり過ぎた生徒達の視線か、王弟セドリックからのゼロ距離か、それとも……


「俺としては毎回日替わりというのも気になるが、こちらの料理も……」

「はい……はい……そうだと……僕も思います……」

何か言いたげなのが、話し声が聞こえない私達の目から見てもわかる。

一体どんな会話をしているのか。生徒の歓声と黄色い悲鳴と騒ぎ声で殆ど聞こえない。白髪に中性的な顔立ちの上、細い身体の彼は遠目で見ると女の子のようで、まるでセドリックが女の子を口説こうとしているようにも見える。……いや、そんなことをしたら大問題なんだけれど。後でセドリックに詳しく聞こうと思いながら、私達はじっと彼らの様子を窺った。


「うむ、ならばこれにするか。それでクロイ、お前はどれが良い?」

「えっ……セドリック様と違うものを選んでも良いんですか……?」

セドリックが何やらメニューの一つを指差した後、目を丸くして輝かせる彼はまるで乙女だ。

一体どうすればたったの二日であんなにも慕われるのか、手本にしたい。何かをセドリックに確認した様子の乙女は、背後に立つアラン隊長にも微笑ましく見られていた。昨日も良い子って言ってたし、セドリックにもアラン隊長にも良くして貰っているのがわかって、改めてほっとする。

乙女は一度きゅっと唇を結ぶと、遠慮がちにセドリックと同じようにメニューの一つを指差した。今日一番の湯気が出そうな赤面だ。本当にセドリックが口説いていないのか心配になる。

セドリックが意外そうに「ほぉ」と丸く口を開けると、何かを確認してからメニューを注文した。暫く待てば、二人の元に温かな食事が手渡された。乙女はそれをセドリックの分も自分から持つと、そのまま二人で仲良く近くの席へと着く。王弟が近づいたと思った瞬間、生徒が自ら一気に席を譲るからすごい。席を譲った子達はそのまま最前列で王弟の様子を眺められるからか、我こそはと席を譲ろうとする人たちが殺到して本当に海を割ったかのような空き具合だった。


「どうしたクロイ。重かったか?」

「いえ大丈夫です!力仕事は慣れているので‼︎」

初めて彼の元気な声が聞こえた。

彼が丁重にセドリックの食事を置いた後、自分の分を手に隣に並ぶ。セドリックが席に着くのを確認してから彼も緊張気味に隣に座った。毒味役としてセドリックの皿から一口貰った彼は、それからセドリックが食べ始めてるとまたキラキラとした眼差しと恋する乙女のような顔を真っ直ぐに向けていた。


……自分のオムライスに。


スプーンを握った彼は食い入るように自分の料理をガン見していた。

よほどお腹が空いていたのか、それともそれほどの好物なのか。……そういえば昨日も、セドリックがクロイの好物でオムライスにしたと言っていた。あの時のセドリックの高レベルの食レポを思い出すと私まで今すぐ注文したくなってしまう。


「まさかそこまで好物だったとは知らなかった。今日は冷める前に食べると良い」

「はい……とても……好物、です」

セドリックの投げかけにぽつりぽつりと乙女が返す。

まだ口をつけていない筈なのに、オムライス相手にメロメロだ。よくは聞こえないけれど、少なくともあんなに緩んだ顔は初めて見る。

確かにあんな顔をされたらセドリックもアラン隊長も可愛がりたくなるだろう。セドリックに何か促されるように声を掛けられた彼は、スプーンを片手にゆっくりと料理を掬い、口に運んだ。出来立てのはずの料理をフーフーもせず、食べるのが先と言わんばかりに口に放り込んだ途端、彼の顔が〝幸せ〟一色に輝いた。それを見て、アラン隊長もセドリックもなんだか楽しそうだ。本当にめちゃくちゃ可愛がられている。


「ゆっくり食べろ。だがマナーは気にするな。俺も時間を掛けて堪能させて貰う」

食べた物を飲み込んだ後、セドリックがまた何か言って彼の頭を撫でた。

その途端、彼は若葉色の瞳を水晶のように光らせてセドリックに振り返った。口にまだ一口目が入っているからか、話す代わりにコクンコクン!と力一杯セドリックに向けて頷いていた。もうどう見てもセドリックに懐いたようにしか見えない。餌付けなのか人徳なのかはまだわからないけれど。

少なくとも私達が見たことのないような可愛らしい表情ばかり見せている彼は、きっとこちらの方が素なのだろうと思う。ゲームではもの凄くクールなミステリアスキャラで、ステイルと似たポジションだったとは思えない。

クールで冷ややか、髪の色をそのまま反映されたような冷たい性格の彼は、自分の身内以外には心を閉ざし続けていた。主人公のアムレットと同い年ではあるけれど、アムレットどころか同じクラスの三年生と戯れる姿すら一度もなかった。……というよりも戯れられるような立場にいなかった。

アムレットが隠しキャラルートに行けば、彼女に勉強を教えてあげたりして頭の良さを見せるけれど、そうでなければ基本的に彼の出番=ラスボスの出番だったのだから。悠長に誰かへお勉強を教えてあげるような余裕もない。

でも、どうして昨日の彼はあんなに怒りに燃えていたのだろう。ゲームではルートに進まないと感情の機微をほとんど見せなかった彼とはあまりに別人過ぎて全く読めない。


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