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フリージア王国備忘録<第二部>  作者: 天壱
頤使少女と融和

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Ⅱ347.嘘吐き男は逃げようとし、


「だァからレイちゃん‼︎分け前は七三だろ⁈その肉は俺様のもんなの‼︎テメェはパンでも齧ってろ!」


……まっっずいことになった。

何がまずいってレイちゃんだ。店の姉ちゃんよりも軽く懐いて尻尾振るようになったガキんちょだ。

あれから二年、なんだかんだと大した波風も立たせずやってきた。背丈は伸びても女顔の変わらないレイちゃんは未だに誰一人男だと気付かれねぇ。

仕事も邪魔にはならねぇである程度は役立ってくれる。見張りがいるだけで仕事はしやすいし、顔が良い火傷持ちのガキは色々情が引ける。ガキと仲良く歩いていれば前より警戒もされなくなった。順調、間違いなく順調だ。……た、だ、し‼︎


懐き過ぎた……‼︎‼︎


「そのまま家の子にされかかったんだぞ⁈なのにコソコソと俺様を置いて逃げやがって‼︎」

なれよ‼︎‼︎

おかしいだろ⁈裏稼業のクソ人生と金持ちの養子と比べ物になんねぇだろ⁈なんでそこで儲けたと思わず戻ってくんだよ⁈馬鹿だろ馬鹿だ‼︎

何度金持ちの家に置いていっても必ず戻ってくる。わざわざ盗みに入っても金目の物外してやってるのに、これじゃあ骨折れ損だ。どうせレイちゃんが戻ってきちまうなら盗んでくれば良かったもんが山のようにある。お陰で暫く良いモンは食えたが懐は寒いだけだ。

たかが二年で、やべぇぐらいにレイちゃんは俺様に懐いた。そりゃあもうべったりだ。……いや、俺様は悪くない絶対に悪くない。

利用する為に甘い言葉をかけるなんざ女もガキも定石だろ?可愛がって欲しがった欲を表面上叶えてやっただけだ。そんでちょい〜っと抱えて走って飯食わせて頭撫でて手を引いて褒めて伸ばして甘やかしただけだ。……うん、やっぱ俺様悪くない。何やってもちょいと褒めて可愛がればすぐに機嫌が治るし言うことも聞くなら誰だって利用する為にそうするもんな⁇ガキの可愛がり方の限度なんざ知らねぇよ‼︎


今まで何があっても嘘と軽口で馴れ馴れしく上手〜くやってきた。それが俺様のやり方だ。

裏稼業の連中はどいつもこいつもそれぐらいで心開いてくるわけねぇし、女はベタつけばベタつくほどその内離れていきやがった。なのにコイツはベタつけばベタつくほど上限なく懐いてきやがる。

いい加減にこれはやべえなと思った。確信してから手放そうと思って色々やってはみたが、何をやっても必ず戻ってきやがる。

二年経ってレイちゃんは見事に綺麗な顔で、金持ち相手に注意を引く。俺様がガキの頃はすぐに扉を閉められることも珍しくなかったが、レイちゃんは必ず五分以上は間を持たせる。つくづく顔の良い奴は得してる。聞き耳を立てれば必ずレイちゃんへは猫撫で声が聞こえて来る。

流石にマジで変態親父に捕まえられそうだった時は焦ったしあの時だけは大慌てで花瓶かち割って金目の物ごとトンズラした。……いや、ちゃんと手放せるように俺様めっちゃ頑張った‼︎

金持ち屋敷に物乞いのふりで何度も何度も諦めず押し込んだし、情を買えるようにレイちゃんの服も髪も台詞も全部仕立てたのは俺様だ。

金目の物もその時だけは奪わねぇようにして、しかもレイちゃんが何の片棒を担いでいるか自覚してもすぐ足を洗えるように未だに俺様の補助しかさせてない。アイツの手から盗みをさせたことも殺しをさせたこともない。それも全部が円滑にレイちゃんを手放す為だ。……。…………ッああクソやっぱ俺様だけは騙し続けれねぇ‼︎

こんだけ面倒で厄介に俺様にベッタベタに懐いちまったレイちゃんだか、一番何が厄介かってそりゃあ




俺様自身もわりとレイちゃんに情が移っちまっていることだ。




マジでやべぇ。

動物もガキも飼うもんじゃねぇと今更思う。しかも女っ気がなくなったことで余計にベタベタ可愛がっちまった自覚もある。

手さえ出さなけりゃあいくら可愛がってもガキと動物には有りだと思ったのが大間違いだった。

可愛がれば可愛がるほど阿呆みてぇに懐いて尻尾まで振ってくる。その上、最近じゃあ俺様の口調までチラチラ真似してくるしライアーライアーと馴れ馴れしく呼んでくる。

仕事が終わった後は生意気を言うようにはなったのに他の連中の前になると言付けをきいてぱっちり口を閉じて大人しくなる。男のクセに可愛いツラで俺様の背後をぺたぺたついて来て、言うことも全部聞きやがる。


しまいには金持ちの家にさえ貰われれば良いやと思ったのにマトモな人間か俺様まで気にしちまう。最初は俺様を信用させる為に甘やかしたのが、今じゃ本気でコイツに盗みも殺しも関わらせたくなくなった。

いつかテメェの人生振り返る時、それが〝このまま〟か〝やり直す〟かの境界線になることを嫌なほど俺様は知っている。

他の同業者にも少なくねぇ。一度手を染めて、それでもやり直せる奴なんざひと握りだ。裏稼業で生きた事実は一生ついて回る。まともに生きようと思えば余計にだ。

だから近頃はできりゃあさっさとレイちゃんが俺様に騙されている内に無料で貰ってくれる金持ちに押し付ける為に結構必死だった。

幸いにも顔が良い上に火傷持ちのレイちゃんは金持ちに同情も買いやすい。レイちゃんが引き取られたら俺様も遠くに逃げて二度と近づかねぇつもりだった。

今まで一人で優雅に軽く生きてきたライアー様が子連れなんざ笑えねぇ。さっさと代わりの飼い主見つけて逃げねぇと絶対本気で手放せなくなる。俺様みてぇな裏稼業で生きる屑に子育てなんざハナから無理だっつの‼︎

情が完全に移ったら終わりだ。深みに嵌る前に抜けねぇととんでもねぇことになる。惚れた女に何度も入れ上げて痛い目見た俺様のことは俺様がよぉぉおおくわかってる‼︎


「走るぞレイちゃん。広場まで行けば奴らも簡単には出歩けねぇ」


人身売買に追われた夜なんざ、改めて自覚した。

本気で逃げるのにレイちゃんを〝邪魔に思わなくなっている〟ことに。

いや実際はすげぇ邪魔だし足手纏いだ。怪我でもされりゃあ運ぶの一苦労だし、まだ人身売買のヤバさを本当の意味で知らねぇガキにちゃんと警戒させる余裕もねぇし、一回でも見つかればお終いだ。

俺様が一人で逃げる方が楽だし確実だし、いつもなら迷わずガキを囮にして逃げる。それこそ俺様の流儀で言えば、俺様が生き延びる為になら構わずガキでも何でも見捨てて殺すそのままだ。なのにこの切羽詰まった状況で迷うどころか選択肢すらねぇ。血眼になって逃げながら、頭の隅じゃ「あーやべー」と別の意味で考えた。


─ パァンッ‼︎


「ライアー‼︎‼︎」

野朗を庇って死ぬなんざ、それこそ名折れだとマジで危機感も覚えた。

撃たれた肩を押さえて黒の空と塀を見上げながらそう思った。怪我なんざ珍しくもねぇが、今も出血や痛みよりレイちゃんのことを心配してるから相当つーかいっそそっちの方が重症だ。

このままゴミ屑の山へ打ちつけた背中と肩を理由にして動けないことにするか、飛び起きてレイちゃんを助けに戻るか、それとも〝レイちゃんから〟逃げるか一瞬本気で考えた。

完全に深みに片足突っ込んでいることの方が今の俺様には深刻だ。

人身売買連中だって、上手くやれば生き延びるのは難しくねぇ。ただその場合はこの場の連中だけでなくレイちゃんのことも殺さなきゃいけなくなる。口の軽いガキに俺様の秘密なんざ守り通せると考えるほど緩くねぇ。

少なくとも今の俺様は〝殺したくない〟まで、どっぷり深みに浸かってる。そんなことを数秒の中にぐちゃぐちゃ考えながら、身体は正直に傷を押さえて飛び上がった時だった。


「あああああああああああああああああっ‼︎」


塀の向こうから黒い火柱が上がったのは。


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