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フリージア王国備忘録<第二部>  作者: 天壱
支配少女とキョウダイ

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Ⅱ40.支配少女は話を聞く。


「プライド!わざわざ足を運んでくれなくとも俺から訪ねたというのに」


ジルベール宰相との打ち合わせは少し長引いたけれど、無事に終わった。

私からの提案に関しては「それは素晴らしい」「早速取り入れましょう」「王配殿下の許可と学校への手続きはお任せを」と予想以上に前のめりに賛成してくれた。……ジルベール宰相があそこまで乗り気ということは、本当に叶うだろうなと今から思う。

全校生徒名簿についても確認できて、生徒の名前をざっと総浚いすることもできた。名前だけではやっぱり誰も思い出せなかったけれど、取り敢えず第二作目のラスボスらしき名前がなかったのを確認できたのは幸いだった。彼女がまだ学校にいないなら、きっと取り返しがつくことも多い。


父上達への許可をジルベール宰相に任せ、早速私達はセドリックに会いに行くことにした。

セドリックには、訪問前に通達を頼むべきだったのだけれど、そうしたら確実にまた彼自ら来てくれることが目に見えていた。ステイルとも話して「セドリック王弟なら無断訪問も気にしないでしょう」という推測の元、直接訪ねさせてもらうことにした。

セドリックの住む宮殿の前に馬車を止め、近衛兵のジャックに伝言を頼んで馬車の中で待てば、学校から護衛に付いていたアラン隊長と一緒にすぐ会いに来てくれた。ジャックが先頭を切る形で背後に続いた彼に私達も急いで馬車を出れば、一瞬だけ目で私とステイル、そして近衛騎士を確認していた。……たぶんティアラがいないかと思ったのだろう。残念ながらティアラは前回と同じく早々に父上の元へ戻ってしまった。

近衛騎士も交代の時間になっていた為、アーサーもその場でアラン隊長と交代した。……本当はとっくに近衛騎士も交代の時間だったのだけれど、アラン隊長をわざわざセドリックの元から戻してまたセドリックの元へと往復させるのも申し訳なかった。だからクロイ達の一件が終わるまではそのままセドリックの元に待機して貰うようにお願いした。ハリソン副隊長だけは既に騎士団演習場に帰った後だ。


「いいえ、私から話を聞きたがったのだもの。ごめんなさいね、大事な日に突然お邪魔して」

セドリックからの気遣いに私からも笑んで答える。

それに今日は、彼にとって落ち着かないくらい大事な日だ。それなのに引き続きお願い事をしてしまっているこちらから動くのは当然だ。

敢えてティアラのことは触れず、気持ちを切り替えらせるように私はヨアン国王のお誕生日のお祝いを伝えた。セドリックにとって大事なお兄様でもあるヨアン国王の誕生日。十日ほど前にも使者にチャイネンシス王国宛の手紙を託していたくらい、彼にとっても大事な日である。

私とステイルからの祝いの言葉に、セドリックも嬉しそうに表情を明るくしてくれた。感謝を返してくれ、そして次にはまたいつもの力強い笑みが返ってくる。

明日も晩にはレオンが定期訪問で来てくれる予定だし、またこの時間で来ても良いかとセドリックに尋ねたら「俺から行くぞ⁈」と言われたけれど、そこは取り敢えず待機側で了承してもらう。


「お前もクロイのことが気になったのだろう?残念ながら姉には会えなかったが、少なくともクロイの方は良い少年だった」

その言葉から察するに、セドリック自身は今のところ彼に対して問題なかったようだ。

今日も客間で話そうと勧めてくれるセドリックに甘えて、私達は彼と一緒に客間へお邪魔した。昼休み後のクロイの様子も気になるし、取り敢えず私達が見たクロイの状況よりも先にセドリックから何があったのかを聞かせてもらうことにした。こちらの方が話も早い。

セドリック、そして護衛をしていたアラン隊長にもぜひお話をとお願いする。昼休み中はアラン隊長が基本的にセドリックの護衛でついていてくれることになったらしいし、是非二人の目線から聞きたかった。

セドリックが侍女達にお茶を頼んでくれて、その間に私達は昨日と同じソファーに腰を降ろす。「どこから話すか」と前のめりになった姿勢で膝の上に手を降ろして指を組んだセドリックは、一度だけ考えあぐねた。ステイルが「最初から頼もう」と言えば、途端にセドリックは間髪入れず頷いた。


「先ず……、予定通り食堂の前で待っていてくれた。緊張と困惑は見て取れたが、依頼についても了承だった」

セドリックは授業が終わってからも、クロイが王族を待たせたことにならないように時間を見て食堂に向かってくれた。

そして次からは直接高等部の特別教室へ迎えに来てもらうらしい。セドリックは自分がクロイの元へ行くと言ったけれど、クロイの方が遠慮したらしい。王子が迎えに来る中等部二年生なんて絶対目立つし、気持ちはわかる。

食堂に入ってからはメニュー選びに付き合って貰い、早速学食をクロイと一緒に楽しんだと。セドリックは王族だから、表向きは必ず毒見を通さないと食事ができない。今回の学校では護衛以外従者も連れていないし、我が国の騎士に食べさせるのも気が引けたらしい。アラン隊長は気にせず初日も毒見してくれたけれど、やっぱり我が国の誇る騎士に毒見役を毎回は、生徒の目からも角が立ってしまう。

今回私からの依頼に当たって、理由付けの一つとしてセドリック自身がお願いすることに決めたらしい。セドリックとしても学食は凄く食べたかったから、都合も良かった。


「今日はオムライスというものを食べたが、なかなか美味かった。毒見は断られたら諦めるつもりだったが、それについては大して躊躇う様子もなかった」

まぁプライドの学校ならば毒の心配もあるまい、と軽く言いながら頬杖をついて笑うセドリックは、思い出すようにオムライスの食レポまで語ってくれた。……正直ちょっぴり羨ましい。私も学食を食べてみたかった。

しかもセドリックが流暢で上手に語るから余計に美味しそうに感じてしまう。アラン隊長もはっきりと聞こえるくらいに喉を鳴らしていた。アーサーがこの場にいたらきっと同じように喉を鳴らしていただろう。それくらいセドリックの語りは上手い。


ある程度語ってから「話が逸れたな」と自ら軌道を戻したセドリックは、更に話を続けた。

クロイも最初は遠慮していたけれど、促せばセドリックと一緒に食事もしたらしい。残さず食べた彼に好感を持ったとセドリックは話してくれた。……けど、ゲームでお金に困っていた彼は今もそうみたいだし、きっと今までも食費も切り詰めていたのだろうと思う。

食べ終わった後にはセドリックとの談話も少しずつだけど応えてくれて、私の紹介とは別に色々と彼らのことも知れたと。お姉さんが高等部にいることも自分から話してくれたのだから、一日だけでも結構セドリックに心を開いてくれたように思える。


「両親は十年ほど前に亡くしたらしい。今は姉兄で仲良くしていると。姉は料理も上手く手先も器用らしい」

自慢の姉だと、そう言ってセドリックは示すように自分の前髪を指差した。

彼が言わんとしていることがわかり、私からも真っ直ぐ頷く。ステイルも察したらしく「あぁ」と小さく声を漏らした。家族のことも、それのことも私はゲームの設定で知っている。

セドリックは、良ければ次は是非お姉様とも食事を、と望んだけれどそれは控えめに断られたらしい。「先ほども言った通り、姉は身体が弱いので王族に会うだけでも卒倒してしまいます」と。……ちょっとわかる。

セドリックは王族であることを抜いてもギラギラの男前だし、お姉様には心臓に悪いかもしれない。というか明らかに女性を一目で落とすようなこの人に大事なお姉様を会わせたくないという弟心もわからなくない。セドリックにお姉ちゃんを取られると焦った可能性もある。

セドリックも無理強いはせずにそれ以上は誘わなかったらしい。けれど代わりに、それ以外のことは色々話してくれたようだ。


「放課後は近所で働いているらしいな。給料は良くもないが、家に近いからそこを選んだと。身体の弱い姉の元に仕事を終えたらすぐ帰りたいのだそうだ」

クロイを語るセドリックの目の焔が優しく揺れた。

もしかしたらクロイの話で故郷にいる兄二人を思い出しているのかもしれない。まだ我が国の民になってセドリックも月日は経っていないもの。しかも今日はヨアン国王の大事な日だ。

そう思うと、遠く離れた兄弟の誕生日に傍に居られない事実に胸が締めつけられた。けれどその間もセドリックは気にしないように男性的な力強い笑みを崩さない。


家のことは姉が担ってくれているらしい、とセドリックの話を聞けば、ほっと私も気持ちが浮き上がった。やっぱりゲームほどに酷くはない。少なくともベッドで寝たきりの生活ではないし、学校に行くだけの余力はある。……初日から階段で倒れはしたけれど。


「学校にも通うことにしたのは今より収入の良い仕事に就く為もあるが、姉の為でもあると言っていた。身体の弱い自分にもできる仕事を探したいと、姉自ら一人でも通うことを決めたらしい」

確か、ゲームでもお姉様が「私の代わりに学校も楽しんで」と願っていたと語っていた。結局それとは関係なく仕事として通うことになっただけだけれど、それでも姉の願いを叶えられて嬉しいと彼も主人公のアムレットに語っていた。……階段でアーサーに助けられた一件を思い出すと、姉一人行かせるのを心配する気持ちもわかる。

途中で倒れられたら大変だし、か弱い上に美人さんだから余計に心配だ。ゲームでは寮の一室で介護されていたほどのか弱さだ。

ゲームの寮は男女別ではなかったから姉弟で住むのも可能だった。アムレットも寮暮らしだったけれど、すごくお気軽に寮住みの攻略対象者には会いにいってたもの。まぁ男女別にする余裕もないくらい寮希望者殺到の大所帯だったのかもしれない。せめて現実でも同じように無料で寮にも通わせてあげられれば良かったのだけれど……残念ながら、ゲームと違いプラデストは寮無料なのは小学生までだ。


「昔から身体は弱かったらしいが、数年前に無理が祟ったそうだ。姉に無理はさせたくないからその分稼ぎたいと。本当に真面目な好青年だった」

指を組み、セドリックは微笑んだ。

セドリックは彼に好感を抱いてくれている。あとは向こうもセドリックのことを好きになってくれれば今回の依頼も悪いものばかりではなくなると思うのだけれど。ゲームみたいに憎む相手の為に働くなんて辛すぎるもの。少なくとも、一緒にご飯食べて身の上を話してくれるくらいには仲良くなっているなら、良い関係にも近いと思うのだけれど。

その後のことも詳しく話してくれたセドリックは、予鈴が鳴って学食から出て別れるまでの流れも話してくれた。至って平和だし、それどころかクロイが本当にセドリックの従者兼友人役として打ち解けてくれているようにも感じられた。……なら、どうして階段で会った時にあんなに怒っていたのか。私に脅されていることは変わらないから単純に敵意が向いただけなのか。

一応アラン隊長にも客観的にクロイの様子がどう見えたか尋ねてみる。するとアラン隊長も「いや、本当かなり良い子でしたよ!」と返してくれた。……まぁ、実際クロイも凄く良い子だ。私がデリカシーのない発言したり、悪役上等で脅したりしなければ本当に。ゲームのミステリアスな彼とはまた違うけれど、それでもやっぱり心優しい子だったことには変わらない。……そしてきっと、優しいからこそどうしようもなくなってしまった。


「礼儀正しいし、食事も残さず食べて、最後には少し力の抜けた顔も見せてくれましたし。……俺としても、彼のお陰でセドリック王弟殿下に集まる御令嬢が遠巻きになったのは助かりました」

最後はハハハッ……と苦笑するように笑ったアラン隊長は頬を指で掻いた。

話によると昨日はセドリックのとてつもない人気で、常に周りは女子でごった返したらしい。それが今日はセドリックがクロイに構いっきりだったお陰で、邪魔できないと全員が遠目で二人の様子を眺めるまでで終わったと。……それ、セドリックの人気もさることながら彼自身が生徒に弾丸突入で構いまくっていた所為でアラン隊長の苦労が増したのではないかと思うけれど。まぁともかくセドリックが構う相手が表向き一人に絞られたことは大きいのだろう。

更に思い出したようにアラン隊長が「一部の生徒には か細い所為で女子と間違われてましたけど」と笑った。セドリックも覚えがあるように声を洩らして頷く。けど、一応二人の主観ではまだクロイに悪意や嫉妬の視線はなかったと。


「まぁもし何かあれば、俺からもなるべく対処しよう。表向きは俺との関係を聞かれたら、一方的に俺が突然指名したということで口裏を合わせてもらうように頼んだ」

王族から指名を受けて仕方なくならば責められまい、と続けるセドリックに、本当に配慮できるようになったなぁと失礼ながらも感慨に耽ってしまう。昔は絶対できなかっただろう。……ほんっっっとに、こういうところをティアラに見てもらえれば良いのに。


「ありがとうセドリック。同じ学年だし、私からも気をつけるわ。明日からは()()()()()()()ね」

ああ、わかってる。と頼もしく頷いてくれるセドリックからは、全く不安の色もなかった。

それどころ明日から朝と昼休みが待ち遠しい、と言ってくれる言葉から、関わるのを楽しみにしてくれているようにも見える。いつかは決定打にもなってくれる筈だ。


「ところでプライド。そちらの授業はどうだった?是非その話も聞かせてくれ」


こちらは楽しかったぞ、と続けながら笑い掛けてくれるセドリックは本当に学校生活を謳歌しているようだった。……もしかすると、私達どころか、クロイ達よりも。



Ⅱ9

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