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フリージア王国備忘録<第二部>  作者: 天壱
頤使少女とショウシツ

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Ⅱ285.頤使少女は話し、


「ジャンヌっ!さっきはつい口出しちゃってごめんね!あの人についカッとなっちゃって……」


「いいえ、私こそいつもごめんなさい。怒ってくれてありがとう。アムレットは本当に優しいわ」

一限終了後、アムレットが青い顔で私の元に飛び出してきてくれた。

私も彼女が気にしてくれているだろうことは予想できたから、すぐに席を立って彼女を向かい入れた。むしろ私の方がいつもアムレットに庇って貰ってばかりで申し訳ない。

合わせるようにステイルも移動教室の為に素早く廊下へ出るべく席を立つ。アーサーも続くように扉へ向かって去る中、私は精一杯アムレットが怒るのは仕方ないと弁護し続ける。


「それより、昨日はちゃんと否定できなくてごめんなさい。ちょっとあの時は本当のことがまだ言えなくて……」

「そんなの気にしなくて良いの!本当にあのレイって人は失礼なんだから!ネイトって子も乱暴は良くないけど、……私も手を上げたくなっちゃった」

最後に肩を竦めたアムレットは悪戯っぽく笑った。

その笑い方がなんだか可愛くて私まで釣られてしまう。ふふっ、と二人分の笑い声が重なってなんだか心まで十四に戻った気分になる。


本当にあそこでネイトがやらなかったら、アムレットがビンタをしてたのだろう。その場合、きっとレイは一気にアムレットにも興味が湧いた。……というかティアラにとってのセドリックといい、アムレットにとってのレイといい、王道ルート且つ俺様キャラの二人してばっちり主人公に嫌われるってなんだか悲しい。まぁ実際性格上問題があった結果なのだから、仕方ないけれど。


「あっ!そうだわ。寮の件なのだけれど、明日でも良いかしら?」

「!本当に⁈」

お互い笑いきった後に、大事なことを尋ねればアムレットの顔がパッと輝いた。

春風のようなさわやかな笑顔に、本当に吹かれたような気分になる。突然で申し訳ないのだけれど……と伝えれば、すぐにそんなことないわと首を横に振ってくれた。両手で私の手を取って包んでくれるアムレットは、本当に嬉しそうな笑顔だ。


「嬉しい!ずっとずっと呼びたかったの!明日ね?楽しみにしてる!」

部屋も片付けておかなきゃ!と声を僅かに弾ませる彼女に、そうは言うもののきっと既に綺麗に片付いているのだろうなと思う。ゲームでもアムレットの部屋は整理整頓されてピカピカだったもの。

何気に今世初めての女友達のお部屋訪問だ。社交界でも招かれたことはあったけれど、立場的にも未だパーティーでお邪魔したくらいしかことはない。ある意味ジルベール宰相の奥さんであるマリアの家が一番近いだろうか。

ファーナムお姉様の家に訪問したのも正直まだ仲良くなる前だったもの。こうして友達としてお呼ばれするのはすごく嬉しい。


嬉しそうなアムレットの表情と、私自身もそう考えるとなんだかワクワクしてきてしまう。……本当に同い年だったら楽しいのに。

そんな欲を出していると、廊下からバタバタとした足音と一緒に「ジャンヌ!」と弾けるような声が聞こえてきた。ファーナム兄弟だ。今日もレイより一足先に到着してくれた。


レイが来るよりも前に二人へも誤解を解きたかったからちょうど良かった。

言えるようになったらちゃんと話すと約束したし、今朝は二人もセドリックのところに居たから仕方がないとして一限が終わった今こそ話し時だ。

「ディオス、クロイ。会いたかったわ、ごめんなさいね。実は昨日のことなんだけれど」


「ジャンヌがレイを振ったって本当⁈やっぱり付き合ってたの⁈」


…………また。

まさかの言う前のディオスからの誤情報に笑いかけた顔がそのまま強張ってしまう。アムレットもディオスの大声と台詞に驚いたように目を丸くして私と彼とを見比べている。一歩遅れて隣に並んだクロイが「ディオス、声大きすぎ」と軽く兄を嗜めた。

一体いつどうしてその話を?と尋ねると、クロイに注意されて一度閉じた口をディオスが再び大きく開いた。


「さっき一限が始まる前に戻ったら教室中で噂だったよ!なんか窓の外からすごい大声で触れ回ってる声が聞こえたって……」

「ていうか、君。もう結構有名人だから。僕らの教室っていうか学年で、大体。むしろレイって人が誰かの方が騒ぎになってたし」

ちょっと待ってそんなに?!

さっきのネイトのやらかしが彼らの教室まで響いていることもさる事ながら、私の悪名がそこまで広がっていることも驚きだ。いや、いろいろと問題児になっているのは自覚していたけれど、まさかディオス達のクラスまでなんて!

とうとう笑顔が引きつっていきながら、私は背中まで僅かに反らしてしまう。もう隠すことはないのだけれど、今は私が有名人になっていることがショック過ぎて二人の圧にも押されてしまう。

アムレットがやんわりと間に入ってくれるけれど、二人とも若葉色の目をがっつりと私に突き刺したままだ。


「……ええと、先ず。振ったとかじゃなくて、もともとレイのアレも嘘だったの。昨日は彼の嘘に無理やり付き合わないといけなくて」

言えなくてごめんなさい。改めて謝りながら、私は手短に事情と噂の尾鰭についても説明した。

昨日は言えなかったこと。早速朝から現れたレイにクラスの子の前で否定し、それが歪曲されて気がつけば「レイが言い寄って一日で振られた」と誤解が広がったこと。ネイトの名前は出さずにざっくり流れだけを早口で話せば、ファーナム兄弟だけでなくアムレットも状況を再確認するように何度も聞きながら頷いてくれた。

途中でクロイが「だっさ」と小さく悪態混じりに笑ったけれど、ディオスは目をまん丸にして口まで開いていた。最後に「つまり……」と声を溢してから、結論を声でまとめる。


「ジャンヌとレイって最初から恋人じゃなかったんだ!」


大正解をありがとう。

ネイトほどじゃないにしろ、教室に響く声で言ってくれたディオスに今は感謝する。やっとすっきりしたと言わんばかりに笑顔を見せるディオスに私も一言肯定で返し笑い掛ける。

その間にもディオスの声が当然耳に届いていた女子生徒達がこそこそと囁き合っている。小さく「そういうこと」「なんだ」「良かったね」「残念」と混ざって聞こえてきたけれど、とりあえずは納得して貰えたようで安心する。

二人の表情も無事晴れたのを確認した私は、そこで忘れないうちにと席に置いていたリュックのポケットへと手を伸ばす。


「そうだわ、あとこれ。本当にどうもありがとう、すごく助かったわ」

取り出した物を手の平に乗せ、クロイへと差し出す。

もう私がリュックから取り出した時点で何か察しがついていた様子のクロイは大して表情も変えずに視線だけを私の手の平へと向けた。

ディオスはアムレットと一緒ですぐには検討がつかなかったらしく、まじまじと私の手を注視する。


「あっ、これクロイが貸した部ッムゴッ……」

「声、大きすぎだってば。またジャンヌの噂の巻き添えにされたらどうするの。言われなくてもわかってるから」

既にディオスが声に出すことがわかっていた様子のクロイが、途中で彼の口を持ってきたノートで塞ぐ。

モゴモゴと突然口を封じられたことに驚いた表情をしたディオスだけど、すぐに細い眉の間を狭めてクロイを睨んだ。何を言っているかは聞こえないけれど、確実に「なにするんだよ」と言いたいのは見てわかる。

けどそれも全く目に入らないようにクロイは片手でディオスの口を塞いだまま反対の手で素早くそれを掴み取った。「どうも」と短く言うと、そのまま素早くズボンのポケットに押し込む。

アムレットもクロイの言葉で察したように「それって……」と小声で尋ねると、横目だけでアムレットを確認したクロイはやっぱり小さな声で早口に彼女へ返す。


「言っとくけど空き部屋貸しただけだから。僕らは姉さんと家に住んでるし、部屋もジャンヌじゃなくて使ったのは男子生徒らしいし違反じゃないから」

ネイトの開発作業の為に借りた、クロイの寮部屋。

同じく女子寮に住んでいるアムレットにも鍵を見ただけですぐ寮の鍵ということはわかったのだろう。納得したように頷きで返すアムレットは、それ以上は掘り下げようともしなかった。

視線をまたアムレットから私に戻したクロイは、やっとモゴモゴがなくなったディオスの口を解放する。そのままいつもの動作で机に持ってきたノートと筆記用具を置いた。


「……ちなみに、まさか貸してたのってあのレイって人じゃないよね?」

「!違うわ。普通の庶民の男の子よ。ちゃんと掃除もして元どおりにしてあるから安心して」

クロイの部屋の鍵を管理してくれていたのはカラム隊長だから、そこも抜かりはない。

彼ならきっと部屋を借りた時より綺麗にくらいしっかり管理してくれただろう。

結局部屋を借りたのは最初の数日だけだったけれど、本当に助かった。それに、やっぱり停学中もネイトに学校でカラム隊長と落ち合う流れを作っておけて良かったと思う。じゃないと、あの決定的瞬間すら見逃してネイトの身体も取り返しのつかないことになっていたのだから。

本当に本当にありがとう、と改めてお礼を告げ頭を下げる。「別に僕はなにもしてないし」と淡々と返すクロイだけれど、いつもより刺がない返事にそれだけでなんだかほっとする。

「ていうか、それであのレイって人は結局何なの。振られたわけでもないってことは本当に口説いてきてるとか?貴族だからってあまりにも強引過ぎると思うけ」



「誰がそんな女に色気付くか。噂一つに左右されるなどこれだから庶民は」



クロイの言葉を打ち消すように背後から低めた声が放たれた。

これには流石のクロイも驚いたらしく一瞬で目を見開いた。肩を揺らし、扉の方へ振り返ればレイがそこに佇んでいた。廊下を行き来したい生徒がいたら通行の邪魔になるようにど真ん中に立つレイは、不機嫌そうに顔を顰め私の方を睨んでいた。


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