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フリージア王国備忘録<第二部>  作者: 天壱
頤使少女とショウシツ

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Ⅱ284.頤使少女は訂正し、


「さっさと座れ。昨日の件はお前の身内に聞いている。よくもそんな大事な情報を握っていた上で俺様に黙っていられたな?」


私の席で足を組むレイは、私と一緒にいるネイトへは昨日と変わらずひと目もくれない。

寧ろ苛々と音に出そうなほどの覇気を零す彼はなかなかのお冠だと思う。更にはレイの台詞に周りの子達が「身内⁈」「やっぱり恋人っていうのは……」と誤解の沼を深めていく。本当に彼は物理的にも倫理的にも大炎上させ過ぎる。

私の隣では未だに「なー、なんだよあいつ」とネイトが人差し指でレイを指していた。そしてそれもレイは歯牙にもかけない。

早くしろと靴先で隣の椅子の足を蹴るレイに、仕方なく私も従うべく歩み寄る。……けれど。


「誤解を招く言い方はやめて下さい。昨日は貴方の嘘に付き合いましたけれど、私は貴方の恋人でもなんでもないのだから」


ざわり、と。私のはっきり喉を張った言葉に周囲が騒ついた。

ある意味、誤解を公言できる機会としてはちょうど良かったなと思う。予想外の人数が注目してくれたけれど、これで噂も帳消しできるだろう。

私の言葉にレイがフンと鼻を鳴らし顎を上げた。返事の代わりに、さっさと座れと言わんばかりにまた隣の椅子の足が蹴られる。私も今度は、大人しく椅子に腰掛けた。


「なんだよジャンヌの恋人って!なあ、嘘ってどういう」

「昨日、彼が恋人という嘘にジャンヌを付き合わせたのですよ。お陰で誤解が広がって良い迷惑でした」

一人騒ぐ形になってしまうネイトにステイルが解説をいれてくれる。

水を打つような静かな声だったけれど、ネイトだけでなく私やレイにもはっきり届いた。若干嫌味も混じっているような冷たい声色に、流石のレイも眉を吊り上げてステイルに目を向ける。言葉の内容、というよりも自分に歯向かったことが腹立たしいのだろう。

ふーん、と一音を漏らすネイトは今度はアーサーに身体を寄せた。小声でうっすらと「あいつ殴っちまえば良いのに」とけしかける声が聞こえる。アーサーが断ってくれたけど、なかなかあの子も物騒だ。


「どうして俺様へ真っ先に報告しなかった?奴の足取りが掴めたなら即刻俺様に報告するべきだろ」

「……どちらにしても、所在がわかるのは今日の放課後です。こんなにすぐ見つかったのも私は想定していませんでしたし、今日ちゃんと」

「言い訳は良い。奴の情報が分かり次第俺様に話すべきだった。先ずはそれをいまこの場で謝罪しろ」


……本っ当にこの子は。

気を抜くと思い切り溜息を吐きたくなる。

アラン隊長のお陰で誤解を解いたことに関しては文句がないようだけど、俺様な態度は変わらない。寧ろ不機嫌且つ下手に私達を弾けなくなった分、横柄が強まっている。

冷静に考えればこちらの方が今は立場的に情報を握っている分……、とまで考えて一度思考を止める。

そうだ、この子ラスボスにも俺様な態度は変わらなかった子だ。だからこそラスボスも虎の意を借りる感があったのだけれど。ラスボスも傍若無人な態度は変えずそしてレイも同様だ。しかもラスボスの嘘がバレたらその途端、立場は圧倒的にレイに傾くのだから。

そう考えていると、静かにステイルが一歩前に出た。「失礼ですが」と前置いたままレイへの眼差しが絶対零度へと変わっていく。


「もう貴方はそう言える立場ではないのでは?アラン隊長に協力を頼んで〝くれた〟のもジャンヌです。しかも、貴方こそジャンヌに頭を下げるべきことがあるのではないですか」

なんだと?とステイルの言葉にレイが眉間を狭める。

振り返ればアーサーもそりゃそうだと言わんばかりに頷いていた。

ネイトがステイルとアーサーを交互に見比べてから首を捻る。彼からすれば、全く掴めない会話のオンパレードだろう。他の聞き耳を立てている生徒達も瞬きの間も惜しんで目を丸くする中、ステイルが論破できない言葉を彼へと並べ立てる。


「昨晩のこと、アラン隊長から早朝に僕らも聞きました。一人で裏通りに行くというだけでもあまりに無防備です。しかも相手が何者であれ、万が一取り返しのつかないことを犯せば貴方は彼に会うまでも無く捕らえられていましたよ」

「ガキが頭の良い振りをして粋がるな馬鹿がバレる。それに相手は裏稼業連中だ。奴らが何を言おうとどうせ貴族の俺様が被害者扱いに決まってる。下級層や裏稼業みてぇないくら死んでも良いような連中とはわけが違う」

ッだから!貴方の方ががっつり殺しちゃう気だったでしょうが‼︎

正当防衛も法律で状況によっては有りだけれど、殺すのはやり過ぎだ。しかもティアラの予知ではその後に自分が雇った裏稼業達殲滅を宣言している。流石に正当防衛じゃ片付かないし、殺人は貴族だろうが王族だろうが正当性がない限り重罪だ。

レイの失礼且つ自分を棚にあげた発言に、ステイルも黒い覇気が溢れる。表情こそ崩さないけれど、私達の周りだけ温度が二度くらい下がった気がする。……多分、一番イラッとしたのは〝ガキ〟扱いかなぁと思う。表向きだって一個しか年齢が変わらないし、更には実際はステイルの方が年上だ。

流石に今の発言は一から百まで酷過ぎると、私からも一言言わせてもらおう。大体ライアーだってレイだって



「そっ……その言い方はないと思います……!!」



きゃあ。

聞き覚えのある声に思わず肩が正直に上下する。

ステイルの肩も同じ動きをして、黒い覇気が一瞬で薙いだ。代わりに、崩れなかった顔色がサーーと引いていくステイルに、アーサーが慌てて間に入った。レイとの、ではない。アムレットとステイルの、だ。

首が動かず目だけを向ければ、思った通りぎゅっと眉を寄せ釣り上げたアムレットが胡桃色の短髪を跳ねさせてレイへ真っ直ぐ歩み寄ってくる。

完全に三年早いレイルート展開にヒヤヒヤしてしまう。けれどレイの方は怒鳴ったアムレットにも今は関心無しといった様子で見向きもしない。むしろ顔色の変わったステイルを不思議そうに眺めている。昨日は怒ったディオスにあんなに喜んだのに今はステイルの方が気になるらしい。


早足で歩み寄ってくるアムレットを周囲の生徒達が止めようとするけれど勿論そこで落ち着かない。

「ジャンヌに変な嘘に付き合わせたりディオスに意地悪言ったり……」とどうやら私のことでもぷんすか怒ってくれている様子にちょっとだけ胸が温まる。セドリックとティアラといい、レイとアムレットといい、本当に王道キャラは主人公を怒らせてばかりだなと頭の隅だけ呑気に思ってしまう。

自分を道端の石ころのように見向きもしないレイへ、至近距離で立ち止まるアムレットが再び声を張る。もうなんだかゲームで見たことがあるような風景に思わず胸を両手で押さえた。セドリックとティアラと違って、この二人はゲームでもそして今現実でも最悪からのスタートだ。


「貴族だからってやって良いことと悪いことがあります……!いくら死んでも良いとか……そんなの貴方が決めて良いことじゃないわ!」

「おいジャンヌ。このピーピー煩いのを片付けろ。ついでにその青い顔した眼鏡もな。そもそも俺様はお前と話をしている」

至近距離で怒鳴られているにも関わらずやっぱり見向きもしない。

本当にこの人は自分の視野に入れようと思った相手以外は認知すらしないなと思う。今もステイルへは悪口でも存在を認めたけれど、そのすぐ隣にいてくれるアーサーは数にすら入れていない。中傷されるのと無視されるのどちらが失礼かと考えれば両方だ。

こっちを向いて下さい!とアムレットが朱色の目を吊り上げれば、やっと興味が移ったようにレイが彼女に目を向けた。あとはここでレイを怒らせる台詞とビンタの一発を入れればレイルート確定だと記憶が巡るけど、今は彼女の身が心配で慌ててしまう。

彼女が誰と恋愛してもしなくても良いけれど、ここで危険人物レイの反感を買うのはただただ危険だ。


「あ、アムレット!良いのよ、ごめんなさい貴方にまで気分を悪くさせちゃって、私のことは気にしな」

「ジャンヌが謝ることじゃないよ!謝るのは失礼なことばかりいうこの人だもん!昨日から一度も誰にも謝らないし……」

キッ!とレイへ向けた強い眼差しをそのまま私に向ける。

本当に私達の為に怒ってくれるのは嬉しい、嬉しいのだけれど今はアムレットが大事だ。こんなことになるんだったらもっと私からもレイに朝一番に怒鳴っておけば良かったと後悔する。私の所為でアムレットが我慢できなくなってしまったようなものだ。

一生懸命に怒ってくれるアムレットに、レイがとうとう興味を持ち出す。ハッ、と鼻で笑ってから馬鹿にするような眼差しで私とアムレットを見比べた。


「俺様がどうしてジャンヌに頭を下げないとといけねぇんだ?言っておくが、有能なのはお前じゃなくあの騎士だ。この女は結局騎士の威厳に隠れて踏ん反り返っているだけだ。騎士と親戚だからって自分の都合良いようにしか使わない。まぁ、それを言ったらこんなガキに使われるような騎士も騎士か。王国騎士団の名も地に落ッ⁈」




ガッチャァァン‼︎と。




激しい音と共にレイの言葉がそこで止まった。

既に彼の暴言に、アムレットだけでなく後半からは私も腹立たしく思えてきたしステイルも黒い覇気を零す上、アーサーも騎士を馬鹿にされたことで眼差しが研がれ出していた。もう誰が手を出してもおかしくなかったその時、突然に……レイが椅子ごと背後へ倒れた。

いや、正確には突然レイが背後から座っていた椅子の足を蹴飛ばされた、といった方が正しい。アムレットがビンタの準備をするかのように手をぎゅっと握り始めていたタイミングで、先にレイが倒れた。

驚いて私も口を両手で覆ってしまったし、クラス全体も騒然とした。俺様な振る舞いのレイの間抜けな姿とも言える光景を笑える勇者は一人もいない。怪我がないかと直ぐに私も席から立ってレイを見下ろしたけれど、瑠璃色の目がまん丸になった彼は痛みよりも何がどうなったのかわからないといった顔だ。半分の仮面は、ずれず顔に固定されたまま、ぱちくりという言葉がぴったりの表情の彼を至近距離で見下ろすのは私と傍にいたアムレット。そして



「へへーんだ!うっせぇばーーーかっ!」



ネイトだ。

背後に回ってレイの椅子を蹴飛ばした張本人であるネイトが、上から見下ろす形でレイへ舌を出している。顔を隠しているつもりなのかゴーグルで目を隠した状態であっかんべーする行動に、レイも目の前のことを飲み込むので反応が止まっていた。


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