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フリージア王国備忘録<第二部>  作者: 天壱
頤使少女とショウシツ

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Ⅱ282.頤使少女は解散する。


「本当にありがとうございました」

「流石近衛騎士の方々ですっ!」


ステイルの特殊能力で寝室に一度戻っていたプライド達が、再びアランの部屋に訪れた。姉妹揃って声を抑えながらも近衛騎士達に感謝を伝える。

レイの件を依頼してから、ハリソンが連れてきた衛兵達に裏稼業達を引き渡したカラム達と、そしてレイを無事屋敷まで送り届けたアランが戻ってくるのは日時を超えた後だった。

だが、予知とレイの身を心配していたプライドもティアラも全く眠気に襲われる余裕はなかった。近衛騎士達を次の捜索箇所へ運ぶべく何度も瞬間移動をするステイルを見守りながら、ティアラの部屋でアーサーと近衛兵のジャック共に朗報を待ち続けた。


ステイルがアランの指笛を感知してやっと肩の荷が降りたプライド達は、近衛騎士全員が帰還した今再びアランの部屋へ彼らを労いに訪れていた。

続いてアーサーも「お疲れ様でした!」と深々と頭を下げる中、ステイルも満足げな笑みで彼らに感謝を示す。プライドやティアラが介入せずとも無事にレイの未来を止めることができたことが純粋に嬉しく思う。


「流石アラン隊長。あのレイを一撃で沈められるなんて僕も驚きました」

「いえ不意をついただけなんで!……むしろ、目を覚ました後の方が色々と手を焼きましたけど」

苦笑するように笑い飛ばしながら、レイを馬車から屋敷まで送り届けていった時をアランは思い出す。

ステイル達からの許可を得てライアーの消息が掴めたことをレイにも話したが、結果としてライアー探しからアランへの情報収集へとレイの標的が切り替わっただけだった。

しかしあそこでライアーを知っていると言わなければ、自分達がいくら止めてもレイはあの場を動かなかったのだろうなとアランは思う。


「いや〜、まさかライアーを探す為に半日近く歩き回ってたとは思いませんでした。時間が経つのも忘れていたとかで、待たせた馬車も無視してあのまま野宿で一晩明かそうとまでしていたらしいです」

「裏通りを彼一人でか?」

「それは……、どちらにせよ発見されて良かったですね……。流石に狙われていなくてもあの辺りは治安も良くはありませんから」

衛兵の詰所からも遠い位置にあった裏通り。そこで貴族の出であるレイが野宿をしようとしたということにカラムとエリックも信じられないと言わんばかりに目を丸くした。

アーサーとステイルも、あの俺様な振る舞いのレイが野宿を良しとしたこと自体信じられない。ティアラもぱちりと大きく瞬きを繰り返す中、引き攣った笑みで顔を硬らせるだけに止めているのはプライド一人だった。前世の記憶がある彼女からすれば、レイがそれくらいのことは余裕でやる人間であるということはよく知っている。


彼が落ち着きを取り戻すまで馬車の中でも順番に質疑応答を繰り返し合ったアランとレイだったが、いくらアランが答えてもレイの問いは尽きなかった。しまいには事情聴取代わりに裏通りでのことを尋ねていたアランの方が質問が尽きてしまったほどだった。

途中から俺の方は殆ど雑談だった、と笑うアランにプライドは申し訳なくなる。レイにライアーの消息が掴めたことを話して止めて欲しいと許可をしたのはプライドもだが、彼にその話題を出せば質問攻めになることも最初からわかっていた。

本来であれば明日学校で自分が受けるべきだったことを押し付けてしまったことに自然と頭が落ちる。アラン本人が全く気にしてないように明るく話してくれるのだけが救いである。


「まぁでも最終的にはライアーが生きてるって事に大分力も抜けたようでしたね。屋敷に着いた時にももっと話をとか引き止められるかな〜と思ったんですけど、むしろちゃんと「明日は宜しくお願いします」って頭下げてくれたくらいですし」

頭を⁈と、今度は流石のプライドも驚いて声を上げる。

第一作目の俺様キャラであるセドリックと違い、ラスボス相手にすら殊勝に振る舞わず俺様を貫き通したレイが頭を下げたことはプライドにとってもそれなりに衝撃だった。

ステイルもアーサーも開いた口が塞がらないまま耳を疑ってしまう。半ば強引にとはいえライアー探しを協力しているプライドにまで横柄な態度のレイが、相手が騎士というだけで頭を下げたなど信じられない。しかしアランがこの場で冗談を言っているようにも見えなかった。「あ、でも結構いやいやって感じの下げ方でしたよ?」と言うがそれでも衝撃は強い。


「全てはティアラ様の予知のお陰です。お陰で我々も火事の被害を食い止めることができました」

あの周辺には民家もありましたから、と。カラムが改めて今度は騎士側からの感謝をティアラに述べた。

ありがとうございました、と民を守る側の立場として頭を下げれば、エリックとアラン、そしてアーサーとハリソンもそれに倣った。その途端、さっきまで安心しきっていたティアラの肩が激しく上下する。

「えっ⁈あ、いえ!そんなっ」と水晶のような目をパチパチさせるティアラは、ずっと自分が助けて貰った立場と考えていた所為で完全な不意打ちだった。

更にはプライドとステイルからも「本当にありがとう、私も助かったわ」「流石は次期王妹だ」と両側から頭を撫でられれば、ぷすぷすっと顔が熱ってくる。緩みそうな唇をぎゅっと結ぶが、いままで隠し通してきた予知で全員に感謝されてしまう今が擽ったくて仕方がない。

人からの称賛や感謝は受け慣れているティアラだが、堪らずに俯いたまま近衛騎士達から隠れるようにプライドの影に半分下がってしまった。「お礼を言うのは私の方なので……」と虫の音のような微かな声で言いながら、プライドの羽織った団服にぎゅっとしがみついてしまう。

その様子が愛らしく、プライドは微笑みながらティアラのウェーブがかった髪を背中まで撫で下ろした。しかしそれでもまだ自分への称賛が恥ずかしいように、顔を伏すティアラにプライドもそっと話の軌道を変えた。


「あとは明日、私からレイにちゃんと説明します。居場所についても学校が終わる頃にはジルベール宰相が調べ終えている筈だから、放課後にレイと一緒に会いにいくわ」

「そうですね。なら、アムレットの約束は明後日に済ませるよう俺の方で手配しておきます」

頷くステイルは、頭の中で予定を組み立てる。既に今週は外せない用事もある為、アムレットとの約束を果たせる日は限られている。

プライドもそれに頷くと、改めてまた近衛騎士達へ順々に目を合わせた。自然と溢れる花のような笑みに、カラム達も言われる前から思わず唇を結んで身構えた。


「今夜は突然にも関わらず協力して下さってありがとうございました。お陰でティアラの予知した未来も免れ、私の大事な民も救われました。この件は騎士団長にも報告して下さって結構です。私からもまた改めて皆さんのご活躍を騎士団長にお伝えしますから」

本当に彼らが助けてくれて良かったと、そう思いながら語るプライドからの謝辞にアラン達も姿勢が伸びる。

〝騎士団長にも報告〟という言葉に、誰よりも先に「私が」と軽く手を挙げ報告役を名乗り出たハリソンも紫色の瞳が薄く輝いた。

唯一今回の捜索に関与していないアーサーも、プライドに合わせるように身体の向きを先輩達へと向けて頭を下げた。が、途端にプライドから手を伸ばされる。

プライドは自分より大きな手の指先を数本包むように掴むと、続けるように心からの笑みを浮かべた。


「ずっと私達をジャックと一緒に守ってくれてありがとう」

間違いない、彼の功績も言葉にする。

その途端、全く予期していなかった賛辞と笑みにアーサーの顔が目を見開いたまま蒸気した。何も自分はしていなかった筈なのに褒められて感謝されたことが嬉しい上、不意打ちで言葉も出ない。その様子にステイルはニヤリと意地の悪い笑みを満足げに一人浮かべた。プライドが言わなければ自分が釘を刺してやるつもりだったが、結局一番嬉しい形でアーサーに伝わったと思う。


状況報告と明日の目度もついたところで、ステイルがそろそろ部屋へとプライドに呼びかける。未だティアラの部屋ではジャックが彼女らの帰りを待っている。明日も学校がある今、無理に夜更かしをさせるわけにもいかない。

ステイルの声かけに一言返したプライドは、そこで初めて笑みをアーサーから逸らす。すると、まるでさっきまで水の中にでもいたかのようにやっと肩で息を始めたアーサーにティアラも小さく笑った。

プライドがカラムに、ティアラがエリックへと借りていた団服を脱ぎ、それぞれに返した。行きましょう、とプライド達の腕をステイルが掴めば、近衛騎士達も見送るべく「おやすみなさいませ」と言おうとした、その時。


「……あっ。そういえばなんですけれど」

ふと、思い出したようにアランが声を漏らす。

プライドの視線がアーサーに移ってから少しずつ頭が落ち着き出したアランだったが、もう一つ言っておこうと思っていたことを思い出す。

アランの声にプライドだけでなく全員の視線が注がれる中、アランは「いや大したことないんですけど」と一言断ってからあっけらかんとした口調で彼女らへと報告を付け足した。


「レイの恋人だって嘘。もう誤解も解いて良いって了承貰いました。明日からは普通に否定して回って大丈夫ですよ」


?!??!!!!!?!

アランのなにげない言葉に、部屋全体が無音の驚愕に満ちた。特にエリックに至っては、その事件自体まだ知らなかった。

恋人⁈レイと⁉︎と今にもアランに訪ねたい気持ちをエリックが目を皿にして飲み込み中、プライド達もこれには口が塞がらない。両手で「あ」の形になった口を隠すプライドに代わり、真っ先に「マジっすか⁈」と声を上げたのアーサーだった。期待通りのアーサーの反応に思わずアランも短く声を出して笑ってしまう。


『あーじゃあさ。ジャックから聞いたんだけど、お前ジャンヌと付き合ってることになってるんだろ?惚れてんのか?』

『いえ全く。その場で思いついた全くどうでも良い嘘です。それよりもライアーに怪我は』


「ライアーの様子だけじゃなく、風貌がどんなだったか教える代わりにって言ったらすげぇあっさり。話してやった後はなんかヘコんでたけど、取り敢えず約束は約束だから大丈夫だろ。あともうジャック達に怪我させるなよとも言っといた」

ありがとうございます‼︎と次の瞬間にはプライドだけでなく、アーサーとステイルまで力一杯に声を合わせた。

これで明日は教室で居心地の悪さに苦しむこともなければ、プライドの汚名を返上することも、もうレイに疚しい無茶ぶりを聞く心配もなくなったということに三人が安堵する。

アーサーだけでなくステイルやプライドにまで全力で感謝されてしまったことに少しアランも怯んだが、「自分が個人的にちょろっと腹に据えかねただけですから」と手を振り何でもないように笑って返した。


レイからの質問責めで自分から聞きたいことがなくなった流れで「代わりに」と言ってみた条件だったが、こんなに感謝されるなら言ってみて良かったなと思う。

「また無茶言ってきたら俺の名前利用して断れば大概は大丈夫だと思うので」と続ければ、うっかりプライドからキラキラした目で見られて肩が揺れる。プライドからしても、レイからの無茶ぶりには困り果てた部分が多かった。


明日の学校に向けて更に一つ肩の荷が軽くなったところで、今度こそプライドとティアラは彼らに挨拶と礼をし直した。「僕はこのまま直接部屋に戻るので」とステイルが姉妹を瞬間移動すれば、騎士達も姿勢を正したまま数秒だけしんと部屋中が静まり返った。

次にハリソンが動く。ステイルが去るのも待たず「帰る」と無造作に扉を開けたハリソンに、アーサーが「ほんっとにありがとうございました!」と深々と礼をした。「隊長命令だ」の一言を残し、次の瞬間には部屋から消えた。

バタンッと閉ざされた扉音の後、それでも立ち去らないステイルに近衛騎士達は誰も指摘しなかった。それどころか自然とテーブルへと移動し、アーサーが片づけられたグラスの代わりにジョッキをステイルの席へと戻す。ドンと置かれた途端、ステイルも何の断りもかけず元の席へ座った。


「アラン隊長、新しいお酒はこちらで良いですか?」

「おう、わりぃ」

「エリック、先程の恋人騒動についてはこれから説明しよう」

「まっ、本物の候補者と比べりゃあ」

「アラン!」

まるで何事もなかったかのように語らいながら、アランに確認を取った酒の栓をエリックが二本抜く。

最初にステイル、そしてジョッキを握ったアランとカラムへエリックが注ぐ。途中でアーサーが「自分注ぎます」と瓶を受け取り、エリックのジョッキへと注いだ。

最後に自分のジョッキへ酒を注ぐアーサーに、ステイルは悪戯心で瓶底へ手を添え持ち上げ、傾ける角度を急にした。ドボッと勢いよく溢れた酒がアーサーのジョッキの外にも溢れた。

ヤロウ、と肘で軽く突いたアーサーだったが、それ以上は怒鳴らない。今はそれよりもと濡れたジョッキを掴み、視線を上げた。そして




カラァアアンッッ‼︎




次の瞬間。部屋中に響き渡る音で五つのジョッキが鳴らされた。

互いに当てあった乾杯の音と共にアーサー以外のジョッキも中身が溢れ、テーブルや彼らの手を濡らす。


プライドに頼られた、ステイルにも任された、アーサーのみならず自分達までもがと。

そして騒ぎになることなく解決し、彼女達の期待に応えられた。その事実はアラン達には乾杯するには充分過ぎる理由だった。

そしてアーサーとステイルもまた、ティアラが予知した事件を防げたことと、そして愁いと不満であったプライドの汚名を解けるという事実両方に、このままベッドで休むのが難しい程度には胸が浮き立った。

よっしゃあ!と、喜びを最初に声に出すアランに、カラムも騒ぐなとは今だけは言わない。エリックもほくほくと嬉しそうに笑う中、アーサーとステイルも勝手に顔が緩み出す。

突然の予知。王族三人の訪問に任務。結果予想外に長い夜を過ごした彼らだったが、プライドを安全な場所に置きながら解決できた今は、



間違いなく〝良い夜〟だった。


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