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フリージア王国備忘録<第二部>  作者: 天壱
頤使少女とショウシツ

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Ⅱ275.頤使少女は待つ。


「大丈夫ですか、ジャンヌ」


エリック副隊長の元に瞬間移動した後、何も言わない私の顔を心配するようにステイルが覗き込んでくれる。

私から一言答えたけれど、やっぱり芯の通らない声になってしまう。

ジルベール宰相との打ち合わせ後、子ども姿のままの私達は再びエリック副隊長の御自宅に瞬間移動した。玄関先に着けば、私達がもう一度トンボ帰りしてくることを知って待機していたエリック副隊長以外誰も居間にはいなかった。

お爺様お婆様も奥にいて、お母様は町に買い物へでかけるように何とか誤魔化したらしい。「この時間帯は祖父母もちょうど寝ていて起きてこないので」と、ついさっき家を出たらしいお母様を見送ったエリック副隊長は胸を撫で下ろしていた。アーサーの代わりに護衛に付いてくれるカラム隊長の到着を待たないといけなかったから、きっと余計に焦ったのだろう。

何気にカラム隊長は、エリック副隊長の御実家を訪問するのは初めてだ。ステイルが私達より一月足先に、御近所の人目がつかない場所にカラム隊長が瞬間移動してくれたしこちらに着くのも直ぐだとは思うけれども。


「お疲れ様でした、ジャンヌ、フィリップ。あの後は、……その、滞りなく打ち合わせは終えられましたでしょうか」

一度思い出すように言葉を詰まらせたエリック副隊長は、視線を泳がせた後に話題を振ってくれた。

多分、さっきの刺繍駄目出しで落ち込んだ私を見送ったのを気にしてくれているんだろうなと思う。敢えて掘り返さないでいてくれる辺りすごい気遣いを感じる。

けれど、その話題にもまた私とステイルは互いに目を合わせて一度口を噤んでしまう。打ち合わせ、という言葉で最初に思い出すのはジルベール宰相とアラン隊長、カラム隊長から聞いたライアーの有力過ぎる情報だ。


「ええ、それが実は……」

「ライアーの、……進展がありました、驚くほどに。ただし、……」

歯切れの悪い私にステイルが次いでくれる。

本当ですかと目を丸くするエリック副隊長に、そのままステイルは声を潜めながらライアーの判明事実を説明してくれる。彼の人相にジルベール宰相だけでなく、アラン隊長やカラム隊長も覚えがあったこと。そして奪還戦で保護された奴隷被害者であることだ。


聞いていくごとに目が丸すぎて皿のようになっていくエリック副隊長も「それは……」と言葉が出ないようだった。

当時の城下防衛には一番隊であるエリック副隊長も最前線に立っていてくれたから、驚きも余計にだろう。アラン隊長の話だと当時ライアーを追ったのがアラン隊長で、その後に捕縛したのは城前に控えていたカラム隊長率いる三番隊と六番隊らしいからエリック副隊長は相対したことはないと思うけれど。最初に投入された時に顔くらいは見てるかもしれない。

さっき下校の時は話せなかったライアーの特徴を話すと、炎の特殊能力者と言った途端少しだけ思い当たるように視線を宙に浮かせていた。やっぱり覚えはあるようだ。


「しかし、当時の捕縛した奴隷被害者となると……」

「お察しの通りです。そして今は幸いにも全員がまだ保護観察下に置かれています。なので、一晩もあればジルベールが居場所も調べ上げるでしょう」

まだ奪還戦から数ヶ月しか経っていない。奴隷としてとはいえ、我が国へ攻撃行為を犯した彼らは城で裁判と洗脳が解けてから保護観察に置かれている。

奴隷の期間は様々でも、全員が一度は我が国での居場所を奪われた立場だ。仕事や住処、身内や保護者を提供したり見つけるのも今の我が国の法では保障されている。

人身売買被害者保護法。……六年ほど前にジルベール宰相が提唱してくれた法案の一つだ。奴隷被害者の保護処理について制定されていたお陰で、城が仕事先を指定する代わりに彼らが元の生活に戻れるように仕事紹介している。


お陰で今回もこうして保護観察が抜けていない彼らは、管理下にいるお陰ですんなりと居場所がわかる。

当時の記録を調査して、衛兵に命じ本人の居場所と存命を管理者に確認することもできる。たった一年も経っていないのならジルベール宰相が記憶に留めていたのも納得だ。しかもアラン隊長とカラム隊長に至っては捕縛に関わった当事者だ。

話してくれる時にカラム隊長は何か鑑みるような難しい表情だったし、アラン隊長の顔は若干苦笑いが引きつっていたしかなりの戦闘だったのかもしれない。火関連の特殊能力だと、被害の広げようなんていくらでもある。しかも、確か当時投下されたのはアダムが用意させた〝特上〟の特殊能力者だ。

ゲームでは明かされなかったけれど、単なる炎の特殊能力で〝特上〟に値されるなら相当優秀な特殊能力者だろう。

ジルベール宰相にも仕事を増やさせて、更にはステイルにもさっきまで騎士団長の打ち合わせに行かせて……なんだか仕事増やすだけで何も出来ない自分が不甲斐ない。


コンコンコンッ


「私だ。エリック、居るか?」

背後の扉からノックの直後に聴き慣れた声が飛び込んでくる。カラム隊長だ。

呼び声に答えると同時に、エリック副隊長が腕を伸ばして扉を開ける。お待たせしましたと、私達以外に誰も居ないことを確認してからカラム隊長が礼をした。


「家の方々はいないのか。ご挨拶をしようと思ったのだが」

「いえ!どうぞお気になさらないで下さい、お気遣いありがとうございます」

きっかり家の方に上司として挨拶する気満々だったカラム隊長に、エリック副隊長が逆に頭を下げた。そのまま私達が家の外に出てから合わせるように閉じ、玄関を施錠する。

では行きましょうか、とエリック副隊長とカラム隊長に挟まれて私達は早速目的地へと歩き出した。超難関補習とジルベール宰相との打ち合わせに続き、私達にはまだ大事な用事が残っている。


『今日取引してくれんだよな⁈ちゃんとまた来てくれるんだよな⁈』


ネイトとレオンの商談だ。



……




「ジャンヌ‼︎おっせーよ‼︎‼︎いつまで……ってあれ⁈ジャックは⁈ていうかカラム⁈なんで増えてんだよ⁈」


開口一番から元気いっぱいに怒鳴ったネイトは、きっちりリュックを背負って家の前で待ってくれていた。

今朝もそうだけど、本当に元気いっぱいだなと感心してしまう。わざわざ発明を見せる為だけに学校に来てくれただけはある。

いつもは一緒にいるアーサーがいないことに最初に気付いてくれたことがちょっと嬉しい。続いて顔見知りのカラム隊長とそして何気に顔を合わせるのは初めてのエリック副隊長に色々と表情が忙しそうだった。

アーサーも本当は付いてきてくれれば心強かったし、ステイルも本当はそうしたかった気持ちもあったようだけれど、……今回の適任はカラム隊長だというのがアーサーとステイルの総意でもあった。


「彼はエリック。ジャンヌ達が世話になっている家の騎士だ。ジャックは用事が入り来れなくなった。」

「レオン王子殿下がわざわざフリージアの騎士を迎えと護衛をつけてくれたんですよ。カラム隊長とエリック副隊長なら僕らも顔見知りですから」

カラム隊長に続き、ステイルが簡単に状況説明をしてくれる。

それでも納得いかないとばかりにネイトは、ぶすっとした表情だ。アーサーに会えなくて残念と、……何故か不満の眼差しがばっちりカラム隊長に向いている。

借りてきた猫のようなネイトと目が合った途端、カラム隊長は思い出すように口を開いた。ネイト、と呼ばれた途端毛を逆立てるように彼の肩が上がった。


「発明、先日にジャンヌ達から見せて貰った。素晴らしい出来だ。特殊能力を抜きにしてもあのような発明は初めて見た。騎士団に所属する発明の特殊能力者にも同じ発明はきっと作れないだろう。よくあの短期間で二つも完成させたものだ。頑張ったな」

〝見たよ〟の報告も含めて発明の感想を早速言ってくれた。そういえば今朝は忙しくて私達も言い損ねていた。流石カラム隊長、しっかり私達の伝言有無関係なく自分の口から言ってくれた。

すらすらと続けて私達の時に言ってくれた発明への賞賛を告げるカラム隊長に、ネイトの目が今度は獣のように見開かれた。ピッ、と背筋がさっきより伸びたと思った途端じわじわと首から耳の周りと顔が熱っていく。……まさかの褒め言葉は予想外だったらしい。


「〜〜っっ‼︎とっ、当然だろ俺は天才だし‼︎ま、まぁ⁈カラムもやっとわかったんなら良いけど⁈べっつに全然がんばってねーし⁈すげー余裕だったし!でででも欲しがってもわざわざ作ってなんかやんねぇからな⁈」

……なんだろう。いま、うっすら「ご希望ならもう一つ作りましょうか」に聞こえた気がした。全く正反対の言葉だったのに。

見ればカラム隊長も目を一度丸くした後は察したように微笑んでいた。「そうか」と言いながらネイトに歩み寄る。

腕を組んで顎が反るほど鼻を高くしていたネイトに手を伸ばすと、通常の形状を保ったままの彼のリュックを片手で持ち上げた。


「まだ怪我も完治はしていないだろう。私が持とう。ご両親は不在か?」

「ハアッ⁈馬鹿べつに平気だし‼︎全然重くねぇし要らねぇよ‼︎父ちゃん達はまだ仕事だ馬鹿‼︎」

リュックを下ろさせようとするカラム隊長に、ネイトが手足をジタバタさせて肩の紐を握り直す。けれど最終的には「軽い方が良いだろう」「待つ間は座っていても良い」と言ってくれるカラム隊長にするりと回収された。

「泥棒‼︎」と冗談でも御近所に聞かれたら大変な台詞が響いたけれど、それでも文句ありげに腕を組んだ後はそれ以上なかった。ぶすっ、とまた狐色の目を吊り上げながらカラム隊長を睨んでいる。軽々と片手でそれを担ぐカラム隊長は反対の手で前髪を軽く払った。


「わかっているだろうが、これからお会いする御方には決して無礼がないように。君もなるべく良い条件で取引を進ませたいだろう。それに場合によっては不敬罪になる場合も」

「うるせぇええええええええええ‼︎」

最終的にはカラム隊長の三倍の声で怒鳴ったネイトは自分で両耳を塞いだ。身体ごと背中を向けてそっぽを向くけれど、それでもカラム隊長は気にしない。

ネイトに声が届くように顔を近づけるべく背中を丸め、レオンにいつもの調子で失礼なことを言わないようにと釘を刺す。


「それにレオン王子殿下は、あの時も多忙であるにも関わらず君の為にこの家まで駆けつけて下さった御方だ。ちゃんとその時のことについても感謝を一言伝えるように」

「うっせぇええええ‼︎わかってるよそんなこと‼︎‼︎この脳筋騎士!!」

その呼び方もレオン王子殿下の前では控えるように、と。

カラム隊長が柳に風で受け流す中、私達の傍でその様子を見守っていたエリック副隊長が若干引き攣った表情のまま固まっていた。やっぱりアーサー同様に、カラム隊長にここまで失礼なことを言うのがびっくりするのだろう。

ステイルもそれを見て苦笑をすると「いつものことですから」と返していた。まぁ、いつものことならいつものことで問題なのだけれども。


言われている本人はもう慣れたように聞き流しているから、凄い大人の余裕を感じる。アーサーなら多分ネイトへ一言窘めただろう。……むしろアーサーがいないからこそのこの傍若無人っぷりかなぁと思う。相変わらずカラム隊長には強気だ。

そうしている内に、とうとうネイトの家の前で待っていた私達へと馬車の音が近づいてきた。


貿易最大手国、第一王子殿下のお出ましだ。


Ⅰ70

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