受け取り、
「ど、どれにしましょう……⁈」
「俺は一番最後で良いです。どうぞ姉君とティアラがお先に」
そうね……、とティアラとステイルの言葉にプライドもまた考えあぐねた。
ティアラとステイルが休息時間を得て、再び三人は部屋に集まった。あれほどたくさんあった箱がいまはたったの三つだけだ。何人もに回収されて、未だ残されたその三箱は異様な威厳も纏っていた。
しかも、先程のびっくり豚の頭箱を思い出すと今のプライドは若干選ぶのも怖い。まだほとんどの箱が誰が用意した物だったかも把握していない中、どんなドッキリイベントが控えているかもわからない。
ティアラへどうぞお先にと。妹まで不安にさせない為にも、レオンの話はプレゼントを開けてからにしようと決め譲る。姉兄に譲られ、ティアラはきらきらと宝石のようにした目をそのままに首を右から左、左から右にと動かし厳選する。
これにしますっ!とスキップ混じりに抱き付いたのは、向かって一番左端の箱だった。なら私はと、プライドがその隣である真ん中を選び、そしてステイルが残りを選んだ。
せーのっ、と。三人で声を合わせ、箱を開く。近衛騎士と近衛兵、専属侍女達が見守る中で三人はそれぞれ中身に目を見張る。
「私はストールです!あとモコモコのタオルに、……!クッキーもすっごく可愛いですっ‼︎」
わっ!と、包装を開いたところで最初に声を上げたのはティアラだった。
真っ白のストールは手に取れば、王族であるティアラの肌でも満足する質の良さだった。ストールもタオルもどちらもフリージア王国の紋章が刺繍されているのを確認し、王都の品かなとティアラは少し考える。クッキーの方には紋章などはなかったが、可愛らしい人型のクッキーは口元がにこりと笑んでいた。クリスマスらしい色合いが足され、王都のクリスマスだけのクッキーだろうとわかれば、それだけで胸が弾んだ。
食べるのが勿体無いと、クッキーをじっと眺めながら早速ストールを首に巻く。男女どちらが巻いても違和感のない純白は、周囲の目でもティアラによく似合っていた。侍女に頼む必要もなく、手先の器用なティアラは一人で可愛らしく巻き飾れた。早速今度、プライド達と出掛ける時に使おうと決める。
タオルもさっそく使おうと、化粧の肌に駄目だとわかっていても頬ずりしてしまう。赤色、緑色にそれぞれ染められた柔らかなタオルはどちらもクリスマスらしい。
そのまま「お姉様と兄様はどうでした?」と投げかけた。
「俺は、蝋燭と菓子といったところか。ジャムも美味そうだ」
一つ一つ吟味するステイルが、最初に取ったのはどれもクリスマスらしい形状の蝋燭だった。クリスマスツリーや、ケーキの形、シンプルな形状だが華やかな彫り物が施されたものもある。
見るか?とティアラが好きそうなケーキの形をした蝋燭を瞬間移動させ、妹の手元に置く。間近で見た途端、ティアラから黄色い声が跳ねた。可愛い!と声を上げたティアラは思わずそのまま自分のクッキーとケーキ型の蝋燭を並べてしまう。小さなお茶会のような気持ちに緩む頬を両手で挟んだ。
あちらの方はティアラに譲ってやろうかと考えながら、ステイルは更に箱からずしりと重い菓子パンを取り出す。砂糖漬けされた果物が練り込まれ、パンの周りも粉砂糖を纏わされたそれはパンというよりケーキに近い。少し顔を近づければ、甘い香りがしっかり鼻口に届いた。城で出されるのとも違うそれに、食べ比べてみるのも良いなと考える。紅茶にも合う甘い菓子は姉妹とのお茶会にも丁度良い。プライドとティアラも好きな味なのは間違いない。
更にジャムの方も、ゴロリと果物の名残残った状態の瓶詰めが三種類だ。一つは野菜のジャムと言う変わり種も面白かった。変わり種の方はプライドが特に喜ぶだろうと思えばそれだけで頬が緩む。お茶会の時にパンやチーズと合わせれば良いと、一度に二種もお茶会の楽しみを引けたことになかなかの当たりだった。
まだプライドから他の全員がどんなプレゼントを引いたかは聞いていないが、いま頭にある情報だけで誰かも推理してみる。品選びからして、女性でも男性でもあり得る。食べ物だけでなく形に残る物を選んだ気遣いと、クリスマスというテーマにも添い、家庭的な品且つどんな相手にも偏ることない選択から判断すればジルベールかとも考えたが、それにしては金銭的鋭利さを感じられない。奴ならばもっと高級感が漂う品の一つや二つはあってもおかしくない。
あとはプライドか、残すは騎士団の誰かだろうかとまでは絞られる。同じ王族でもティアラやプライドならば、そういった類も充分好むが今の反応からティアラではないことは絞られた。
続いてちらりと背後を確認したが、アランもカラムも笑んでいるだけで残念ながらこれといってどちらかに絞られる反応ではなかった。最後には顔をプライドへ向ける。
いかがでしたか?と笑い掛けるステイルにプライドは強張った肩で振り返った。
「わ、わた、私は素敵なブローチと、……毛皮、よ?」
ほ〜〜、と未だに胸を撫で下ろしている最中のプライドは声がひっくり返り気味になりながら言葉を返す。まだ表情筋はピクピク震えている。
ブローチはさておき、包装を開けた途端に目に飛び込んだもっさりとした動物性の毛に、一瞬フラッシュバックで悲鳴をあげかけた。なんとか大人の威厳で喉を引き攣らせるだけで済んだが、ついついまた動物の死体シリーズだと考えてしまった。
しかし、落ち着いて手に取れば問題ない。さわりと触れた心地はこの上なく洗練された柔らかさと毛並みで、手に取れば動物を抱いているかのような重厚さと温もりだった。
大きさからして膝掛けだろうかと考えながら、今は頭付きじゃなくて良かったとこっそり思う。毛皮であれば、頭がついたものでも苦手というほどではない。しかし今はまだ先ほどの名残が残っている為、無いなら無い方が良い。
フリージア王国では見たことがない毛皮の為、異国の獣かなと見当をつけた。
しゃがんだまま早速毛皮を膝に乗せ、その上で専用の小箱に収められたブローチを手に取る。ちゃんと男女どちらが得ても問題ない、空を羽ばたく鳥を象った銀色のブローチだ。
綺麗、とプライドは指先で撫でながらほっ、と心が休まった。
プレゼントの蝋燭を一度箱に戻したステイルと、両手にクッキーとケーキの蝋燭を抱えたティアラも左右から歩み寄る。プライドにお似合いです、こちら触っても良いですかっ?とそれぞれブローチと毛皮を目に、彼らも自分達のプレゼントを彼女へ間近に見せる。
「ティアラ、すごくそのストール似合っているわ!色もぴったりね」
「ありがとうございますっ!今度一緒に視察へ行く時に付けます!」
早速首に巻かれた妹のストールに当然気が付いたプライドは、思わず手を伸ばす。
柔らかな肌触りのストールを指の腹で撫で、そしてティアラの髪から中途半端にはみ出した髪をそっと払う。雪景色が背景だったらもっと可愛かっただろうと思いながら、気付けば夢中で妹の髪とストールを細かいところまでセットしてしまう。いつものように侍女に整えられたわけでもなく、鏡を見ながらやったわけでもないティアラは、きちんとストールは巻けても髪の乱れは否めない。ウェーブがかった髪を広がりすぎないように一本一本整え出そうとまでしてしまう。
「お姉様のブローチもとても素敵です!毛皮も暖かそうですねっ」
わさわさわさわさわさ!とプライドの許可も得てまるで犬でも相手にしているかのようにティアラが撫でまくる。その様子が可愛くて、膝掛けのそれをボフンっとティアラの頭に乗せれば、きゃあっ!と楽しげな笑い声が上がった。まるで動物の被り物をしているかのような姿になるティアラは、首元はストールそして頭は毛皮のモコモコ武装だった。
お姉様もっ!と残った半分を引っ張り、悪戯気分でティアラも隣のプライドの頭へ被せる。充分な大きさの毛皮は、女性二人を綺麗に覆えた。
是非ブローチもつけてみて下さいっ!とティアラから白い鼻先を近付けられれば、プライドも照れ笑いを浮かべながら胸元へそれを付けた。どうかしら?と二人にも近衛騎士にも見えるように少し胸を張ってみせる。きらりと輝く鳥のブローチは、今の彼女のドレスにもよく似合っていた。
是非今夜の食事会もそのブローチを付けましょう!と拳を握って提案するティアラに、プライドも頷いた。食事会用のドレスはもう決めていたが、このブローチに合わせるべく今夜は青のドレスをお願いしようかしらと考える。
「二人ともとてもお似合いです。こちらも美味しそうなので、宜しければこちらは三人で一緒に。一人では量もありますし」
城で出たのとはまた違って美味しそうですよ、と。そう言いながら菓子パンを見せれば、わっと二人で声が上がった。
城で食べるものが最高級で、且つ美味であることは間違いないが店や家庭によって味も材料も異なるそれは楽しみそのものだった。
美味しそうね、と言いながら今夜の食事会だけでなく今度のお茶会も楽しみになる。更に見せられたジャムを見れば、プライドはやはりステイルの予想通り一際珍しいジャムに目が引かれる。なぁにこれ⁈と野菜のジャムを手に覗く。鮮やかな色合いもさることながら、食べたことのないジャムに次のお茶会への夢が広がった。
「兄様っ、こちら、早速一切れいかがですか…⁈ジャムもありますし、こちらはクリスマスまでちょっとずつ食べるものですし……!」
ちょっとだけ、と。ティアラが菓子パンをじっと見つめながら細い喉を鳴らす。
粉砂糖を振りかけられ、見るからにほっぺが落ちそうなほど甘そうな菓子パンに魅入られる。まだ食事会まで時間がある今、ひと切れくらいと思ってしまう。
ティアラの甘えた声と釘刺さった視線を前に、プライドもステイルも思わず笑ってしまう。ちらっと目を見合わせ、眉が降りた。
仕方ないな、と可愛い妹に甘くなりながら笑い合う。最後は兄姉が同時に頷けば、その様子を見ていた専属侍女が早速パンを切る為のナイフを用意した。
毒味の後、獲得主であるステイルの手で少し気持ちだけ薄めにスライスされる。一番甘い表面の砂糖漬けされたひと切れをティアラに差し出せばパクリと口にいれた途端、頬が攣るような甘さが広がった。
「どうぞ」と次にプライドへ薄い一切れを差し出せば、やはり内側も充分甘かった。「んん〜〜!」と、ティアラの音を追うように姉妹で幸せな二重奏を奏でてしまう。
姉妹の幸せな顔を見つめながら、最後にステイルも薄く切ったひと切れを頬張った。甘い、と。最初の刺激と共に、さまざまな果物の甘みが広がった。カリリと細やかなナッツや胡桃の感触がいくつも重なり、城で出されるような酒の風味が強い上質さはないが、その分練り込まれた具材の旨みは強かった。
王族の食す高級感のあるものも良いが、こちらは子どもや女性が好むものだと思う。贈り主がわかれば買った店も聞いてみたい。恐らくは本人も自分の舌で確かめた上での店選択だろうと、包装を見て想像した。王都のような上級の包装ではなく、庶民の一般的な店らしい包装だ。
「良いクリスマスになりましたね」
楽しかったわ、またやりたいですっ!とステイルの言葉にプライドとティアラも同時に声を揃えた。
今度は人数を増やしても良いかもしれません、とステイルが提案すれば、三人の意志は固まった。




