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フリージア王国備忘録<第二部>  作者: 天壱
私欲少女と直結

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Ⅱ238.私欲少女は戻り、


「キャアアアアッ‼︎」

「ッッ良いから消せ‼︎急に火が広がっ……」

「ぐあああ⁈どうなってんだ⁈‼︎」

「川はどこだ⁈だれだあんな大火事‼︎」

「お前かヘマしたのは‼︎」

「違う俺じゃない‼︎ぐあああッ⁉︎まさか特殊能力か⁈」


燃え、爛れる。

映る視界全て煌々と火が溢れ全てを赤から黒へと焦がしていく。逃げ惑い断末魔を上げる人々の姿は、火の中では男も女もわからない。

熱い、熱い、死ぬ、消えない、誰か、うちの子だけでも、なんで俺までと。あろう事か火の海からいくつもの声が聞こえ、そしてかき消されていく。轟々と燃える音が次第に無数の悲鳴に勝ち、己が身体の炎を消そうと地面に転がり続け最後は動けなくなる。

映るもの全てが火の海へと変わる中、若い声が轟いた。


「ああああああああーーーーーーーーーーーーあああああああーーーーーーーーーーあーーーーーーーーーーーーーああああーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」


断末魔が響く中、一番強く最後の一人となるまで浮き立った。



……



「……予知しました」


女王執務室。そこで王配アルバートと摂政ヴェストと打ち合わせを行なっていたローザは静かに呟いた。

彼女が黙した時から予感していた二人は、合わせるように彼女へ寄り添った。妻の肩に手を置き、語りに耳を澄ますアルバートと、紡がれる未来を記載すべく懐から手帳を開くヴェストは全ての公務を一時中断する。

いつもの彼女の予知を聞き、その緊急性を判断した彼らはすぐに騎士団へ伝令と国中へ御触れを送らせた。


〝暫くは先行部隊の遠征自粛〟〝山岳地帯へ騎士の遠征強化〟〝火事の可能性〟

〝水場から離れた地域、集落は特に〟〝消火準備と警戒を怠るな〟


不定期で行われる女王の予知は、またいつものように特殊能力者を介して国中へ迅速に広められた。




………





「ネイト大丈夫かしら……また一人で帰るなんて」


昼休み終了の予鈴後。ネイトが去って行った校門へ顔だけで振り返りながら、私は思わず眉が寄ってしまう。

まだ停学中で校内はまだしも授業に戻ることが許されないネイトは、私達が教室に戻ると話したらすんなりと「じゃあ俺帰る」と再び家へ向かってしまった。カラム隊長に寮を開けてもらうようにお願いするか、もしくはヴァルに送迎をお願いしようかとも考えたけれどネイト本人に断られてしまった。

「ガキ扱いすんなよな」と言われたけれど、実際私の目には少年と言っても良い年齢だからどうしても心配になる。


「大丈夫ですよ。ここまでも一人で来れたのですし、今度は荷物も行きより軽い筈ですから」

そう言って私を宥めてくれるステイルは視線でアーサーが抱えるバッグを示した。

ネイトがくれた記念すべき発明第一号だ。流石にあの物体を剥き出しで持ち歩く度胸は私にもなく、今はリュックへ入れてアーサーが運んで暮れている。本当は今すぐにも使ってみたい気持ちもあったけれど、ネイトが本当にたった三日後に二個目を完成させられるかわからない。少なくともそれまでは未使用のまま大事に保管しておかないと。

もし発明できても、レオンとの交渉で正式な価値を知ったら返品か正規料金を求められる可能性もある。……まぁ、そうでなくてもたった三回しか使えない貴重品だし、きっと勿体なくて使えないまま保留が続くのだろうと思うけれども。使うとしてもとっておきの時に使いたい。


「でも元気そうで良かったですね。昨晩、カラム隊長から話を聞いた時は大変そうでしたし……」

そうね、とアーサーの言葉に私からも答える。

昨晩、カラム隊長がご両親に説明へ行ってくれた時はネイト自身の口数は少なかったらしいし、それを思えばあんな元気そうに笑う姿を確認できたのは良かった。流石に学校まで来ちゃうのは予想外過ぎたけれど。

しかもわざわざ発明の試作品を私にくれるつもりだったなんて。

中等部と高等部の校舎が別れ、パウエルが「じゃあこっちだから」と手を振ってくれる。また明日、とステイルがいつもの調子で軽く手を振るとそれだけでほっとしたような柔らかな表情を浮かべてくれた。

ネイトのことはステイルから軽く説明を受けた以外は詳しくは知らないパウエルだけれど、今はステイル本人が元通りになったことの方が嬉しいのだろう。ネイトが現れるまではずっとパウエルに笑われてしまったことに顔真っ赤で落ち込んでいたもの。

敢えて私もアーサーもそこには触れないけれど、多分心は皆一緒だ。


「……フィリップ。ところでお願いなのだけれど、リュックの中のあれ……こっそり私の部屋にお願いできるかしら……?」

「ええ、勿論ですよ。無くしたら困りますからね」

遠回しなお願いに笑顔で察してくれたステイルに、アーサーが無言で歩きながら私のリュックをステイルに手渡した。

受け取ったステイルがバッグの口だけを開け手を入れると、ネイトの発明が入っていたバッグが一瞬で軽量化される。瞬間移動でネイトの発明を私の部屋に避難させてくれた。

残り二限だし、大丈夫だとは思うけれど万が一にも盗まれたらと思うと落ち着かない。バッグから手を抜いたステイルがアーサーに突き返しながら、私に笑顔で返してくれる。

「一応、突然表出して不審物と間違われないように衣装棚の中に移動しておきました」と言われてお礼を伝える。そこなら部屋掃除でも滅多に見られない。


「もし、本当に貰えたらジャンヌはどんなのに使いますか?」

「そうね……、沢山あり過ぎて迷っちゃうわ。けど滅多なことでは使えないわね。本当にあれは貴重な品だもの」

アーサーの問いに肩を竦めながら答えてしまう。

貰っといておかしな話だけれど、あれはおいそれと人にあげて良いようなものではない。お金を払われてやっと手放して良いものだ。

アーサーもステイルもそれには納得らしく、二度それぞれ頷いてくれた。こうやって考えると魔法のランプじゃないけれど、三回限定って意外と難題だなと思う。


「カラム隊長にも早く見せてあげたいわ。ネイトも感想すごく聞きたがっていたもの」

「そうですね。まさかあそこでカラム隊長の名が出るとは思いませんでしたが」

「……なんか、ジャンヌに頼んだ気持ちはちょっとわかる気もします」

眼鏡の黒縁を軽く指で直すステイルと、頬を掻くアーサーはそう言うと少し思い巡らすように視線を遠くに投げた。

やっぱり昨日もたくさんお世話になったし、ネイトもカラム隊長に自分の力作も見せたいという気持ちが強かったのだろう。もともと、家の場所を教えてくれなかったネイトが唯一自分の家を教えた相手だ。

一体どうしてそんなに仲良くなったのかは未だにわからないけれど、カラム隊長を慕いたくなる気持ちならよくわかる。これはちゃんとカラム隊長に私から責任持って説明して、一言一句逃さずにどう褒めてくれたかネイトに教えてあげないとと思う。

それに折角ならティアラや近衛兵のジャック、専属侍女のマリーとロッテ。それにセドリックやジルベール宰相にも見せてあげたい。セドリックなんて教えたらきっと大枚叩いても欲しがるのだろうなと確信する。……いや、それを言ったらジルベール宰相もなかなか可能性高いかもしれないけれども。

まぁその当たりはネイトとレオンとに相談してもらおう。レオンと直接取引するとしても、ネイトが我が国の人間であることは変わらないし、交渉くらいは許される筈だ。


とうとう二年生の階に辿り着き、教室の前でアーサーが扉を開けてくれる。今日は比較的余裕の帰還で遅刻もせず済んだ。あとは三限の授業を無事に乗り越えてから、待ちに待った最後の三年教室の確認だ。

教室に入れば既に昼休みから戻って来ていた大勢の生徒が扉の音で一度こちらに振り返りー……ってあれ?


「ジャンヌ!またどうして二限にいなかったの?!」


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