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フリージア王国備忘録<第二部>  作者: 天壱
私欲少女とさぼり魔

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Ⅱ234.私欲少女は逃亡し、


「では、全員移動して下さい」


移動教室を言い渡され、女子生徒全員がそれぞれ立ち上がる。

講師が先導してくれる中で、ずらずらついていく女子の最後尾に私はひっそりと続いた。ちょうど、前も一緒に校門まで向かったことのある女の子達だ。こちらの存在に気付いて話しかけてくれる中、受け答えをしながら私は全く別のことへと思考を回す。


……どうやって逃げようかしら。


気持ち的にはこのまま窓から飛び降りたい。

高等部へ繋がる渡り廊下を歩きながら目線だけで着地点を確認する。けれど、先ず第一にそれだと目立ってしまう。もう優等生は難しいとしても、せめて一般人程度には思われていたい。それに私はともかく今どこかで護衛してくれているだろうアラン隊長も苦労することになる。流石に私を追いかけて飛び降りるのは極秘の護衛としては難易度が高過ぎる。騎士が飛び降りてでも追いかけた相手なんてそれこそ指名手配犯扱いだ。王女とバレるのも困るけれど、指名手配犯も勘弁して欲しい。


そう考えている内に一つ一つと階段を降りる。

体調はどう?と昨日の早退から心配してくれる子に笑顔で返す。ええ大丈夫。と返しながら、一番無難なのは医務室よねと考える。けれど昨日も早退したし、もしうっかり医務室に行ったことをステイルとアーサーに聞かれたら不要な心配を掛けてしまう。後で仮病だと話せば今度は、……何故〝仮病なんか使ったか〟を言及されてしまう。

それに既に一度は使った手だし、数が限られた医務室のベッドを仮病で使うのもどうかと思う。あくまで学校の所属医とはいえ、無料で診断してくれる医者なんてこの世界ではかなりの貴重な存在だ。

万が一にも当時のファーナムお姉様みたいに体調を崩した生徒が来て、仮病の私が気付かずにぐーぐー寝ていたらそれこそ最低だ。

とうとう一階まで到達する。授業専用の教室がある一区画だ。医務室の他にも色々と使用用途があるそこで、とうとう目的地へ前方の生徒が吸い込まれていく。ッここは!


「……あっ。ごめんなさい、教室に忘れ物しちゃって……。先行っていて。先生にも言わなくて良いから」

「え?わかった。……一人で平気?気をつけてね」

ええ、勿論。と心配してくれた子と振り返ってくれた女の子達へ笑い掛け、教室へ辿り着く前に二、三歩下がる。

今まで王女として授業をさぼったことなんて正気ではありえなかったし本当に申しわけないと思うけれど、今回ばかりはごめんなさい‼︎

心の中で謝罪を叫びながら、私は後ろ歩きで教室から遠ざかる。最後尾の子が教室に入りきったところで、パタンと扉が閉められた。そのまま誰かに廊下を覗き込まれない内にと足早に逃亡する。多分、どこかで見てるアラン隊長には意味不明の動きだろう。

流石に私に直接話しかけはできないのだろうけれど、こそこそとそのまま逃げ場も思いつかず教室から遠ざかる為だけにひたすら廊下を歩く。既に授業開始時間の為、生徒の人通りはなく簡素だ。廊下にいたらその内教師に見つかるかもしれないし、ここは一度外に出よう。


怪盗気分で人の気配に注意しながら、そっと壁沿いに外へ出る。

こっちは運良く校庭からも離れているから、授業中の生徒に見つかる心配もない。あとは教師の見回りぐらいだろうか。こんなところで授業をさぼっているなんて知られたら、それこそ問題児に数えられてしまう。言い訳はあとで考えるとして二限目だけ誰にも見つからず、尚且つなるべくこれ以上校則を破らない形でとなるとー……、…………うん。


「……ごめんなさい」

先に独り言で謝る。

ご迷惑なのは重々承知だけれど、もう他に行き場がない。よくネイトはこんなことを毎日のようにしていたなと下らない感心まで覚えてしまう。

人の気配に気をつけながら、足早に私は目的地へと向けて足を運ぶ。自慢じゃないけれど、前世では学校生活で一度もこういうことはしたことがない。ちゃんと真面目に授業を受けたし、うたた寝は何度もしたけれどサボったことなんて一度もない。まさか十九にもなって、こんなことをするなんて思わなかった。背徳感ものすごい。

人の気配にだけ気をつけながら足を進め、やっと人通りの全くないそこへ辿り着く。ここも見回りは来る筈だし、それまでには何とかしないといけない。最悪の場合、その辺の木の上にでも登って隠れようと歩きながら上を見上げた時。


「あっ」


いた。

見上げた先、木とは対面側にある校舎の壁に一つだけ違うものがある。二階と三階の窓のちょうど間で確実に既存の設計にはなかったであろう、屋根付きの高台のようなものがボコリと出来上がっていた。昨日はこんな真上なんて確認しなかったし、まだ入学して間もない一般生徒が見れば元々の設計仕様だと思うに違い無いほど上手く擬態している。

高台の上は流石に地上にいる私からだとよく見えないけれど、もう間違いない。駆け足でその真下にまで近付き、私はそっと声を掛ける。


「ヴァル!ヴァル‼︎少し良いですか?ちょっと助けて下さい!」


校舎裏を根城且つ不良生徒待ち伏せ中のヴァルに私は声を掛ける。

きっとこの辺にいる筈だと思えば、やっぱり当たりだった。高等部の校舎裏で良かった。移動教室の先がこちらの方が近かったから先に確認したけれど、最悪の場合このまま中等部の校舎裏まで戻らなければいけなくなるところだった。

呼びかけても最初こそ反応がなかった高台だけれど、数秒の沈黙後にむくりと影から誰かが起き上がった。上から低く「あー?……」と呟く声が聞こえてきて、もしかして寝ていたのかもしれない。


「ヴァル!忙しいところ申しわけありませんが私も匿って貰えますか‼︎」

「………………ア゛ァ?」

もう一度呼びかければ、今度はしっかりと起き上がった顔が見れた。

かなりご機嫌斜めの顔でこちらを見下ろすヴァルは、私の方を見下ろすと二秒くらいしてから鋭い眼を大きくぱちくりさせた。何やってんだと目が妙実に物語っている。

彼が驚くのも無理はない。普通はこの時間に生徒は全員授業中なのだから。私だってまさかここで任務中とはいえ裏番長的ポジションのヴァルにこんな形で助けを求めるとは思ってもみなかった。

とにかく早く、早く!と私が手招きすれば、片眉を上げたままのヴァルがそのまま特殊能力で操作した壁面を利用してゆるやかに降下してきてくれた。取り敢えずここで門前払いされなかったことにほっと胸をなで下ろす。跳躍でもがんばればいけるかもしれないけれど、流石にあの高さじゃ確実なのは木に登って飛び移るか三階から飛び降りるしか方法はない。


「……。……ジャンヌ。こんなところで何してやがる」

一瞬だけ、何かを言おうとして不自然に口が止まった彼はもしかすると〝主〟と呼ぼうとしたのかもしれない。

学校初日に校内で主呼びは禁止を命じたから、無事にそのままジャンヌの方で呼んで貰えた。やっぱりあの時に言って置いて良かった。

ヴァルは降りながらも、目が私よりもその周囲へ払っていた。昨日みたいにステイル達やカラム隊長がいないから余計に不穏なのだろう。本当にこんな下らないことに呼び出して申し訳ない。

段差を降りるくらいの動作で音も泣く地面にヴァルが着地すれば、さっきまで高台になっていた部分も綺麗に元通りに消えた。相変わらず彼の能力はケメトの力を借りると舌を巻くほどの完成度だ。

こうやって元通りになっても、さっきの高台が違和感のある設計だったとは思えない。ツバメの巣みたいに明らかに不出来だったら目立つけれど、本当に最初からの構造建築みたいにしっかりしていたもの。

そんなことを考えている内にも、怪訝な顔をするヴァルは私の眼前まで立って真上から見下ろしてくる。ヴァルの方はジルベール宰相に身長が戻らないように十八才で止められている筈だけれど、私は十四歳の姿だからこの圧の掛けられ方は久々だなと思う。今回は不機嫌にされるのも申しわけないと思いながら、私も彼へ真っ直ぐ見上げお願いする。


「……この二限授業の間だけ、教師や生徒に見つかりたくないのでこっそり匿って貰いたくて。貴方なら上手く校舎外に隠れているとわかっていたので」

自分で言いながら段々と声が小さくなる。

我ながらなんとも意味不明な理由だ。けれど、本当にヴァルが不良生徒狩りで校舎外に潜んでいる時からわかっていることだった。私が命令で必要外は禁止区域に入っちゃいけないと命じていたヴァルが潜むとしたら、能力を使っての擬態しかない。今日まで上手く教師や不良生徒にすら見つからずに過ごしていたヴァルしか現時点で頼れる場所もなかった。

私の答えに「ハァ?」と大きく声を漏らしたヴァルはまじまじと私を見た。全く納得していないといった顔だ。命令で強制的に匿って貰うこともできるけれど、ここは私が頼む側なんだから甘んじて受けよう。こうしている内にも時間が刻々と過ぎていってくれていることがせめてもの救いだ。


「また昨日のガキ絡みか?」

「違います。ネイトも関係ありません」

「いつものガキ共はどうした。なんで連れ歩いていねぇ?」

「……フィリップとジャックは男女別の選択授業で今は不在です。私がこうしていることも知りません。アラン、さんは……多分どこかに居られると思いますが」

「じゃあ匿えってのは何だ。なんでその騎士に頼まねぇ」

「匿えというのは別に特定の誰かに追われているという意味ではなく、……見回りの教師に見つかりたくないというだけの意味です」



「………………ハァ?」


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