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フリージア王国備忘録<第二部>  作者: 天壱
私欲少女とさぼり魔

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Ⅱ232.私欲少女は振り返る。


「良かった。なら、ネイトは無事に家へ帰れたのね」


晴れ渡った朝、いつものようにエリック副隊長の家から学校へと向かう私とステイルは、アーサーとエリック副隊長から話を聞けた。

昨晩、騎士団の演習後にネイトの元へ向かったカラム隊長はしっかりご両親やお医者様にも改めて彼と伯父のことを説明してくれたらしい。しかもお医者様の元へ着いた時には、既に結構な騒ぎだった。


既にご両親も仕事から帰られていて、病室で毛布に包まって背中を向けるネイトに質問の嵐だったと。

「どうしてそんな怪我を」「家にいないからこっちに来てみれば」「どうして扉が壊れてたんだ」「強盗に遭ったのか」と。まぁ、当然の反応だろうと思う。

ネイトもネイトで、カラム隊長が来るまではだんまりを決め込んでいたらしくお医者様の方が「もう少しで騎士様が説明に来て下さるから」と宥めている最中だったと。そんな暴風雨の中に突入してくれたカラム隊長には本当に頭が下がる。

流石に騎士の参入で一度はその場で落ち着いてくれたご両親だけれど、それからカラム隊長の説明を聞けば顔色が一気に蒼白に変わったらしい。ご両親へ配慮して順序立てて説明したけれど、お父様は貧血のようにふらついて立てなくなってしまうしお医者様は顔を真っ赤にして「あのバカタレに騙されてたのか⁈」とお父様に殴りかかろうとしたし、お母様はネイトを抱き締めたまま泣いて「ごめんね」の繰り返しで、全てカラム隊長が一人で場を納めることになったと。

ご両親が把握していた伯父への借金額は当初の借金から利子を含めた現在の残額までカラム隊長が確認をしてくれたけれど、……聞いた途端私もステイルも思わず顔を見合わせた。

改めてあの伯父が色々な意味で阿漕な商売をしていたことがよくわかった。ジルベール宰相にもしっかり伝えておくべき案件だ。


伯父が捕まったことに関しては、ご両親もお医者様も驚いてこそいたけれどショックを受けるよりもネイトが助かった安堵の方が強かった。

一番ショックだったのは、ネイトが自分達に隠れて伯父に利用されていた上に暴力を振るわれていたことだった。気持ちの整理が着いた後のお母様は特にお怒りが凄まじく、なかなかの罵詈雑言で伯父のことを「そんなんだから父さんと母さんに勘当されたのよあのクソ兄貴‼︎」「うちの人が優しいからってつけ上がりやがってネイトにまで……‼︎」と今からでも城に捕まっている伯父へ怒鳴り込みに行く勢いで、お父様とお医者様が二人がかりで今度はお母様を止めることになったらしい。……ネイトのあの口の攻撃性はお母様譲りらしい。

ご両親曰く、借金はこのまま高い利息を含めてあと五年後には少しずつではあるけれど払える見通しではあった。二人とも伯父の借金催促で横柄に振る舞われる以上の被害はなかったからまさかネイトに目を向けているとは思わなかった。

カラム隊長曰く、お母様はとても強そうな女性で、お父様は虫も殺せなさそうな優しくて丁寧な物腰の人だったと。そして二人ともちゃんとネイトのことは大事に思ってくれていた。

最後にはネイトを二人で抱き締めながらカラム隊長に何度もお礼を言ってくれたらしい。……因みに、私達が関わったことはなるべく伏せてくれた。


流石に伯父を捕まえた流れまでは誤魔化せないから、学校に来ないネイトを心配してカラム隊長が家に訪問したら伯父が暴力を振るっていて、家から飛び出した伯父がそこで通りかかった王族へ知らずに乱暴をして取り押さえられた。……ということになった。

確かに場所以外は大体合っている。どうせもう二度と伯父に会うことはないだろうし、その程度なら嘘をついても問題はないだろう。

取り敢えずネイトが売っていた品についても確認してくれたけど、どれも一応危険性は低い品だった。手を叩いたら灯るランプを始めに、手離してから望んだ通りの場所まで走り続ける玩具サイズの四輪車とか、どんな桁でも一発で足し引き計算してくれる電卓的な計算機とか。グレーゾーンは閃光弾くらいだろうか。

レオンとの取引についても、まだ両親には話していないらしい。できるだけ、情報量は必要最低限少ない方が良いというカラム隊長の配慮だ。

既に自分の息子が長年暴力を振るわれていたことと、伯父が捕まったことで充分取り乱していたのにネイトが王族と取引なんて知ったらそのままひっくり返ってしまう。

実際、ネイトを連れて家へ帰る時にはご両親ともフラフラだったらしい。カラム隊長がお母様に肩を貸し、お父様がネイトを背負って家まで帰ったと聞いて私とステイルも英断だったと思った。

カラム隊長曰く「もしレオン王子との取引が成立した時は、また私からご両親に説明へ行くことも視野にいれている」らしい。本当に潜入とは思えないくらいしっかり講師以上のことをやってくれている。学校教師だけじゃなくカラム隊長にもちゃんと相応のお給金をお支払いしておきたい。


「あと、壊した扉の弁償はカラム隊長が請け負うと進言されているらしいです」

「ご両親はそれくらい自分達で直すし、ネイトには代えられねぇって言ったそうなンすけど……」

……うん。やっぱりお給料上げよう。少なくとも扉の弁償代を賄えるくらいには。

そう思った矢先にステイルが「扉代は僕らから騎士団長を通してカラム隊長にお渡しして頂くようにしましょう」と提案してくれた。話してくれたエリック副隊長とアーサーもこれには少し半笑いしながらもほっとしていた。

基本的に人命救助とか任務時にある程度器物破損するのに騎士団に弁償義務はない。規模によっては城から賄っているくらいだ。それでも、個人的に支払ってしまおうとするのが本当にカラム隊長らしい。あれも人命救助には違い無いのに。


「今日一日はゆっくり休めると良いわね、ネイトも」

「そうですね。ご両親も借金の心配が無くなったのなら、傍についていてくれるかもしれませんし」

「……また発明で無茶してねぇと良いンすけど」

最後の心配そうなアーサーの言葉に、私もステイルも苦笑う。

昨日のネイトの意気を思い出すと、確かに心配になる気持ちもわかる。週明けには絶対間に合わせると言った彼の言葉は本気だった。

ベッドの上で休まず発明をしている姿が安易に目に浮かんでしまう。骨が折れていなかったのは幸いだったけれど、あんなに傷つけられたのだからを本音を言えば暫くは身体を労わって欲しい。レオンだって実際に週明けより遅れても絶対怒ったりはしない。まぁ流石に停学中でもある彼が



昨日の今日で学校に来たりはしないと思うけれども。



……




「あっ!ジャンヌ!ジャック、バーナーズ!昨日は大丈夫だった⁈」


教室へ到着後、アムレットや教室の生徒達にまた私達は囲まれることになった。

昨日、昼休みに途中早退したから当然だ。護衛についていてくれていたハリソン副隊長からアラン隊長、アラン隊長から教師側にも伝えてくれたらしいけれど突然三人も同じ教室の生徒が居なくなったら驚かれただろう。

既に教室からいつもの席へ辿り着くまでの間、体調不良か噂の途中早退からの行方不明生徒になったかと思ったと言われてしまった。思った以上にクラスの生徒に心配をかけてしまったのだなと反省した。一応、アラン隊長からも理由付けは教師に伝えて貰ってはあるのだけれど。


「ええ、心配かけてごめんなさい。昨日は途中で気分が優れなくて、フィリップとジャックも私に付き添ってくれたの。家に帰ったらすぐに楽になったわ」

珍しく朝から駆け寄ってきてくれたアムレットに、私は他の生徒達へと同じ返答をする。

前世だったらそれこそ身内の不調でとか言い訳ができたのだけれど、連絡網もないこの世界ではその言い訳も難しい。「医務室に行けば良かったのに」と言われる度、本当に気分が悪かったから医者に行った方が早いと思ってで貫き通す。教師に直接言わず、通りすがった騎士に伝言をお願いするとかまた目立つことをしてしまったなぁと思いながら笑って誤魔化した。


「元気そうで良かった」

アムレットも一応納得はして胸を撫で下ろしてくれてほっとする。

お礼を言いながら、そういえばお陰で昨日までの噂や腕相撲大会はなくなったなとこっそり思う。やっぱりこういうのってどんな年代でも新しい噂の方が注目を集めるんだなと思う。

彼らに受け答えを繰り返しながらも、荷物を置いたアーサーと一緒にステイルが「ジャンヌ、そろそろ」と声を掛けてくれる。一限前に三年のクラス確認へと考えてくれたのだろう。


そうね、と言葉を返しながら私達は一度教室を後にした。

三年生のクラスも残すはあと二クラス。ネイトが解決した今、最後の一人である攻略対象者をいち早く見つけないといけない。

階段を登りながら、セフェクに鉢合わせないようにだけ緊張感を張り巡らせて進む。彼女のクラスはもう確認したから良いけれど、廊下でバッタリなんてことになった大変だ。

また階段を上ったところで一度壁に張り付き、セフェクの姿が見られないことを確認してから足早に彼女のクラスを通り過ぎた。残るクラスは階段から最も離れている四組と五組。昨日の三組を確認した時もそうだけれど、なかなか綱渡り気分の緊張感だ。


取り敢えず今日はまた手前のクラスから確認しましょうというステイルの提案通り、そ~っと四組を覗く。

朝だし全員集合というわけでもないけれど、他のクラス同様に大体の生徒が集まっている。既に学校が開始して三週間が経とうとしているからか、緊張感がほぐれて教室も大分賑やかになっているなと思う。

見慣れた生徒同士の中にやっぱり私達は少し目立ったけれども、それでも大きな問題はなく教室の生徒を確認することができた。男女……特に男子生徒に注目して顔を一人一人確認し、そして


居なかった。


「ンじゃあ、五組にいるってことですかね?」

「今までの教室でもあり得ないことではない。朝に確認した時なら俺達が確認した時にはまだ登校していなかったこともあり得る」

また空振りだ。

いっそこのまま隣のクラスである五組に突入したい気持ちをぐっと抑える。あまり三年の階に長居するとセフェクに見つかる可能性が高まるし、今日は今朝の時点で少し足止めを受けてしまったから時間もない。


仕方なく肩を落とながら、ステイルとアーサーと一緒に教室へ逃げ戻ることにする。

アーサーの意見もステイルの推理もどちらも充分にあり得る。ただ、つまりはこのまま五組にも見つからなかった場合、残り二週間ないにも関わらず振り出しに戻るという恐怖が強い。最悪の場合、まさかの学校に入学していない可能性もある。このまま思い出せなければ、本当に手詰まりだ。せめて本当に攻略対象者の名前だけでもわかれば良いのに!

少なくとも現時点での私の記憶では他の攻略対象者との関連もない。


すごすごと元のクラスへ戻りながら今日の三限終わりにこそ攻略対象者に出会えますようにと願う。

またクラスの子達とお喋りし、教師の出欠確認を受け、私達三人は軽く教師に昨日の確認と「そういうことはなるべく教師か講師に伝達するように」とお咎めを受けてから授業に入った。気分的には完全に泣きっ面に蜂だ。

半月の内にもう校内で色々やらかしてたり目立ったり高等部生徒に目をつけられて事件に巻き込まれまくったり突然早退したりと気が付けばなかなか問題児になってきてしまっているなと自覚する。配布される資料に目を通しながら、これはもう地味な優等生は諦めるしかないかなと思った。


まさかこの後に約二週間ぶりの危機が待ち構えているとは思いもせず。


……そして、うっかり魔が差すことも。


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