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フリージア王国備忘録<第二部>  作者: 天壱
私欲少女とさぼり魔

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Ⅱ216.私欲少女は探られる。


「では、昨日セフェクの二組は確認し終えましたし、今日は一組だけ確認しましょう」


いつセフェクに見つかるかもわかりませんから、とそう提案するステイルに私からも同意した。

三限目が終わり、三年の教室へ挑む私達は今日もセフェクに見つからないようにと密偵気分で階段を登る。昨日は間一髪ステイルのお陰で見つからずに済んだけれど、一歩間違えれば完全に鉢合わせだった。

今日は昨日みたいに休み時間をフライングしていないし、授業を終えたセフェクが廊下に出てこないとも限らない。本当ならもうひと組くらい確認したいところだけれど、昨日の反省を生かす為にもここは欲をかかずに行こう。……それに最近の私達、遅刻常連組になっているし。

階段を上りきったところで、壁沿いに背中をつけてから教室前の様子を窺う。廊下にはセフェクの姿がないことを確認してから早歩きで三年一組を確認する。廊下から覗くよりも今回は教室に入っちゃう方が安全だからそのまま教室へ滑り込んだ。一年のクラスや同学年のクラスの時はまだ堂々としていられたけれど、やっぱり三年のクラスだとちょっと視線が気になってしまう。

アーサーもステイルもこの歳から既に背も高くて大人っぽいし、どうか二人に紛れる形で低学年とは気付かれませんようにと心の中で祈る。

残りの攻略対象者。アムレットが二年生で、ファーナム兄弟が同学年でネイトが一年。特別教室の彼をいれれば、やっぱりゲームバランス的に三年の学年にいる可能性はあると思う。けれど少なくとも一組ではそれらしい生徒は見つからなかった。男子生徒をしっかり見て顔を確認したけれど見つからない。今日もまた外れかと、肩を落としながら私達はまた廊下にセフェクがいないことを確認し教室から足早に去った。


「ンじゃあ残すは三組から五組ってことですね」

「ここまで来たのですから、焦らずに行きましょう」

早々に危険区域の廊下を抜け、階段へ向かいながら励ましてくれる二人にお礼を返す。

そう、今日は収穫はなかったけれどあと三クラスだけだ。朝に一クラス、三限終わりに一クラスでも順当にいけばあと二日で見つけられる。ただしその間にまた休日二日が挟まれるかれども。

明日終えれば、また二日間の連休になる。前世では待ち遠しかった筈の休日が、今はもの凄く地団駄踏みたくなる。その二日さえ超えればネイトも週初めに発明を完成させてくれると言っているし状況が少しは前進できるとは思う。

ヴァルから学校での裏番報告も聞けるし、そろそろジルベール宰相も動き出す頃だろう。可能ならこの土日にそっちの方も片付けられたら最良だ。そうすればネイトのことも集中できる。

廊下から階段まで私達が一組の教室を捜索している間に、かなり人気も絞られていた。移動教室の生徒も全員行き交い終えた後なのだろう。セフェクも教室から出てくる様子はないし、今のうちにと階段を降りようとしたその時。



「あ~~そこの三人。そ、こ、の。赤いのとでかいのと黒い子。ちょっと良いかな」



不意に、別方向から声が掛けられた。

呼びかけるような大きさの声と、色の限定に私達しかいないと顔を向ける。見れば、どこか見覚えがあるような青年が階段踊り場の物陰から姿を現した。

昨日私達がセフェクから身を隠していた場所だ。でもどうしてそんなところに彼らが、と疑問に思えばステイルと更にアーサーが私を守るように前に出てくれる。

見たところ彼らは三年生、だと考える。それでもアーサーの方が背も高い。見ず知らずの男性二人に警戒するように守ってくれるアーサー達の背中越しに彼らを見る。もしかして彼らも、昨日セフェクと友達やヴァルが話していたのと同じ不良生徒だろうか。物陰に連れ込もうとしているし、その可能性は充分にある。ただ、今まで把握している限り全員高等部生徒ばかりだったからそれだけが引っかかるけれども。


「……何の用っすか。話なら自分が聞きますけど」

刺すように蒼色の視線を向けるアーサーは声も静けきっていた。

私の前に立つステイルからも僅かに黒い覇気を感じられて、男子生徒よりも寧ろステイルとアーサーのピリついたものに肩が強張ってしまう。ステイルが一歩後ろに私を退がらせる中、アーサーが更に一歩前に出る。

物陰から現れた彼らはヘラリと笑いを浮かべて返してきた。ぴらぴらと私達を手で招き、愛想の良いような笑顔で返す。


「あー、ごめんなぁ?別にちょっと話を聞きたいだけだからさ。大丈夫何もしないから、ちょっとだけ聞かせてくれないか?」

「俺達も困ってるんだ。ちょっと人捜しをしているんだけど、君達の友達とか知り合いで下級層の子とかいないかな?もし居たら紹介して欲しいんだけど」

そうそう、と言葉を会わせる彼らに余計に警戒が強まる。

下級層。やっぱり彼らもヴァルが捕まえているのと同じ下級層生徒を狙っている人達だ。まさか中等部にも居たなんて!

ヴァルの仕事で高等部の仲間が減った所為か、それとも最初から彼らも暗躍していたのか。どちらにせよ、これ以上下級層生徒を狙わせるわけにはいかない。口の中を飲み込み、返答を考えていると先に動いたのはステイルだった。


「……僕は、そうですよ。最近までずっと下級層に居ましたから」


服装から私達は下級層じゃないと判断した彼らに、敢えて〝最近まで〟と提示する。

ステイルの嘘にアーサーも振り返れば、彼に道を譲った。ステイルが自身を標的にされるように言葉を選んだ意味を理解する。

彼の言葉に男子生徒は二人とも意外そうに目を丸くしてお互いに見合った。ここでケメトの時みたいに豹変して脅してきたら一気にアーサーが動くだろう。いや、その前にステイルがそのまま倒す方が先かもしれない。子どもの姿でもステイルもたった一つ上の年齢の彼らに負けることはない。

男子生徒は少しの沈黙のあと「そっかそっかー」とまた笑顔でこちらに歩み寄ってきた。物陰に近付こうとしない私達に、自分から来る。この場で引き摺り込まれるかと少し身構えれば、アーサーが立ち位置を更に私を守る位置に変えてくれた。けれど、彼らの注意は完全に今はステイルだ。


「じゃあさ、ちょっと聞きたいことがあるんだけど良いかな?」

「俺ら、人探してるんだけど」

にこにこと笑顔を崩さないまま、距離を詰めてくる彼らは今のところ実力行使をする気配はない。

ステイルも彼らに応じるように「ええ、僕で宜しければ」と笑顔で返した。全く怯えを見せない彼の笑顔に男子生徒も気安いように口調を和らげたまま話を続ける。今まで私達が知る様子と違い、本当に道でも聞きたいくらいの様子だ。


「君、〝ライアー〟って知ってる?」


出た。

もうその単語が出た時点で確定する。やっぱりこの二人も〝彼〟関係だ。高等部の不良生徒とは行動こそ違うようだけれど、彼らもやっぱり下級層に狙いを定めて〝ライアー〟を探している。

私に前へ出ないようにと腕を横に伸ばすアーサーの肩も僅かに揺れた。アーサーも、そしてステイルも〝ライアー〟のことはケメトと不良達との会話で知っている。そして前世の記憶がある私は、……それ以上も。


「ライアー……?どこかで聞いたことはある気がしますがいまいち……。それは名前ですか?」

ステイルが考え込むような仕草と声で首を捻った。

流石ステイル。ヴァルみたいに絞り出すだけではなく、こうやって彼ら自身から引き出すのも重要な情報だ。彼らも相手がただの男の子だと思ってか、「ああそうそう」と軽い調子で返してきた。


「俺らの友達なんだけど、金貸しててさ。学校にはいないだろうけど、下級層の子なら知ってるかなーって」

「それは大変ですね!どんな方でしょうか?もしかしたらどこかで見かけた事があるかもしれません」

あからさまに嘘を言う彼らにステイルも驚いて見せながら、ぐいぐいと情報を引きよせていく。

私とアーサーが固唾を飲んで見守る中、ステイルはライアーの情報を更に彼らから聞き出した。ただし、経歴や正体については彼らも「わからない」の一点張りだ。

あくまで探しているのは自分達二人だけ。お金を貸したまま行方不明になったから同じ下級層の子に覚えはないか聞いていると。そこまで聞くと、ステイルも深入りはしないように「そうですか」と言葉を切った。肩を竦め、首を横に振って弱々しい声を放つ。


「すみません、そういった人には僕も会ったことはないです。下級層かはわかりませんけど、同じ学級の子達にも聞いてみます」

「!いや、良いんだ。それよりこの事は他の奴らや教師には言わないでくれるか?金とか関わるの知られたくないんだ」

「そうそう。俺らから聞いたことも探してることもライアーのことのも全部。それだけで良いから」

そこの君達も、と。

私達にも口止めを望む彼らに私とアーサーはその場で頷きを返した。最初から今に至るまで思った以上に平和的な頼み方になんだか拍子抜けをしてしまう。

ステイルからも「わかりました」と穏やかな声を返すと、その途端ご丁寧にお礼まで返してくれた男子生徒は予鈴の音と一緒に階段を上って去って行ってしまった。一度も脅されることも、暴力どころか荒い言葉をかけられることもなく〝ライヤー〟聴取を終えてしまう。

暫くは去って行った彼らの背中を見続けた私達だけど、次の授業が迫っていることに気がつきすぐに階段を降りた。こういうのを鳩が豆鉄砲というのだろうか。


「……なンか、今まで聞いてた連中と違いましたね。すっげー平和的というか」

「先ず中等部という時点で違う。だが、聞いている内容は奴らと同じ〝ライアー〟と口止めだ」

アーサーとステイルの話を聞きながら、私は〝彼〟の設定を思い出す。

今までの高等部不良生徒も彼関連だということは想像ついていたけれど、やっぱり今の二人も彼関連か。ヴァルのお陰で向こうが人手不足になった可能性が更に高まった。そうなると今の二人は恐らく……、とそこまで見当がついてしまう。だってあの帰って行った先から考えてもそうとしか考えられないし、……あれ?そういえば〝彼ら〟って


「それに、彼らが去って行った先も気になる」


ぎくっ。

鋭いステイルの発言に思わず私の心臓が跳ねた。やっぱりステイルがそこを見逃すわけがなかった。表情にでないように口の中を噛んで堪える私は、彼へ視線を注ぐアーサーの隣で息を止める。

「去って行った先?」とそのまま返すアーサーはまだ気付いていないらしい。ステイルが続けて「よく考えて見ろ」と階段を降りながら、顎で天井を指せばすぐにアーサーも気付いたように「あっ」と声を漏らした。そういうことだ。

口を開けたままステイルの視線を追うように真上に顔を向けたアーサーは、ずれ落ちそうな銀縁の眼鏡の蔓を両手で押さえ付けてから今度は私へ顔を向けた。私もステイルと同意見だと示すべく言葉を返せば、アーサーはまた別の疑問が湧いたように顔を顰めだした。

疑問についてはステイルも同じだろう。「それに」と会話の主導権を再び掴むステイルに私も目を向ける。


「彼ら、二人。俺は見覚えがあります。……これは帰ったらもう一度生徒名簿を確認する必要がありそうですね」


見覚え、という言葉に何となく想像はつく。

私は覚えていないけれど、ステイルが見覚えがあるということはと考えれば僅かに顔が引き攣ってきた。アーサーにも目を向ければ納得したようにゆっくり頷いている。

……本当に、このまま行くとなんだかネイトを解決するより先に自力でライアーと黒幕に辿り着けちゃいそうだなと思う。私がこうして〝予知〟にしなくても、着実に真実へ足を進めているもの


「一先ずは、彼らが平和的な探りもいれるようになったことだけは幸いとしましょう。あれなら例え下級層の生徒相手でも、学校から逃げ出すような事態にはならないでしょうから。……これも、奴が暴力因子を粗方狩り尽くした成果でしょう」

ハァ、と。

最後に肩が落ちるくらいに溜息を吐くステイルに私も苦笑う。

ヴァルのやり方が乱暴過ぎることは変わらないけれど、結果として着実に下級層生徒の被害は減っているということだ。恐らく、暴力的に動いでもまたすぐに邪魔されてしまうとわかったから今度は平和的なやり方で調査をすることにしたのだろうなと思う。生徒から絞り出せないのは難点だけど、邪魔されて情報丸ごと潰されるよりは成果も出る。

彼をそう動くようにし向けたのはジルベール宰相とステイルだけど、あまりにも乱暴過ぎる方法に頭を抱えた後だから複雑なところもあるのだろう。アーサーが気遣うようにステイルの肩を手で軽く叩いた。その途端疲れたようにステイルの頭が落ちる。私からも隣に並び、声色を明るくしながら彼らに呼びかけた。


「生徒が安全なら嬉しいわ。今日帰ったら早速報告しなくちゃね」


はい、と。返してくれたステイルと一緒に私達は無事教室へと戻った。


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