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フリージア王国備忘録<第二部>  作者: 天壱
私欲少女とさぼり魔

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Ⅱ215.私欲少女達は思考する。


「ジャンヌ。昼休み予鈴までもあと五分あります。今のうちに少しだけ食事にしましょう」


早足で教室に戻った後、時計を確認したステイルがそう言ってくれた。

……理由は、ものすごく私がわかっている。アーサーもすぐに理解したように鞄の中を開くと、席に着いた私にサンドイッチを手渡してくれた。匂いが籠もらないように窓側にくっつき、ステイルにもサンドイッチを手渡す。

私が食べやすいようにと先に自分のサンドイッチを食べ始めてくれたステイルに続き、私も一口頬張った。こういう時、パッと食べやすいサンドイッチで良かったとつくづく思う。

ステイルもアーサーも、恐らく以前に私がお腹を鳴らしたのを気にしてくれたのだろう。私もあの時は死ぬほど恥ずかしかったから、防止できるならそうしたい。

ちょっといつもより急ぎ足にはなってしまうけれど、今はお腹に詰めることを最優先するように飲み込んだ。遠巻きでこちらを見ているクラスの子が、「なんで今食べているんだ」と言わんばかりなのが少しばかり居たたまれない。

昼休み前のアーサーとステイルの黙秘術が効いたのか、私達が教室に戻ってきても今朝みたいに速攻で集まってくることはなくなった。再び取り戻した平穏な休み時間にそれだけでもちょっとほっとする。


サンドイッチの一個目を食べ終えた時に予鈴が鳴った。

あとちょっとで先生が来ると思って噛む口に力を込めると、アーサーが「いりますか」と鞄から出した水を差しだしてくれた。

私達の中で比較的一番最後に食べ始めたアーサーだったけれど、いつの間にかもうサンドイッチを全部食べ終えたらしい。お礼を言って水を受け取りながら、私は喉を詰まらせないようにだけ注意する。


「……パウエルはちゃんと食べれたかしら」

「大丈夫です。彼ならきっと教室へ着く前に食べ終えてますよ」

つまりは歩き食い、ということだろうか。

ステイルの言葉を聞きながら、確かに普通はそれで済ませた方が早いわよねと思う。私も前世ではわりとすることもあったし、彼らにとっては普通だろう。

私やステイルは王族だし、私に至っては一応淑女だから流石に正体を隠していても気軽にそれをするわけにはいかない。抵抗がないアーサーも私達に合わせてくれたのだろうなと思う。

私に付き合わせた所為で結局お昼の時間が取れなかったパウエルだけど、最後までお昼を食べ損ねたこと関しては不快な顔一つもせずに許してくれた。本当に事情を知らない中では一番迷惑をかけている気がする。思わず考えて食べる口が止まってしまうと、次に食べ終えたステイルが「そろそろ先生が来ますよ」とやんわり警告してくれた。

そうだった、と私も慌てて最後の一口も細かくかみ砕いて食べきった。いつもの食事ではあり得ない速さで食べきれた自分を褒めたい。最後に水をごっくりと飲み込んだ時、ちょうど教師が本鈴と同時に姿を現した。今日は講師ではなく学校の教員だ。かけ声に合わせて私達も席に着き、無事正面を向いて授業にのぞむ。


「今日は民俗学の選択授業です。城下に住む皆さんには馴染みの薄いものでしょうが、歴史に興味ある生徒は是非」


今日の選択授業を口頭で説明する教師の話を聞きながら、私はまたネイトのことについて再び考えを巡らせた。




……




「申し訳ありません、ティアラ様。王女殿下に私めのお手伝いをして頂くなど」


「いえっ!ジルベール宰相とこうして一緒にお仕事ができるなんて夢のようですっ」

書類から目を離し、恭しく頭を下げてくれるジルベール宰相に私は首を振って笑い掛ける。

王配である父上がこれから母上と大事なお話があるということで、私はジルベール宰相のお仕事をお手伝いしていた。父上の補佐をしているジルベール宰相のお仕事も、王配の業務に関わることがたくさんあるからとても為になる。

なにより、ジルベール宰相のお仕事のお手伝いはとてもとても好き。

昔から優しくしてくれるジルベール宰相は、こうしている間も一つ一つ何度も丁寧に仕事を教えてくれる。ちょっと前まで私は父上の仕事にも母上の仕事にも関われなかったから、こうして公務を通じて王族のお仕事に関われることも嬉しい。

こちらで宜しいでしょうか、と任されていた資料の参照頁を見つけ確認してもらえば「流石です」と喜んでくれた。確認を終えたジルベール宰相がその頁を走り書きで記述したのを確認してから、私も自分の用意された席に戻る。


「ティアラ様は何事も意気も持って励まれておられるので、私もとても励みになります。王配殿下もそう思っておられますよ」

「そうでしょうか?だとしたら嬉しいですっ。たくさんたくさん頑張って、父上のお仕事に関わるのも許して頂けるようになりたいです!」

父上に付くようになって、色々と直接教えて貰える機会が増えたけれどま本格的なことまでは関わらせてくれない。

最初はジルベール宰相と同じくらい王配のお仕事を理解して、それからだとお話してくれた。だからこうして父上が大事な業務に関わる時に私はお留守番が多い。その間はジルベール宰相が父上に代わって私の指導をしてくれる。

私はお姉様や兄様みたいに物覚えもすごく良いわけではないし、きっとその分たくさん頑張らないといけない。けれど、この前みたいに兄様に先取りされちゃわない為にもここは頑張らないとっ!

私の言葉に切れ長な目を細めて笑ってくれたジルベール宰相は、そのまま手の中に纏めた書類を片手に歩み寄ってくる。何か新しいお仕事かしらと別の資料を開いたまま頭だけを傾ける私は、その書類が何かもまだわからない。

棚ではなくてジルベール宰相の引き出しから出された資料だから、どんな分類かすら想像もつかない。私の反応ににっこりと楽しそう微笑むジルベール宰相は、ゆっくりと私の机の上に資料を置いて見せてくれた。


「〝学校〟に関する資料です。定期的に報告書として学校側からも提出させているのですが、こちらは先週一週間分の報告書となります」

「!お姉様の?!」

思わず声が跳ね上がる。

お姉様が今も潜入視察されている学校。毎日お姉様とジルベール宰相が打ち合わせや報告をされているのは何度もご一緒したことがあるけれど、学校からの報告書を直接目にするのは始めてだった。

父上の補佐として国内の学校についてもお姉様の次くらいに沢山のことを任されているジルベール宰相に学校からの報告も毎週届けられている。

ご覧になりますか、と尋ねてくれるジルベール宰相に私はすぐ返す。私が学校に直接関われるのはレオン王子の学校見学だけ。だけれど、自らお姉様と兄様が身を投じている学校に私だってお力になれることはしたい。

その気持ちをわかってくれていたように微笑むジルベール宰相は「そうでしょうね」と呟くと、資料を一枚一枚私の前に広げて見せてくれた。

いつもはこの中の内容を予めジルベール宰相が全部把握して必要な部分だけお姉様に報告しているらしい。軽い読み物くらいの厚さがある報告書なのに、これを全部一日もしないうちに覚えちゃっているジルベール宰相はやっぱりすごい。

私から「流石ですねっ」と思ったままに返すと少しだけ悪戯っぽい笑顔で「ステイル様も容易いことですよ」と言われてしまった。なんだか今は兄様に負けるのが悔しくて、思わずぷくっと頬を膨らませてしまう。……良いもの。兄様がすっっごくお勉強を頑張って頭が良いのは知っているし、それが私とお姉様の自慢でもあるもの。

ただ、今は王配のお仕事で負けちゃっているのが悔しいだけ。つい数ヶ月前まで兄様が私やお姉様にも内緒で王配のお勉強をしていたことだって知らなかった。

私が膨れたことが、思った通りの反応だったようにクスリと笑うジルベール宰相は「焦る必要はありませんよ」と楽しそうに励ましてくれる。


「今回の報告は大部分はやはり特待生試験についてでしょうか。少しずつ学校内の問題把握も進んでいたようです。不良生徒や早退、不登校生徒の多発なども以前より詳しく知らされております」

それでもプライド様からの報告ほどではありませんが、と。私にわかるように解説しながら頁をめくるジルベール宰相に、私も負けずと文字を追う目を走らせる。

本だけはたくさん読んできたから、文字に目を通す速さだけは自信もある。特に重要な部分を示してくれるジルベール宰相の指を追いながら、たった一週間分の報告なのに色々な変化が出ているのだとわかった。

カラム隊長やお姉様のお話を聞いても思ったけれど、本当に学校の教師の方々がどれだけ大変な環境で毎日頑張ってくれているのかその文字一つ一つに滲み出ているかのようだった。


「……次はレオン王子との学校見学はいつになるのでしょう……」

〝あの〟問題から、まだレオン王子との学校見学はできていない。

仕方ないとも思うし、学校側の負担を考えたら私も我が儘は言えない。けれど、レオン王子だってお姉様の様子を心配してくださっているし、アネモネ王国としても優先期限の一ヶ月はとても貴重。自国にも学校を作りたいと思ってくれているレオン王子とアネモネ王国の民の為にもできるだけたくさん学校見学は重ねたい。

そうですねぇ、と小さく呟くジルベール宰相は少しだけ考えるように指の動きを止めてから視線を宙に浮かせた。

一番良いのは、その問題を早期に解決できれば良い。そうすれば学校の方々にもご迷惑をかけない上で私とレオン王子が学校見学にもっと頻繁に訪れることもできるようになる。……単に私がお姉様達のいる学校をもっと見たい見せたいというのもあるけれど。

兄様にだってあんな風に任されたのは始めてだったのだもの。

私がレオン王子とご一緒することで、どんな風に兄様やお姉様にも御役に立てるかはわからないけれど、許されるならもっともっとお手伝いしたい。私だってお姉様とジルベール宰相が頑張ってここまで作り上げた学校をもっと理解したいし、生徒や教師とも関わりたい。次期王妹として認めて貰う為にもできることはなんでもしたい。それに……。


〝前兆〟


お姉様が学校に潜入を決めた頃から、もう私も数度それを見ている。

過ぎった後は感覚以外覚えてもいないし、母上のお話だとつまりは現実にならないということなのだけれど。……それでもやっぱり心配にもなってしまう。いつ私が悪い予知をしてしまうかもわからないから。


「……やはりアンカーソンが……」

「え⁇」

私宛でもなく、本当に独り言のような伏せた声を零すジルベール宰相に聞き返す。

指ではなくジルベール宰相の顔を見上げて尋ねれば、薄水色の眼差しが真剣に光っていた。私の視線に気付いてすぐに「いえ、なにも」と笑んで返してくれたけれど、小首を傾げてしまう。

アンカーソン家のことなら、私もジルベール宰相とお姉様達の話である程度はわかっている。なのに、何か隠すことでもあるのかしらと眉を寄せて考えると、ジルベール宰相は苦笑したような表情で「また、確かではないのですが」と肩を竦めた。


「こちらなのですが、……報告書を見るところ少々気になる点がありまして。中等部のこの教室だけ、……妙だとは思いませんか」

本当だ。

言葉にして頷きながら、私は示された報告書の一部を確認する。他ではこんなことないのに、そこだけがおかしい。どうしてこうも偏ってしまっているのかしら。私もその教室は前回の学校見学でも寄らなかったし、どんな生徒がいるのかもわからない。けれど、少なくとも訪れた教室だけならとても良い生徒ばかりだったのに。……、…………良い、生徒……。


「~~っっ……」


一瞬、学校見学で会ってしまったあの人のことを思い出して熱があがる。

真剣なお話をしているのに、おばかにもペチペチと頬を自分で叩いて引き締める。なんで!どうしてここであの人を思い出しちゃうの!ばか‼︎

未だにあの時、私とレオン王子が一緒に訪れた途端に燃える瞳を丸くして見比べたあの人の表情を忘れられない。どうせきっとまた私とレオン王子が並んでいるだけで変な誤解をしたのに決まってる。明らかな動揺やちょっぴり傷ついていたような表情を思い出すと、もうなんだか私の方が悪いことした気持ちになってしまうし、私まで何だか変に胸騒ぎまでしてしまう。どうして私が他の殿方と仲良くするだけでそんな誤解するの‼︎


「ティアラ様?どうかなさいましたか……?まさか、予知を……」

「いえっ……なんでもないです……ちょっと、変なこと思い出しちゃって……」

真面目なお話中にごめんなさい、と謝りながら両手で今度は胸を押さえ付ける。

どうしてこんな時にも私のお仕事の邪魔をするのっ!と悪くもないセドリック王弟に怒りたくなってしまう。一生懸命頭の中から彼を追い出して、今はジルベール宰相がお話してくれた方に思考を向ける。

私の挙動に首を傾げるジルベール宰相にごめんなさいと心の中でもう一度謝ってから、私は声の高低に注意して話を戻す。


「ジルベール宰相、こちらの教室の生徒名簿はありますか……?」

「流石ティアラ様。お気づきが早い」

私の問いに満足そうに笑みを浮かべてくれたジルベール宰相は、また引き出しから別の束を取り出してくれた。

あの言い方からするともうジルベール宰相はわかっているのかもしれない。だって彼ならこの教室どころか、全校生徒の名前だって暗記しちゃっているもの。

わざわざ私にわかるようにその教室の名簿表を取り出してくれたジルベール宰相にお礼を言って、生徒名を確認する。そして



「これはっ……?」



「妙ですよねぇ……」

息をのむ私に返してくれるジルベール宰相の低めた声を聞きながら、自分の目が丸くなっていくのがわかる。

名簿を見れば、とてもとてもそれがまたおかしくて。


どうして中等部だけがこんなことになっているのかしらと、私は不思議で仕方が無かった。


Ⅱ125

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