そして尋ねる。
プライドの椅子を引き、どうぞどうぞとアムレットの方へと引き渡す。
ステイルとアーサーからしても、アムレットからの助けはこの上ないものだった。被害が出るのは自分だけで良いと思うと同時に、またプライドが誤魔化す為に爆弾発言をされることの方が心臓に悪い。最後尾の列に陣取る自分達から遠く離れた最前列のアムレットなら被害も届きにくい。二人からの後押しにプライドもすぐに理解し、腰をあげながら「ごめんなさいね」と周囲に謝りアムレットの席へと避難する。
「ごめんね、ジャンヌ。それで、昨日の続きなんだけど……」
円滑に話しを勉強の方向へと流し、そのまま自分の席へと連れて行ってくれるアムレットが眩しい。
プライドは心の中で十回以上「ありがとう」を繰り返しながら言葉を返し、彼女に続いた。プライドから直接話しを聞き出したかった女子の中には助け船だと理解したが、諦める。代わりにジャックやフィリップが答えてくれるならそれもそれで良いかもと、目の前の人気男子生徒を前に思う。プライドがアムレットの隣の席に腰を降ろし、彼女が出した問題用紙に目を向けるときには意識も彼らへと移っていった。むしろジャンヌが居ないからこそ問いただしやすい質問も女子は持ち得ている。
自分の代わりに取材数が増えてしまったステイルとアーサーに申しわけないと思いながらも、プライドはほっと息を吐く。これで自分がボロを出すことで余計に迷惑をかける心配はなくなったと波風立たせず回避できたことに
「アムレットはジャンヌ達の噂に興味ないの?」
……回避、できてはいなかった。
先ほどの噂の渦を作り出していた男女生徒とは別の、比較的におとなしめな生徒はアムレットと行動を共にすることの多い女子生徒だった。確かキティとララちゃんだっただろうかと考える。片方は言いながらも視線は質問攻めの渦に向いている。
アムレットの近くの席に座っていた彼女達は、人数でいえばたった二人と渦と比べれば少人数だ。しかし、ここでもかとプライドは無意識に肩を狭めてしまう。勉強に集中できると思ったが、やはりまたその話に広がるのかしらと覚悟をしたところでアムレットの口が開かれる。
「うーん、全然。私はそういうのに興味はないかな。だって私はフィリップやジャックより、女友達のジャンヌが一番好きだもの」
軽く考えたように首を傾かせ、躊躇いなく笑顔で言い放った言葉にうっかりプライドの心臓が大きく鳴った。
さらっと好き発言してくれた主人公に、思わず瞼を無くす。友達とは既にいわれていたが、改めて好きと言われると妙にくすぐったくなってしまう。今世で女友達のいなかったプライドにはただただ嬉し過ぎる発言だった。そのままアムレットから「ねっ」と笑い掛けられれば、自分の方も思わず素直に顔がほつれるように笑みで返してしまう。全シリーズ天使と言われたキミヒカの主人公は伊達ではない。
「フィリップもジャックもすごく格好良いとは思うけど、一番じゃないかな。今は家族と友達と勉強の方が大事」
さらりと言い放ち、「ここからいいかな」と昨日の続きから指定箇所をペンで指すアムレットに、プライドは流石と思う。
ゲームでも、真面目な性格の彼女は〝恋愛には無関心〟なキャラからのスタートだったと思い出せば、彼女らしい意見だとも思う。第一作目でセドリックという婚約者がいたティアラと違い、恋愛や異性に興味がない庶民の女の子だからこそ、美麗な攻略対象者全員に対し遜ることもこびを売ることもなく一人の人間として接し、最後は心を救い愛されるのがアムレットなのだから。こんな良い友達ができてしまうなんて、と思えば残り僅かな学校生活を惜しくも思ってしまう。
「それに、顔や姿より大事なのは心よ。フィリップ達も親切なのは知ってるけど、特別じゃないわ。他の男子も二人と同じくらい優しいし、素敵だもん」
今の素敵な言葉をクラスの男子どころか全校生徒に聞かせてしまいたいとプライドは思う。
ゲームでも「顔や姿より大事なのは心よ」と彼女が攻略対象者に語り聞かせるイベントがあったと記憶を浮かべれば、それがこの時から彼女の信条だったのかなと考える。活発な姿ばかりの彼女にしては珍しく、呪いを解くおとぎ話のお姫様のように語るその言葉に救われたのは隠しキャラのディオスだけではなかった。
「じゃあ、アムレットはどんな男の子が好きなの?」
プライドからの解説を受けながら、問題を解いていくプライドの邪魔にならないように端的に尋ねる友人にアムレットも少しだけ眉を動かす。解説を聞き終わってから、自分で解く前に友人の問いへ答えるべく口を動かした。ぽっと、その瞬間だけ頬が桃色に染まったのを隣に座っていたプライドははっきりと目撃した。
「……女性や子どもをいつだって守ってくれるような、優しい人」
ぽそっ、と言葉にするのが恥ずかしいように呟くアムレットは先ほどのはつらつとした言い方に反し、とても愛らしい表情だとプライドは思った。
えっ、それだけ?ともったいなさそうに言う友人も、理想像自体は否定しない。ただ、アムレットは可愛いのにそれだけなんてと話す彼女達に、プライドは方便とはいえ自分が教師に言った理想像を思い出し羞恥で耳まで熱くなった。
しかし、そこで照れたように言うアムレットに、もしかしたらもう好きな人が居るのかなとも心の中だけで邪推してしまう。主人公が必ず攻略対象者と恋に落ちると今のプライドは考えてはいない。現に、自分の妹であるティアラは誰ともそういう関係ではないと考えれば、その結論しかでない。
猛アタックしているセドリックすら未だ一方通行状態だと思い返せば、アムレットも別の素敵な男性と恋に落ちることは充分あり得ると思う。
ほんの淡い期待を思えば、もしアムレットの思い人が運命的にも攻略対象者であればその人物こそが自分が思い出せない最後の攻略対象者かも⁈と期待もしてしまう。乙女ゲームの定番である〝幼なじみ〟キャラが第二作目に登場する可能性は少なくない。
……でも、ここで聞くのはマナー違反だわ。
彼女は今、まさに自分をそういう話題の渦から助けてくれたのだから。
そう思いながら、プライドはもっとわかりやすいように途中式を彼女の別紙に書き込んでいく。返答を終えた後に口を閉じたまま何も発さない彼女に、まだ自分の解説が伝わらなかったのかなと解説を詳細にしてみる。しかし、全く彼女のペンは動かない。まだわかりにくいのかとプライドはアムレットを目だけで覗けば、……じわじわと顔色が火照りだした。
ふぇ?と声に出してしまいそうなほど、顔色が火照ってきていたアムレットは友人にも隠すように顔を俯けているままだ。友人も彼女の異変に気付き、プライドがアムレット……?と熱でもあるのか尋ねようと声を掛ければ、それを意図せず上塗りする形で「それとっ!」と今度は早口で巻きだした。
「それと、冷静で落ち着きがあって声も大きくなくて頭も良くて姉妹相手に煩くない人。……。…………す、ステイル第一王子殿下?みたいな」
声こそ抑えていたが、それ以上の熱が伝わってくる言葉にプライドは口端が引き攣ってしまう。
最後のステイルを指名した時には既に顔が大分火照っていたアムレットに、本当にステイルに憧れているんだなと思う。そして同時に
……お兄様のこと、まだ怒っているのかしら……?
あきらかに兄と正反対の人物を提示する彼女に苦笑を禁じ得ない。
まさか自分の友人が妹の理想の人だなんて、それこそ兄としては複雑だろうとプライドは思う。確かにステイルはプライドの目から見ても冷静で落ち着きもあり、声も無駄に大きくはなく、頭脳明晰だ。ただし、姉妹相手に、という点に関してだけは〝煩い〟とまではいかずとも実はなかなか手厳しいし怒る時は怒ってくれる子なのだけれどと心の中だけで思う。今ここがステイルと席が離れていることは幸いだった。
しかし、今のアムレットの言い方から判断して恐らくは最初の言葉を誤魔化す為にステイルで締めくくったのかなとも考える。現に友人達は、アムレットの言葉に「ああ~!ステイル様は素敵よね!」と楽しそうに声のトーンを上げていた。
彼女達もステイルの顔こそ見たことはないが、美男子であるという噂はよく知っている。まさか自分の兄の反対像を言ったなど友人に気付かれたくはないだろうと理解し、敢えてプライドは黙して頷いた。
「はい、授業を始めます。席に着いて下さい」
とうとう会話の締め括りを告げるような鐘の音が降ってきた。
同時に現れた教師の声駆けに、俯いていたアムレットもプライドと殆ど同時に顔を上げる。見合わせ、急いでプライドは「本当にありがとう!またあとでね」と感謝だけを伝えて最後尾の席へと駆け戻る。
なにはともあれ、勉強は中途半端に終わったがアムレットに助けて貰ったお礼はちゃんとしないとと決めながら、台風が去った後の席へと急いだ。




