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フリージア王国備忘録<第二部>  作者: 天壱
私欲少女とさぼり魔

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〈コミカライズ2巻重版出来・感謝話〉義弟は困惑し、

4月30日に出版して頂いたコミカライズが重版して頂けました!

そのため、感謝を込めて特別話を書き下ろさせて頂きました。

少しでも楽しんで頂いて感謝の気持ちが伝われば幸いです。


時間軸は〝我儘王女と準備〟あたりです。


「「眼鏡が??」」


朝食へ向かう為、部屋前でティアラと共にプライドを迎えたステイルは姉妹からの二重音に肩を狭めた。

同じく部屋前に控えていた近衛騎士のアランとカラムも、きょとんとステイルへ視線を向けてしまう。プライドが扉を開けるまで無言でいつもより不調気味の様子なのは二人も気付いていたが、その時はティアラが「兄様どうかした?」と尋ねても唇を絞るだけだった。

言葉数と難しい表情を浮かべていた以外、誰もステイルの変化には気付かなかった。そしてプライドが朝の挨拶と共に扉を開き、彼らを迎えたところでティアラから「兄様がちょっと変なんですっ」と堂々と報告し、やっとステイルも口を割らざるを得なくなった。

心配するプライドに「実は……」と溢しながら、ステイルは自身の〝眼鏡の黒縁を〟指先で押さえつけ説明した。



目が覚めたら眼鏡がなくなっていた、と。



あるじゃない、とプライドもティアラも同じ言葉を飲み込んだ。

しかしステイルの眼鏡事情を知っている二人は、すぐにどういう状況か気が付いた。不思議そうな眼差しをする近衛騎士二人にもわかるように、ステイルは「この眼鏡ではないんです……」と肩を落とす。いま自分が掛けている眼鏡は〝一つ前の〟眼鏡を引き出しから取り出したもの。昨日まで掛けていた眼鏡とは別物だ。


朝いつものように目を覚ましたステイルだが、いつも眼鏡を置いている場所に手を伸ばしてもぶつからなかった。

もともと目が悪いわけでもないステイルは、顔を向ければそこに眼鏡がないことにもすぐ気が付いた。自分でも侍女達にも周囲からベッドの周りまで探させたが、最後まで見つからなかった。そのままでも問題はなかったが、やはり眼鏡を掛けていない違和感が強く、仕方なく一つ前の眼鏡を取り出して今かけている、と。

食堂へ歩きながら簡単な経緯を説明したステイルは、そこで溜息を吐いた。


「今も侍女達が部屋中を隅から隅まで捜索しているでしょう……」

仕方ないと思いながらも正直落ち着かない。

侍女にも私物や引き出しまでは探さなくて良いから触れないように言っているが、掃除や模様替え以外で自分の部屋を探られるのは好きではない。部屋に人を入れることすら最低限したくないのだから。

しかし、大事な眼鏡が見つからないのならば仕方がない。仮にも〝王族の私物紛失〟を使用人達が放っておけるわけもなく、そしてステイルも「ないなら良い」と言えるものでもない。実際、このまま紛失が続けば使用人の間で大ごとにもなりかねないこともよく理解している。

自分自身、ヴェストの補佐として多忙な今は部屋の捜索をする間も惜しいから彼女らに任せるしかない。何より見つからないと自分が落ち着かない。今も事情を知らないアランに「新しいの仕立てさせるわけにはいかないんですか?」と尋ねられ、「あれじゃないと意味がありません」といつもより素っ気なく答えてしまう。仕立てて済むような物だったら先ず探しもしない。

プライドの手を取り階段を降りる間も眉が寄ってしまうステイルに、今度はカラムも声を掛ける。ステイルがこんな時でも機嫌が悪いことを表情に見せることは珍しかった。


「侵入者や盗みの心配もありますから。ステイル様も人気がおありですし、そうでなくても王族の私物などどれも高価な品でしょうから」

「…………」

話の方向を少し変えるカラムに、今度は無言で返してしまう。

眼鏡の黒縁を押さえながら唇を結ぶステイルに、ティアラもプライドも苦笑いしてしまう。侵入者や窃盗については確かに可能性もあれば心配でもある。しかしよりにもよってステイルの眼鏡は王族の私物としては高級品ではないことを二人も知っている。

造りからしてそれなりに上等な品ではあると思うが、それでも金や宝石が組み込まれているわけでもなければ特注品ですらない。単に犯人が目利きでなかったという可能性を覗けば、金銭目的ではなくステイルの私物目的だろうかと姉妹は考える。特にステイルは女性に人気で、当然侍女達にも人気が高い。

今更盗みを働くような人間が城内の侍女に居ないとも思うが、ステイルの私物でよりにもよってあの眼鏡を盗む理由などそれしか考えられない。


「……昨夜は、俺も少し〝寝ぼけて〟いたのでどこか別の場所に置き間違えたという方が可能性もあるのですが……」

ハァ……と今日で何度目にもなる溜息をまた吐き、遅れて遠からずカラムへの言葉に返す。

階段を降りきったところで、そのままカラムへ振り返るふりをして視線をその隣のアランへ投げた。突然の視線にアランも目を丸くする中、ステイルは僅かに低めた声で言葉を続けた。


「〝部屋以外に〟置き忘れているとも思えませんし……?」


含めたステイルの言葉に、アランは「あー……」と小さく漏らしてから視線を一度浮かせた。

言わんとしている意味がわかり、半分顔が笑ってしまうまま昨夜のことを思い出す。昨夜、ステイルはプライドもティアラも知らない場所で近衛騎士達と飲んでいた。そしてその部屋主であるアランへ、暗に「部屋に置き忘れてはいませんでしたか」と尋ねている。

昨夜はただでさえ程よく酔っていた。午後にプライドが自分とアーサーの手合わせを見に来てくれた結果、その時護衛についていたカラムとアランにも目撃された。近衛騎士が付いてから時々自分とアーサーとの手合わせを目撃されることはあったが、昨日は自分がアーサーから一本取れたことが話題になって自分も少なからず気分が良かった。模擬剣をアーサーに叩き折られたがその瞬間に隙を突いて瞬間移動で腕を掴み、地面へ背中から叩きつけてやった。ここ最近はたまに手合わせ絵ができても負け越しだったから、プライド達の前で勝てたことも手伝い余計に嬉しかった。

飲みの席でそれが話題になった途端、アーサーが悔しがることもなくアラン達と一緒に自分を褒めてきたのもうっかり酒が進んでしまった要因の一つだと思う。お陰で話も盛り上がっていつもよりは仄かに酔っていた。


もともと伊達眼鏡であるそれを、自分がアランの部屋で置き忘れても視界の悪さでは気付けない。その後は明かりを消した部屋で着替えて早々にベッドへ潜った自分が、置き忘れる可能性はそこしかありえない。

しかし、昨夜から今朝までの自分の部屋を思い出すアランも正直に首を捻る。「自分もないと思いますね……」とそれとなく答えながら、自分の部屋に置き忘れている可能性は低いと思う。

昨夜は確かにステイルと飲んだが、いつもより仄かに酔っていたステイルと違ってアラン達は全く酔っていない。その上でステイルが眼鏡もかけずに「それでは僕はここで」と言えば流石に気付くと思う。しかもその後に酒瓶とグラスやジョッキの後始末は自分だけでなく、カラムにエリックとアーサーも手伝った。自分一人が後始末したのなら眼鏡にも気付かず爆睡していたかもしれないが、片付けも丁寧なあの三人が揃って見逃すとは思えない。

アランの返答に「やはりそうですよね」と改めて肩を落とすステイルは、再び眼鏡の黒縁を押さえた。少し前までは一年間ずっとかけていた眼鏡に違和感は別段ない。しかし、やはりどうにも落ち着かない。


「どうにか侍女達が見つけてくれれば良いのですが……」


どうせ姉妹すら気付かなかった同じ眼鏡に、贈った本人も流石に気付くとは思えない。

それでも何となくアーサーへのバツの悪さを感じるステイルは、肩を重くしながら姉妹と共に食堂へ向かった。




…………




─ どぉなってンだ?



騎士団演習場。

演習を一区切り終えたアーサーは改めて考える。騎士隊長である彼は他の騎士と異なり、演習監督や指導が多いがそれでも演習項目で手合わせをする度に落ち着かなかった。

八番隊に演習所移動を告げ、自分は近衛騎士の交代へ向かう為に別方向へ歩きながらアーサーは懐に手を入れた。今朝気付いてから早朝演習へ出る前に忘れないようにと懐に仕舞いこんだケースを取り出し、改めて中身を確認する。

見覚えのあるケースの中には、やはり見覚えしかない黒縁の眼鏡が収まっている。

疑いたくてもどう考えてもステイルの私物だ。ステイルの誕生日がまだ先である今、贈る前に自分が買った物でもない。眼鏡をかけない自分に無縁の品は、私物と間違えようもなかった。


─ ンでこれが〝俺の部屋〟にあるんだよ?


今週は感謝話掲載をさせて頂きます。

活動報告更新致しました。

宜しくお願い致します。

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