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フリージア王国備忘録<第二部>  作者: 天壱
崩壊少女と学校

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Ⅱ21.崩壊少女は問う。


「もう高等部の生徒は帰っているようね」


終業後、さくさくと教室から去っていく生徒達を横目に私は窓の外を見る。

アーサーの座っている側の窓はどちらかというと校庭側だけど、顔を覗き込ませれば高等部の生徒が校門を出るところも見えた。既に結構な人数の高等部の生徒が通り過ぎて行っている。セドリックやヴァル、パウエルはいるかしらと思ってのんびりアーサーと一緒に覗いてみたけれど、今のところ見当たらない。まだ高等部の棟に残っているのか、それとも最初に帰ってしまったのだろうか。

クラスの女子は結構な大人数が猛ダッシュで教室を出て行ってしまったけれど、もしかしたらセドリックを校門で出待ちするつもりなのかもしれないなと前世のイベント後のファン心理を思い出しながら思う。……早く私達も校門へ向かわないと。


「まぁ就業時間はどこも一緒ですが。高等部は仕事に就いている者が多いので今日は配慮されたのでしょう」

ステイルの言葉になるほど、と私は頷く。

前世の学校制度なら高等部の授業の方が中等部より長いけれど、この世界での学校は全学年員が午後上がりだ。今日は三限で終わったけれど、基本的には四限まで。五限は補習の生徒くらいだ。

前世の義務教育と違って働いている子が多いからその配慮になっている。朝早く始まり、そして午後には終わり、彼らはそれぞれ家の手伝いや仕事へ向かっていく。家でゴロゴロできる子どもなんて一握りだろう。


「なんか、こう……年の近い連中ばっかが並んで歩くのって不思議な感じっすね」

自己紹介で大分疲弊したのか、教師から授業終了を言い渡された後も頰杖を付いていたアーサーはぼんやりと窓の外を眺めていた。

私にとっては懐かしい光景だけど、アーサーやステイルには珍しいだろう。そうね、と言葉を返していると背後から「な、なあ」と突然呼び掛けられる。

振り返れば、さっき一限目の後に話しかけてくれた男の子達だった。最初に私達に話しかけてくれたのと同じ男の子が、心なしかその時よりもさらに照れ臭そうに笑みを強張らせて私達に歩み寄る。その途端、アーサーがガタンッと無言で立ち上がって座ったままの私の傍に立ち、ステイルが「何でしょうか」といいながら黒縁眼鏡を指で押さえつけた。まるで怒っているかのようで少し怖い。さっきは結構ほのぼのわいわいで終わらせていたわよね⁈

ステイルとアーサーの圧を受けてか、一度頭を掻きながら顔ごと伏せる男の子は「あーその」と言いながら、一度言葉を止めた。傍に並ぶ男の子達も彼を応援するように背中へ熱い視線を送っている。


「……こ、の後、……校門まで一緒に帰っても良いか……?」


なんだろう、なんかすごく初々しい。

同時に二人の背中からうっすらと怖い覇気が放たれたけれど、彼らはその圧の出所がわからないように顔を左右に振り、見回すだけだった。


「僕は嬉しいですけれど。ただ、先ほどもお話しした通り、一緒に帰るのは僕らのお爺さんに」

「いや!門までで良いから!そこまでなら別に良いだろ⁈」

こいつらも一緒に!と男の子が背後の友達を指差す。

女子ならわかるけれど、男子がこんな風に群れをなして門まで帰ろうなんて誘ってくれるのは意外な気がする。ステイルが「まぁ門なら……」と呟きながら、小さく私とアーサーに振り返った。すると続くようにアーサーも目だけで私に振り返る。二人に返すように「ええ」と言いながら彼らに笑ってみせた。校門までならあくまで校内だし、クラスに溶け込むためにもそれくらいは良いと思う。

私の返事にハァ……とステイルは小さく溜息を漏らしたあと、再び釘を刺すかのように男の子達へ声を僅かに低める。

「ただ申し訳ありませんが、恐らく校門の前には騎士隊長のアランさんの部下であるエリック副隊長が来ていると思うので確実にその後は」


「「「それが見てぇんだって‼︎‼︎」」」


「…………は?」

力一杯声を複数人揃える男の子達に、ステイルが狐に摘まれたように目を丸くする。

珍しくちょっと間の抜けた声だなと思いながら、視線をステイルから男の子達に移す。見れば文字通り手に汗握るように拳を作り、顔を真っ赤にして声を更に声を張っていた。


「騎士に、……騎士様と知り合いなんだよな⁈じゃあちょっと話すとか紹介とかっ……」

「今来てるんだよな⁈私服か⁈それともあの団服」

「今朝に校門前に来ていた人か?!」

「門を守っている騎士とは知り合いなのか?!」

……完全にスポーツ選手を生で見たい少年達だ。

ふと、ステイルへ目を輝かす彼らの姿に通じるものを感じて別方向に目を向けてしまう。

アーサーが腕で口元を隠しながら身体ごと捻って背後を向いていた。照れているのか怒っているのかと思ったら、彼らに見えないように反対の手が力強く拳を握ってガッツポーズをしていた。本当に騎士が好きな男の子達がいるのが嬉しいんだなぁと思う。

アーサー本人も騎士だけど、彼も元々騎士に憧れていた側の人だもの。なんというか背けられた全身から「わかる‼︎‼︎」という叫びが漏れ聞こえるかのようだった。……アーサーが本当に十四歳の時に学校を作ってあげられたら良かった。そしたらきっともっとたくさん騎士の話が彼らと素でできたかもしれないのに。

そこまで思ってから、よくよく考えるとこの年にはアーサーはもう騎士団に所属していたっけと気付く。あの時はアーサーはまだたった二個上の男の子だったからあまり違和感ないけれど、改めてこの年で騎士団に入団できたってすごいことだと思う。もっとずっと大人でも入団すらできない人は大勢いる。

本当に頑張ったんだなと思わず感慨にふけながら、その横顔を見つめて口元が緩んでしまう。すると視線に気付いたようにアーサーはピク、と肩を揺らして振り返った。

あ、と思った時にはまだ顔の緩みが治る前で、そのまま思いっきり目が合ってしまった。アーサーが更に顔を真っ赤にして肩を上下させる。……しまった、睨まれたと思ったのだろうか。別に仕事集中しろとか圧かけたつもりは微塵もないのだけれど。

目をまん丸にするアーサーに怒ってないことを伝えるべく、私は軽く手を振って笑って見せる。それでも会釈程度に頷いたアーサーはまた顔を背けてしまったけれど。ごめんなさいアーサー。


そうしている内にも男の子達の熱狂に押されるような形でステイルも校門までの集団下校を了承してくれた。

眩しい眼差しに流石のステイルも勝てなかったらしい。騎士と話したい、紹介して欲しいと、連続で望む彼らはまるで小学生男子のようだった。校門の守衛している騎士には仕事中だから基本的に話しかけないようにと先生から注意が入ったからその所為もあるだろう。

ステイルも「エリック副隊長に聞いてみます……」と言いながら、何故か少し困惑しているようだった。男の子達と一緒にそのまま教室を出る時もぶつぶつと「気のせいか?いやだがセドリッ……のような場合も……」呟いていた。何故ここでセドリックが出てくるのだろう。

気がつけばもう教室には殆ど誰もいない。友達と雑談していた様子のアムレットもちょうど教室を出てしまった。全く接点を持てない。

こうなると今までの主人公であるティアラが実の妹だったというのはいっそ運が良かったのかもしれないとまで思えてきた。……というか私、今回女の子と全く話せていない。やっぱり釣り上った目つきの悪い顔だと女の子にはいじめっ子とかきつい性格だと思われるのだろうか。前世ではむしろ地味に生きてきたのに。

一緒に歩いていた男の子達もちらちらこっちを振り返ってくれたけれど、一瞬目が合っても私の前に立つステイルや背後に立つアーサーとばかり話すだけだ。また私だけ蚊帳の外ですごい寂しい。

廊下を出ると何人かの生徒が窓から身を乗り出していた。まさかまたヴァルがやらかしたのかと思ったけれど、今回は彼らの視線は屋上ではない。

気になるように男の子達も足を止めて窓を覗き込み出したので私達も便乗する。覗き込んだ先で、窓から少し遠く小さく見える校門に人混みがごった返していた。もしやセドリックと思えば、門の傍に金色の髪が見えて確信する。だけどそれだけじゃない。更に視線を猛烈に浴びているのは……


「すげぇ!騎士何人いる⁈」

「三人いるぞ三人!」

「馬鹿、門番している騎士様もいれたら四人だろ!」

「あれ食堂にいた騎士がいねぇけど⁈」

おおおおおぉぉおおっっ!と大盛り上がりだ。

視線の先には迎えにきてくれたエリック副隊長とそしてセドリック、彼の護衛のアラン隊長、門で守衛に付いている騎士と、エリック副隊長の隣にもう一人の騎士と豪華面々が門の前に集まっていた。

上からみてもオーラがすごい。有事でもない限り、平民である彼らが騎士をこんなに見れることなどなかなかないだろう。

男子がアーサーやステイルに私達のお迎えの騎士はと尋ねる中で眺めていると、エリック副隊長から距離を置いたところにはパウエルも立っていた。その隣には高等部の人か黒髪に綺麗な顔をした男の人が並んで腕を組んでいる。遠目だけど、ちょっとレオンにも顔が似ている気がする。門を抜けていく女の子達が騎士からパウエル達の方も見ても嬉しそうに跳ねていた。パウエルが少し居心地悪そうに頭を掻いて顔を逸らしていた。隣の人はにっこりと口を閉じて微笑みながら優雅な動作で去っていく女の子達に手を振っている。……うん、その動作もちょっぴりレオンぽい。でも顔をよく見ても攻略対象者という気はしない。じゃあただの綺麗な顔の友達か。

パウエルも男前な顔立ちだけれど、やっぱり隣の美青年の方が目は引くのだろう。パウエルは若干強面だし。

男の子達が窓の外の光景に夢中の中、私の方が先に顔を上げる。二人はどうしているだろうと振り返ると、ステイルもアーサーも何故か二人揃って片手で痛そうに頭を抱えていた。


「フィリップ、ジャック、どうしたの?」

アーサーは見当も付くけれど、ステイルはまたどうしたのか。

二人とも「いえ」と一言返しながら顔を上げてくれはしたけれど、顔色が優れない。なんだか私よりも二人の方が疲れている気がする。

これは早々に今日は帰って休ませてあげた方が良いかもしれない。彼らの足を進ませるべく男の子達に私から「いま校門に行けば、エリック副隊長に他の騎士も紹介してもらえるかもしれないわね」と声をかけてみる。すると正直過ぎるほどの反応で、彼らは廊下から階段へと急ぎ出した。

振り返りざまに急ぐ男の子達の中で最後尾の男の子が「行こうぜ」と手を引こうと伸ばしてくれたけれど、次の瞬間ステイルが「あ!アランさん!」と声を上げた瞬間、引っ込めてしまった。……やはり騎士さんの身内は友達としても怖いらしい。それを言ったらステイルとアーサーだって同じ立場なのに。

男女の溝にちょっぴり落ち込みながら、私達に背中を向けて先行していく男子を早足で追いかける。階段まで行き、前方の男の子達が慣れた足で階段を内側に降りていく中


「ぁっ……」


不意に、手摺ぎわで階段をのんびり登っていた女生徒がクラリと揺れた。

身長からして高等部だろうか。階段を降りる男子集団に道を開けるように階段の手摺から手を離し、中央に避けようとした瞬間、そのまま仰け反り出した。こちらに登り切る数段前だった彼女は、背中から倒れれば結構な高さだ。気がつき、危ない!と手を伸ばし、宙に浮かぼうとする彼女を



「ッぶねぇ‼︎‼︎」



背中から倒れ落ちる女性へ飛び込み、空中で抱き留めて見事に両足で着地したアーサーと、彼女に私が届く前に腕を掴んで引き留めたステイルはほぼ同時だった。


「大丈夫っすか⁈」

普通なら受け止められても女性と一緒に倒れ込むような態勢だったにも関わらず、空中で掴まえ、更には階段の降りた先ではなく、段差の上にストンと着地したアーサーは、普通の人が見たら何をしたかわからなかっただろう。

二人とも怪我がなさそうなのにほっと息を吐く。安心してから一拍遅れて私の腕を掴んで止めたステイルに振り返る。すると直後には絶対零度に及ぶんじゃないかと思うほど冷め切った眼差しで刺された。

ひっ、と思わず肩を揺らしてしまう。なんか、なんかすっごく怒ってる‼︎‼︎


「ジャンヌの手が届く範囲にジャックが間に合わないわけがありません。そ、れ、よ、り、も!」

ごめんなさいついとっさに!と繰り返し謝りながらステイルの鋭さを増した視線から顔を背けて逃げる。

確かに私だったら単身ならまだしも人を抱えて華麗に着地なんてできなかった。ここが城だったら、完全にお説教だっただろう。……というか、多分城に帰ったら速攻で怒られるのだろうなと覚悟する。


「気分とか悪いンすか?確か医務室が……良ければ自分、このまま連れて行きます!」

アーサーの叫びでステイルも眉間の皺が伸びる。

私もアーサー達の方に振り向き、ステイルと一緒に駆け寄った。もう本人の返事を聞くより前にアーサーは女生徒を両腕に抱き抱えたまま立ち上がっていた。

ステイルが「おいジャック、お前……」と何か口ごもる。私からも女生徒を覗き込めば気を失ってはいないようだった。というかアーサーが触れたならと考えると、私もステイルと思うことは同じだ。

女生徒のぽかんとした表情が、何が起こったか頭が付いていっていない様子だった。ぱちり、と瞬きを一度した彼女の


顔に、なんだか凄く覚えがある。


白い髪を背中まで伸ばした綺麗な女性だ。ヨアン国王の純白というよりも白紙に近い真っ新な白髪。長い前髪を右耳に掛けて可愛らしい三本のヘアピンで留めている。細い手足と透き通るような肌が雪の妖精みたいに思えてしまう。

アーサーが「運びますね⁈」と声を掛けると、やっと目が覚めたかのように「あ……いえ、その」とぽつぽつと小さな唇を動かした。それでも容赦なくステイルに医務室はと場所を確認しようとするアーサーに、とうとう腕の中で女生徒が身を起こす。

「待って、あのごめんなさい、大丈夫です。これは本当にいつものことで」











「姉さん‼︎」












……来た。

妙な確信を胸に、私は最初にそう思う。

振り返れば血相を変えた少年が、息を荒くして階段を駆け下りてきていた。姉さん、ともう一度彼女を呼べば、アーサーが彼にも確認しやすいように抱きかかえたまま残りの段差をゆっくり降りた。蒼白の顔をした少年がアーサーに「ごめん」「ありがとう」と繰り返しながら姉と呼ぶ女生徒の顔を覗き込んだ。少年に女生徒は困ったような顔で笑みを返す。


「クロイちゃん、ごめんね。大丈夫よ、ちょっとまた眩暈がしただけだから」

「姉さん、教室にも居ないからっ……こうなるから僕が迎えに来るまで待っていてって言ったでしょ!」

「ごめんね、早く終わったものだから。昇降口降りてから、クロイちゃんと行き違いになるかなと思って中等部から登ってきたのだけれど……」

弟に言葉を紡ぎながら困り顔する女性は、階段を降り切ったところでアーサーへ目を向けた。


「もう大丈夫です。本当にごめんなさい、お陰で助かりました。……素敵な男の子ね」

ゆっくりとアーサーから労わるように床へ降ろされた女生徒は、深々と頭を下げた後に自分より背の高いアーサーの頭を撫でた。

ふふっ、と柔らかく笑う女生徒にアーサーが「いえ」と一言で頭を下げる。更に「階段から落ちそうなのを助けて貰ったの」と弟に説明すれば、やっと血の巡りが良くなってきた筈の彼の顔がまた青くなった。

本当に本当にありがとう!とアーサーに旋毛が見えるくらい深々と勢い良く頭を下げた少年に、並ぶように女生徒もまた礼儀正しく頭を下げた。

偶然です、大したことしてないんで、怪我なくて何よりですと二人が頭を上げるまで繰り返すアーサーの背中越しに私は彼らを見つめて歩み寄り、






「貴方っ……〝だれ〟……⁈」






問い、正す。

アーサーにではない。その先で頭を下げる少年に。

お姉さんとお揃いの雪のような白い髪。サラリとした目が隠れるほどの長さの前髪を耳元に流し、可愛らしい二本のヘアピンで留めた男の子。

温かみのある灰色の瞳を持つお姉さんと違う、若葉色の瞳をした少年に。


─ 思い出した。


私の問いにアーサーが「ジャンヌ……?」と呼ぶと、彼は深々と下げていた顔を上げた。

綺麗な顔を呆然と無色にして、初めて私を見る。返事を待たずに私が更に眼前まで歩み寄れば、困惑するように背を反らした。初対面の生徒にこんなことを言われたら不審に思うのが当然だ。


─ 思い出した途端、いてもたってもいられなかった。


「貴方はだれ?」

「?……クロイ・ファーナムだけど。君は」

「本当に⁇」

唐突な問いに答えてくれた彼に、気がつけば更に詰め寄ってしまった。

自分でもどんな表情をしているのかわからない。ただ、不気味なものを見るように少年の顔が酷く歪んだ。

お姉さんを守るように腕で自分の背後に下げた彼は喉を鳴らす。それから改めるように「おまっ……君は、だれ」と今度は私に問いた。


─ 一刻でも早く、早く、早く


「私はジャンヌ。……ねぇ、貴方本当にクロイ・ファーナム?」

「はっ……⁈き、決まってるだろ!なんで僕が」

「証明できる?貴方は、本当に」

「ッうるさい‼︎‼︎」


気味が悪そうに顔を歪めた少年は、近付くなと言わんばかりに大きく私へ腕を振るう。

次の瞬間、バシンという肌がぶつかった音と同時にその腕をアーサーが横から掴み取っていた。私にぶつかる前に少年の腕を片手で止めてくれたアーサーは、横からでもわかるくらい真っ直ぐに彼を見据えていた。

アーサーの目を見て一度だけ肩を大きく震わせた少年はすぐに振るった手を引っ込める。更に私の背後に目を向けると、半歩蹌踉めくように下がった。後ろ手でお姉さんの手を掴み一度だけ私を鋭い目で睨み付けた後、そのまま彼女の手を引いて去っていった。

お姉さんが私と弟を見比べながら、困惑した表情で引っ張られていく。彼らの小さく遠くなっていく足音に紛れて「クロイちゃん、女の子に手をあげるのはっ……」とか細い声が最後に聞こえた。


「………………見つけた」


ファーナム姉弟。

彼らを見つめながら、口の中だけで呟いた私は追いかけようとする足を踏み止めるべく力を込めた。これ以上しつこくしてもまだ何も解決しないし、全て確信は持てない。だけど、間違いなく彼らは第二作目の登場人物だ。


思い出した。


攻略対象ルートが五人前後のキミヒカシリーズで、第二作目のルートは四つ。そしてただの攻略ルートじゃない。あの子は








─ 早く、止めないと。








第二作目の、隠しキャラ。


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