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フリージア王国備忘録<第二部>  作者: 天壱
私欲少女とさぼり魔

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Ⅱ202.私欲少女は改め、


「嬉しいわ、ジャンヌちゃん達と一緒にお昼を食べられるなんて」


ほわほわと柔らかな笑顔で喜んでくれるファーナムお姉様は、トレーを持ってくれたパウエルと一緒に席へ着いた。

学食前でファーナムお姉様と合流した後、お昼持参の私達と違って学食に並ばないといけないファーナムお姉様にパウエルが付き添ってくれた。代わりに私達三人が席を取って二人が戻ってくるのを待った。

最初は席を取ってくれていたパウエルと合流してから、元はといえばお礼を言いたかった私がファーナムお姉様と一緒に居ようと言ったのだけれど「いや俺が行く」と彼から名乗り出てくれた。いつもお食事は一人のファーナムお姉様だけれど、それでも細身でか弱いお姉様にトレーを運ぶのは負担だろうという配慮だ。


「パウエルもありがとう。移動教室でもお荷物持たせているのに、食事まで運ばせてごめんなさいね」

「いや当然だろ。女子どもは守られるべき存在なんだから」

さらりと言い放ち、丁寧にファーナムお姉様に椅子まで引いてくれるパウエルは本当に男前だなと思う。

お姉様もふふっと笑いながら、席に腰を下ろした。もう慣れているかのように、そのままお礼だけを言うと何事もなかったかのように私達に向き直る。こうして見るとまるでパウエルがファーナムお姉様の従者みたいだ。……身体つき的にはボディーガードの方がイメージに近いけれども。今の二人の様子をファーナム兄弟に見せたら、またお姉様をパウエルが狙っていると威嚇しそうだなと思う。

お待たせしてごめんなさい、と席を確保していた私達に笑い掛けるお姉様に私は首を振る。待つも何も、私達はただ座っていただけだ。


「こちらこそ突然お食事に誘ってなんてごめんなさい。昨日のことで改めてお礼とお詫びを言いたくて」

「?お礼に、お詫び⁇」

改まる私にファーナムお姉様がキョトンとした顔で瞬きを繰り返した。

不思議そうなその表情に、確かアラン隊長達の話しだとその場にお姉様も居た筈なのだけれどと思う。順を追うように家を貸して欲しいなんて無茶を言ってしまったのと、そこからクロイに寮の部屋鍵を貸して貰えたことを話せば思い出したように「ああ……」と軽い声を返してくれた。やっぱりその場には居たようだ。

私からもう一度、無茶を言ってごめんなさい鍵をありがとうございます、とお礼を言って頭を下げるとふふっと口元を片手で隠しながら笑ってくれた。


「こちらこそごめんなさいね、空き部屋ならいくらでもあるのだけれど。でも、クロイちゃんの寮がお役に立てたなら良かったわ」

私は何もしてないもの、と柔らかく言いながら肩をすくめるファーナムお姉様に思い切り私は首を振る。

ファーナムお姉様の合意もあってこそクロイ達からも部屋を借りることができたと言って過言じゃない。それに何よりご迷惑をかけた事実は変わらない。

本当にありがとうございますとお礼を重ねる私にステイルとアーサーも一緒に頭を下げてくれる。ファーナムお姉様の隣からパウエルが食べようと促してくれるまで、お互いにお礼とお詫びの往来が続いた。


お姉様がフォークを取るのに合わせ、私達もサンドイッチへ齧り付く。

美味しそうなサンドイッチね、と褒めてくれるファーナムお姉様の食事を見れば、量こそ学食メニューで一番控えめながらもバランスは良さそうな食事でほっとする。そちらこそと言葉を返すと、ファーナムお姉様曰く消化に良さそうなメニューの中から回して食べているらしい。日替わりも気になるけど量があってなかなか、と楽しそうに抑揚をつけた声で返してくれるファーナムお姉様の話にほっとする。

当初はあまり食べれなかったらしいけど、今は平均女性より少ない程度は食べられている。学食前で会った時も、足取りがゆっくりとはいえしっかりしていた。

アーサーも同じことを思ったのか「顔色良いですね」と声を掛けると頬に手を当てて笑ってくれた。パウエルからも最近はふらつくこと滅多にないよな、と言われていて本当に調子が良いのがよくわかる。


「それにしても、部屋が余っているってすごいな。そんな大きな家なのか?」

「ただ余っているだけよ。今は色々あって綺麗になっているけど。でも昨日ディオスちゃんがね、ジャンヌちゃん達からのお願いを聞いてから将来的に今の家で部屋を貸して家賃収入とか良いかもって話していたわ」

パウエルの疑問に、肩を竦めて苦笑気味に返すファーナムお姉様の発言にびっくりする。

ディオス、結構しっかりしている。確かに部屋は余っているし、シェアハウス感覚で人に貸すのはありだと思う。

もともと身体を壊してからは家のことは全部ファーナムお姉様がやってくれていたらしいし、力仕事以外なら管理とかもしっかりできるだろう。そう考えると、お金も提示せずに部屋だけ貸してくれとお願いしてしまったことが余計に申し訳なくなる。ステイルも「確かに」と小さく呟く中、パウエルも「へー良いな」と同意の声を上げた。


「私がこんな身体だから。もし卒業と同時に合いそうな仕事が見つからなかったら、部屋を貸しての管理人も良いんじゃないかって。だから、選択授業でもなるべく経営やお金の管理系の授業を取ろうかしらと考えているの」

すごい、ちゃんともう将来を見据えている。

思いついたディオスもディオスですごいけれど、そこからもう具体的に考えているお姉様も流石だなと思う。感心するあまり、飲み込んだ後の口をぽっかり開けながら話を聞いてしまう。まだその将来がお姉様の中でも確定したわけじゃないのだろうけれど、それでも可能性をしっかり鑑みて実行に移しているのだもの。

隣でアーサーもやっと言葉が出たように「すげぇ」と声に出すのが聞こえた。か弱い家事手伝いのお姉様から一気にシェアハウスの管理人にジョブチェンジなんて。


「でも、クロイちゃんはやっぱり他人を家に入れるのはって反対しているわ。信頼できる人ならきっと許してくれると思うのだけれど」

……なんだか、まるでクロイが家主のようだ。

困っちゃうわね、と笑うファーナムお姉様はそれでも少し眉を垂らしただけだった。きっと今はクロイの反対よりも自分の将来に見通しがついたことの方が嬉しいのだろう。

クロイの心配もわかるけれど、やっぱりお姉様の夢なら応援したいなと思う。ファーナム家の住処は治安がすごく良いとは言えないかもしれないけれど、城下には変わらない。住むにも静かではあるし、ファーナム姉弟の住む部屋を確保したままでもあと二、三人は住めるんじゃないかと思う。しかも庭には井戸付きで利便性もある。ファーナムお姉様が卒業する頃には、学校も軌道に乗ってまた城下以外からの入学希望者が移住してくるかもしれない。お姉様が違う仕事をするにしても、部屋を貸すだけならやりようはいくらでもあると思う。


「ジャンヌちゃん達ならいつでも歓迎よ。ディオスちゃんとクロイちゃんも、いつもセドリック様とジャンヌちゃんの話ばかりだから。いつでも遊びに来てね」

「ありがとうございます。……多分、その内本当にお邪魔させて頂くこともあると思います」

クロイとも約束しちゃったし。そう思いながら、控えめに返せば「待ってるわ」と明るく返された。

小首を傾けて笑い返してくれるお姉様は本当に素敵な女性だなと思う。正直、専用のマナーさえ覚えれば社交界に混ざっていても気付かれない気がする。それこそシンデレライベントも不可能じゃない。


「ジャンヌ。……それはどういうことでしょうか」


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