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フリージア王国備忘録<第二部>  作者: 天壱
崩壊少女と学校

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Ⅱ20.崩壊少女は啞然とし、


「うわぁ……」


予鈴後、急ぎ戻った私達は早速教室の空気が変わっていることに気が付いた。

昼休み休憩を終えた時は、わりと普通の学校生活風の空気だったのに今は物凄く空気が変わっている。落差が激しい。

廊下を歩いている時からそんな空気はしていたけれど、教室で生徒が密集しているところではその空気は顕著だった。女子はきゃあきゃあテンションだだ上がりで騒ぎ、飛び跳ねまた叫び、男子は大盛り上がりして一部は何か落ち込んでいる。

たった数十分の間に何があったのか。それは廊下を歩いていた時に女子の噂が耳に届いていたから私達も知っている。こうして自分の席についている間も歩く耳を済ませればまた同じような話題が飛び込んでくる。もうそれを聞くたびに私もステイルもアーサーも苦笑いしか出てこなかった。


「本っ当に!本当に本当に格好良くって‼もうなんか人間じゃなかった!」

「もう途中から直視できなかった!」

「えっ!私むしろ目が離せなかった……」

「おい!本当にいたのか⁈いいなぁ俺も食堂行けば良かった!」

「どんなだった⁈本物か⁈」

「俺も見たことねぇけど本物だろ絶対!ハナズオ連合王国の王子なんて初めて見た!!」


……セドリック。

高等部三年。我が校の体験入学として一か月だけ限定で十八歳の間に入学を決めてくれたセドリック。

王侯貴族の為の高等部特別教室に彼は居る。ヴァルとは同じ学年だけどクラスは別々だ。我が国の王族は十八歳以下のステイルもティアラも公式には入学していない。そんな中、唯一の王族として入学しているセドリックは当然ながら注目の的だった。

中等部棟ではなく高等部の棟な為、私達のクラスではすれ違うこともできない。それに、メインはあくまで下級層中級層の民なので大々的に学校が歓迎会を行うこともなかった。

あくまで彼は〝体験入学〟で、ゲストではない。セドリック本人も特別扱いは不要とのことだったし、そのお陰で中等部まではそれほど噂も広がっていなかった。……彼が、中等部高等部共同の食堂に現れるまでは。

拾った噂を総合して判断すると、セドリックは昼休みに早速食堂に行ったらしい。食事は諸事情により持参した物にもできたけど、彼は敢えての食堂挑戦。毒味という名の一口味見を騎士に頼み、美味しく頂いていたらしい。

そして一般生徒からすれば、王族が現れただけで大事件だった。

既に貴族令嬢達にも人気があったセドリックの歩いた後には大勢の特別教室の生徒まで続き、更には護衛であるアラン隊長とハリソン副隊長を従えていたことで余計に目立った。まぁあの人が目立たないのは先ず無理だろう。

男性的に整った顔立ちだけでもそうだけれど、靡く艶のある金色の髪も目立つし、他の生徒より一つ年上なのも目立つし何よりハナズオ連合王国の王弟だ。つい数日前には移住の為にパレードもどきまで起こしたのだから、〝移住したセドリック王弟〟を知らない民はこの城下にはいないと思う。しかもあの人……


「それで席を空けようとした高等部の人をその場に止めて隣に座ってくれて‼」

「俺ら全員奢って貰ったぞ‼」

「手を振ってくれた‼」

「三年の人が自己紹介して貰ってた!」

「名前呼ばれた‼」

「それで返事をしてくれて……‼」


サービス精神旺盛だからなぁぁあああああああ~~~‼‼

拾った話だけでもセドリックは貴族も中級層も下級層も同級生も後輩も変わらず丁寧な対応をしてくれたらしい。もう完全に人気アイドルが来た時の突撃番組みたいになっている。

セドリックは式典でもすごい大勢の来賓に人気があったけれど、元々ハナズオ連合王国でも凄く民に愛された王子だ。しかも礼儀を学んでからは、特に動作一つ一つが丁寧過ぎるくらい丁寧で評価も高い。

ステイルが声を潜めてこっそりと「二年前にハナズオ連合王国へ行った時もセドリック王弟は民から支持が凄まじかったです」と教えてくれた。アーサーが、へぇ~~とゆっくり何度も頷く中、私はもう肩で笑ってしまう。

今朝はアーサーとステイル無双の人気だったのに、今は皆セドリックに夢中だ。やはり同級生よりも年上且つ本物の王子様は別格なのだろう。……実際はステイルも彼らより年上だし、王子様なのだけど。

しかも彼の社交術の真骨頂はここまでじゃない。一番怖いのは明日からだ。そして確実に明日は今日の噂を聞いて更に食堂がごった返すだろうと思う。……うん、明日もやっぱり外で食べよう。


「なるほど……こういう手もあったか……」

声がして振り向いてみると、ステイルがぶつぶつと口元に曲げた指関節を添えて呟いていた。途中から殆どが口の中で消えて聞こえなかったけれど、最後に一度だけ悪い笑みを浮かべたから、多分考えはまとまったのだろう。さっきまで大分消耗していたステイルだから、元気になって何よりだ。

あれからもずっと私達に悩みに関しては口を噤んだままのステイルは、パウエルと別れた後はまた頭を抱えていた。私も隠し事はあるし、むしろ以前は更に多かったくらいで人のこと言えないから強くも聞けない。やっぱりアムレットもさっきのおじ様も知り合いなのかなぁと思う。ステイルが王族に養子になる前の友達や知り合いを覚えていてもおかしくない。


「……ハリソンさん大丈夫っかな……」

今度はアーサーから不安の声が漏れた。

見れば、口を引き攣らせながらヒヤヒヤとした表情で噂に耳を傾けている。ちょうど男女のグループが「護衛の騎士は怖かったけど」「騎士様に会えたのか⁈」「王子よりそっちの方がみてぇ!」と盛り上がっているところだった。

多分怖かった騎士というのは間違いなくハリソン副隊長の方だろう。人混みに揉まれながら警戒レベルをガン上げしているハリソン副隊長と、苦笑いを浮かべるアラン隊長の姿が容易に浮かぶ。もう「怖い騎士」の単語や関連情報が出る度にアーサーが肩を上下して振り向いていた。

ハリソン副隊長が、というよりもハリソン副隊長がうっかり民に牙を剝いていないか心配するような反応だった。まぁそんなことがあったら今頃大事件だろうし、騎士は民にとっては畏怖や尊敬の対象だから容易に無礼なことはされないだろう。

ふと気になって視線を前方に向けてみると、アムレットが既に座っていた。予鈴が鳴った後だし、今は友達と話さないできちんと椅子に座っている。クラス中が熱気上がっている噂話に大しても興味はなさそうだった。

首が少し俯き気味に下がっているから本でも読んでいるのかなと、少し気になって腰を浮かして身体を斜めにしてみる。遠目から除きこんでみれば、彼女が机の上に本ではなくさっきのテストの問題用紙を置いて眺めているのが見えた。結果を気にしているのだろうか。

そう思ったところで前から扉が開かれ、ロバート先生が「席に座るように」と軽い声掛けで教室に入ってきた。噂に夢中になっていた生徒も、急ぎ足で自分の席に着けば、教卓の前に立ったロバート先生が三限目の説明を始めた。


「今朝にも話したが、本格的な授業は明日からです。残りの一限は全員に自己紹介を行ってもらう」

既に知り合った生徒もいるでしょうが、と前置きしながら先生が私達を見回す。基本的にこの学校は学年が変わってもクラス変えはしない。つまり中等部の生徒であれば卒業までこのクラスだ。

ベタな言い方をすれば、卒業まで仲良くするようにといったところだろうか。各自の出席番号を知らせてから、先生は自己紹介する内容を示し出す。


「名前と……そうだな。入学理由、そして一限で説明した授業で興味がある科目か趣味を一人一つはあげる事。後は言いたいことがあれば一言自由に。」

前世ならば名前と所属していた部活といっただろうか。なんだか小学校のような気分にむず痒くなりながら聞く。他のクラスはどうかわからないけれど、特殊能力を聞かないあたり、配慮がある先生だなぁと思う。

これでやっとアムレットの顔が見れるかもしれない!と私は姿勢を正す。気が合う趣味とかあれば話すきっかけになるかもしれないと、まるで好きな子を狙うためのような考え方で自己紹介タイムを心待ちにする。ステイルは関わりたくないらしいけれど、私はできれば友達になりたい。せめて男女別の授業だけでも!と淡い期待を抱く。……ステイルは溜息を吐くし、アーサーは「まじか」と呟いていたけれど。

ステイルはともかくアーサーは式典での社交も得意じゃないし、緊張するのかもしれない。……いや、嘘をつくこと自体が嫌なのかも。

先生が前から横列に指定した為、最前列のアムレットの順番はすぐにきた。

一番目の人から名前を言ったら、あとは何を言うのか思い出そうと数秒口ごもる子もいた流れの中、アムレットは綺麗な姿勢で立ち上がり、背後にいる私達に正面を向けるようにして振り返った。


「アムレット・エフロンです」


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