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フリージア王国備忘録<第二部>  作者: 天壱
私欲少女とさぼり魔

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Ⅱ188.私欲少女は尋ね、


「で!何作りゃあ良いんだよ⁈」


指切りを交わした後、興奮が収まらないようにネイトが尋ねてくる。

ぐいぐいと話を進めてくれるのはありがたいけれど、もう言い当てられた途端自分の特殊能力に関してステイルやアーサーにも隠すつもりがないことにびっくりする。てっきりリュックのことがあるし、特殊能力についても隠しているのかもしれないと思ったのだけれど。

そうね……と一言返しながら、目をきらきらさせてやる気を見せてくれる彼に考える。ステイル達にも彼の特殊能力については事前に説明したけれど、本当に彼は作ること自体は好きなんだなと思う。


「取り敢えずネイト。貴方の能力の限界や得意なものはあるかしら?」

先ずは彼の限界を把握することから始めないと。

ゲームの設定は知っている私だけれど、ゲームスタートから三年前ではどれだけ可能不可能かもわからない。先ずはそれを確認してその上で依頼する〝発明〟を考えよう。

私の問いに指折りながら、一つ一つ特殊能力についてネイトは説明をしてくれる。これは無理、ここまでなら、これは余裕と説明してくれるのを聞きながらゲームのネイトとそういうところは一緒だなと把握する。


ネイト・フランクリン。〝発明〟の特殊能力を持つ、発明家だ。


ゲームでも、とある事情から今と同じように授業をさぼっては空き教室で堂々と発明に明け暮れる日々を送っていた。

その発明中にネイトを見かけて仲良くなるのが主人公のアムレットだ。「俺は天才だから」と悪戯っぽい笑顔で胸を張り、次々と主人公に今まで作ってきた発明を見せては驚かせていた。

彼の発明はゲームスタート時には需要も高かった。ただ、それでも彼が満たされることはなく「全然かなわなかった」と座り込んだまま自分の腕を叩いて笑うネイトは悲しげだった。そして打ち解けていく中で彼の秘密や心の傷を少しずつ知っていくことになる。

あの時には取り返しの付かない状況だったけれど、今からならきっと間に合う筈だ。

〝発明〟の特殊能力自体は貴重というほどではない。よくある能力でもないけれど、個人差が出易い特殊能力だ。ある意味、優秀か否かで希少価値にも差が出る。

騎士団で使われている盾を含む一部の武器。バイクに似た乗り物とかも〝発明〟の特殊能力者により作られたものだ。特にあの乗り物は、同じ特殊能力者でも作る過程の関係ですごく大変なものだ。


簡単に言えば、自身が作った物に能力を吹き込むといったところだろうか。

たとえば盾を作れば、単なる盾ではなくて全ての衝撃を吸収できるとか。

バイクを組み立てれば、ガソリン無しで走る動力もそうだけど重さ関係なく運べるとか。


〝発明〟の特殊能力者に共通するのは、あくまで自分が作ったものに特殊能力を吹き込めること。動力も効果も全て特殊能力で賄われる、言ってしまえば魔法アイテムみたいなものだ。

勿論、能力自体が低ければ効果も低いものしかできない。たとえば盾を作っても爆撃までは身を守れないとか、バイクを作っても重さ関係なくは運べないとか。それに他者が使うのであれば回数か期間制限もある。


「あと武器は絶対無しな。今見せられるのはガラクタしかねぇしどうせならすっげーの作りてぇけど……」

ネイトの話を全部聞くと、粗方ゲームと一緒だ。十三歳でもう特殊能力が完成されていると思うと、それだけでもなかなか優秀だ。

得意なのは基本的に自分の手で持てる程度のお手頃サイズ。よく言えば小型専門というところだろうか。騎士団の二輪車みたいなのは難しいということにもなるけれど、それ以外なら大概は作ると。他人が使える回数は一般的最高回数三回。特殊能力自体も優秀なほうだけど、何より彼は



その特殊能力と才能が合致しているのが凄まじい。



発明の特殊能力はあくまで製作物の〝補填〟か〝追加効果〟

作った煙幕弾から煙を出るようにしたり、バイクがガソリン無しで走れたり、盾が攻撃吸収したり。作った物がその仕組み以外で理論外の動きや効果を出すだけ。

煙幕弾を設計したりバイクの部品を組み立てたりするのは本人だ。設計が能力無しで完成されているほど、特殊能力の補填が不要であればあるほど効果の自由度も回数や期間も高くなる。まぁ発明の特殊能力者本人なら触れている間は回数時間関係なく使えるのだけれど。

発明の特殊能力を持っていても、作る技術がないと意味がない。


そして、ネイトは発明の特殊能力に相応しい天性の技術力がある。


まぁゲーム都合設定で発明好き且つ発明得意の特殊能力者というだけと言われれば身も蓋もないけれど。

誰もが〝発明〟の特殊能力に相応しい技術や才能を持っているわけでも、それを磨こうとするわけでもない。ある意味、ネイトの技術力と発明への意欲や興味こそゲームの攻略対象者だからこそのチートと言える域だ。騎士団の乗り物だって、騎士団秘蔵の設計図がなければ作れない騎士も多いだろう。だから特殊能力が込められた道具が王都や市場に出ても、わりとランプとか単純設計のものが多い。

そしてネイトには優秀な特殊能力だけでなく、それを最大限に活かせる才能がある。


腕前だけで言ったら、流石に騎士団に卸している武器職人ほどじゃないだろうけれど充分すごい。

依頼して一週間後には間に合わせてくれるつもりらしいし、作るペースと特殊能力を施す所要時間は驚異的な速さの可能性がある。

優秀な特殊能力者でも特殊能力を込めた発明を一個作るのには最短一週間、最長なら一年や十年なんてものもある。単なる単純な絡繰でも、特殊能力を施すのに期間がかかる。

手で持てるサイズとはいえ、片手間しながら最短ペースで作れちゃうなんて。流石はゲームでも─……


「えーと、今見せれるのは閃光弾と煙幕弾と絆創膏と」

「それは武器ではないのですか」

一方的に話すネイトに、とうとうステイルが声を上げる。

態度が百八十度変わったことにやっと慣れたのか、ネイトがリュックをまさぐり出すのを見ながら最初の二つに溜息を吐いた。まぁ確かにあれも武器と言えなくはない。

けれど、言われている本人のネイトは「は?ちげーし」とステイルに声だけを返した。大きいリュックの中をガシャガシャと手探りをするネイトが、とうとう顔ごとリュックに突っ込んで探し出す。ステイルもそれに腕を組んで呆れた表情をしている。きっとさっきまでもずっと気になることはいろいろあったのだろう。


「大体、何故そんな物ばかり持ち歩いているのですか。戦場にでもいくつもりですか」

「……べーつに。……あー、これとか?いやねぇか。…………ほら、あれだよ。あの脳筋騎士から逃げる為の護身用で作っただけで」

「カラム隊長っすよ。ンな呼び方やめて下さい」

今度はアーサーだ。

何度か凄い呼び名をされていたカラム隊長だけど、やっぱり大好きな先輩をそう呼ばれてアーサーも実は気にしていたのだろう。

ちょっとムッとしたのか、眉間に皺を寄せてネイトを睨むアーサーはいつもより顔が騎士団長に似ていた。けどやっぱり「俺の勝手だろ」とネイトは聞くそぶりもない。本当に問題児だ。

このままだとパウエルにハリソン副隊長に続いてステイルとアーサーにまで不興を買うんじゃないかと心配になる。

こっちを向かず顔がリュック飲まれたままのネイトがやっと顔を上げたと思えば、片手にそれぞれ違う物が握られていた。


「こんなのとかどうだ⁈逃走以外で使えるかわかんねぇけど」

ぐい、と無造作に突き出された物を私は凝視する。

右手と左手それぞれ見るけれど、どっちもパッと見は何というか〝発明〟ぽくはないものだ。しかも片方は前世で見覚えがある。


「ええと……これも、貴方の?」

「発明、ですか……?」

「どォ使うんだ??」


突き出された正体不明の物体に、私が手に取ろうとするのをステイルとアーサーが片手ずつで阻んだ。

まさか爆発するとは思わないけど、やっぱり念には念をいれてということなのだろう。伸ばそうとした手を私が大人しく下ろすと、代わりにステイルとアーサーがネイトから一つずつ受け取った。

「お前らにじゃねぇぞ」とネイトがちょっと唇を尖らせたけれど、二人とも気にせず手に取った彼の発明に首を捻る。二人もネイトの〝発明〟の特殊能力に興味津々ではあるようだ。滅多に見れるものじゃないし、王都ですら特殊能力によって作られた品は簡単に手に入るものじゃないからアーサーだけでなくステイルが気になるのはすごくわかる。

間に挟まれた私もそれぞれ見たけど、全くわからない。まぁ前世の記憶だけで判断すれば、アーサーが持っている方の発明は


「こっちは……傘、よね??折りたたみ式の……」


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