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フリージア王国備忘録<第二部>  作者: 天壱
私欲少女とさぼり魔

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Ⅱ183.私欲少女は探し、


「……やっぱりネイトはいないのね……」


がっくしと肩を落とした私は、一年の教室前で早速項垂れた。

昼休み。授業を終えてステイルとアーサーに合流した私は早速ネイトの元へ向かった。二人も猛ダッシュで戻ってきてくれたし、私も合流してからは急いで廊下に出たけれどやっぱりネイトのクラスに姿も形もなかった。……まぁ昼休みはダメ元だったけれども。

長い休憩時間はどこのクラスの生徒も教室から出るし、ネイトが大人しくしている可能性の方が少ない。パウエルも渡り廊下で待たせているだろうし、一度彼とも合流してから考えよう。

今までお昼休みを過ごしてきたところでは遭遇しなかったから、学食でも園庭から校門側でもない。校庭もアーサーの身体能力お披露目の時の観客にもいなかったし、残すは校内のどこかだろうか。カラム隊長もネイトを初めて発見したのは空き教室だと話していたもの。


「すみません、つかぬ事をお聞きしますが……」

踵を返そうとする私を、ステイルの声が引き留める。

振り返れば、ネイトのクラスから出てくる生徒を呼び止めているところだった。なるほど、情報収集ということだ。流石はステイル。

声を掛けられた女子生徒二人組は、最初こそ上級生におっかなびっくりに振り返っていたけれどステイルの顔を確認した途端にぽわんと顔に力が抜けた。……うん、これも流石ステイル。しかもその次には傍にいるアーサーにも気付いて思い切り息を飲んでいた。もしかしたら校庭の件を見ていたのかもしれない。


「この教室に〝ネイト〟という生徒が所属していると思うのですが、彼がどこに行ったのかはご存じありませんか」

女の子達はステイルの問いに少し首を捻らせて顔を見合わせる。

それからステイルが詳細にネイトの特徴を説明するとそこでやっと「ああ!」と二つの声が合わさった。特にあの大きなリュックは特徴的で覚えていたらしい。もしかするとクラスの子には〝リュックの子〟で覚えられているのだろうか。


「何処に行ったのかはわからないです、ごめんなさい。いつもいつの間にか教室に居ていつの間にか居なくなっちゃっているから。今日は二限まではちゃんと授業に参加してましたけど、一緒に居る子とかはいないので全然」

「あっ、でも最近は騎士様が時々連れ戻して下さっていたので、その騎士様に伺えばわかるかもしれません!騎士の選択授業の特別講師の……」

カラム隊長のことだ。

どうやら生徒の子達もネイトに詳しい子はいないらしい。最近知り合ったばかりのカラム隊長が一番に出てくる辺り、ネイトには友達もいないようだ。

ゲームでも孤立しているところを主人公のアムレットと仲良くなったし、同じく現実でも友達がいないらしい。……というか、第二作目の攻略対象者って友達が居ないという意味では全員が孤立しているといっても良かったような……、……………あれ、全員??

ふと、パチリと記憶が弾けたけれどそれ以上は思い出せない。少なくともファーナム兄弟も、特別クラスの彼も、ネイトもゲームで学友は一人もいなかった。だからこそ周囲の目も気にせずに真っ直ぐ立ち向かって関わってくるアムレットと出会いも恋も生まれるわけなのだけれども。


「そうですか……。ありがとうございました、お引き留めして申しわけありません」

最終的に最後まで話しを聞いてみた結果、それでもネイトのことはわからなかった。

せめて今朝にどうやってネイトが神出鬼没したのかだけでもわかれば今後の為にもと思ったのだけれども、それもわからない。しかも彼女達の話だと入学から毎日彼は出席を取った後は本当にいつのまにか消えているらしい。

授業に夢中になっている間とか、背後の席の子までネイトがいつの間にか消えているから教師にどこへ行ったと言われてもわからない。逃げようとしたら本人を引き留めるか、教師に連絡をと対処も近くの席の子達には求められたらしいけれど、今までネイトを引き留められた子はいないらしい。これだけ聞くと筋金入りの逃亡のプロだ。

丁寧にネイトのことを話してくれた女の子達にはステイルがにこやかな笑顔で感謝を伝えてくれ、最後には「良い一日を」と送り出してくれた。軽いお辞儀に女の子達も目をきらきら輝かせながらぺこぺこ返してくれた。

去り際に私とアーサーの横を通り過ぎれば、上目一直線にアーサーを見つめて頬を再び染めていた。彼女達の視線に気付いたアーサーが「ありがとうございました」と軽く頭を下げたら、それだけで飛び跳ねて喜んでくれる。……今の反応だとステイルよりアーサーの方が彼女達は好みだった可能性があると、下らない分析をしてしまう。

聞き込みしてくれたステイルに私からもお礼を伝え、今度こそパウエルの待つ渡り廊下へと踵を返す。


「一度パウエルと合流しましょう。一限と二限には出ていたらしいし、お昼休みを早めに切り上げてもう一度教室前で待ってみようと思うわ」

「それが良いですね。あとはカラム隊長の慧眼に祈りましょう」

昼休みは生徒の指導延長も自主的に行っているというカラム隊長だけど、それ以外の空き時間は見回りをしてくれている。そこでまたネイトを見つけたらそれとなく私達に引き寄せてくれる予定だ。その為にもカラム隊長ともしもの時の合流約束場所である校門前に行かないと。

早足で私達は渡り廊下へパウエルとの合流に向かった。


「せめてアイツの行きそうな所だけでもわかりゃァ良いンすけどね。ダチもいねぇとよけぇわかんねぇですし」

長い足で急ぎ足にも合わせてくれるアーサーの言葉に私もステイルも一言で同意した。

本当にその通りだ。でも校内は校舎の中だけでも凄まじく広大で教室や設備の数も多いし、男女別の寮も入れたら敷地もかなり充分な広さを確保されている。なにせ幼・初・中・高等部まで一貫しているのだから。まぁ、昼休みは休み時間が長いとはいっても限りはあるし、まさか隣接した高等部ならまだしも他の棟や寮にまで行くとは思わないけれど。そんなところを往復したら確実に残り時間が削れてしまう。

こういう時、ゲーム脳になってはいけないけれどマップでもついていれば良いのにと思う。キミヒカにはなかったけれど、他の乙女ゲームとかだとマップ機能だけでどこのどのキャラクターがいるかとか一目でわかって移動も一瞬だっだ。

まぁキミヒカもキミヒカで学園ものだと特にある程度キャラクターの居る場所なんて背景から決まっていたけれど。学園ものじゃない第一作目だってアーサーなら騎士団演習場で、レオンは引き篭もっていた自室。第ニ作目ならファーナム兄弟は主人公に勉強を教えてあげる約束の場所の図書室。そしてネイトはー……


「…………あ。」


……そうだった。

気がついた瞬間、思わず一音が口からこぼれ落ちた。

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