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フリージア王国備忘録<第二部>  作者: 天壱
私欲少女とさぼり魔

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Ⅱ172.私欲少女は頼まれ、


「フィリップさん、すよね。大丈夫です、うっすらとですけど聞こえてました。自分こそ挨拶が遅れて申し訳ありません。ジャック・バーナーズです。ジャンヌと親戚です」


アーサーが挨拶を始めたお陰でエフロンお兄様もそこで足を止めてくれた。

ステイルの居る馬車もぱっと見た感じ内側からカーテンは閉められているし、流石に王族の馬車を開けるなんて暴挙はしないと思うけれど、念には念をいれておいた方が良いだろう。

落ち着いたアーサーがそこで握手を求めるように手を伸ばすと、間髪入れずにエフロンお兄様が握手を交わした。力強く握りながら歳のわりに背の高いアーサーに挨拶帰した直後「でっかいなぁ」と笑った。


「十四かぁ~、十七でもご誤魔化せるんじゃねぇか?仕事は?」

「いえ、……まだ。今は家業の手伝いだけです」

「良かったら俺の仕事紹介してやるぞ?モーズリー家ならあと一人くらい雇えるし、奥様が顔の良い若い男に目がないからお前なら絶対給料弾んでくれるぞ?!」

「兄さん!!ジャックにまで変な仕事勧めないで!!」

アーサーが同性だからか、それとも単純にアーサーが好かれやすい人だからか、エフロンお兄様の距離の詰め方が急加速する。

握手を終えたあとも「ちょっとだけ」と言っていたのが嘘のようにまたドタバタと話が進んだ。断ったアーサーに一言返すとすぐにエフロンお兄様の視線がアムレットへと振り返る。


「変な仕事ってなんだよアムレット!兄ちゃん泣くぞ?!パウエルを誘った時も言っただろ?業務内容は従者と全然変わらねぇって。城下外れの村や町巡って品運ぶよりずっと」

「兄さんあっちの姿で変に格好つけた話し方するようになったの、そのお屋敷で働くようになってからでしょ」

ぎくっっ!!とアムレットの鋭い指摘にお兄様の肩が上下した。

い、いやそうだけどよ……と言葉を濁す様子から、どうやら図星らしい。疚しいことをしていないのは本当なのだろうと思うけれど、もしかしてご婦人のご機嫌取りぐらいはしているのかもしれない。モーズリー家は覚えはないから、たぶん中級層から上級層間の富裕層なのだろう。貴族じゃない平民でも商売とかで稼いで成り上がった人もいる。……顔の良い男子に弱いお金持ちのご婦人とそれを聞くとなんとも不安な気持ちになるのは私もアムレットと一緒だけれど。とりあえずそのご婦人はそれがエフロンお兄様の特殊能力だと知っているのだろうか。

今も目の前でお兄様に、その仕事だけでもはやく止めて仕事の数を減らすように言っているアムレットを応戦したくなる。確かにこれではお兄さんの為にも特待生にならなきゃという気分になる。恐らくだけど、この様子だと学校が始まるまでエフロンお兄様はアムレットに仕事もさせたがらなかったんじゃないかしら。もしそうだとしたら完全なる箱入り娘だ。


よく寮生活には許可をしてくれたなとは思うけれど、きっと妹が良い暮らしをする分は妥協できるんだろう。

さっきもアムレットの昼食を作らなくて良いなら自分のは適当にとか言っていたもの。……あ、この人たぶん一人暮らしさせちゃいけないタイプな気がしてきた。できるなら今はパウエルと住んでくれていれば良いのだけれども。

そうやって考えている間もピシャリとお説教するアムレットは、ずっと眉が釣り上がっている。そういえばゲームでも問題行動をする攻略対象者を窘める場面があった気がする。……ああそうだ、だから彼ともネイトとも恋に落ちたのだから。


アーサーが殆ど発言権も持たないまま、……というかお兄様に押し切られる前にとお断りをいれてくれるアムレットに庇われる形で固まっている。

殆ど棒立ちにも近い状態のまま、少なくとも彼ら三人を馬車に近づけないようにだけアーサーが張り詰めているのが見ていてわかる。遠目でまだ校門前に立っているセドリック達も視線をこちらに向けたままだ。

私達の関係者ということになっているエリック副隊長だけが、身体ごとこちらに向いてもう苦笑いだった。そういえば数日前にエリック副隊長も校門近くで弟のキースさんと口喧嘩していたなと思い出す。


「……ジャンヌ、本当にごめんな。こっちのフィリップも悪いやつじゃねぇんだけど……」

ぼそっ、とバトル中の二人から避けるように突然パウエルが歩み寄るなり、私に囁きかけてくれた。

いきなり顔が近づいて、耳元にパウエルの声がゼロ距離で放たれた途端、一気に目が覚めたように動機がうるさくなる。

肩が強張るのを感じながら、気取られないように息を止めて堪える。本当にお願いだから第三作目様は容易に距離を詰めないで!!と叫びたくなる。背の低くなっている私に合わせて背中を丸めるパウエルにうっかりそれだけでドキドキしてしまう。


「ちょっと暑苦しいというか煩くてしつこいけど、根はフィリッ……お前らと、同じくらい良いやつで……。俺はあんま人と絡む仕事はって断ったけど、本当に紹介しようとしてる仕事も普通の仕事なんだ。だから嫌いにならないでくれねぇか……?」

早口で必死にエフロンお兄様の弁護をしてくれるパウエルに、今そっちを向いちゃ駄目だなと思う。

もう仲良くなってお昼を一緒にするようになって大分慣れたつもりだったけれど、やっぱりこの至近距離は心臓に悪い。声が裏返りそうだし、目の前で兄妹喧嘩真っ最中のエフロン兄妹に気付かれないように三度連続で頷いた。向こう岸にいるアーサーが私とパウエルが何を話しているのか気になるようにエフロン兄妹越しにこっちを見ている。

パウエルに言われなくても、エフロンお兄様がいい人なのは見ていてわかる。何と言うか絵に書いたような体育会系なだけで、妹想いだしわりの良い仕事を紹介してくれようとしている世話好きの良いお兄ちゃんだ。

確かにアーサーは美形だし、そのご婦人の元で働いたら気に入れられるだろうと思う。まぁ実際のアーサーはもう前世で言うところの国家公務員に就職済みなのだけれど。


「あと、フィリップのことも出来たら内緒にってジャックと……ふぃ、フィリップにも後でこっそり頼んでおいてくれねぇか?会えたことは話しててもまだ実は、アムレット達にあいつがフィリップと同じ名前ってことは……言えてなくて……。そのうち、俺からいつかは話すから……」

コソコソコソコソと、エプロン兄妹の注目がお互いとアーサーに向いている内のお願いだ。

さっきより更に弱々しくなった声が、今度は歯切れも悪くなった。つまりパウエルはエフロンお兄様とアムレットに昔の恩人に会えたことは話してても、お兄様と同じ名前ということはずっと話せていないらしい。友達と恩人が同じ名前なんて変な感じがするし、気恥ずかしい気持ちもちょっとわかる。

うんうん、と頷きながら多分アムレットもまたエフロンお兄様に同じなのだろうなと思う。彼女の場合は、ステイルどころか私達の名前全部お兄様に言っていなかったようだけれども。

たぶんこの様子から察するに、名前をうっかり話してお兄様が自力で「お前がアムレットの友達のジャンヌか⁈」みたいな感じに探し回るのを防ぐためもあったのだろう。

私が頷いた後も「本当にすまねぇ」「まだ気持ちの踏ん切りが」と呟くパウエルの方からだんだんと微熱が感じられてきた。どうしたのかと気になってうっかり顔を向けてみると、……見事に顔が火照っていた。


「~~っ!!」

声に出ないように喉の奥の奥で飲み込んだけれど、直視してしまった衝撃があまりに大きい。

パウエルの顔が至近距離とわかっていた筈なのにうっかりだった。私の耳元に囁く為に顔がすぐそこにあったパウエルにそれだけでも心臓が危ういのに、まさかの照れてる!!

ちょっと待って不意打ちは心臓に悪いからやめて!!大好きだった第三作目のパウエルさんに照れ顔なんて、ゲームプレイ中に何度悶絶したことか!!しかも記憶違いでなければゲームよりも表情が柔らかいというか緩んでいてなんかもう可愛い!

うっかり私まで顔の熱が上がりそうになるし、不謹慎にも目が奪われる。ぐっと唇を絞り堪えるけど、抑え切れずに背中を反らしてしまった。すぐに気付いたパウエルが、「近すぎたか」と謝って引いてくれてやっと頭がまともに回り出す。バクバク鳴らす胸を両手で押さえながら、気付かれないように息を整えた。……駄目だ。どうしても第三作目だけは思い入れのせいで私に刺激が強すぎる。


私から身体を引いたあとも頭を掻きながらぺこっと頭を下げる動作のパウエルに私も「大丈夫よ」と今度はなんとか普通に言えた。

きっとパウエルにとっては本当にステイルとの想い出も大事で、だからこそ今仲の良い友達と同じ名前だったなんて偶然も混ざるようで改めて言うのが気恥ずかしいのだろうなと思う。私も友達になれたアムレットの名前がティアラだったら、友達に妹の名前を言うのも少し気恥ずかしいもの。……というか、それくらいのことで照れてしまえるパウエルに本当にゲームとは別人だなぁとまた感心してしまう。どうかそのまま幸せに過ごして欲しい。

さっきのアムレットやエフロンお兄様の反応から考えても、二人もパウエルの事情は少しは知ってくれているようだし、本当にいい人達に囲まれてくれている。

パウエルの隠したいことはこちらも望むところだし、秘密は問題無いとしてそれでも一応ステイルにも、そしてアーサーにも後で私からお願いしておこう。


そう決めた直後、やっとお兄様のアーサーへのリクルートを穏便に説得して諦めたらしいアムレットの言葉が耳に飛び込んだ。


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