〈本日コミカライズ2巻発売‼︎・感謝話〉騎士達は集う。
「ここに居たのか、ロデリック」
演習所の裏手。
そこで足を止めていた騎士にクラークは歩み寄った。業務に一区切りがついたクラークは、早速友人へ会いに来ていた。
クラークからの呼びかけに顔を上げたロデリックは一言挨拶を返すと、目だけで軽く周囲を見回した。書類に夢中になっていたあまり、気が付けば近くを歩いていた騎士も皆消えている。立ち止まるにしても邪魔にならないように端に避けただけのつもりだったが、気付けば身を隠すような場所だったと自覚する。いつもは演習の時間だった彼だが、今日は予定が異なっていた。
「ああ、今日行った入団試験の記録が気になってな。先ほど合格者も決まったところだ」
騎士団入団試験。
その実施日だった今日、現騎士隊長であるロデリックもまた試験監督の任で参加していた。一次試験合格者のみが進める二次試験で志願者と直接剣を打ち合い、その腕前を確かめ合う。隊長格以外の騎士も大勢が駆り出され担う中、よりによって一番隊騎士隊長である彼の相手をさせられた志願者は骨が折れただろうとクラークは思う。
毎年騎士志願者の数が多い為、むしろ隊長格を相手にしない者の方が確率としては圧倒的に高い。入団試験で監督役等に駆り出される騎士で、隊長格はたったの四、五人程度である。しかもロデリックはその中で自他共に選別は厳しい監督である。毎年死者が出ている王国騎士団で、中途半端な実力で入団し命を落とすくらいならば最初から入団させるべきではないと考えている。今も今年入団が決まった人物のリストを手に、自分が担当した者ではない合格者を一人一人確認していた。
私にも見せてくれ、とロデリックの隣から覗き見る形でクラークも並ぶ。どうせクラークもすぐ見ることになるだろうにと思いながらも、ロデリックは無言でリストの最初一枚目から再び捲り始めた。
「……ああ、やはり彼は通ったか。ロデリック、二次試験の担当がお前なら腕も確かだったということだな」
「カラム・ボルドーか。ああ良い腕前だった。まだ十四だが、彼ならば問題ないと判断した」
リストの一カ所を楽しげに指差すクラークに、ロデリックも頷いた。
伯爵家出身という点でも他の入団希望者より一目置かれていたが、騎士団でも貴族出身者自体は珍しくない。代々騎士の家系として名を馳せた貴族もいれば、自分の代でこそ騎士の名を家系に刻みたいと挑む者も大勢いる。その中で入団に相応する実力者となると限られるが、現に今年もカラム以外に入団を決めた貴族出身者は複数いた。しかしその中でも最年少であるカラムは実力ともにクラークの印象にも残っていた。
二次試験には顔を出せなかった彼だが、一時試験を覗いた際に目に付いていた。近くで監督していた騎士に確認をとれば、貴族の青年だ。上級貴族に位置する伯爵家であり、騎士になるのに恵まれた特殊能力を持ち、十四才の若さと聞けば忘れる方が難しい。十四才から志願できる入団試験だが、志願者は成人を過ぎた者の方が圧倒的に多いのだから。
十四で門を叩く騎士となれば記念受験か余程腕に自信があるか、もしくは入団試験を再び受験する為の下見である。受験内容を知っていれば、翌年から他の受験者よりも優位に動けることは間違いない。
「惜しいな。あと一カ月早く十四を迎えていたら一年も早く新兵になれていたというのに。彼なら実質十三でも入団できたんじゃないか?」
「騎士団の受験資格は十四からだ。出生日が同月程度ならば未だしもひと月以上先では規定外だ」
騎士団入団試験は一年に一度。受験日から一週間や十日程度で十四を迎えるならばほぼ十四才として認められるが、一ヵ月は先過ぎる。
騎士団の規定を把握しているロデリックがはっきりと断じれば、クラークも「まぁそうだろうな」と笑って流した。クラークも規定は頭に入っている。しかし、ひと目見ただけでもその実力に印象に残った彼ならば十三才でも入団くらいは何とかできたんじゃないかと半ば本気で思う。十四を迎えるのもたった一ヵ月後だ。今回の入団試験でも危なげなく合格できたのならば、一年前でもぎりぎり滑り込み程度はと考える。
「……ん?なんだなんだ、彼も共有部屋希望か。てっきり他の貴族組と同じで新兵の間は通ってくると思ったが」
ふと、カラムの欄をリストの端まで眺めながらクラークは意外そうに声を漏らす。
本隊騎士となれば個室が与えられるが、新兵である内は共有スペースの大部屋しかない。新兵でも衣食住は提供されるが、全て最低限のみである。特に新兵へ無料で提供される宿舎も、大勢が一つの部屋に纏って寝る共有スペースだ。貴族出身者であれば殆どの者は実家の屋敷か、もしくは城に近い宿や屋敷を買って通う者が殆どである。特に伯爵家ともなればいくらでも城へ通える距離に馬も屋敷も用意できるだろうと考える。伯爵家の次男が自ら新兵の大部屋を志願するとなると、何か訳ありだろうかとクラークは考えた。少なくとも中途半端な志では、貴族に大所帯部屋など堪えられない。
「まさか家を追い出されたか⁇ボルドー郷は知っているが、不仲とは聞いたことがない。兄弟揃って優秀と語られていたが……」
「それだけ騎士の道に真剣ということだろう。二次試験でも礼儀を弁えた真面目な青年だった。追い出されるような人間には思えない。規定内であればどちらを選ぼうと本人の自由だ」
記憶に残るボルドー卿を思い浮かべるクラークに、ロデリックは邪推は止めろと軽く睨む。
別に新兵の大部屋は悪いことばかりではない。大部屋とはいえ、城の騎士団演習場内なのだから。目的ごとの演習所や鍛錬所も豊富に揃い、自主鍛錬には困らない。それに騎士として生きることが決まれば、今後いつまでも貴族らしい生活など望めない。本隊騎士に上がって個室を与えられても、任務や遠征等があれば他の騎士と同じテントで野営することにもなる。個室テントなどそれこそ隊長格くらいのものである。今後の為に慣れておくという意味でも今から大部屋で共同生活するのは良い予行である。
あくまで規定を重んじるロデリックに相変わらずだと笑いながらクラークは彼の肩を叩いた。彼の人を見る目が確かなのもクラークは信頼している。
「まぁ規定は大事だな。中には十三どころか齢七から試験を受けようとした猛者もいる」
「?誰のことだ」
「ハリソン・ディルクだ。ほら、昨日も乱闘して騎士団長に怒鳴られていた」
あいつだ、と。
当時のことを思い出し、眉を垂らしながら笑うクラークにロデリックも「ああ」と視線を浮かせて頷いた。演習がなければ本隊騎士は新兵とあまり関わりを持たない。しかし新兵の内から騎士団長にあそこまで怒られる者も珍しく、ロデリックの目にも目立っていた。しかも怒鳴られるのも昨日が初めてではないという問題児だ。
去年の入団試験で他志願者を寄せ付けない実力で合格を掴み取った彼は、もうすぐ一年が経とうとしているのに未だ誰とも馴染まない。新兵の頃は特に新兵同士で共同作業も多く関係も築きやすいのだが、ハリソンは誰かと会話もせず口数も少ないのに乱闘するばかりである。他者との交流を避ける者は新兵にも一定数いる。本隊であれば八番隊など殆ど全員である。しかし乱闘まで起こす者はロデリック達の記憶にも他は先ずいない。
「私もカーティスから聞いた話だから確かじゃないが、どうやら入団の七年前にも門を叩いたらしい」
目が同じだから会ってすぐに思い出したと。そう本隊騎士の一人であるカーティスの言葉を続けるクラークの言葉に、ロデリックも紙を捲る手を止めて聞き入った。
受験資格年齢に達していない内から、門を叩く者も稀にいる。入団試験日当日に年齢規定があることを知らされる者、もしくは入団試験日の存在すら知らず行けばなれると思って訪れる者。そしてハリソンは圧倒的後者だった。そして入団試験日でもない限り、簡単に演習場まで通される王城ではない。
八年前、齢七だった少年が「騎士になりたい」と城門まで訪れ、まだ早いと衛兵に断られていた。偶然にも城下の見回りへと降りるべく城門で居合わせた騎士に、少年は衛兵へと同じ言葉で直談判した。白の団服を見れば子どもであろうとも畏敬や萎縮する存在である騎士に向かい、怖じける素振りすらなかった。
あきらかに入団試験を受けられる年齢に達していない幼い少年に年齢を聞けば、たったの七歳。しかも寒い季節にも関わらず薄着で佇んでいたその少年に、騎士も冷たくあしらう気にはなれなかった。
入団するには年齢規定がある。七年後にまた来なさい。それまで頑張って鍛錬に励むと良いと。そう言えば、少年はすんなりと踵を返して去っていった。
「で、本当に七年後に来て今は見事新兵だ」
「七年きっかりに訪れたのか」
「いや、寒くなったばかりの頃だ。八年前は真冬と言っていたからずれはあるだろう。七年前に門を叩いたのと同じ季節になった途端、また訪れたらしい」
大雑把だと。そうロデリックは思いながら無言で眉間の皺を深くする。
一年前の当時、騎士団入団試験が行われる一ヵ月以上前から毎日早朝の城門前に「入団試験を」と詰め寄り通い続けた〝不審者〟について、騎士団にまで連絡が届いたことは彼も印象に残っている。
今日ではない、ひと月後だ、四週間後だ、十日後だ、一週間後だ、明日だと。具体的な日付を衛兵や注意に来た騎士に言われても毎朝訪れ続けた青年は、紛うことなき不審者だった。しかし今日ではないとそれだけ伝えればすぐに踵を返す為、騎士も衛兵も捕らえるまでには至らなかった。
しかも何故毎日来るのかという問いに答えた彼の言葉に、騎士も衛兵も聞けば何とも言えなくなった。日を間違えて訪れる騎士志願者はいても、具体的に残り日数を伝えられた上でひと月以上毎日早朝通い詰めた者は騎士団の長い歴史の中でもハリソンぐらいのものである。
だからか、と。当時の珍事件を思い出し眉間を押さえれば、クラークも肩を竦めた。七年後と騎士に言われたのが試験と同季節の冬ではなく春や夏だったら、去年の入団試験をも逃していたのではないかと苦々しく呟くロデリックに「その時は一年通い続けたかもしれないな」と笑い混じりに返す。七年も正直に待ったのだから、あと一年はそれこそ毎朝指折り通い詰める可能性も高い。何故ならば
「時間の概念がなかったらしい。たぶん今も文字どころか時計の読み方すら知らないだろう」
「……よくそれで演習準備に間に合っているな」
クラークの言葉に顔を上げ、目を合わす。
下級層出身の人間であればそういった者もいる。時間ではなく太陽の上がり下がりと気温の変化だけでの生活では、時計を見ようとすら思わない。当時城門を守る衛兵や騎士にハリソンが答えたのと同じ通い詰めたその理由に、ロデリックも納得しかできない。
時間の概念も日付の概念もない。だが、年に一度の入団試験を逃したくない。だから当日まで早朝に通い続けたと。あまりにも無駄が多いが、間違いない手段でもある。
本隊騎士に上がればある程度の教養も必須として課せられるが、新兵の内はきっと覚える気もないのだろうと二人は思う。今も時間を守っているのではなく、ただ単に休憩も取らず次の演習まで集合場所で待ち続けているだけである。いっそ時計の読み方を覚えさせるなら、時計を見る習慣をつけさせるよりも時計を見る必要がないくらいに一分一秒の感覚を身体に沁み付けさせた方が早そうだとクラークは考えるが、そこまで教育してくれる保護者も指導者もハリソンにはいない。
彼の場合は三ヶ月後にある入隊試験よりも騎士になってからの方が大変だろうと考えれば、ロデリックは長く深い息を吐き出した。
先ずは学ぶ為に本を読むよりも、文字を覚えることから始めなければならない。毎年時期になれば城下どころか国中に騎士団新兵募集が公布されるにも関わらず、七年後という言葉だけを頼りに訪れた青年だ。実施日や規定年齢も読めなかったというのであれば納得もいく。
文字も読めない、時計も読めない、時間の概念すらなく人と交流すらしない。しかし実力だけは本物である彼ならば、順当に行けば間違いなく今年で入隊を決める。そう思えば余計に溜息しか出ない。ハリソンの実力は去年の入団試験から有名だが、素行の悪さに続いて課題が多すぎる。
下級層から騎士になる者も当然いるが、ここまで本隊騎士として実力以外の不安要素が豊富な者はいない。八年も前から騎士になりたいという情熱と意思があるのならばどうかこのまま騎士になって欲しいと思うロデリックだが、その為には戦闘能力以外も騎士には不可欠だと彼が理解しないと始まらない。
せめて三ヶ月後の彼が、先月のように体調不良で救護棟送りにだけはならないようにと思いながらロデリックはリストの頁をまた捲った。ペリ、ペリと合格不合格者の名前が列ごとにひしめき合うのを眺めながら、合格者を目で追う。特殊能力者に下級層から貴族出身に騎士家系まで揃っている。
最後の一枚まで合格者の詳細と名前をロデリックと共に確認し終えたクラークは、そこでふともう一つの疑問が頭に浮かんだ。
「去年の彼はどうだった?お前が来年こそはと話していた、あの。一次試験では見かけなかったが……」
「アラン・バーナーズか。ああ、私も気になって確認したが……今年は来ていなかった」
パラリともう一度リストを捲るが、そこに探した名はなかった。
去年、二次試験で落とされた青年の存在は二人の記憶にもまだ新しい。一次試験では見事な身のこなしと最年少だったこともあり、ハリソンと揃って目立っていた青年である。
去年もこうして二次試験後に確認したことを思い出しつつ、クラークは手を伸ばしロデリックの手からもう一度最初からリストを捲った。
去年も二次試験には関わらなかった彼だが、その時は当然あの二人は通ったものだと思い名前を探した。しかしリストを確認してみれば合格者の欄にアランの名はなく、不合格者も含めて名前を探しやっと目に止まった。当時二次試験で彼が落とされたのはクラークにも予想外だったが、今年は試験にすら来ていないことは輪をかけて意外だった。
一次試験は大人数入り交じっての総合乱闘戦。特殊能力不可の場で、アランは当時のハリソンと同じく大勢の志願者を倒し半数以下に残った。相手からいくら食らっても全く怯まず、未だ新兵ですらないにも関わらず身のこなしも軽く優秀だったと当時他の騎士と共に監督に加わっていたロデリックの言葉に、当時も一次試験を覗いたクラークも同意見だった。
また、アランの場合は実力だけでなく十四とは思えないほど堂々とした振る舞いや威勢もロデリックを含む本隊騎士達には好印象だった。取り敢えずアランとハリソンの二人は最年少で入団するだろうと自分も思っていたクラークだったが、その後リストを確認すればハリソンとは違いアランの欄には二次試験の部分に「不合格」の一言が書かれただけだった。
「私もてっきり、彼なら腐らず今年も挑みに来るかと思ったんだが……まぁあの青年だ。まさか諦めたわけではないだろう」
「そうだな。二次で落ちた理由も理由だ。今年は見送ったと考えた方が自然だ」
そう言って腕を組み目を閉じて重々しく頷くロデリックに、クラークも視線を合わせた。
去年、一次試験では最年少ながら実力を見せつけた彼が二次試験で落ちた理由はクラークも気になり、当時確認した。一次試験が始まった時から他の入団志願者と仲良くまでなっていた彼が、まさか二次試験で問題を起こしたとも考えられなかった。そしてアランの二次試験を担当した当時の騎士も、厳しくはあるがロデリックほどではない。
「確か、当時の担当はイジドアだったか。まぁどの騎士が担当でも、落ちるのは仕方がないことだっただろう」
来年か。と吐く息混じりに言葉にするクラークにロデリックは組んでいた手を一度腰へと降ろし、頷いた。
「剣を握ったことすらなかったらしいからな。身のこなしがいくら良くても、剣を扱うことができない者を入団させるわけにはいかないという判断は当然だ」
そうだな……と、ロデリックの言葉にクラークも肩を落として応えた。
一次試験と違い、二次試験は本隊騎士との打ち合いである。動きこそ一際優秀だったアランだが、剣の握り方からして初心者そのものだった。支給品の剣とはいえ明らかに手に馴染んでおらず、剣を握っている時の方が戦闘も動きにくそうにした彼が典型的な初心者以下だということは騎士であれば誰もが一目で気付けた。
本隊騎士になれば銃や素手の格闘など幅広い戦闘方法も演習するが、それでも騎士の主要はあくまで剣である。その主要である剣を扱ったことすらないのでは話にならない。
「剣に少しでも心得があれば合格もできていただろうな。未熟でも筋さえ良ければ今後に期待できる」
「無理もない。確か地方の出身だった。十四の身で城下へ来るのにも費用はかかっただろう」
当時、リストを確認した際に山を越えた遥か向こうの地方出身者だったとロデリックは思い返す。
剣自体は、探せば上物から最下まである。特に商業が賑わっているこの城下であれば、下級層出身者でも手に入れることは難しくない。武器としてや身を守る為にナイフや剣など二足三文の安い刃物を購入する者は多い。
しかし地方や田舎になると、ナイフはともかく剣はまず手に入れることから苦労を強いられる。武器屋自体がない村や町も多い。金銭的事情か、もしくは地方の居住地都合で剣が手に入らなかったのか。どちらによ騎士を目指す者として、最低限剣の心得がなければ話にならない。
「帰りに城下へ降りれば安く買える店は山ほどある。剣を買って今年までに腕をある程度磨いてくるかと思ったが、……まだ修練の時間が必要と判断したのだろう」
努力さえ怠らなければいずれまた来る。と、そう締め括りロデリックは書類を閉じた。
剣の指導者が居らずとも、剣を手に素振りを怠らなければ自然と手にも馴染む。当時二次試験で問題視されたのが剣の経験不足だけであれば、諦めない限りきっと彼にも未来はあると考える。
ロデリックの言葉を聞きながら、クラークは頭の隅で今年彼が現れなかったのは「修練不足」以外の理由かもしれないなと察したが、それは飲み込んだ。どちらにせよ、今年は来ずいずれまた来るだろうという考えだけはロデリックと変わらない。
彼の言葉に一言肯定を返すと、書類へ前のめりにしていた背中を伸ばし戻した。書類をこのまま預かろうかとロデリックに手を差し出すが、自分で行くと断られる。そろそろ行こうかと、書類を小脇に足を動かそうとしたその時。
「ロデリック隊長ー‼︎ロデリック隊長はどこにおられますか⁈」
「……少しのんびりし過ぎたようだな、ロデリック」
「そのようだ」
すまない。と直後にはクラークが謝った。
少し書類に目を通してただけの彼を呼び止め長話に付き合わせたのは自分である。
しかしロデリックも、自分が話に乗った以上そこでクラークの責任にしようとは思わない。気にするな、と言いながら小さく息を吐き声のする方へと顔を向けた。物陰から出れば、そこは門を叩く青年達の憧れる騎士の世界である。
ここにいる!と響く低い声で返せば、クラークがいつもの調子で彼の肩を叩いた。最悪の場合は、自分が彼を引き留めたと証言しようと思いながら。
「行こうか、ロデリック」
「ええ、参りましょうクラーク〝副団長〟」
友人という立場から、騎士団での立場で言葉を変えるロデリックの律儀さにクラークは苦笑しながらも前ではなく、共に並んだ。
Ⅰ61.346.347.356
本日、ラス為コミカライズ2巻が無事発売致しました…‼︎
ここまで来れたのは皆様のお陰です。本当にありがとうございます。
是非お手に取って、松浦ぶんこ先生のラス為をお楽しみ頂ければ幸いです。
どうかよろしくお願いします。




