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フリージア王国備忘録<第二部>  作者: 天壱
私欲少女とさぼり魔

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Ⅱ164.私欲少女は傍観する。


「では、今呼ばれた生徒は共に資料の片付けに。残りの生徒は鐘が鳴るまで教室を出ないこと」


三限終了後。

回収した資料を両手に抱え、講師に呼ばれた生徒だけ続々と並んで教室を出て行った。少しざわざわとする教室で皆何となく席に着いたままだったけれど、間違いなく視線がチラチラとこちらに集中している。……こちら、というか実際は昼休みにアクロバット披露したアーサーに。

仮病で逃げ出した私の方も注視されている可能性はあるけれど、やっぱり一番はアーサーだろう。皆からの視線に断固として気付かない振りをするべく焦点の合わない目でアーサーは喉を鳴らしていた。話しかけられたら最後、多分彼は無碍にできない。


「取り敢えず廊下側に移動しましょうか。鐘が鳴ったらすぐに一年の教室へ向かいたいですし」

空気を読んだステイルからの提案に私もアーサーも勢いよく同意する。

今居る窓際の席だと囲まれたら逃げ場が無い。場合によっては私とアーサーは窓から飛び降りることになる。そんなことをしたらステイルに大目玉だけでは済まない。

三人同時に立ち上がり、そそくさと教室の扉前に移動する。すると、私達と同じく最後列に座っていた女の子が通り過ぎざまに席から「ねぇ」と席から声を掛けてきた。

引き留められたことを自覚しつつも振り返れば、やっぱり彼女らの視線はアーサーに釘付けだ。

なンすか、と彼女らの視線に自分宛と理解してアーサーが聞き返せば、並んで座る仲良し女子二人は照れたように顔を見合わせた後また口を開いた。


「眼鏡外して見せてくれない?」


……また、なかなかベタな展開が。

そうは思いながらも、ちょっぴり心の底で悲鳴を上げる。銀縁眼鏡も凄く似合っていたアーサーだけど、ギャップ効果で余計にイケメンに見えるだろう。

きっと昼休みに木から飛び降りた時アーサーの素顔を見た子達なのだろうなぁと思う。既に外して見せる前から目がきらっきらで僅かに火照っているもの。あの時は木から飛び降りてくる王子様効果で余計格好良かったし、この場で素顔だけでもアンコールしたい気持ちはわからないでもない。

アーサーも予想外の展開だったのか、一度だけ目を丸くした後に私とステイルを見た。外して良いかの確認だろうけれど、私やステイルと違ってアーサーは騎士に顔バレしなければ問題ない。大丈夫よ、と意思を込めて頷けばアーサーは両手で丁寧に眼鏡を外した。これで良いっすか、と尋ねるのと女の子達の目が倍輝いて紅潮するのは殆ど同時だった。流石は第一作目人気攻略対象者。

囃立てるようにキャアッと黄色い悲鳴が上がって、なんだかドラマの世界に入ったような気分になる。画面の向こうでは見たことあるけれど、実際に前世の学校生活では見たことがない。

女の子達の反応に少し面白そうな顔をしているステイルは、そっと気配を消してアーサーの背後に下がった。若干黒い笑みにも見えて、楽しんでいることがわかる。騒がれている本人だけが全くわかっていない様子だ。顔に何かついてますかとでも言いそうだった。全くの無自覚恐るべし。

確かアーサーって御実家が小料理屋と聞いたことがあるけれど、お客さんとかにモテてたりしなかったのだろうか。騎士団長子息で、本人も騎士でなんてそれだけでもこのご時世には有力物件だと思うのに。

今は一日の殆どが騎士団演習場で男所帯だからまぁわかる。出席するような式典だって、王族の式典にいけば王侯貴族も上層部の令嬢も狙うは騎士より王族だ。今はアーサーも聖騎士として一目置かれる立場になったけれど、そこには確実に次期摂政の美青年ステイルと、アネモネ次期国王のお色気担当レオンと、王弟のギラギライケメンセドリックを始めとした目立つ経歴の美男子が揃っているからそこまで食い気味にはされない。それでも御実家を今も時々手伝っていたら噂にもなるだろうし、アーサー目当てで通い詰める人気店みたいになっていてもおかしくないと思う。……にも関わらず、アーサーからは全くその手の話は聞かない。単にアーサーが自分の話はあまりしないこともあるだろうけれど。


「格好良いじゃない!」

「あ、でも眼鏡も似合ってるわよ」

女の子達二人がダイレクトに褒め始める。

うん、確かに眼鏡を外してもそのままもどちらも似合う。それでもやっぱり変装用も含めて本人の印象を変えるように選んだデザインの眼鏡だから、余計に素顔が格好良く見えるのだろう。

そして女の子達二人からこんなに直接的に褒められて、尚且つ禁句ワードである〝格好良い〟を言われた上教室の注目を一身に浴びてしまったアーサーは




「ありがとうございます、恐縮です。顔は父譲りなのでそう言って頂けると光栄です」




さらっと。

全く微塵の動揺を見せることなく、むしろ微笑みまで浮かべたアーサーは完全に大人の対応だった。……うん、多分これ式典でも返している台詞だ。

確かにアーサーは顔は父親の騎士団長と瓜二つだし、アーサーの顔を褒めるということはそう言うことになるかもしれない。そう思うと何だか今度は私の方まで恥ずかしくなってきた。もしかしてアーサー、騎士団長の顔を知っている私が褒めまくるから父親を褒めまくられてる気がして恥ずかしかったのかしら。いやでもアーサーも主に中身が素敵なのであって、それに騎士団長の話題なら結構今は嬉しそうに話してくれているのに!

そんなことを思っていると、まんざらでもない反応に女の子達の顔がぽわっと桃色になっていた。なんかもうアーサーが天然でやってることが全部が全部学園の王子様キャラ過ぎて恐ろしい。

よくよく考えたら、この中で最年長のアーサーにとって十四歳の女子なんて妹くらいの感覚だった。褒められたところで可愛いなくらいのものだろう。….…というか、毎日のように超絶美少女ティアラを見ていた彼にとっては、それ以外の女性への感覚が麻痺してしまっている可能性まである。あのティアラのことすら妹扱いだもの。


「ッそ、そういやぁさ!ジャックは‼︎ジャックはフィリップみたいに恋人とかいるんじゃねぇのか?」

突然、横から飛び入るように一人の男子が声を上げ出した。確かアンディ、だっただろうか。

何だろう、何処となく慌てているような。アーサーと頬が桃色の子を何度も見比べてみるけれど、もしかして気を利かせているのだろうか。その男子といつも一緒にいる男の子達に至っては遠巻きで何やらニヤニヤ笑っている。

声がひっくり返っているように大きく響いたアンディの声は意外と教室に広がった。その事に焦るように顔がまた赤くなっていく彼に、思った以上に大声になってしまったのかなと思う。それでも質問の答えがどうしても聞きたいのか、じわじわとアーサーとその女の子の間に入るように位置を変えていた。……あれ、さっきまで同じく頬が桃色になっていたもう一人の子までニヤニヤしてる。確かこちらはハリエットだ。

フィリップみたいに、というのは多分、以前ステイルがティアラの存在を上手くほのめかした時のことだろうなと思う。あのまま故郷に恋人がいるで決定しているらしい。

まさかの身体能力以外の質問にアーサーが一度だけ大きく瞬きした。「恋人、すか」と独り言くらいの小ささで返す様子は、ステイルみたいに前もって策を持っているように見えない。アーサーの背後に立つステイルもフォローの間をみるように、唇を結んだまま上目でアーサーを覗いていた。

アーサーは「自分は」と口を開くと、そこからまたさっきと同じはっきりとした口調で言い切る。



「自分は騎士になって全部捧げるってガキの頃から決めてるンで。他は考えてません」



……騎士百パーセントの答えが返ってきた。

流石アーサー。殆ど嘘の無いベストな返答を素で叩き出してしまった。

実際はもう騎士だけど、それ以外は全部確実に本音だ。多分本当は「騎士になって」というより「騎士として」と言いたかったのだろう。

子どもの頃というのが当時十三歳の事をいうなら間違いない。あの時にはもう彼は本気で騎士を目指すと誓ってくれたのだから。そして実際に誠心誠意全てを騎士になる為だけに心血を注いでいた。

難なく真っ直ぐなアーサーの返答に、なんだかほっと息を吐く。もしかして式典とかで令嬢達からアプローチを受けても全部その台詞で一刀両断しているのかなと考える。


一拍分ほどは十四歳とは思えない志の高さからか、誰もが沈黙をした。

けれどその直後にはアンディがタックルかと思うほどの勢いでアーサーに飛び付き出した。「格好良いなぁあああああ‼︎」とお腹の底から叫ぶような声が今度こそ教室に響き渡り、飛び付くままにアーサーを抱き締める。

アーサーも突然のタックルに驚きながらも殆どよろめかず受け止めると、そのまま両腕で受け止め返した。ぱちくりとした目がどうして抱き付かれたのかわからないと言っている。まぁ同い年の子がそんなきっぱり将来のこと決めてたら同性でも心意気に惚れるのはわかる。

更にまたさっきまで遠巻きで見た他の男子も何人か同じ勢いでアーサーに抱きついてきた。

「よく言った‼︎」「マジで格好良い!痺れる‼︎‼︎」「ジャック本当に好きだ‼︎」「お前最高ッッ」と大絶賛だ。心無しか彼らの熱量は、校庭のアーサーの身のこなしを目にした時よりも舞い上がっている気がする。

実際、女の子側の方は夢から覚めたみたいにぽかんとしているか、未だうっとりしているか。もしくはさっきまで頬が桃色だった女の子、クリシアが肩を落としているのを隣で慰めるハリエットみたいに苦笑いを浮かべつつアーサーと飛び付く男子を見つめるかの三択だ。うっとりしている子はアーサーを見つつ、何故かちょこちょこ私とも目が合う。抱き着いていない男子の中にも同じようにアーサーを見たり私を見たりと忙しそうな子が何人かいた。……なんだか、クロイに以前言われたまともな友人いないの発言を思い出す。トンデモ失言をする私が私なら、親戚のジャックもとか思われているのだろうか。まぁアーサーの場合は失言ではないけれど。


それにしても、ああして男子に飛び付かれて男らしさで心鷲掴みにしちゃっているアーサーを見ると騎士団と同じような状態だなと思う。アーサーって男前だしモテる要素しかないけれど、女子より男子にモテている気がする。あれだけ男らしかったら無理もないけれど。

あんな可愛いティアラを十三歳の頃から見てきて結局恋心を持たなかったアーサーは、鉄壁と言ってもおかしくない。ステイルの方はまぁ兄という目線がそのまま継続した結果だろう。


色々な意味でモテモテなアーサーを眺めていると、とうとう授業終了の鐘が鳴った。

「行きましょうか」と早速扉へ回って開けてくれるステイルに、アーサーも「すンません自分は野暮用が」と彼らの抱き締めから飛び出すように抜け出した。まだクラスの子達も話したいだろうし、何よりこんなに大人気上昇中のアーサーを彼らから引き剥がすのも忍びなくなる。いっそ今は短い休み時間だし私とステイルだけで行くべきかと考える。


「ジャック。もし良かったら貴方はこのままお話していても」

「いえ、今度こそ絶ッ対に離れません」


行きましょう、と。私の言葉を切ったアーサーはそのままステイルから引き継ぐ形で開けた扉の横に立った。

促されるまま私もそれに従い、扉を潜れば「失礼します」と教室の彼らに一礼したアーサーはピシリと綺麗に扉を閉めた。


女の子からのフラグを叩き斬り、代わりにクラス男子からの人気を勝ち取った聖騎士は、いつも通り私の騎士だった。


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