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フリージア王国備忘録<第二部>  作者: 天壱
私欲少女とさぼり魔

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Ⅱ155.私欲少女は登校する。


「いってらっしゃいませ、プライド様」


専属侍女のロッテとマリー、近衛兵のジャック達に見送られて学校へ向かう。正確には学校までの経由地である、エリック副隊長の御実家にだ。

二日ぶりの学校に、ずる休み感覚の私はちょっとだけ緊張する。前世は学校のサボりなんて大それたことしなかったのに、今回は弟の誕生日というだけでお休みだ。……まぁ、弟は弟でも我が国の第一王子なのだけれども。


「ステイル、体調は平気?寝不足じゃない?」

「勿論です」

昨日誕生日を迎えて十八になったステイルに手を取られる。

今日もステイルはちょびっと早起きだった。自分の身支度の後に私達より先にヴァルをこっそりジルベール宰相に届けて、また十八の姿にして貰わないといけなかったのだから。作業としてはコソコソする以外そんなに時間はかからなかったけれど、ジルベール宰相の都合と私達が遅刻しないようにとステイルだけが前倒しで動いてくれた。

ヴァルもヴァルで早々にセフェクとケメトを学校に送って、それからステイルの手でジルベール宰相と合流してまた学校に自力で向かわないといけないから、下手すると私達より忙しかったかもしれない。その分、今回の二日だけでも良い休日を過ごしてくれていたら良いなと思う。


「今日から確か一年の学級に行くンすよね」

ええ、とアーサーからの確認に返しながら私も頭を整理する。

私の目的は先ず、残りの攻略対象者を全員見つけて彼らの設定を思い出すこと。ファーナム姉弟の問題も解決した今、その為にも低学年のクラス偵察から始めないといけない。潜入視察中の私達にできる最善はそれだけだ。……本来で、あれば。

ふとそこで三日前のイベント情報大混乱を思い出し、頭が重くなる。いえ大丈夫、きっと何とかなる、今はまず攻略対象者探しと自分に念じた。問題解決も大事だけれど、潜入できる期間は限られているのだしファーナム姉弟みたいに切迫していない以上、今はジルベール宰相達に頼ろう。


「では参りましょう」

そうステイルに誘われるままに差し伸べられた手をアーサーも一緒に取り、瞬間移動する。

視界が切り替わり、城の自室からエリック副隊長の家の玄関になる。もう見慣れた私達に家の人達も「おはよう」と声を掛けてくれたり、エリック副隊長も既に身支度完璧で待機してくれていた。なんだかもういつも通りの朝感にほっとしちゃいながら、私達も挨拶を返す。


「おはようございます、ギルクリストさん」

本当に何度見てもほっとしちゃうお家だ。

エリック副隊長がすぐに家を出ようといつものように促してくれて、早々に開けられた扉に踵を返す。外に出れば登り切った太陽が直接目を刺した。眩しい、と思いながら目を萎めて私達は歩き出す。

ギルクリスト家からもいくらか離れたところで、周りに人もいないことを確認してから私はエリック副隊長に顔を上げる。


「お疲れではありませんか?エリック副隊長」

表向きは休息日として今日も任務についてくれているエリック副隊長は、昨晩ステイルの誕生祭後そのまま夜遅くに家に帰ってくれていた。

朝が早かったステイルと同じくエリック副隊長も寝るのが遅かった分、睡眠時間は短かかったんじゃないかと思う。そう思って投げかけると「大丈夫です」と一言返してくれたエリック副隊長は苦笑するように肩を竦めた。


「今朝はすんなりキースも仕事に出掛けましたし、落ち着いた朝でしたから。仕置きが大分効いたようです」

「?仕置きって、例の手帳っすか」

私達の分の鞄を持ってくれるアーサーが今度は振り返る。久々の銀縁眼鏡がちょこっとずれるのを片手で直した。

手帳、という言葉に私もエリック副隊長がステイルに瞬間移動してもらった手帳のことを思い出した。キースさんの私物とは聞いたけれど、本当に手帳の一件からはキースさんもすんなりだった。多分本当にエリック副隊長が怒ったのが伝わったのもあるだろう。

「昨晩も返してくれとソファーで待ち構えられていました」と笑うエリック副隊長の話からも、大の大人がそこまでするって余程のものだと思う。……国家を揺るがす情報とかだったらどうしよう。

実はという可能性もゼロではない。いやでも少なくとも第一王女の私にあまり覚えはー……、……。…………奪還戦とか。

そう思った瞬間、ひゅっと背筋を冷たいものが駆け抜けた。

私のあの大罪が知られていたら大スクープだし、キースさんが取り戻したがっているのも納得いくし辻褄も合う。いやでもあのジルベール宰相の情報統制が漏れるとは思えない。城下の視察一つに関しても未だに毎回私達の希望通りの完璧ルートを考えてくれるジルベール宰相だ。奥さんと娘さんのマリアとステラに会いに屋敷へ遊びに行く時すら未だに一度も足跡を掴まれたことがない。というか、あの人の証拠隠蔽術は昔から恐ろしいの一言だもの。なら、他にあるとすれば……


「まぁ、あとひと月もしない内の辛抱ですから。フィリップ達はご心配なく学校に専念して下さい」

ジャックもな、と最後にポンとアーサーの背中を叩くエリック副隊長の言葉に一気に意識が引き戻る。そうだ、今はそっちがあった。

暫く歩いて校門前に着く。また放課後にと手を振った私達は早速足早に中等部校舎に向かった。色々と〝やること〟が増えた今、私達はなかなか切迫していると言っても過言ではない。余裕だと思っていた残りの数週間が今は全く余裕がない。

中等部から二年の教室まで階段を上がった私達は、先ず鞄を置くべく自分達の教室へ向かう。朝の朝礼が始まる前に一年の教室へ偵察だ。できれば今日こそ攻略対象者をもう一人だけでも思い出しておきたい。

おはよう、おはようとすれ違うクラスの子達と挨拶を交わし、ステイルとアーサーに見惚れる女子と二人に対抗意識か何度もこちらを振り返る男子達を過ぎ去りながら、自分達の教室に辿り着く。


「……ファーナム兄弟は来て居ませんね」

「そりゃァな。今頃セドリック王弟を待ってンだろ」

アーサーの相槌にステイルが「そうだったな」と今思い出したように呟いた。忘れていたなんてステイルにしては珍しい。

ファーナム家大改造リフォーム後のことがあってから、ステイルは少しファーナム……というよりもディオスをちょこっと警戒気味らしい。何せ、知らなかったとはいえ第一王女にプロポーズどっきりをしてくれちゃったのだから。

昔のセドリックほどではないにしろ、ディオスのことでステイルが心配してくれるのも無理はない。まぁ子どもの可愛い悪戯だと思えば心配し過ぎな気もするけれど。


アーサーに「ンな威嚇すんな」と肩を叩かれながらのステイルはむっと唇を一文字に結んでいた。

その様子にやっぱり一つ年を取ってもステイルはステイルなんだなと場違いにも微笑ましくなってしまう。リフォームしてあげた夜は寧ろ十四歳の姿でも実年齢くらい大人びて見えたし、誕生祭では相変わらず格好良かったのに。

いつもの席に鞄を置き、腰を落ち着けることなく私達は教室を飛び出した。低学年の教室へ向かい階段を一階分降りる。

一年のクラスも当然のことながら生徒全員はまだ揃っていない。登校中なのだから当然だ。それでも一限目後にはアーサーとステイルが移動教室だから確認できないし、昼休みはもっと誰も教室にいない。

残りは三限と四限の間しかチャンスのない私達にとって今の時間はかなり貴重だ。バラバラと階段から手前の一組のクラス、次の二組と生徒を確認していく中で、どうか運良く見つかれと心の中で叫ぶ。アーサー達には言えていないけれど、アムレットの年下攻略対象者枠が一人はいることは殆ど確実なのだから。ファーナム兄弟が同年、そして年上ポジションも見つけた。なら残すは年下確定ともう一人。

記憶の扉が開くことを願いながら次々と教室を回って一人一人の顔を確かめる。けれど今のところ未だピンと来ない。こういう時にセドリックの記憶能力があればなと羨ましくなる。


「いかがですかジャンヌ」

確認しながら次の教室へとまた移る私にステイルが確かめる。

首を横に振る私に、そのまま「そろそろ授業が」とタイムリミットを告げた。まだあと一クラス‼︎と思ったけれど、遅刻するわけにも人前で瞬間移動するわけにもいかず拳を握って堪える。やっぱり一クラスずつじっくり吟味すると時間が掛かる。もうこの二週間で色々と悪目立ちしちゃっている私は、これ以上問題を起こして見つかるわけにもいかない。


仕方なく二年の階へ戻るべく階段へ向かう。がっくしと肩を落としていると、アーサーが「やっぱ昼休みも回りますか?」と提案してくれた。けど昼休みになったら中等部もみんな散り散りになっちゃっているし、探しようがない。高等部と混ざられれば余計に発見度は下がる。せめて生徒の遭遇率が上がるようにまた食堂か、またはいつも通りのゆっくり校庭を回りながら校門前コースが一番効率的だろう。

……昼休みだけでも、〝もう一つ〟に取り掛かるべきかとも考えたけれど、私がここで予知なんて言ったらまた確実に最優先事項が切り替わる。


「いっそ校内の調査だけでもヴァルに協力させるのはいかがでしょうか。中等部に潜入は無理でも、調査だけであれば奴も充分……寧ろジャンヌが許可さえ下ろせば誰よりも自由に動けます。例の件についてはジルベールだけではなくカラム隊長にもお願いしていますし奴にも協力を仰げばある程度進むかと」

眼鏡の黒縁を抑えながら声を低めるステイルに「いえそれは……」と流石に濁す。

カラム隊長は未だしも、ヴァルをこれ以上巻き込むのは申し訳ない。もともと私の護衛兼何かあった時の協力者として潜入してくれている彼に、範囲外の仕事を任せるのはと思ってしまう。

それこそ彼は殆ど関係無いし、今回のことだってニ日間の休暇中にまでジルベール宰相から結局おつかいを任されちゃってたし、配達も並行させて結構負担をかけてしまっている。情報収集して貰ってもそれが他の攻略対象者に繋がるかもわからない。いっそ調べなくてもわかるくらい有名な噂でもあれば攻略対象者率が高いけれど、今のところ噂で聞くのはセドリックのことと、今日見学に来たレオンとティアラの美男美女コンビのことくらいだ。

ううーん……と二人の意見どちらにも頭を傾けてしまう私は、曖昧にお断りすることしかできない。だって、年下攻略対象者については未だ全く思い出せないし、もう一人の攻略対象者に関しては何年生かもわからない。そしてジルベール宰相とカラム隊長に任せている件については







〝彼〟の設定でもうわかっちゃっているもの。







数日前に見つけた、特別教室の攻略対象者。

……だからどうか、せめて彼がこれ以上ゲームのようにやらかしませんように。

早々に彼に取り掛かる為にも、早く残りの攻略対象者達を見つけなくちゃと思いながら私は階段を昇り切った。


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