表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
フリージア王国備忘録<第二部>  作者: 天壱
崩壊少女と学校

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

22/1000

II16.崩壊少女は整理し、


「なので、最初の一ヶ月間は選択授業を全て受けて貰います。明日からは二限目に男女別の選択授業を、三限目には男女共有の選択授業を全てです。来月の頭にはそれぞれ各三科目に絞るからどの授業を希望するかもよく考えておくように」


そう担任のロバート先生が話を締め括ったところで、一限目終了の鐘が鳴った。

男女共有の授業は殆どが座学。男女別授業は殆どが実技と座学両方だ。二限目は時計の針があの数字を指したところで、と時計が読めない子にも親切な説明が入ったところで、先生は教室を去った。

授業中も全くの沈黙というわけでもなかったけれど、席についていた生徒の身体から緊張が解け始める。前世の時に体験した学校の教室風景と重ねながら、私は頭を抱えたい気持ちをぐっと抑えた。

本当は貴重な休みに今すぐにでも他のクラスに攻略対象者を探しにいくべきだけれど、いまはそれどころじゃない。学校と中等部の授業について説明がされる中、私はずっと先生に顔を向けながら目はがっつりと最前列に座る女の子に突き刺さって離れなかった。

胡桃色の髪をした女の子。ショートカットに少しはねた髪先から活発そうな印象が見て取れる。授業が終わった今も席から立ち上がろうとはせずその場に座り、肩から力を抜くように頬杖をついていた。


「あのっ、ジャンヌ。それでさっきのは……?」

第一声にアーサーが隣から私をのぞき込んできた。

他の生徒に聞こえないように配慮はしてくれているけれど、授業中でないこともあってさっきみたいに潜ませていない声だった。すると、ずっと項垂れるように背中を丸めて小さくなっていたステイルも気が付いたように私に顔を向けた。そうです!と若干ひっくり返りそうな声で続いたステイルもそのまま前のめりに私へ顔を覗かせる。

途中からアムレットの事ばかり考えていた所為で一瞬彼女の話をしそうになったけれど、パウエルの事だったと手前で気が付く。ええと……と繋ぎながら私は交互に二人を見比べた。


「大したことないの。ただパウエルが、……高等部の学生ということが心配になって。何年生かだけでも聞けば良かったなって」

嘘ではない。

今は第二作目の人達を助ける事が先決だけど、やっぱりパウエルの実年齢は気になる。第三作目では攻略対象者の中では最年長だったパウエルが、今は高等部。……しかも、学年とクラスによっては。

「ああ……」と私の言葉に二人も納得したように頷いた。実際、それで今も色々心配だし、どうかご無事でという心境だ。

ステイルが助けた子ってことは、間違いなくパウエルは普通クラスだ。けれどもし三年生だったら、ヴァルと同じクラスになる可能性もある。

流石に初対面の相手に喧嘩を吹っ掛ける二人じゃないと思うけれど、それでも一触即発になったらと妙な不安を感じてしまう。今のパウエルがどういう性格かはまだはっきりとはわからないけれど、ゲームのパウエルはなかなか容赦のない性格だった。そしてヴァルは現在進行形で九割以上の人に容赦ない。今朝もあんなこと言っちゃったし、学校初日で高等部校舎破壊みたいな大事件にならなければ良いのだけれど。

そう思って一人肩を落としていると、アーサーが「少なくともパウエルは良い奴そうでしたけど」と零し、ステイルに視線を向けた。


「どォなんだよ?会った時何歳ぐらいだった?」

「……大体俺と同じくらいだったと思う。だが、誤差はある」

昼休みに会ったら聞いてみます、とアーサーから私に言葉を返してくれたステイルは、また声を潜ませた。そこまで緊急性の高い話題でないことにほっとしたのか、チラチラと目がアムレットの方に向き始める。

そういえばステイルも、アムレットの名前を聞いた時にすごい驚きようだった。もしかして知り合いとかだろうか。ステイルも昔は城下に住んでいたのだし、不思議ではない。

するとちょうどアーサーも同じことを考えたのか、ステイルに向けて「ンで」と言葉を繋いだ。


「お前、さっきのアムレットってのと知り合いか?ほらあの、一番前の」

「ッ指さすな馬鹿!気付かれたらどうする⁈」

アムレットを指で指し示そうとするアーサーの手を、ステイルが叩き落とす勢いで掴み、止めた。

潜ませた声で「断じて知り合いという程の仲じゃない!絶対的に関わりたくないだけだ」とアーサーを必死の形相で睨んだ。更には私にまで了承を望むように目で訴えてくるから、思わず頷いてしまう。

やはり知っているようだ。まさか第二作目の主人公とも知り合いとかステイル凄すぎる。パウエルのこともあるし、ティアラや私よりも第二作目に強い縁でもあるのだろうか。

アーサーが指そうとしたした先に私も目を向けてみれば、さっきまで一人で座っていたアムレットが今は他の女の子達に話しかけられていた。まだ顔は見えないけれど、その光景を見ながらゲームでも途中入学したアムレットにクラスの子が話しかけてきた場面が序盤にあったなと思い出す。

第二作目は第一作目の主人公のティアラとは別系統の主人公だった。でもキミヒカの主人公だし、間違いなく優しい天使みたいな子に違いない。せめて顔を見ればもう少し思い出せる気がするのだけれど……ここからだと残念ながら背中しか見えない。

だけどああして初対面らしき女の子達にも人気があるのを見ると、やっぱり乙女ゲームの主人公っぽいなぁと思ってしまう。誰かと恋愛スタートしてからは攻略対象者によって女子の妬みや僻みを受けるパターンも乙女ゲームには珍しくないけれど、少なくともまだ誰とも恋愛していない筈の彼女は普通に人気者だ。……いや、もしかしたらもう十四歳だし、恋人とか好きな人くらいいる可能性も



「な、なぁ。お前ら三人って兄弟か何かか?」



……不意に、言葉を投げ掛けられた。

顔を上げると、まだ話したことのない少年が複数人でこっちに歩み寄ってきていた。全員早々と友達になったのか、または既に顔見知りなのかもしれない。

頭を掻きながら話しかけてくれた男子の左右にも複数並んでいて、全員が同じクラスの男の子だ。


「はい、従妹弟です。父の兄弟が王都で働いていて、その知り合いの家にお世話になっています」

眼鏡の黒淵を押さえつけながら、決まっていた言葉をさらりとステイルが返す。

アーサーも同調するように頷くと少年は「王都⁈すげぇじゃん!」と声を上げた。実際はアラン隊長は王都どころか城で働いているのだけれど、ここでそこまで言う必要もないと考えたのだろう。彼の叫びに引っ張られるように、周囲にいた子もバラバラと話し出す。


「王都のどの辺だ?俺のおじさんもそこで働いてるぜ」

「俺も従兄弟が初等部に」

「ていうか確かそっちはジャックだろ?背ぇ高ぇよな」

「じゃあお前らも王都に住んでるのか?」

次々と堰を切ったようにステイルとアーサーに投げ掛けられる。この感覚すっごい懐かしい。本当に学生に戻った気分になる。

流石二人とも、早々に男子にモテモテだ。目立つ容姿だし、当然といえば当然だけど。ステイルが上手く決めていた設定どおりに男の子達の質問にすらすらと答えてくれる。更にはアーサーも話しかけられる分は、嘘でない限りわりと自然体で返していた。むしろステイルよりもすんなり男の子達と仲良くなっていっている気すらする。

これはもしかして、と人気な二人に少し期待しながら、改めて周囲を見回せば教室の隅に固まっている女子達がこっちに視線を向けていた。

すごい。ゲームとかアニメとか漫画でしか見たことのないイケメン転校生のワンシーンみたいだ。

ただ、ぐるりと視線を回した途中のアムレットはやっぱりこっちを向いていなかった。仲良くなったらしい女の子達との話に夢中だ。乙女ゲームの主人公って大概人気のイケメンに最初は全く興味なしから始まる……って!違う違う!これは現実現実!

ついつい今までの癖で乙女ゲーム脳が出てしまう。もうゲームとは舞台はあっても全然違う世界なのだから。国は崩壊していないし、学校だってこんなに早く……、……はや……く……。…………あれ。


アムレット、十四歳??


気付くのが遅い!と直後に自分で思ったけれど、それよりも顔色に出ないようにするので精いっぱいだった。

ステイル達がクラス中の注目を浴びている間に私は頭の中を整理する。アムレットが十四歳ということは、第二作目の主人公が十四歳。今さらになってやっと第二作目との時間差を理解する。

第二作目は庶民の学園恋愛。そしてゲームでのアムレットは高校生だ。そして、十七歳。

学校に先輩もいて、後輩もいて、同級生もいるという一番美味しいポジションである二年生が乙女ゲームでは高校生主人公の定石だ。

なら、恐らくこれは第二作目のゲームスタートから三年前ということになる。

第二作目が始まるのは、二年前に創設された学園にアムレットが途中入学してから。つまり逆算すれば、ゲームの学園が創設されるの自体はたった一年後だ。……流石はジルベール宰相、仕事が早い。

ゲームだと、女王プライドが国を崩壊させて酷い状態になっていた上で出来上がった学校だ。きっと学校入学希望者数も現実の比じゃない。

自分達の生活も辛い中で、それでも勉学を学びたいと願った学生。そんな生徒達なら、一年早く出来上がった学校にもきっと入学しているだろう。……あれ、でも確か二作目のラスボスって何か特権使って裏口入学とかさせる子だったような。全員が勉学において積極的もしくは優秀な生徒が優先して入学できた設定の学園で、基準無視して捻じ込む系の‼︎というか、そもそも彼女が……。

けど、どちらにせよ第二作目の攻略対象者達が三年早く出来上がった学校に入学を目指すのは自然な流れだと思う。何せこっちは今のところ希望生徒全員が入学できているのだから。ゲームみたいに希望者殺到で定員超過ではなく全員だ。裏口入学する必要もない。

そして学園ものである限り、恐らくは最低一人はアムレットの同級生、後輩、先輩……つまりは十四歳と十三歳と十五歳の攻略対象者がこの学校にいる筈だ。第二作目に教師はあり得ないし、つまりはとにかく全員が中等部‼︎

あとはそれが普通クラスか特別クラスかだろうか。乙女ゲームだし、王子様ポジションの人物が特別クラスにいる可能性は高い。少なくともパッと見はこのクラスにアムレット以外はゲームの登場人物も見当たらない。なら、同年齢の攻略対象者は残りのクラスか特別クラスだろうか。

中等部のクラスはどの学年も五組までだし段々とこれで潜伏場所は絞られてきたと、紋々と前世の乙女ゲーム知識も活躍させて推理をひねり出していたその時。


「そっ、……そこの〝赤いの〟もお前らの従妹だろ⁇」


バーナーズって言ってたもんな?と、さっきまで二人と大盛り上がりしていた男子が、若干ひっくり返った声で投げ掛けてきた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ