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フリージア王国備忘録<第二部>  作者: 天壱
勝手少女と式典

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Ⅱ150.勝手王女は対応する。


「ステイル第一王子殿下の御誕生日、まことにおめでとうございます」


ありがとうございますと、私は挨拶をしてくれる来賓に言葉を返す。

ステイルの誕生祭には今年も大勢の来賓が出席してくれた。ハナズオ連合王国が出席できなかったことは残念だけれど、それ以外の同盟国は遠方でも殆どが参加だ。

母上の代になってから少しずつ結ばれ、同盟共同政策を立ち上げてから更に増え、この前の公式発表での〝学校〟始動から爆発的に今までの近隣国と和平国も同盟に名乗りを上げてくれた。

同盟を結び、自国にも学校を。そしてゆくゆくは同盟共同政策の学園への入学権をと望んでくれているところが多いらしい。将来的に自国に学校を作りたいから、その為のモデルケースや構造を教えて欲しいというのが多いのだろう。学校制度も全部我が国独自の機関だから、同盟国にならないと具体的にどうやって構築すれば良いかまではわからないもの。後は、……まぁ、この前の奪還戦による効果も大きいのだろうなと思う。

奴隷制ではない国や奴隷被害を受けている国からすればラジヤ帝国は凄まじい脅威だったから、その大国を追い払って逆に降伏させたフリージアは今や奴隷反対国にとって大きな後ろ盾だ。

中には逆に奴隷制度を持っているからこそ、ラジヤに睨まれるのが怖くてフリージア王国と仲良くするのを躊躇っていた国も今回のことでフリージアに傾いてくれた。ただ、そういう国は結局のところ奴隷大国であるラジヤ帝国が商売の大元である場合が多いから、我が国として今はちょっと様子見状態だ。

母上と父上も、外交担当のヴェスト叔父様も暫くはラジヤ帝国関連の国とは距離を置きたいと考えている。まだフリージア自体が近隣諸国に倦厭されていた時代だったなら一つでも多くの理解国をと検討したかもしれないけれど、今は同盟国に困っているどころか順番待ち状態だもの。半年以内にはラジヤから奴隷返還も始まるし、いっそ今後は奴隷制度の国には我が国へ奴隷返還を同盟の条件にしないかとジルベール宰相が法案まで提唱している。

今回のステイル誕生祭にも一部だけ同盟希望国の代表を招待している。間違っても私の時みたいなことにならないように、ラジヤとの関係とか国の黒い噂とかがない清廉潔白国をヴェスト叔父様が厳選してくれた国限定だけど。

本当に同盟希望の国が増えすぎてこうでもしないと見きれなくなっている。昔は母上が直接同盟を結びたい国へ赴いたり、わざわざ城下まで御迎えに行ったことまであったらしいけれど、今は逆に我が国へ訪れたいと各国の使者が絶えないから凄まじい。いやすごく、すごくありがたいことなのだけれども!


「暫くは国外の式典には足を運ばれないということで、私共も残念でなりません。プライド第一王女殿下、今日はお会いでき誠に幸運でした」

同盟国の国王からの言葉に返しながら、表情筋にしっかりと力を入れる。

王女自粛期間中の私は、国内の式典以外には参加できない。今までお邪魔していた目の前の国王の式典にも私は不参加だ。代わりに母上や父上と一緒に私の補佐であるステイルや次期王妹のティアラが代理で行ってくれるのだろうけれど、こうやって残念がっている来賓の言葉を聞く度に申し訳なくなる。私からしても、今や自国の式典はこうしてアネモネ以外の国外の人に会える貴重な機会だ。


「先程のダンスも素晴らしいものでした。確か記憶が正しければプライド第一王女殿下は、以前もあの騎士と最初にダンスを……?」

ええ、と思わず苦笑気味に笑いながら私はさっきのダンスパーティーを思い出す。

正確に言えば最初に踊ったのは義弟であるステイルだけど、来賓として最初に踊ったのは前回の私の誕生日と同じくアラン隊長だった。

一番最初に手を取るダンスは意味も結構深いし、元婚約者のレオンを含む王族よりも毎回優先となるとなかなか色んな目で見られがちだ。私もそれはよくわかっている。……けれど、やっぱりどうしてもアラン隊長とのダンスが楽しくて。

あんなアクロバティックに踊ってくれる人なんて私が知る限り彼しか居ない。ついくせになっちゃってどうしても折角の機会だと思うと踊りたくなってしまう。だからといって、エリック副隊長との約束をここで言えるわけもない。

アラン隊長にもちゃんと万が一にも誤解を受けたり第一王女の私に優先されるという点でやっかみや妬まれる可能性もあることは伝えたけれど、もう見事に一言返事で「大丈夫です!」の快諾だった。まぁアラン隊長に喧嘩を売って無事で済む人は滅多にいないだろうけれども。

目の前の国王も、他の来賓と同じようにそれとなくアラン隊長との仲を探ってくる。もうダンスが終わってから七度目の探りだ。今頃アラン隊長も大変だったらどうしようとそっちの方が心配になる。……まぁでも。


「アラン騎士隊長は私の優秀な近衛騎士なんです。それにあのダンスに付き合って下さるのはアラン隊長くらいで」


ハイペース且つハイリズムのハイテンション。

ふふっ、と口元を隠しながら私は心の中でそう唱える。アラン隊長とのダンスは他の人とのダンスとは体力配分からして違う。正直、私じゃなくて普通の令嬢だったら、転ぶか靴が脱げるか二人目と踊る前に体力切れする可能性がある。私はそこが好きなのだけれど。

私とアラン隊長とのダンスを見ていたであろう国王も、それを聞いた途端納得したように頷いて言葉を返してくれた。嘘ではないし、あの激しいダンスが私好みだとわかって貰えればアラン隊長へ無駄に文句をつけることも防げる。


「ですから、体力が残っている内にお願いしていますの。アラン隊長にはご迷惑を掛けています」

「!とんでもない。プライド第一王女殿下に手を取られること自体が誉でしょう。是非次は我が息子の手もご検討下されば幸いです」

ありがとうございます、とありがたい社交辞令に社交辞令で返しながら礼をする。

そんなこと言ったらそちらの第一王子が確実に私の所為で体力をすり減らすと怯えるんじゃないかと心配だ。勿論、アラン隊長以外の相手とはちゃんと普通のペース配分で踊るけれども。

ティアラも毎回セドリックの手を一番最初に取っているし、王女二人とも固定の男性を一番最初に選び始めたから余計に皆気になっちゃうのだろう。アラン隊長は騎士だけど王族でも貴族でもないから、来賓の目には異色感もあるのかもしれない。アラン隊長本当にごめんなさい。

私がダンスを受けるの自体を我慢すればいいのだけれど、やっぱりどうしても音楽が流れると踊りたくなる。他の来賓を含めても前回はアラン隊長とハリソン副隊長とエリック副隊長、そして今回はアラン隊長とカラム隊長。……この分だと次の式典ではまた反省せずにアラン隊長とアーサーとダンスかなぁと自覚する。

ティアラの企画してくれたダンスパーティーは順調に式典の催しとして固定化している。ジルベール宰相が手を回してくれたのもあるけれど、来賓にも大好評らしい。私とステイル、ティアラでお互いを入れて六人くらいと踊ったら、最後は父上と母上も踊ってくれることになったからそれが凄く嬉しい。父上も母上も絵になるし、上品で優雅で、王の気品ってああいうことなんだろうなと見るたびに思うもの。私も見習わなきゃ。

ふとそこでまた次の来賓が話しかけてくれて顔を上げれば、ちょうどステイル……の方向が目に入った。ステイルもいるのは間違いないのだけれど、なかなか姿が見えない。私の補佐でもあるステイルは、いつもわりと近くにいる筈なのに王女や令嬢の影に隠れて完全にドロンしている。高身長のステイルだけれど、この時の為にヒールを履いて髪型にも高々と気合を入れている女性も少なくないからここからだと完全にステイルが隠されてしまう。

ステイルは成人になってからは特に女性人気が高い。学校でもアーサーと並んで人気モテモテだけど、こっちだと〝第一王子〟〝未来の摂政〟だからブランド力も凄まじい。……それを言うと今やアーサーもアーサーで〝聖騎士〟の称号がついてるからなかなかだけど。

今までは式典中もちょいちょい来賓の目から抜け出しては私の調子を確かめに来てくれたステイルも、十七以降からはぴっちり女性陣が張り付いて抜け出すのは困難だ。さっきのダンスでもステイルに手を取られた女性は全員顔が真っ赤──


……でもなかった。


いや、ステイルがモテないというわけでは断じてない。寧ろ今もモッテモテだし、ああしてステイル狙いの女性で引く手数多だ。ただステイルがダンスで選ぶ女性が私とティアラ、そして残るは妙齢以上且つパートナーのいる女性。つまりはご婦人を主にダンスに誘うようになっていた。妙齢の女性は毎回一人だけだ。

私がアラン隊長でティアラがセドリックなら、ステイルは確実に毎回ヴェスト叔父様の奥様をダンスに誘っている。その娘であるセシルとは今回踊らなかったのに。

理由を尋ねれば「暫くは必要なさそうなので」と私との婚約者候補関係を指して言われてしまった。

元々女性達に期待を持たせるのが嫌だというステイルは、今なら自分が最低限しか女性をダンスに誘わなくても母上達に指摘はされないと踏んだらしい。表向きは婚約者候補のことをステイルは知らないことになっているけれど、前回のダンス後もヴェスト叔父様から指摘も婚約者候補についての情報開示もなく……ステイルもちょっぴりムキになっている可能性がある。

ステイルから幸運にもダンスに誘われた女性は凄く顔が真っ赤で、抑えた黄色い悲鳴がいくつも飛んでいた。今回は彼の誕生祭で注目度も高いから、来賓の期待も高い。今もさっき踊った女性と父親らしき人物が順番待ちをしてる。私の補佐で養子のステイルは我が王族の中では一番立場も低くはあるけれど、やっぱり第一王子ということもあって不動の人気だ。

私の婚約者候補を黙認してくれるステイルだし、今のところ気になる女性は多分居ない。社交界でも昔から老若男女関係なく親しくしているステイルだけど、特定の親しい女性はいない。皆、仲良くご友人といった印象だ。子どもの頃からステイルの社交性は高かったから、昔からの式典やパーティーで会うことが多かった上級貴族や同盟国のご婦人や紳士には結構可愛がられている。まぁそれは天使のティアラもだけれど。それでもやっぱりステイルが特別視している人というのは姉妹の私やティアラから見てもー……


『アムッ……エフ……⁈』


……。

ある意味、彼女が一番特別視に近いだろうか。完全に避けちゃっているから親しいとは離れているかもしれないけれど。

私の所為でアムレットとステイルとの接点が増えてしまったことは本当に悪いことをしたと思う。なるべくステイルのいない休み時間を狙って会うようにしたけれど、彼の負担を増やしたことに変わりはないだろう。

ステイルが避けたい、話したくないという意思を見せるなら私も尊重したい。何よりステイルの事情といえば理由はたった一つだ。

王族の規則を守る為に正体を死守しようとしてくれているからこそ、彼女とも関わりたくないのだろう。ただ、アムレットは主人公ポジション関係なくあんなに優しくて良い子なのに仲良くなれないのは勿体ないなと思う。頭も良くて落ち着きもあって、少し大人びていてステイルとも話が合いそうだ。アムレットだって私のことだけじゃなく接点の少ないアーサーともステイルとも親しげに……、…………あれ⁇


「ステイル第一王子殿下の御誕生日おめでとうございます。プライド第一王女殿下」


そういえば、と。何かを思い出した時だった。思考が深くなる前にまた新たな来賓に話しかけられて止まる。

あれ、何を考えていたかしらと。さっきまで思考しながら会話や挨拶を続けていたから一気に霧散してしまう。順番待ちで私の前に現れてくれた彼に、笑みを向けながらしっかりと意識を集中させた。


「ありがとうございます、セドリック・シルバ・ローウェル王弟殿下。……ふふっ、今日はティアラと話はできた?」


言葉を整えてくる彼に私からも同じ口調で返せば、それだけでセドリックに赤みが帯びた。

更に悪戯心でティアラの名前を出せば、堂々と振る舞っていた彼の背中が僅かに緊張するように反れ、余計に顔色を紅潮させる。


ステイルと同様に引く手数多だった彼と今日初めての会話に胸が躍った。


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