表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
フリージア王国備忘録<第二部>  作者: 天壱
勝手少女と学友生活

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

193/1000

相談し、


『今夜、ヴァルも同行させることになりましたので宜しくお願い致します』


セフェクの頑張りましたで賞とケメトの特待生お祝いの話が一区切りついた後、ステイルがそう言った。

もう客間でヴァル達を迎えた時に話も終えたらしく、詳しいことは尋ねても「その時のお楽しみです」で教えてはもらえなかった。……まさか学校で早々に送っていたカードの「最低限先に伝えといた方が良いかと思いまして」相手がヴァルだったなんて。

でも、にっこり笑い返したステイルは悪い笑みというよりも本当に楽しそうな笑顔だったから私もお言葉に甘えた。ヴァル達と一緒に話を聞いたであろうティアラも「楽しみにしていてくださいっ」と自分はお留守番にもかかわらずうきうきモードだったもの。


セフェクとケメトは寮でお留守番に凄く異議ありっぽかったけれども。

「私も見たいのに!」「僕も一緒に行きたいです!」と訴えていたけれど、学校に通っているファーナム姉弟に見られたらヴァルとの関係もばれちゃうし、そうでなくとも子どもバージョンの私達の呼び名を聞かれたら「え?ジャンヌ?フィリップ?」と容疑確定されちゃうから今回だけは私達も頷けなかった。

最終的には、ヴァルが明日の家族団欒を引き合いに怒鳴ったら渋々と頷いてくれた。

明日、明後日と私達は私事で学校を休むことになる為、その関係でヴァルにもその間は学校に来なくて良いと許可を降ろしていた。そこでステイルからの依頼を受ける代わりにとヴァルが私達に要求してきたのは、その間一時的に元の姿に戻せという旨だった。

元々は、必要時にしか元の姿に戻さず配達人を継続して貰う約束のヴァルだったけれど、逆に配達が休みの間こそ元に戻りたかったらしい。

確かにフリージア王国に居ても絶対彼は人目につくし、学校の不良生徒のヴァルと元の姿のヴァルが二人と並んでいるのを何度も城下の生徒にでも見られたら関連付けられやすくなってしまう。年齢が全く違う同一人物なんてそれこそ噂になったら大変だ。ただでさえ特殊能力三人組なのに。

特殊能力を解く時は距離が離れていても解けるジルベール宰相だけど、特殊能力を掛ける時は触れないといけない。だから三日後にはまたステイルの瞬間移動でこっそりジルベール宰相とヴァルを誰にも気付かれず会わせる必要があったりと、二人の協力がないとなかなかヴァルは年齢の往復が難しい。

ステイルがジルベール宰相に許可も得てもらい特殊能力を解いてもらったヴァルは、早速元の格好に戻っていた。

いつもの姿に戻ったヴァルを見て、セフェクもケメトもこれなら行きたい酒場に行けるって大喜びだった。多分明日か明後日には二人の放課後にでも早速そこに行くんだろうなと思う。ケメトとセフェクも私達にお祝いされるよりも、一番はヴァルにお祝いされたいに決まっているもの。

ステイルからも、もし今夜手間をかけるようなことになれば極秘潜入期間中でも学校がない日はヴァルの希望に合わせて必要外でも元の姿でなるべく過ごせるように瞬間移動とジルベール宰相にも取り計らうと交換条件を上乗せしていた。


そのこともあってか、ファーナム姉弟の家に同行して貰った後も彼らの前で顔こそ隠して終始無言だったヴァルだけれど、ステイルの希望全部に応えてくれた。

家の強度を上げただけじゃなく、ちゃんと内装外装の亀裂修復調整から井戸の採掘までしてくれたし、本当に至れり尽せりだ。……いつもなら確実に「住めりゃあ良いじゃねぇか」とか「内装なんざ知るか」とか「なんで外まで」とか言いそうなヴァルが、一言も。

正体を隠す手前ファーナム姉弟の前で話せなかったこともあるだろうけれど、それにしてもヴェスト叔父様以外であんなにも無言なヴァルは珍しかった。それだけ元の姿に戻りたかったのだろう。なるべくお休みの日は私からも元の姿に戻るか声をかけようとこっそり決めた。


土素材の物なら大概操れるヴァルの力は相変わらず凄まじい。

ところどころボコついたり出っぱったりめり込ませていたのはご愛敬だけれど、最終的には作り立てみたいに綺麗な家になっていた。煉瓦造り特有の隙間もなくなった壁は、互いがピッチリと綺麗にくっついていた。強度単体で言えば普通の新築より頑丈かもしれない。あの家ならきっと三年後どころか、何十年でも保つだろう。

使える部屋も格段に増えたし、今後三人が生活していくにはまず困らないと思う。


「あー、そうだ。あの家なんですけど、明日俺ちょうど休息日ですしちょっと頃合い計って見に行ってみます。問題なければペンキの塗り替えくらい手伝えたらと思うんですけど、良いですか?」

苦笑いのまま指先で頬を掻いていたアラン隊長が、空気明るくするように手を上げてくれる。

えっ⁈そこまでしてくれるの⁈と目を剥いたけれど、「あくまで親戚の友達のよしみで、休みの暇潰しに」と断るアラン隊長に断る理由も難しい。もう既にシンデレラレベルのアフターケアがされたと思うけれど、休日に本人希望ともなると私からここで「サービスし過ぎだから駄目です」と禁じる方が出張りになる。

私が恐る恐る頷くと、カラム隊長も「確かにその方が安心だ」と前髪を指で払いながら頷いた。ステイルも少し気持ちが持ち上がったように「せっかくのお休みに宜しいのですか」と少し抑えた声色で視線を投げる。

それにアラン隊長は「いえいえ!」と手を振ると、ニカッと明るい笑顔を見せてくれる。今はいつも以上にその笑顔がほっとする。さっきまでお葬式みたいな重さだった空気がいつの間にか一転している。


「やっぱ素人にペンキ塗りとか落ちたら万が一もありますし!親戚の友人が腕折って勉強に支障出たなんて笑えませんから。俺は慣れてますし、簡単には折りません」

「明日でしたら、確かラッセルも暇していると言っていましたし朝に誘われてみてはいかがですか?または二番隊のエディも明日は予定ないと思います」

「確かにエディは適任だろう。彼なら壁を垂直に歩けるから効率的だ。ただしアラン、あくまで個人的にだ。そしてファーナム姉弟の迷惑にもならないように」

……騎士様によるペンキ塗りとか良いのだろうか。

アラン隊長の親切過ぎる言葉にエリック副隊長、カラム隊長まで助言をくれる。話を聞く限り特殊能力者まで適材適所配備されそうだ。

アラン隊長だけでも心強いのに、さらに騎士達がついてくれるとかありがたいを通り越して畏れ多過ぎる。しかもアラン隊長が声掛けたら確実に協力してくれそうな気がする。ダンスの時だってアラン隊長の人望や人気は甚大だったもの。

思わず呆けてアラン隊長達の話を聞いていると、流れるように近衛騎士達の井戸端会議は広がっていった。


「もしエディが無理であれば……。アーサー、八番隊のジェフはどうだ?」

「へ⁈……あ、と……ジェフさんはいっつも演習場らしいので予定はないと思います。けど、……多分誘っても無理かなと」

「隊長が命じれば聞く」

「ッいや休みなのに命じれませんって‼︎‼︎」

ハリソンさんも命じちゃ駄目ですよ⁉︎と、さっきまで顔が赤らんでいたアーサーもカラム隊長に肩を叩かれれば上下させてすぐ会話に入った。流石カラム隊長。

ハリソン副隊長まで一言会話に加われば、いつもの元気なアーサーがそこに居た。やっぱり先輩騎士の存在は計り知れない。

最終的にはアラン隊長が「じゃあ明日騎士館で暇してる奴適当に誘うかー」と気楽そうにいえば、もう確実に明日で壁塗りも完璧になるだろうなと思う。

カラム隊長へ「放課後で良いよな?」と確認を取ると、ぐぐっとストレッチをするように伸びをした。


「明日はセドリック王弟は学校行くんだろうけど、代わりの奴が入ってくれるし。俺もその間に安いペンキ屋とか当たりつけとくかー」

「なら、私からヘレネ・ファーナムにその旨だけでも伝えておこう。流石にアランが顔見知りとはいえ、突然騎士が集まったら驚かせる」

「僕らの話題も避けるように口止めだけお願いします。ジャンヌやフィリップの名前が出れば、知っている騎士には気付かれてしまうと思うので」

わかりました、と返すカラム隊長に続いてアラン隊長も一言返す。

「うっかり騎士達がジャンヌ様の話題をしないように気をつけますね」と言われ、……そんな四年も前の話がまだ話題になっているのかしらと少し思った。

まさか、あの時は本当にたいへんだったなとか殲滅戦でのやらかしが苦労話にされているんじゃないかと思ったら、ものすごく申し訳なくなる。

アラン隊長の代わりに明日セドリックの護衛に付いてくれる騎士は校門前を守る騎士同様、万が一私達の話題を聞いても気付かない四年前は本隊にいなかった人達の中から選出してくれているらしいけれど、今エリック副隊長が話していた騎士達はそれ以降の騎士もきっといる。


明日と明後日、学校に行けない私達と違ってセドリックは明後日はともかく明日は学校にも行く気満々らしい。

その為、アラン隊長とハリソン副隊長は明日久々の丸一日お休みだ。カラム隊長は明日も私達の護衛関係なく講師で学校だけれども、こうしてみると本当に皆に負担かけている。アーサーとエリック副隊長も表向きはさておき、実質半休が殆どだもの。今回の学校潜入が一区切りついたらちゃんと纏った休暇を与えて貰えるように私からも騎士団長にお願いしよう。


「……時間だ」


その時。

突然ぽつりと、空気を割るようにハリソン副隊長が呟いた。


Ⅱ115.


Ⅱ127-2

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ