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フリージア王国備忘録<第二部>  作者: 天壱
勝手少女と学友生活

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Ⅱ137.勝手少女は明かし、


「プライド、……まさか本気にはしていませんよね……?」


茫然としたまま自室のソファーに腰を降す私へ、ステイルが心配そうに声をかけた。

その途端、ふぇっ⁈と間の抜けた声が出てしまった。返事をした直後に言葉の意味を理解して、暑くもないのに汗がじわじわ額に染みる。顔を向けた先ではまだ私と同じ十四歳のステイルが訝しむようにじっと覗いてきてる。

い、いいえ⁈と両手を振って否定しながらも、また声が吃ってしまって信憑性が地に落ちる。アーサーや近衛騎士達までまじまじと私を見るものだから堪らなく恥ずかしくなって、夜中にも関わらず大きな声が出てしまう。


「だっ大丈夫!ちょっと色々びっくりしただけだから!」


ファーナム姉弟家一夜大修繕アフターを目にした後、私達は人目のないことを確認してからカラム隊長、ハリソン副隊長とも合流しステイルの瞬間移動で戻ってきていた。

私はというと、……その直前のディオスによるイタズラが不意打ち過ぎてちょっとの間クラクラしてしまった。まさかあんな何の振りもなく突然プロポーズみたいなことを言われるとは思っても見なかった。すぐに冗談とはわかったけれど、いきなりそんなこと言われたら色々びっくりしてしまう。

もともと子どもっぽいところが強いディオスに言われると、なんだか中学生というよりも小学生からの告白みたいで、……逆にイタズラではなく子ども心に本気で言ってくれているような気がして笑い流せなかった。

たった一瞬で、あの場だけでも「まぁそれは楽しみだわ」と保育士さん気分でお受けするか、いやいや私第一王女だから安易に言っちゃだめでしょという心境が物凄く鬩ぎ合ってしまった。今考えれば安易に答えなくてよかったと心から思う。早々にディオスがネタばらしをしてくれて良かった。


しかも、耳元で不意打ちに「結婚して」と囁くディオスがその時だけ雰囲気まで違った。

本当に、なんかもう乙女ゲームの世界……とそうなんだけれど!そうじゃなくて凄くロマンチックな雰囲気に飲まれたというか、全然いつもと別人だった。

普段の子どもっぽいディオスじゃなくて、あの一瞬だけはゲームのミステリアスキャラの時に近くて、肌がざわっと撫でられたかのようだった。あれを一般の女の子に悪戯でやったら確実に心が持っていかれてしまう気がする。……それを思うと本当は怒れば良かったんだけれど。

そういうことは冗談でも言わないの!とか、こらっディオス!とか。なのに全く言う気にもならないどころか、腹すら立たなかった。それくらい「嘘だよ」と言ったディオスがあまりにも、可愛くて。

イタズラが成功したことを嬉しそうに頬を緩めて、涙で潤んでいた若葉色の瞳をきらきらと月明かりを吸って光らせて顔を綻ばせていた。しかも後ろに手を結ぶ可愛らしい動作でにこにこ無邪気に笑うディオスを見たらなんかもう怒れなかった。

王族でもないジャンヌ相手に冗談でも「結婚して」なんて言ってくれて、貰ってくれるなんて満面の笑みで言ってくれた。純粋にその気持ちが嬉しくて足元が少なからず浮き上がってしまった。私もつくづく弱い。

今までもディオスが笑ってくれる顔は何度か見たけど、あんな純粋ではにかんだ顔で笑われると怒るより



……良かったなと思えてしまった。



クロイは大人びているし、同年齢の十四歳の男の子達と比べてもやっぱりディオスは子どもっぽい。

けれど、それは大しておかしいことじゃない。だって、今まで学校もなかった彼らにとって精神的というか性格的な個人差や発達は本当に環境によるもの。特にファーナム姉弟はご両親が亡くなってからずっと子どもだけで辛い環境に三人で耐えてきた。心優しいお姉様が自分達の為に体調を崩して、兄弟でずっと大人たちに混ざって働いて、そんな中であれだけ子どもらしくいられたディオスは凄いなとすら思う。その分クロイが大人びちゃったのかもしれないけれど。

ゲームだと同調と、その後のラスボスの所為とか色々あって性格的にも冷ややかなイメージのあるミステリアスなキャラだった二人だけど、本来の姿をああやって確認するとすごくほっとする。ゲームではアムレットが双子ルートに入ってもあんな無邪気な笑顔を見せたりイタズラなんてする子じゃなかったもの。

あのままディオスもクロイもそのままの彼らで成長してくれれば良いなと思う。…………今後、〝妙な〟影響を受けなければ。

ふとそこまで考えた私は、今日のことを思い出して片手で頭を押さえてしまう。心なしか本当に頭痛に襲われている錯覚まで覚える。明後日までこの頭痛が続いたらどうしよう。その内、胃まで痛くなりそうだ。

私のことを心配してくれていたステイル達が次々と大丈夫ですか、ご気分でも、一体なにを言われたのでしょうか、医者を呼びますか?と聞いてくれるけど首を横に振る。どちらかというと今は百パーセントが癒し成分でできているティアラが欲しい。

流石にこの時間にティアラを起こすわけにはいかないし、代わりに顔を上げて「大丈夫よ」と笑ってみせる。

ステイルと近衛騎士達に今日は遅くまでありがとうとお礼を伝える。その、直後。


「プライド。……まさか、耳打ちではなく頬に口付けでも受けたのでは……?」


はい⁈

訝しむように眉を寄せるステイルに、私は正直に顔へ出てしまう。何言っているのこの子⁈

でもそう言うステイルの表情は冗談でもなくこの上なく真剣な表情で、そういえばディオスが耳打ちした時もステイルだけでなくアーサーもエリック副隊長もアラン隊長もすごく警戒してくれていたなと思い出す。まさかディオスが酷いことをするとは思えなかったし、大して私は警戒もしなかった。……まさか、攻撃されるよりも強烈な悪戯を受けるとは思わなかったけれど。今後の彼のことが色々な意味で心配だ。

あの時は月明かりしかなくて真っ暗だったし、実際にディオスの唇が私の耳元すぐにあったから勘違いされても仕方ない。いや!でも‼︎


「ない!ないわ‼︎全然‼︎ちょっぴり驚くこと言われただけで、本当に可愛い悪戯だったから‼︎間違っても不敬罪にはっ……」

ッならないとは言えないけれども‼︎‼︎

いや、でもあの時は王女じゃなくてジャンヌだったし!未成年同士の悪戯と思えばただただ可愛いものだ。

けれど、私の全力フォローの発言にステイルは「イタズラ……?」と何故かそこだけピンポイントで繰り返した。ヴァルじゃないんだから誤解を招く部分だけ引用しないで欲しい。

今もステイルの発言にアーサーがぎょっとして顔を赤らめ出してるし!アラン隊長達に至っては、なんだか苦笑いだ。今にも「まぁ子どものやったことですから」と肯定のフォローが入っちゃいそうで怖い。

違うから‼︎と私が再び夜中に関わらず喉を張り上げようとした時。



「それはあり得ません。確認致しました」



スッ、と刃のような差し込みで低い声が突如放たれた。

私達と温度差の強い声に振り返ると、ハリソン副隊長だ。さっきまで、……というか今夜の護衛に付いてくれてからずっと一言も発しなかったハリソン副隊長の第一声に口を俄かに開けたまま返してしまう。

私だけでなく、ステイルもアーサーも近衛騎士全員が注目を向けていた。発言を頭の中で確かめるように数秒の沈黙が続いた後、アーサーがゆっくりと口を動かす。


「ハリソンさん、……確認って……見てたンすか?」

「第一王女殿下に口付けなどしようものならばその前に排除している」

いや排除しないで‼︎‼︎

アーサーの問いかけに一言で答えるハリソン副隊長に心の中で叫ぶ。

でも、実際に一度ディオスを連れて学校を飛び出した時、私に掴みかかろうとしたディオスを躊躇無く壁に叩きつけている彼だ。お陰で恐ろしく信憑性が高い。

私とディオスを庇ってとかじゃなくて、本当に見たまま有言実行の元の事実なのだと伝わった。お陰でどこからともなく息を吐く音が複数聞こえてくる。……でも、どこで見ていたんだろう。

カラム隊長と一緒に外の物陰とかファーナム姉弟にも気づかれない場所で私達を警護監視してくれていたハリソン副隊長だけど、全く気配も何も感じなかった。学校の時もそうだけど、月明かり頼りの真夜中にもばっちり確認してくれたのが凄すぎる。

納得したようにゆっくり頷くアーサーを見て、ステイルも眼鏡の黒縁を押さえつけながら重く息を吐いた。「失礼致しました」と私に頭まで下げて謝罪をしてくれた後、改まるように低めの姿勢で私を見上げる。


「…………ならば、何を言われればあれだけ取り乱されるのですか」

低い声に反して何処となく萎れている表情のステイルに、うっかり誤解を招く発言をしちゃったのを落ち込んでるのかなと思う。このまま何でもないわで通したら余計に落ち込ませそうだ。

ううーん、と少し唇を結んで考えた後、まぁこれ以上誤解を招くよりはいいだろうと決める。……自分の残念さを白日に晒すのが恥ずかしいけれど。

心配させてごめんなさい、と笑いかけながら私は正直に言葉を続けた。


「結婚して、ってからかわれちゃっただけよ。あまりにも不意打ちだったから驚いただけ」


瞬間。

グアッッ、とほんの一瞬だけど凄まじい圧が放たれた気がした。

「なっ」とか「えっ⁈」というステイルとアーサーの声を無音で塗りつぶすの勢いだ。どこからかわからないくらいほどの大きな圧に思わず笑顔のまま顔が引き攣ってしまう。

息を止めたままギリギリの精神で維持しても、あまりの突発攻撃に冷や汗が伝った。……なんだろう、まるで強風が吹き込んだような感覚は。

視線だけを怖々動かせば、明らかにハリソン副隊長が目をくわりと獣レベルに見開いていた。私と同じ紫色の瞳とうっかり目があって、ヒィッと悲鳴を漏れそうなのを気合で飲み込む。怒ってる⁈なんかすっごい怒っている⁈


「第一王女殿下に……?」

なんかすっごくごめんなさい‼︎

あまりの怖い覇気に、考える前にとにかく謝りたくなる。

誰か止めて!と半歩下がりながら思うけれど誰も助けがいない。ステイルとカラム隊長は頭を抱えているし、アーサーは頬に口付けに続いて「結婚」発言が恥ずかしかったのか顔が火照ったままだし、アラン隊長とエリック副隊長は苦笑いのまま目配せし合っている。


「必要あらば捕らえます……!」

「⁉︎い、いいえ‼︎大丈夫です‼︎本当に、本当にあれは子どもの可愛い冗談ですから‼︎それに、彼らは私の正体については知らないので多めに見てあげてください‼︎‼︎」

「ディオスはあれでも十四ですよ……」

ギラリと剣を抜いて見せるハリソン副隊長を慌てて止める私に、ステイルがげんなりと重い声を重ねた。

十四だって未成年だし‼︎と叫びたかったけれど、既に頭が割れそうなほど苦い顔をしていたステイルに躊躇う。「畏まりました」と剣を収めてくれたハリソン副隊長に反し、眉間の皺がはっきりと刻まれたステイルは呟いた後にまた深い溜息を吐いた。苦々しそうに「まさかこう来るとは……」と噛み締めるように呟く。


「このような事態を招く為に特待生祝いを用意したわけではないのに。一体何故このような……」

「?で、でも、ちゃんとディオスもクロイもお姉様もステイルに感謝していたわ?」

突撃大改修強制特大プレゼントは流石に私もアーサーもびっくりしたし色々焦ったけれど。

もしかして自分が折角色々と趣向を凝らして手を打ったのに、私ばっかりお礼言われたり功績横取りみたいにされちゃったのを落ち込んでいるのかしら。


「いえ、そういう問題では……。…………ハァ」

また肩を落としてしまった。

やはりステイル頭を抱えたままだ。最後にはさっきよりも疲れ切った溜息まで足されて、なんだか自分の部屋なのに肩身が狭くなる。

確かに今回、結果として一人で色々頑張ったのはステイルだ。私なんてステイルと違ってささやかなお祝いすらしてあげられてないし、なのにステイルの謙遜を真に受けてディオスからも最終的には私が美味しいところを貰ってしまった。私は大改装作戦すら教えて貰えなくてファーナム姉弟と同じくらいオドオドするばかりだったのに。

帰りがけには全員にお礼を言ってくれたけれど、やっぱり気合入れて頑張ったのに人の手柄にされたら落ち込むわよね。ステイルのことだから喜ばせる自信も確信もあってサプライズを仕掛けるべく色々秘密にまでした筈なのに。しかもヴァルにまで交渉して。


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