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フリージア王国備忘録<第二部>  作者: 天壱
勝手少女と学友生活

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そして立て続ける。


「ごめんなさいレオン……早々に改善へ努めるわ……少し時間を貰っても良いかしら」

「勿論さ。そこまでプライドが気に病む必要もないよ。寧ろ新しいことを始めたら、問題や誤作動が生じるは当然じゃないかな。その為の国内での学校だろう?」


レオン、優しすぎる。と、プライドは心の中で叫びながら少し頭痛が治るのを感じた。

ありがとうと言葉を返しながら、力なくレオンへ笑いかければすぐにいつもの滑らかな笑みが返される。「むしろ」と彼女が気を持ち直すのを手伝うようにレオンはさらに言葉を続けた。


「問題点も含めて知れたことはアネモネにとっても大きな利点だよ。同盟共同政策同様にアネモネでも事前に手が打てるからね。それに、プライドの愛らしい姿がこの目で見れたのだけでも充分価値があったし」

さらりと王子様この上ない台詞を告げるレオンに、プライドも少し気恥ずかしくなる。

子どもの、色気も何もない十四歳の姿をレオンに見られたことに今更ながら照れてしまう。彼には十六歳以降の自分しか知られていない為、まるで昔のアルバムでも見られたような感覚に庶民の格好かつノーメイクである事実が顔を熱らせた。

「あんな格好で……ごめんなさい」と両手で頬を挟んで冷やしながら俯くと、「ううん、凄く可愛かったよ」と躊躇いなく本心が告げられる。優しいレオンの発言が身に染みてしまうプライドに、ティアラも同意するように「学校で一番可愛かったです!」と声を上げた。ですよねっと周囲の彼らに笑いかければ、全員からも合意と頷きが返ってくる。

あまりに温かすぎる身内対応だとプライドは思いながら、やっと常温に戻った顔を上げた。ありがとうと感謝を零しながら、まだ協力してくれようとするレオンの為にも早々にこちらの問題も解決しなければと心に決める。まだ攻略対象者が二人見つかっていない今、できれば何とか並行して解決を……と考えた時。


「プライド様。……配達人が訪れたとのことです」


あああああぁぁぁああぁぁ……と、扉の前から放たれた近衛兵ジャックの言葉に、プライドは目眩を覚えた。

学校に潜入中の為、国内にいることが多い彼が今日も城に訪れたこと自体はおかしくない。しかし、これからヴァルに会って書状を受け取ってお金を払って、せっかく訪れてくれたレオンを置いてもいけない。更には女王であるローザの元へいかなければならない用事もできたと頭の中が忙しい。

彼女に告げられた更なる来客登場に、ステイルも「そうだった……」と眉間を指で押さえながら呟いた。溜息を吐き、これ以上彼女の負担を掛けないようにすべく「いつもの客間ですよね?取り敢えず僕が行きます」と立ち上がった。

すかさずティアラも「私も行きますっ!」と飛び上がり、ステイルの横へ駆け寄る。


「お姉様達はゆっくりお話をしてらして下さいっ!時間が掛かっても大丈夫ですよ。ヴァル達は私の部屋でおもてなししておきますからっ」

「今日は書状の手渡しはありませんでしたよね。ならば報酬だけ任せて頂ければ、俺が代理で済ませます」

今のうちにまたナイフ投げを見てもらおうと考えたティアラに、ステイルが読めてるぞと言わんばかりに提案する。

ステイルの意図を理解し、ぷくっと頬を膨らませたティアラは「それでも私の部屋に招きますからねっ」と言うが、すかさず「どうだろうな、奴も今は忙しい」と冷たく言い放った。ティアラが王配業を継ぐ形で国に残ることになった今、引き続きヴァルから指南を受けて腕を鈍らせたくないティアラと、そしていい加減に王女へ不要な筈の戦闘力と妹に危ない習い事をさせたくないステイルとの並行戦が行われていた。

二人の平和な喧嘩に少し和まされながらも、プライドは気遣ってくれる二人に感謝する。

じゃあ今日はお言葉に甘えようかしらと扉の向こうにいた衛兵に今日の分の配達人への報酬を用意させるように伝えたプライドは、一度二人に任せた。

ジルベールも仕事へ戻るべく、「長居し過ぎましたね」と腰を持ち上げる。


「私も少々配達人に話をさせて頂いてから戻ります。急遽、彼を通して依頼したいことができましたので」

それでは、と。にこやかに笑むジルベールに続くようにして騎士団演習場に戻るべくカラムと午後から演習のアーサーも頭を下げた。

エリックは一日非番で夜まで帰ってこない為、そのままハリソンとアランに任せてその場を退室することになれば、人口密度が減るこの状況にセドリックは少しどうすべきか思案するように眉を寄せた。自分も既にプライドへの用事は終えた今、退室すべきである。だが、折角のレオンが来た途端に退室するのは無礼ではないかとも考える。しかしせっかく隣国から訪れたレオンがプライドと話す機会だというのに自分は邪魔ではないか。そして何にも勝り、彼が最も気になって仕方ないことは


「セドリック王弟」


予想外な相手から声をかけられ、セドリックは肩を上下させて息を飲む。

顔を上げ、見れば眼鏡の黒縁を押さえつけたステイルが扉の前からティアラと並んで自分を見やっていた。まさか兄がセドリックに話しかけるとは思わなかったティアラも、目をくりくりと丸くしてステイルを見上げてしまう。

二人の驚きの表情を二秒ほど敢えて堪能したステイルは、それからニンマリと敢えての意地の悪そうな笑みで続きを投げかけた。


「お前も来るか?折角来たんだ。姉君との話も終わって暇だろう」

「!是非とも‼︎‼︎」

ヴァルを自室に招く、とティアラの発言を聞いてから気になって仕方がなかったセドリックは全力でステイルの誘いに飛びついた。

兄様‼︎と、ティアラが顔を真っ赤にして抗議をするがステイルは気にしない。ナイフ投げ練習をしていることを一部の人間しか知らない今、これでティアラがヴァル達にナイフは誘いにくくできたと思う。

何より、ティアラがヴァルを部屋に招く発言を聞いてから顔色の変わったセドリックはステイルの目から見てもなかなかに面白かった。先ほどプライドの城下御忍びについて軽く脅してしまったことの詫びも含めて、取り敢えずせめて表向きの「部屋に呼んでいるのはヴァルではなく、実質セフェクとケメトと遊んでいるだけ」という大義名分だけでも教えて安心させてやるかと思う。

目の焔をきらきら輝かせながら、誘いかけてくれたステイルに感謝を燃やすセドリックはプライド達に挨拶をするとそのまま迷いなく退室を決めた。

そして先頭で部屋から出るべく廊下へと足を踏み出したステイルは、最後に笑顔でプライドとレオンへ振り返った。


「姉君は一度ゆっくり休まれて下さい。母上への許可を頂く時には俺もご一緒しますから。レオン王子、それまで姉君とごゆっくり宜しくお願い致します」

ステイルの言葉にレオンも滑らかに笑み、一言「ヴァルに僕もちょうど城に来ているとお伝えください」とだけ伝言を託した。もし今日のことで自分に苦情か何かしらあれば、きっとプライドと話が終わるまで客間かティアラの部屋で待っていてくれるだろうと考える。

そうして専属侍女と近衛兵、近衛騎士、そしてレオンとプライドを置いて彼らは部屋を出た。ソファーから立って見送ったプライドとレオンは、扉が閉ざされてからゆっくりと腰を下ろす。

専属侍女のマリーが新しい紅茶を煎れ直しロッテが残ったカップを片付ける中、せめて今日はこれ以上のイベント発生はしませんようにと願いながらプライドはレオンに向き直った。


「どたばた落ち着かなくしてごめんなさい」

「とんでもないよ。そんな君との時間も愛しいから」

素敵な言葉を返してくれるレオンに癒されながら、プライドは淹れたての紅茶にほっと息を吐く。

こんなふうにレオンと自室で語らうのは初めてかしらと思いながら、数秒の沈黙に耳を休ませた。自分の部屋に訪れたこと自体少ないはずのレオンが、こうしてソファーで寛いでいるのが今はとても落ち着くと思う。

「そうそう、プライドに謝らないといけないことがあるんだ。実は四限で偶然ヴァルに……」

気を取り直し、学校について語らい合うプライドは暫しの休息を楽しんだ。



……一時間もしない内にステイルとティアラ、そしてセドリックに引き連れられたヴァル達と共に「ケメトが特待生になった」という大ニュースを聞かされることになるまでは。



お祝いしなきゃ!お祝いしましょう!お祝いだねと。

結局、急ぎケーキとお菓子をと侍女へ命じるプライドのイベント満載な慌ただしい一日はその日中続くことになった。



就寝時間を迎えた、その後までも。


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