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フリージア王国備忘録<第二部>  作者: 天壱
支配少女とキョウダイ

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Ⅱ113.姉は夢を見て、


── ごめんなさい。







『二人ともそっくりだもの。お友達が気づかなくても仕方がないわ。お姉ちゃんだって二人が寝ているとわからなくなっちゃうもの』


……これ、は……?……。…………ああ、そうだわ。

……懐かしい、思い出。

お母さんとお父さんも生きていて、とても幸せだった。田舎暮らしから抜け出せると友達は皆んな羨ましがってくれたけれど、私はその時の暮らしも大好きだった。お母さんもお父さんも優しくて、いつか城下に移り住むと夢を見ていた。

お父さんは毎日村中のお家を修理して回っていて、お母さんは毎日私にお料理や小物作りを教えてくれた。お母さんと二人でする手芸はとても楽しくて、一度始めたら時間を忘れるくらいに楽しかった。


── ごめんなさいごめんなさい。


『なんだよクロイの馬鹿!じゃあ僕がもっと髪を切れば良いんだろ!』

『別にそこまでしろとか言ってないし。そっちが切ったら僕も切るから』

『それじゃあ変わんないだろ!』

大好きな弟にも囲まれて、いつもとても仲良しなあの子達も大好きだった。

母さん譲りの白い髪と若葉色の瞳を持つ弟達は、いつだって私の自慢。時々ケンカをしてもすぐ仲直りをして、手を繋いで歩くあの子達がとても可愛いくて。

ずっとこの子達の姉でいられることが何よりも幸せだった。


『はい。お姉ちゃんから贈り物。初めて一人で作ってみたの。きっと二人に似合うと思うわ』

今思えばきっと男の子に髪留めなんて、二人とも恥ずかしかったかもしれない。

私には可愛い弟でも、二人は立派な男の子だったのに。それでも二人とも目を丸くした後には「ありがとう」と声を揃えて笑ってくれた。その日から毎日毎日付けてくれた。本当に優しい優しい私の弟で。………………二、人……?


『二人ともお揃いだけど、本数が違うからこれでいつでも誰にでも好きな時に見分けがつくでしょう?お姉ちゃんもお揃い作っちゃった。一本なのが───ちゃん、二本がクロイちゃん。……ほら。二人ともとっても可愛いわ』

『ずるい!姉さんは三本でクロイは二本で僕は一本だけ⁈』

『別に一番目の弟が───で僕が二番目ってことでしょ。いやなら今日から僕が兄になるから』

やだ‼︎と怒って膨れる兄に、クロイちゃんが呆れたように笑った。……兄?……あら、いやだわ。……私……。




クロイちゃん以外に弟なんていない筈なのに。




『でも姉さん、なんでこの飾りなの。……いや、別に良いんだけど』

『これも姉さんが作ったの⁈すごいね!』

どうして、二人もいるの?私の弟はクロイちゃんだけの筈なのに。……嗚呼、また……また頭がおかしくなっちゃった。

二人の言葉に私が笑う。気付いてくれたのが嬉しくて、目を輝かせて褒めてくれたのも嬉しくて、二倍の幸せをくれた弟達に答えを語る。


『お空にはね──』


── ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい





……





「……さん、……姉さん、ねぇ。大丈夫?」


呼び掛けてくれる声が……柔らかい。

虚な意識の中で細い光が差し込むように、大好きな声がかけられる。

薄く目を開けて、そのあとも何度か瞬きをパチパチと繰り返せば段々と視界がはっきりした。締め切られたカーテン越しに上がり切った太陽の光を浴びて、目の前の男の子の純白の髪が反射して照らされる。

喉が不思議とカラカラで、喉が張り付いて上手く声がでない。乾き切った唇を、頬から伝った水滴が湿らせた。


「ほら、もう泣かないで。魘されていたみたいだけど……大丈夫?水でも飲む?」

タオルでそっと私の目元を拭ってくれる弟に、ありがとうと言いたかったけれど嗄れてしまう。

魘されていた、という言葉に夢でも見ていたのかしらと思う。思い出せない。けれどとても悲しい夢。昔の、本当に昔の思い出だったような気がするのに


もう、思い出せない。


「ありがとうクロイちゃん。……いつもごめんね」

茫然としてタオルを受け取る気力もなかった。

笑顔を作って私はお礼を伝える。そのままタオルを受け取ろうと手を伸ばせば、……その途端クロイちゃんは怯えるかのようにパッと手を離してしまった。添えようとしていた私の手にタオルが落ち、力の入らない手では掴みきれず掠めて膝の上に落ちてしまった。

毛布の上に力なく畳まれた折り目ごと崩れてしまったタオルに視線を落として、それからクロイちゃんと見比べる。首を傾け、どうしたの目で尋ねてみてもクロイちゃんは何も教えてくれない。


「ぁ……っ、……ごめん、姉さん。ちょっとその、びっくりして。体調はどう?今日はいい天気だし、窓を開けても平気そう?」

「ええ。クロイちゃんのお陰で大丈夫よ。窓は……ごめんね、ちょっとまだ寒くて。少し温まってからでも良い?」

本当はこもりきりの部屋よりも新鮮な空気を吸いたい。

けれど、薄い毛布では何枚重ねてもどうしても寒くって。お母さん達の私財を売って生活を繋ぐ時期が長かった所為でもう私の家には殆ど何も無い。家具に続いてとうとうベッドまで手放してしまったのは……、あら…ここは……お家じゃない……?

窓を開けても、最初は気持ち良くても途中から風が当たる首だけでなく指先まで冷え切ってしまう。寒気程度なら我慢できるのだけれど、歯が悴んでしまって呼吸も苦しくなると、顔色まで正直に出てしまう。その度にクロイちゃんに心配される方が体調よりもずっと辛くて堪らない。

うん無理しないで、とクロイちゃんが優しく返してくれる。窓を開けようとした手を止め、代わりにテーブルの上にある水差しでコップに注いでくれた。一人では立ち上がって水も取りに立てない私の代わりにクロイちゃんは色々してくれる。……そうだわ、私達のお家はもう一年くらいに無くなってしまった。だから、最初は綺麗で大きなお屋敷に移って、その次がここで。確か、バド……ガー……?

コップを受け取り、お礼を返した私は一口一口確かめながら張り付く喉を潤した。昔は自分で家のこともできたのに、今はもうクロイちゃんの手無しじゃ生活することもできない自分が情けない。そう思うとまた口癖のように謝ってしまいそうで。

唇にぎゅっと力を込めて我慢する。それでも自分の無力さだけがただただ苦しい。いっそこのまま死んでしまえれば、クロイちゃんももっと自由になれるんじゃないかしらと考えてしまう。


「どうしてお姉ちゃん、……こんなになっちゃったのかしら……?」

結んだ唇が解ければ、またそんなことを言ってしまう。

私の呟きを聞いたクロイちゃんが「姉さん」と哀しげに私を呼んでくれる声が聞こえたけれど、ただ届かない窓の外を眺めるしかできない私は目も合わせられない。

昔は、……もっと色々できた。身体を壊してからだって、クロイちゃんが代わりに働いてくれるようになってもその分家のことはある程度できた。お掃除をしてお料理をしてお買い物にも出られて、ちゃんとお城にも



『特殊能力申請義務令ね、お姉ちゃんが今日申請してきたから大丈夫よ』



「………ぁ……っ」

記憶が、……襲う。

突然知ってる筈の記憶が頭を引っ掻いて、抉れたみたいに頭が痛くなる。ああぁ、まただわと思った瞬間にはもう遅かった。知らない筈の記憶が、知っていてはいけない記憶が、思い出したくない記憶が、〝消したい〟記憶が泉のように溢れ出す。


『ッッ触らないで‼︎‼︎』

『ごめん、姉さん。わかってる、悪いのは僕だから』


「ぁッ…あっあっぁっ、ぁっ………あぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああ……ッ」

金切り声のような悲鳴が聞こえて、頭を抱えながら自分の声だと気付いたのはクロイちゃんが呼び掛けてくれてからだった。

一生懸命「姉さん!大丈夫‼︎しっかりして‼︎」と呼んでくれるのに返事もできずに喉を張り裂けさせる。ごめんなさいごめんなさいごめんなさいとただただひたすらにその感情だけが湧き上がる。

痛みに耐えられず意識が遠くなって、自分でも何を考えているのかわからなくなる。誰かに許しを乞うように、痛みが和らぐのを祈るようにただただ謝り続ける。ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい






穢れちゃってごめんなさい






『はぁ?雇わねぇよ。仕事の欲しいガキなんざ有り余ってるんだ。ほか当たるんだな』

『あの女王が治めるようになってから金に困ってんのは何処も一緒さ!弟が二人?ならどちらかを売るんだね。裏の市場に行けば暫くの飯代ぐらいにはなるだろうよ』

『どうしても金が⁇そりゃぁ可愛そうだ可愛そうだ。だが生憎仕事ならもう間に合ってるんだ。が、……〝お嬢ちゃんなら〟高く買ってもらえる場所を知ってるぜ』

『なぁに、簡単な仕事だ。〝やり方〟なら俺達がいくらでも教えてやる』


ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい。

どうしてもお金が欲しかった。どうしても二人だけは手放したくなかった。どうしても守りたかった。どうしても……


貴方達にだけは知られたくなかったの。


綺麗な二人に、純粋な二人に、お父さんとお母さんから貰った身体をこんな風に汚したなんて知られたくなかった。

二人の、……大事な家族の前だけではせめてずっと綺麗なお姉ちゃんでいたかった。

毎日毎日〝お仕事〟をして、お金を貰って、……二人にきらきらと見られるのがいつの日かとても苦しくなった。本当はそんな目をして貰える人間じゃないのにと。

朝起きても辛くって、仕事に向かうのも、仕事を探して見つからなくて夜にまたあのお仕事へ向かうのも辛くて、家に帰るのも辛かった。辛くて辛くて辛くて辛くて誰にも相談できなくて、段々と心と一緒に身体まで疲れちゃって働けなくなったことに……どこかで、ほっとした。もう身体を売らなくて良い理由に救われた。


『姉さんはゆっくり休んでてよ。もう僕らだって働けるから』

優しい二人に甘えて、仕事から離れて少しずつ心は癒された。

元に戻った何でもない細々とした日常に、身体の汚れが少しずつ洗われた。私も家でできることをやって、お仕事をしてくれる二人のお手伝いをすればどれだけ貧しくても幸せだと思えた。……なのに。


「姉さん、しっかりして。大丈夫、悪い夢だから。息をして、ゆっくり、ゆっくり」

私を落ち着かせようとクロイちゃんが何度も語り掛けてくれる。

一つ一つ言葉を切って、まるで子どもにでも言い聞かせるみたいに繰り返される。藁にでも縋るように薄く息を繰り返しながら、一体さっきまで何を考えていたのかしらと思う。

遠い記憶のような、思い出したくないことで、……忘れたく、なかったことのような。


「ありがとうクロイちゃん……ごめんなさい、もう大丈夫……」

息が整って、震えた声でそう返してクロイちゃんを見返せば、行き場のないように手を私へ浮かせた手で固まっていた。私が気付いて見つけると、慌てたように空の手を背中のうしろに隠してしまう。……そういえば、どうして今日は一度も私に触れてくれないの?

私の仕事のことは知らない筈なのに。昨日はあんなにたくさん背中を撫でて、抱き締めてくれたのに。時々こうしてクロイちゃんは私に全く触れてくれない日がある。もしかして私がもう穢れていることが知られちゃったのかしらと思うとまた震えが止まらなくなる。それとももう、こんなに迷惑をかけたお姉ちゃんじゃ触れたくもない?

クロイちゃんにどう見られているのかが怖い。こんなに、こんなに私は迷惑しか掛けられていないのに。どうして、どうして



『ッッ触らないで‼︎‼︎』



「っ……?」

何処かで聞いた、私によく似た声が頭に響いた。

一瞬、息もできなくなって固まるとクロイちゃんが「何か温かいもの作ってくるね」とその場を立った。返事をしない私の様子を確認するように一歩一歩後退りして、そしてとうとう背中を向けた。

視界の隅でそれを捉えて振り返るとクロイちゃんの痩せ細った背中が見えた。「クロイちゃん……」と呼べば、掠れた声だったのにすぐに振り向いてくれた。今、頭の中で過ったものが思い出せなくて、怖くて瞬きも忘れたまま口を動かした。


「お姉ちゃん、……クロイちゃんに「触らないで」なんて酷いこと言ったことある……?」

上擦り、カタカタと震えた声で尋ねればクロイちゃんは目を見開いた。

振り返ったまま立ち尽くして、口を開けたまますぐには返してくれなかった。否定してもらえることを期待しながら、同時に思い出せるのならとも心の何処かで願う。見つめ続ける私に、クロイちゃんは一度顔を俯かせた。ギリッ、と歯を鳴らす音がしてクロイちゃんまで肩を震わせた。どうしたの、と言葉を重ねようとすればそれよりも先にクロイちゃんが顔を上げてくれる。


「何言ってるの。姉さんがそんなこと僕に言うわけないでしょ。〝たった一人の〟姉弟なんだから」

そう言って、枯れたように笑うクロイちゃんは、……その目がどこか悲し気で。

口が笑っているのに目だけが今にも涙を零しそうなほど悲しい色で光もなかった。「ちゃんと休んでよ」とそのまま力のない笑顔で今度こそ部屋から出て行ってしまう。きっと今、私はクロイちゃんを傷つけたんだわとはわかっても、それ以上どうすればいいのかわからない。

そうだわ、きっと酷いことを言ってしまった。私が、大事なクロイちゃんにそんな言葉言う筈なんてないのに。余計なことを言ってクロイちゃんに悲しい気持ちにさせてしまった。とうとう幻聴まで聞こえるようになってしまった。そう、……あの時なんて、もっとおかしなことをあの子に言ってしまった。


『ごめんね、お姉ちゃんもう駄目みたい』


でも、そう見えたの。

本当に頭がグチャグチャでわからなくて、もう思い出せないくらい辛くて辛くて辛くて辛くて仕方がなくてこのまま死んでしまいたいと思ってしまった。

色々なことが全て苦しくて、一つ一つがまるで細い糸で首を絞めてくるみたいに私に息も許してくれなかった。いっそもう忘れたい、なかったことにしたい、壊れてしまいたい死んでしまいたいと何度も思った瞬間に、プツリと頭の中で糸が切れた感覚だけを今も鮮明に覚えている。

本当に一瞬だけ気持ちが楽になって、その瞬間だけは心の底から笑えることができたのがほっとして、哀しかった。目の前の幻覚すら、もう自分がおかしくなってしまったのだと受け入れられちゃったくらいに頭も冷えた。……あぁそうだわ、あの時にきっと私はおかしくなってしまった。だって




『だってお姉ちゃんね、いまクロイちゃんが二人に見えるの』




そんなこと、あるわけないのに。





……






「……っ、……?……」


……ここは、どこ?

ぽわぽわと頭がぼやける。瞼の向こうからお日様の光が透けて、ああもう朝なんだわと思う。 

なのに目を開ける気にはなれなくてじっと思考が纏まるまで瞑っていれば、遠いどこかで誰かが呼ぶ声が聞こえる気がする。

喉が少しだけひりひりしてヒクついて、苦しい。最近は調子も良かった筈なのに。


「……さん、…………姉さん、……大丈夫……?」


遠くで呼びかける声が、輪郭を帯びる度に近く聞こえる。

私の耳が遠くなっていただけで、声の子はすぐ傍にいてくれたんだわと思う。ああ……なんだか懐かしい。どうしてかしら、誰よりも一番聞き馴れた声の筈なのに。

姉さん、と誰かが私の手を包む。姉さん、とまた誰かが私の髪を耳へと掛ける。二つの同じ声が重なって、とても懐かしくて愛おしい。重い瞼を空けるのが、勿体なくて待ち遠しい。


二人が触れてくれることが、こんなにも嬉しい。


「……。…………ディオス、ちゃん……クロイちゃん……?」

目を開けた途端、最初に白い光が目を眩ませた。

陽の光が二人の白い髪に反射して、瞼の下を潤ませていた涙が余計に眩しかった。するとぼやけた視界でどちらかがタオルで涙を拭ってくれる。

「大丈夫⁈」と元気な慌てる声に顔を見る前からどちらなのかがすぐにわかった。涙を拭われ、ひくついた声と喉の痛さに泣いていたのだと遅れて気付く。涙が拭われた分、開けた視界で瞬きを繰り返せばやっと白い光だった二人の輪郭が現れた。ベッドで眠る私を心配そうに覗き込んでくれる天使みたいな子達。

ディオスちゃんとクロイちゃん。両親を亡くしてからずっと私の生き甲斐で、ずっと助けてくれた



私の、家族。



「姉さん、大丈夫⁇なんか、すごく魘されっ……?」

姉さん?とそう尋ねてくれるのと私が二人に腕を伸ばすのは一緒だった。

自分でもわからないくらいに、目の前に並んでいてくれる二人が眩しくて嬉しかった。まるで、とても久々に逢えたかのような感覚に、やっと触れられるのだと胸が高鳴った。変だわ、二人はいつだって私と一緒にいてくれたのに。

伸ばした腕のまま、覗き込んでくれた二人の首へと回して抱き寄せる。力が上手く入らなくてすぐに解けちゃいそうだったけれど、その前に二人が届いた首ごと顔を近づけてくれた。並べても全く同じ顔の弟達が、お揃いに目を丸くして私を見る。不思議と喉がまだヒクついて、泣きつくように抱き締める。さらりと細いお揃いの純白の髪が指の間に抜けた。

会いたかった、会いたかったと心の底で何かが叫ぶ。


「……姉さん、どうしたの。やっぱり何か悪い夢でも見た?」

この言い方はクロイちゃん。

顔を見なくてもわかる。だって二人は弟だもの。ちょっぴり大人ぶるクロイちゃんと、子どもっぽいディオスちゃんもどちらも大好き。

悪い夢……そう言われて、何か見ていたのかしらと思う。だけど、何も覚えていない。ただただ二人の顔を見た途端、すごくほっとした。お姉ちゃんなのに恥ずかしい。

どうして突然抱き着いちゃったりしたのかしらと、今更になって思う。……気がつけば、二人を抱き締める前が朧げで。本当に寝ぼけちゃっていたみたい。


「姉さん、大丈夫。悪い夢だからっ……深呼吸して。ゆっくり、ゆっくり」

心配するようにちょっぴり弱々しい声はきっとディオスちゃん。

私に頭を抱き締められたまま私の背中をそっと撫でてくれる。すると合わせるようにクロイちゃんも一緒に撫でてくれた。ディオスちゃんの言葉に頼るように深く呼吸を繰り返せば、しんと頭も透き通った。


どんな怖い夢でも、二人が居てくれる現実だけでこんなにも救われる。


Ⅱ26

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