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フリージア王国備忘録<第二部>  作者: 天壱
支配少女とキョウダイ

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〈コミカライズ重版出来1-2・感謝話〉現代王女は甘く笑う。

昨日の重版感謝話に引き続き、本日は再重版の感謝を込めて特別話を書き下ろさせて頂きました。

少しでも楽しんで頂いて感謝の気持ちが伝われば幸いです。


本編と一切関係はありません。


IFストーリー。

〝キミヒカの舞台が、現代学園物風だった場合〟

今回は〝1巻〟再重版感謝話の為、コミカライズ1巻に合わせたステイルとアイビー姉妹主軸の物語になります。御了承下さい。


※あくまでIFです。

登場人物達は本編と同じような経過を経て同じような関係性を築いていますが、一部呼び方を含む関係性や親密性が本編と異なります。

本編で描かれる登場人物達の関係性は、あくまで本編の世界と舞台だからこそ成り立っているという作者の解釈です。

友人、師弟、主従、恋愛等においても本編と全く同じ感情の種類や強さとは限りません。


※現代をモデルにした、和洋折衷の世界観です。

特殊能力は存在せず、日本をベースに王族・騎士が存在します。年齢も違います。


※時間軸は第一作目解決後です。


※あくまでIFです。

※ 本編と一切関係はありません。

簡単に現パロの感覚でお楽しみ下さい。


「本当に良かったの二人とも?私が行きたいところにしてもらって」


とあるカフェの看板前で私は弟妹にもう一度確認する。

学園から徒歩圏内にあるそこには既に我が校の生徒の制服がチラチラ見える。主に社交科ではなくて普通科の生徒の制服だけれど、やはり皆考えることは同じらしい。

私達がたどり着いた時には既に店内で列ができていた。全国チェーンとはいえやっぱり若者人気カフェなだけあって根強い。

私の問いかけに二人はそろそろと最後尾へ促しながら「勿論です」と笑ってくれた。


「私も期間限定のフラペチーノがすっごく気になってました!是非お姉様と一緒に飲みたいですっ」

「それにかなり人気らしいので、飲むなら早くした方が賢明だと思いますよ。既に品薄や売り切れになる店舗も出ているそうですから」

ティアラに続いてのステイルの台詞にどきっとしてしまう。

そう、今回の私の目当てはその期間限定フラペチーノだ。看板を見かけた時から新作二種類どちらもすっっごく美味しそうでずっと飲みたかったけれど我慢していた。そして今日、とうとう私は夢にも見た新作を飲みに訪れている。

何故なら今日は、試験最終日。羽を伸ばす絶好の機会だ。


「プライドもティアラも試験は充分頑張られたのですから、このくらいの寄り道は良いと思います」

今日まで試験勉強に費やしていた私達は、三人で帰り道にお疲れ様会を開くことにした。

昨日も試験後は友達と勉強会というティアラと、試験勉強を見てほしいと泣きつかれたステイルを残して猛ダッシュで帰宅して私は勉強した。

社交科で学年首席常連組のステイルやティアラと違い、私は毎回自分のことで必死だ。ラスボスプライドの頭は決して悪くないのだけれど、それでも首席を取るのは毎回至難の技だったりする。何せ、私の同学年には絶対記憶の天才神子のセドリックがいるのだから。

暗記問題は絶対満点を取れちゃう彼に私が唯一勝機を見出せるのは、論文関連や文書とかの思考問題くらいである。お互い満点で並んだこともあるセドリックは、転入してからは私にとって最強のライバルだ。

一応学園創設者の娘である私にはなかなかの由々しき問題でもある。第一王女の私が負けるわけにはいかないと、それからはかなり頑張って試験対策に励んでいた。そして今回も例外ではない。ここ最近は寄り道も遊びも我慢しての試験勉強を終えた今、ステイルとティアラとのカフェタイムは最高のご褒美だった。


「……⁈あれ?」

そんなことを考えながら三人で仲良く並んでいると、その横を駆け足で見覚えがある人が横切った。

ステイルとティアラも気付いたらしく振り返ったけれど、私と同じくちょっと予想外の人物だったせいで丸い目で二度見三度見してしまう。いやでも絶対今のはあの人だ。

私達には気付かず真っ直ぐに去っていった彼を身体ごと振り返って目で追えば、そのまま脇目も振らず学園方向に去ってしまった。


「……見た?」

「少し、いえかなり意外でしたが……」

「間違いなければ、右手に持っておられたあのパッケージは今週新作発表されたダブルチョコマカロンホットモカだと思いますっ」

私の問いに頷きで返してくれるステイルと、的確な観察を披露してくれるティアラに私は少し苦笑う。

やっぱり二人も私と同意見らしい。あまりにも意外過ぎる一面に、取り敢えずあの新作の感想は聞いてみたいと思う。学校に戻ったということは、本当に新作を買う為だけに店に寄ったのだろうか。

すると扉に近い位置にいた私達へ、出て行く客に扉が開くと同時にビュウッと風が吹き込んだ。不意打ちの冷たさに思わず私とティアラはお互いに硬らせながら肩をくっつけ手を繋ぐ。まだ寒いこの季節にそのまま熱量を求めてステイルの腕へも反対手でしがみつく。触れた瞬間ステイルも肩が上下したからやっぱり彼も寒いらしい。

早く列が進まないかしらとティアラと繋ぐ手にもぎゅっと力を込める私に、ひと呼吸吐いたステイルが「これから冷たいものを飲むおつもりなんですよね?」と確認した。言い方に若干呆れが混ざってる気がする。仕方がない、新作期間限定と寒さは別だ。


「俺が纏めて注文しておくので二人は奥の席を取って待っていて下さい。テラス席も冷えますから」

ステイルの優しい気遣いが物凄く申し訳ないけどありがたい。

わかったわ、と言葉を返しながら私は新作のフラペチーノどちらにするかを今更悩む。いやこっちも、でもこっちもと寒さに肩を震わせながらぶつぶつ言えば、その間に店員さんが並ぶ私達へメニュー表を先に手渡してくれた。この豊富なメニューを前に、なんだか他の飲み物も魅力的に映ってしまう。特にホット‼︎やっぱり別じゃない!寒い‼︎

それでも最終的には目的通りのフラペチーノ片方を選べば、ティアラももう悩む時間が勿体無いのか「私もお姉様と一緒でお願いします‼︎」と食い気味に続いた。そのままステイルに後を託し、私達は足早に飲食席へと避難する。

ぱたぱたと早足で広い店内を奥まで探索すると、想像はしていたけれどやっぱりどの席も満員だった。カウンター席まで綺麗に埋まっている。テラスはちらちら空いて見えるけれど、ステイルの言った通り凍えることになるのは間違いない。

どこかちょうど開く席はないかしらとティアラと一緒に席の動向を確認していると、不意にテーブル席の一角から手が上げられた。反射的に目を止めた直後、私は思わず口を両手で覆ってしまった。隣にいたティアラもほとんど同時に気付き、驚きのあまりにぴょこっと跳ねた。

瞬きもできないまま、手を振ってくれる先へと歩み寄る。挨拶をしてくれる二人へ私達からも返しながら、おずおずと問いかけた。


「騎士団長に副団長……どうしてここに……?」


「今日、ちょうど騎士科の実技試験監督がありまして」

「プライド様、ティアラ様も試験お疲れ様でした。今日はステイル様と三人でお茶ですか?」

ロデリック騎士団長とクラーク副団長は、四人がけのテーブル席に向かい合って座っていた。

私達に言葉を返しながら、どうぞと隣の席の椅子を引いてくれる二人の言葉に取り敢えず甘える。このまま私達が立ったままでは二人も話しにくいだろう。副団長の隣にティアラ、騎士団長の隣に私が掛けながらまだ瞼が上手く閉じない。ぽかりと口まで開いてしまう。

騎士団長と副団長は、我が国の騎士団のトップで女王である母上の護衛を任じられることも多い。そしてたまにだけどこうして我が校の騎士科へ特別講師として招かれることもある。


「騎士〝部〟には?アーサーには会っていかれましたかっ?」

「いえ、試験監督で会いましたが部にまでは。この前実家には帰ってきました」

騎士部は部活の一つだ。

主に、というか殆どが騎士科の生徒で構成されている部活だけれど一応は学園全学科統一の部活である。部活内容としては騎士科の生徒にとって授業とやることは全く変わらない。ただし手合わせなどの実技練習が専用設備で放課後いつでもできる上、初等部から大学部まで全学年での交流戦もできるから騎士科の生徒は殆ど入部している。そして高等部三年のアーサーもまた


「アーサーも部長を任されて今は忙しい時でしょうが、私やクラークが手助けする必要はありません」


晴れて騎士部の高等部部長を任されている。

今日も本当なら一緒にテスト打ち上げに行きたかったのだれど、部長として試験終了早々忙しくて無理だった。校内戦も近いとのことで、今も初等部から大学部までの部長会に出席中だ。

アーサーが部長に選ばれたのは嬉しいけれど、こうして前よりも会う機会が減ったのはちょっと寂しい。それに比べて騎士団長と副団長はさすが大人だ。少なくとも授業や試験に関しては全く問題がないというアーサーにほっと胸を撫で下ろす。

すると、おもむろに騎士団長と副団長が同時に立ち上がった。


「我々はそろそろ失礼しますので、このまま席はどうぞ」

「えっ⁈あ、いえっそんな」

まさかの相席どころか譲ってくれた⁈

なんだか横取りしたようで申し訳ない!むしろもうちょっとお話していたいくらいだったのに!

思わずティアラと揃って慌ててしまうと、飲みかけのコーヒーを手に立ち上がった騎士団長に並ぶ副団長が「お気になさらず」と鞄を片手に笑いかけてくれた。


「もともと少し休んだら出るつもりでしたので。ハリソンもちょうど騎士部へ戻ったところですし、我々も仕事がありますから」

「!ハリソン先輩とご一緒だったんですか⁈」

「さっき入口でお見かけしましたよっ」

どうりで‼︎

ティアラと一緒についさっき入口側ですれ違ったハリソン先輩を思い出す。やっぱりあれは御本人だった。

話によると、学校から出るところでたまたまハリソン先輩を見かけた副団長がお茶に誘ったらしい。なるほど、副団長と騎士団長のお誘いなら断らない。ハリソン先輩はカラム先輩みたいに大学部部長でないから部長会もないし。

そういえばと、そこで私は二人がそれぞれ持つ飲みかけのカップに目を向ける。騎士団長はシンプルにブラックコーヒーみたいだけれど、副団長のカップはさっきハリソン先輩が持って出ていったのと同じお洒落なパッケージだ。ティアラが「副団長も新作ラテを飲まれたのですか?」と尋ねれば、やっぱり「美味しいですよ」と肯定が返ってきた。


「是非、今度お試しになってみて下さい。噂の二種フラペチーノも人気だそうですが、甘いのがお好きでしたらこちらもお気に召すかと。ハリソンは「甘いです」「チョコの味がします」という感想だけでしたが」

「それはお前がハリソンに突然選ばせるからだろう」

途中から楽しそうにくっくと笑う副団長に、騎士団長が呆れたように息を吐く。

聞けば、一緒にカフェに入った時に副団長から「どれが良い?」との問いにハリソン先輩は「副団長と同じものを」の即答だったらしい。……なんだかハリソン先輩らしい。その結果がまさかの人気激甘ラテを片手に

去るハリソン先輩の出来上がりとなるとやっと謎が解けた気持ちになる。

副団長の「流石に今回は私の真似はしないと思ったんだよ」と言うのも聞くと、もしかしていつものことなのかなとも思う。まぁ少なくともこのカフェの注文は呪文レベルだから丸投げしたくなるハリソン先輩の気持ちは少しわかる。いっそ騎士団長と同じものにした方が味の好みに合ったんじゃないだろうか。ハリソン先輩の味の好みが甘党かブラックかはわからないけれど。

そのままマグカップのコーヒーを一気に飲み切る騎士団長と、片手に持ち帰るらしい副団長にお礼を言って私達は二人を見送った。

二人が通りすぎ際にぺこりとお辞儀している先を見ると、ちょうどステイルがトレーに三つのドリンクを持ってこちらに歩いてきてくれていた。

ティアラと一緒に手を振り、お礼を言いながらステイルを迎える。どれもクリームが高々とソフトクリームかと思うほど盛られていて、ちょっとバランスを崩したら倒壊しそうなくらいの迫力だった。


「騎士団長達もいらっしゃっていたのですね。さっきのハリソン先輩もそれででしょうか」

「ええ、三人でお茶していたみたい」

席も譲って下さったの、と説明しながらステイルからそれぞれクリーム山盛りのドリンクを受け取る。

苺のフラペチーノと、生チョコのフラペチーノ。どちらも愛しの新作人気フラペチーノだ。

発売日から人気過ぎて各店で売り切れ続出している憧れのスイーツに、こうして無事会えたことが嬉しくて仕方がない。パシャパシャと早速携帯で写真を撮るティアラに倣い、私も飲む前に携帯を取り出した。パシャっ、と一枚取ってからよく見ると、パッケージに可愛いサインが書かれていた。試験終わりとお察しのカフェ店員から、私とティアラのには〝お疲れ様です!〟とハートマーク。ステイルのには〝Nice fight‼︎〟とニコちゃんマークだ。やっぱりこういうのを見つけると嬉しい。試験の労いも忘れない配慮とサービス、本当に見習いたい。


「……どうぞ、お先に」

そろそろ飲もうかなと思ったところで、不意にステイルがまた口を付けていないドリンクを私達へ差し出してきた。

もう完全に行動が読まれていることに、つい頬を指で掻いてお礼の前に笑ってしまう。ティアラが「頂きますっ」と味わうのに続き、私も味比べの一口をもらう。

昔から味比べをしたがる私とティアラの行動はもうステイルにはお見通しだ。中等部に上がってからは、自分が食べるより先に一口くれることが多くなった。未だに子どもっぽい姉妹が恥ずかしいのか時々照れるステイルだけど、こうして自分から分けてくれる間は取り敢えずもう暫く甘えさせてもらおうと思う。ティアラなんて毎回私より先に飛び付いちゃうくらいだもの。

ありがとう、美味しいわと私からも感想とお礼を言う。いつものように私達が飲み終わるまで視線を逸らしたステイルに、今度は私達からもお返しに一口を差し出す。……けれどやはり断られてしまった。ティアラからの一口には時々応じるステイルだけど、姉である私のはなかなか受けてくれない。

それぞれのドリンクを楽しめば、やっぱり噂通りの甘さとスイーツ感だった。待ちに待った味に思わず一気に吸い上げたら、キンと頭が痛くなって手で額を押さえる。


「すごく美味しいわ。苺の味が強くて、ステイルのチョコも濃厚だったけれどこっちも甘くて。次はアーサーも連れてきてあげたいわね」

「そうですね、気晴らしにもなると思います。部長になってから未だに肩に力が入ってますし」

「兄様もアーサーと手合わせやお話しをしたいなら一緒に騎士部に入れば良いのに」

冗談言え、と。ステイルがティアラの提案に首を振って断る。……私は良いアイデアだと思うのだけれど。

今までは試験後くらいは一緒に下校したり休み時間は一緒になることが多かったアーサーの不在に、心なしかステイルも最近はちょっとつまらなそうだ。アーサーの部活後の手合わせの数も減っている。

けれどステイルとしては、仮にも社交科である自分が騎士部にそんな理由で入部するのは気が引けるらしい。以前アーサーに誘われた時も「冷やかしだと思われる」「手合わせならお前で充分だ」と断っていた。

それでも、やっぱりアーサーとの接点がなくなったのはつまらないのだろうな。

今もちょっとむすっとした表情でストローに口をつけている。頰杖を突いて一気に五分の一くらい減らした。わりと味も気に入ったのかもしれない。


「大体あいつは気負い過ぎなんですよ。なんでもかんでもカラム先輩やアラン先輩を目標にするからああなる」

やっぱり心配してる。

ちょっと文句気味に言いながら、唇を尖らせるステイルに私も苦笑う。確かにその通りだ。

部長になったアーサーはちょっと忙しくなる度に、ステイルや私達が心配しても「いやでもカラム先輩やアラン先輩はもっと忙しかった筈ですし……‼︎」と言っている。あれは二代前の部長と副部長だったカラム先輩とアラン先輩が凄かっただけだと何度も返しているのだけれども。

カラム先輩は高等部で生徒会長兼任、アラン先輩は騎士部を主軸にしながらかなりの数の運動部にも所属していた。……そしてピンチヒッターだけでなく、ちょこちょこ大会で入賞メンバーに入ったり個人で賞も取っちゃっている。あの二人と比べちゃ駄目だと私も思う。

更には「エリック先輩なんて部長副部長の作業をあんなに手伝っていましたし」と部長副部長でもなかった先輩まで見上げている。エリック先輩はエリック先輩で、騎士科に入ってからメキメキ頭角を出した人だ。去年も確かに部長か副部長か間違われるくらいにその業務を手伝っていた。


「寧ろ去年の部長副部長はエリック先輩が居られたから負担が軽減されただけですよ。あいつだって書類くらいは人任せにしても良いくらいです」

その後も「アーサーだって運動部に助っ人へ駆り出されたことはある」「カラム先輩も兼任は生徒会長だけだった」と呟くステイルは、ドリンクを掴む手が少しめり込んでいた。すると


「そういえばプライドは宜しいのですか?今日も生徒会に打診されていたと仰っていましたが」

あはは……と、私はまさかのカラム先輩から飛び火に肩を竦めてしまう。

我が国の王族ということもあって、結構前から教師に生徒会へ誘われている私だけれど今のところ毎回お断りしている。こういうのは親の立場より、普通に意識のある生徒がなれば良いと思う。手伝い程度ならやるけれど、私自身はあまり生徒会に興味がない。


「私はやっぱり一般生徒として楽しみたいわ。ステイルとティアラこそ立候補するのはどうかしら」

「プライドが立候補するなら考えますが、俺も結構です。あくまで最優先は貴方の補佐ですから」

「私もせっかくなら今のうちにお姉様と兄様と学園生活を楽しみたいです!」

ステイルも、そして中等部ならティアラも私と同じく王族且つ成績の良さから生徒会にオファーを受けている。

特にステイルは飛び抜けて頭も良いし、絶対生徒会肌なのに。

しかも彼は私よりも各部活からお誘いが凄まじい。将棋部とチェス部と囲碁部は「僕に一勝すれば考えます」と言ってから未だに完封状態だ。今もたまに勇んで昼休みや放課後に勝負に来られるけれど、今のところステイルに勝てた生徒はいない。……だからこそ、どの部もステイルを仲間にしたいのだろうけれど。


「部活も高等部に上がったからといって、これといって興味が惹かれるものはありませんね」

「弁論部は?歴代摂政が所属していたそうですし、ヴェスト叔父様も……」

「ヴェスト叔父様は良い。だが、ヴェスト叔父様ならまだしもジルベールが語り継がれているような部は御免だ」

ぴしんっと妹の言葉も容赦なく切るステイルは、そこで僅かに黒い気配を溢した。

当時普通科から特待生として入学したジルベール宰相が騎士科も社交科の生徒も押しのけて世界大会で優勝しちゃったのは弁論部では未だにレジェンド扱いだ。その所為で、ステイルは最初の部活見学の時点で踵を返してしまった。

ステイルなら記録をうわ塗る方向で頑張るのも良いと思うのだけれど、……一般人から世界優勝で宰相に成り上がる以上の伝説はなかなか難しい。ステイルも元は一般人だけど、今は立派な王族の印象が強いもの。

ティアラは生徒会はなくても友達と一緒にいくつか部活に入っているけれど、今日の放課後は無いらしく私達に付き合ってくれた。

美味しかったですね、と完飲したティアラに私も返す。ステイルも順調に飲み終わり、最後は私だ。


「また皆で来たいですねっ。アーサーにレオン王子にセフェクとケメトとヴァルも」

「奴はこういう店は来ないだろう」

「二日前セフェクが三人で行ったって言ってたわっ」

うっかり水を差してしまうステイルに、ティアラがぷくっと頬を膨らませた。

三人でお揃いの新作フラペチーノを飲んだと言ってました!と語るティアラに、二日前は試験期間中だったのになとこっそり思う。朝は遅刻常習犯なのに、放課後は平然とダベるのだから。

というか新作三人って……確実にヴァルもハリソン先輩と同じで選ぶのを面倒がった人だなと確信する。呪文注文を嫌がってセフェクかケメトに丸投げする姿が目に浮かぶ。まぁ少なくともあの人は甘いものも好むから問題ないだろうけれど。私の周りに甘いもの嫌いの男性は知る限りあまりいない。


「……ステイル。やっぱりこれも一口食べない?」

「?口に合いませんでしたか。それとも冷えたなら何か温かいものを買ってきましょうか」

四分の一ほど残った私のドリンクに、ステイルが頭を傾ける。

ティアラがきょとんと見返してくる中、そうではないのと私は首を振る。このフラペチーノは美味しい。私とティアラにはご褒美の甘さだ。試験明けの自分へのご褒美にこの上ない。だけど、だからこそ。


「すごく美味しいわ。だからステイルともやっぱり分かち合いたくって。チョコも濃厚で美味しかったけれど、こちらのストロベリーも甘酸っぱくて絶対美味しいから」

だめ?と、ついついそのままおねだりしてしまう。

やっぱり味の感想を言い合うなら同じものを食べたい。あまり子どもっぽいのは恥ずかしい様子のステイルだけど、一口だけともう一言駄目押しする。

返事の代わり、みるみるうちに顔を紅潮させていくステイルは唇をきゅっと結んでしまった。丸い目が葛藤するように私と私のドリンクへ突き刺さっている。

わかりました、と。そう呟くくらいの声で返してくれたステイルは暑そうな顔色で恐る恐る口をつけてくれた。よくこうして食べ比べした子どもの頃を思い出して私は胸が温かくなる。

恥ずかしそうに飲むステイルに、ティアラも懐かしいのか嬉しそうににこにこ笑っていた。


「……確かに、甘酸っぱく美味しいですね。苺のソースがとても良いと思います」

飲み終えてから、ぽつりぽつり言ってくれたステイルに「でしょ?」と私とティアラで笑い合う。

クリームたっぷりだとこっちの方が味も合っていると思う。飲み終えた後も顔が火照ったステイルだけど、美味しいと言ってくれた時は顔も綻んでいた。……残りを飲み切るべく私が口をつけた頃には、時間差で恥ずかしくなったのか眼鏡の黒縁を押さえたまま真っ赤にして顔ごと逸らしてしまったけれど。

三人とも飲み終わり、試験終了のお祝いを完遂した私達は速やかに席を開けた。店を出て、まだ冷たい風にやっぱり温かいのも頼めば良かったかしらと思いながら、帰路を歩く。



「そういえばステイル、騎士部って主務かマネージャー枠もあったわよね?」

「……プライド。何を考えていますか?」





……





「どっちを狙ってると思う?」


三人の生徒が去った後、ぼそりとカフェ店員が囁き合う。

カフェでベテランとして働く彼女達は、その三人がすぐ近くにある有名国立学園の社交科生徒であることはその制服で理解していた。

赤髪の子?金髪の子?三角関係⁇と客には聞こえないように語り合いながら、彼女達の注意は黒髪の青年に向いていた。

あくまで店員である彼女達は、彼の秘密を知っている。昨日、試験期間中であるにも関わらず


『すみません、この新作フラペチーノは明日まで在庫は残りそうでしょうか』


そう、単独で尋ねに来た美青年は彼女達の記憶にも新しかった。

更には今週分くらいは今のところ平気そうと答えれば、ほっと息を吐いた青年も印象に強い。

そう!絶対あの子‼︎と力強く頷く店員は、さらにコソコソと衝動を抑えて同期の耳へ囁きかける。


「しかも‼︎その日はエスプレッソだったのよ⁈‼」︎

なのに今日は見るからに甘い新商品を‼︎と力一杯息を吐きかける彼女に、耳を傾ける方は僅かに顔を反らしてから同意した。

昨日は極苦なメニューを頼んだ青年が、あんな甘いものを頼むのはあまりに違いがあり過ぎる。今日は明らかに付き添う二人へ合わせた注文だとわかった。

味違いで悩んでいたプライドと、いつ在庫が尽きるかもわからない新商品となればステイルが選ぶ選択など一つしかなかった。まさかその結果、一口分けるならまだしも、味比べをすることになるとは夢にも思わずに。

今日訪れた女性の憧れである騎士二人と黒髪大学生よりも、二日前に訪れた凶悪な人相生徒と中等部初等部生徒よりも遥かに、自身が最も店員の印象に残ってしまったことをステイルは知らない。有名国立学園社交科の制服を身に纏った高等部男子生徒の彼が


『マシュマロホイップストロベリーケーキフラペチーノ2つと、生チョコマカロンホイップブラウニーフラペチーノ1つ。どれもトールサイズで、蓋なしのホイップ増量でお願いします。店内で頂きます』


すらすらと呪文メニューを無表情で詠唱できてしまったこともまた、彼女達には拍手をしたいほどの頑張りだった。

彼のドリンクに〝Nice fight‼︎〟と労いのメッセージを送るくらいには。


再重版本当にありがとうございます。

また、機会があればコミカライズ感謝に絡めて現代王女も書かせて頂きたいと思います。

皆様のお陰で色々な話を書く機会を頂けて、本当に嬉しいです。

これからもどうか宜しくお願い致します。

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