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フリージア王国備忘録<第二部>  作者: 天壱
支配少女とキョウダイ

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Ⅱ90.支配少女は羞らい、


「ほんっとにごめんなさい……本当に本当に恥ずかしいわ……」


窓際の席で良かった。

三限目を終えた私は、顔の火照りが治まらないまま一限遅れてのお昼ご飯にしていた。

匂いが篭らないように窓を全開まで開けて、一人では恥ずかしくないようにと三人仲良く窓際に身体をつけてサンドイッチを頬張る。

私は窓際のアーサーの椅子を借りて食べたけれど、ステイルとアーサーは窓に寄り掛かったまま立っての食事だ。流石に椅子三つを壁に並べての食事は異様すぎる。


「いえ、俺も丁度小腹は空いていましたから」

「俺もっす」

二人の優しさ、身に染みて胸が痛い。

二人とも何てことないように言っていたけれど、間に挟まれて座っていた私は二人のお腹が一度も鳴らなかったことを知っている。食事を食べないのに慣れているアーサーなら未だしもステイルもだ。

王族として、基本的に一日中のスケジュールがきっちり決まっている私達は食事も大体一定だ。そこで一食でも抜けばお腹も減る。しかも、さっきまで男二人に捕まったり服が破けたりファーナム姉弟が心配だったりして張り詰めた緊張感が解けてしまったら、急にお腹が鳴り出してしまった。本当は二限目の調理実習で少しは食べた後なのに‼︎

いやむしろ、中途半端にお腹に入れてしまった後だから腹の虫が活動しちゃったのかもしれない。男の子で二限目も何も食べてないステイルがお腹を鳴らしていないのに、私だけ食いしん坊とかもう恥しかない。

流石に大合唱みたいな音にはならなかったのは良かったけれど、きゅるるっ……とまるで子犬の呻きのような音がどれほど恥ずかしかったか。二人とも聞こえないふりをしてくれていたけれど絶対聞こえていた。だって三限が終わった途端、二人して「今のうちに食事をしておきませんか」「折角作って貰ったのに勿体ないですし」と言い出したのだから‼︎

もう耳まで熱くなった私は頷くしかなかった。お腹の子犬を黙させる為にも短い休憩時間のうちにサンドイッチへ齧り付く。

本当は今日から下級生のクラスも見に行こうと思っていたのに、完全に出鼻を挫かれた。明日こそ……!と心に決めながら、この調子で本当に一ヶ月以内に全員思い出せるのかしらと不安になる。全員ひと月以内に助け出せるとはいかずとも思い出せれば手のうちようはいくらでもある。それこそジルベール宰相や騎士団長に相談すれば、解決できる筈だ。

だけどファーナム姉弟のことで時間をかけたのは仕方ないにしても、まだ彼らもいれて攻略対象者はニルートしか思い出せていない。残り半分、といえば聞こえはいいけれど、もう二人が一体誰なのか思い出せない。ファーナム兄弟と彼の存在を思い出したお陰で、ゲームの共通ルートを思い出せたのは良いけれど。

残り二人。主人公であるアムレットと同い年にファーナム兄弟、そして上級生は特別教室の生徒。残る可能性として高いのは後輩か上級生の普通クラス、あとは多分無いと思うけれど教師といったところだろうか。もう同級生と特別クラスは全員確認したもの。

そう思えば残すクラスはたったの十クラス程度だし、一日二回クラスを確認できるだけでも今週中には全員と出会える計算にはなる。実際、一週間程度で攻略対象者二ルート分と主人公にも出会えたのだから。あと一週間で登場人物全員はコンプリートできる筈。

正規ルートが三名、そして隠しキャラにファーナム兄弟。攻略対象者が五人前後のキミヒカで、第二作目は隠しキャラで双子セットで合計五人になるから四ルートしかなかった。ディオスルートとはいえ、雰囲気的にはミステリアスな双子に愛されるハーレムエンドと言えなくもない隠しキャラルートは、わりと好評だったらしい。少なくとも第一作目のジルルートよりは比較糖分多めだった。

あむあむとサンドイッチを味わいながら、私は改めてファーナム兄弟ルートを思い出す。

隠しキャラのファーナム兄弟……一応はディオスルート。人格がお互いに混ざり合い、二重人格になりながらも同一になってしまった二人の秘密を解き明かしていくルートだ。

隠しキャラ解放条件である全員攻略をしないとできない彼らのルートまで、ずっと登場する彼は〝クロイ〟と語られていた。学校では変わりばんこに〝クロイ〟になっていた二人の内、主人公が恋をするのはディオスの方だ。

「僕に関わらないで下さい」「僕は君に興味はありません」と基本的にアムレットからも距離を置いて主人に従う忠実な従者キャラだった彼が、実は双子という設定はなかなか驚きだった。攻略ルートに進むと初めて街中でヘアピン一本のディオスを見かけたり、双子だとわかれば二人並ぶ場面とかもあったけれど、それまでは出番もクロイのイラストだけだったもの。……まぁ、ヘアピン以外全く見かけが一緒だから当然だけれども。

人格も一緒、だけれどもアムレットがその原因と二人の心の傷に触れていくごとに素顔を出すディオスもクロイも取り乱す姿はあまりに



残酷だった。



『放っといてよ‼︎僕なんか、どうせ、どうせ……ッディオス!なんでそういう風にしか考えないの⁈ックロイは黙ってて‼︎‼︎』

ディオスも、クロイもたった一人で二人分の人格を抱えていた。

二人が会話しながら感情が高ぶれば、それこそあの時のようにお互い主観が混ざり合って会話をしていた。ディオスとして会話していたクロイが途中でクロイとして怒鳴り、そしてディオスもまた一緒だった。同じ人格のディオス同士で口喧嘩をしたり、クロイ同士だったり。

最初こそクロイという同一人物としてアムレットに関わっていた二人が次第に彼女に心を癒される中で自分達が双子であること、そして二人ともが二重人格であることを明かしていく。

「あの時私を助けてくれたのは……?」「あの時、私のクッキーを食べてくれたのは?」とアムレットもなかなか最初は困惑していた。しかも、二人の返答は全て「わからない」だったのだから。

二人とも毎日入れ替わるごとに同調していた上に二重人格だったから、どっちが本物のクロイでディオスかも同調した後はそれがどっちの記憶かもわからなくなっていた。ディオスが同調の特殊能力を使うのはお互いにだけだったから、特殊能力がある方がディオスという判別方法も難しかった。

それから少しずつ彼らの過去や環境を知り、ディオスもクロイもエンディングでは二重人格もなくなって二つの人格が一つに統一されていた。

それでも同じ人格ではあったけれど、それ以降はアムレットとの愛しい思い出は自分のだけのものにしたいと同調することも止めていた。アムレットが恋するのはディオスとはいえ、見かけも同じ性格も同じの美少年双子に愛されるアムレットの姿はまさに乙女ゲームの主人公そのものだった。……今、こうして元のディオスとクロイと関われば、あれが幸せかどうか悩むけれど。

だって二人ともまだ三年前とはいえ、ゲームの性格が統合した後と全然性格が違う。ゲームの二重人格でバラバラに話す二人は、今の二人と面影のある話し方だったけれど。

失礼ながら、今の二人にはミステリアスキャラのミの字もない。ディオスは子どもっぽくて真っ直ぐな子だし、クロイは逆に大人っぽくて冷静……というか冷ややかでちょっとだけ口が悪い。

あんな二人が人格まで同調したら、そりゃあ混ざり切らずに二重人格になるわよねと思う。クロイも子どもっぽいところはある気がするし、二人とも姉想いの良い子だけど本質は違うもの。ゲームの双子もミステリアスで魅力的なキャラだったとは思うけれど、やっぱり今のディオスとクロイのままでいて欲しいと思う。それにお姉様との関係だって……


「…………」


思わずそこまで考えてしまってから口が止まる。

一個食べ終わって二個目も残り二口で止まってしまう私に、先に食べ終えたアーサーが「どうかしました?」と声をかけてくれる。

ステイルも最後の一口を頬張る前に顔を向けてくれ、私は「なんでもないわ」と首を振った。これだけは予知としても言いたくない。もっと言えば、どうか、どうか既にゲームと運命が変わってくれていますようにと願ってしまう。


ゲームスタート時、ファーナム兄弟とお姉様との関係は最悪だった。


……正確には、ディオスとお姉様との関係が。

お姉様にも、二人はお互いが混ざり合っていることは秘密にしていた。入れ替わって仕事をしていることも、入れ替わってお姉様の看病をしていることも。

お姉様と生活の為に仕事をしている〝クロイ〟

そしてお姉様にずっと付き添って身の回りのことをしてあげていたのもまた



〝クロイ〟だった。


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