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フリージア王国備忘録<第二部>  作者: 天壱
支配少女とキョウダイ

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そして後悔する。


「!ジャンヌ‼‼何処に行ってたの?!」

「ジャンヌ特待生の試験どうした?!」


さっきまでずっと廊下にいたのだから、ディオスの叫び声とかでも私達に気付いた生徒が結構いる筈だとおもったのだけれど、そうもいかなかったらしい。

叫ばれた方向に目を向ければ、なかなかの大人数の皆さんが私達に駆け寄ってくる。えっ、ちょっと待ってなんでクラスでもこんな騒ぎになっているの。

もしかして私が居ないことでステイルとアーサーが凄く心配して捜査しまくったのかしら、と目を向けたけれど二人も驚いている様子だった。

私が言葉で訪ねるより先にステイルは「女子にジャンヌを知らないかと尋ねはしましたが……」とそれ以上は覚えがないように小さく話してくれる。アーサーも横でうんうんと頷いているけれど、口がぽっかり開いていた。

心配してくれた様子で私に駆け寄ってきてくれたのは、今まで何度か交流したり一緒に校門まで帰ったりした男女だ。今日の調理実習でお世話になった子までいる。彼女達まで心配してくれたことに、まさかあの後に調理の先生から呼び出しとかあったのかしらと背筋が冷たくなった。

ステイルとアーサーにバレませんようにと祈りながら「どうしたのかしら?」と笑顔で彼女らに尋ねてみると、次々と一斉射撃のような発言が放たれてきた。

「どうしても何も!」と最初に声を張ったのは、以前に私とステイル、アーサーが仲良しよねと言っていた子だ。


「特待生試験の会場にジャンヌがいないんだもの!今日だって忘れてたの⁈」

「もう終わったぞ⁈」

「何かあったの⁈そんなに先生との話が長引いたの⁈叱られた⁈」

「ジャンヌが仲良いあの双子の子達も探してたみたいだったよ⁈」

「試験会場わかんなかったのか⁈」

「あんなに勉強してたのに‼︎先生に再試験とかお願いはした⁈」

「フィリップもジャックも忘れてたのかよ⁈」


……どうやら私が試験を受けなかったことを心配してくれていたらしい。

特待生試験は希望者のみだし、私が受けなくても別におかしくはない筈なのだけれども。

彼らの意見を聞くと、もう全員が私が受けるのを当然と思っていたらしい。確かに成績が良いのはロバート先生がみんなの前で話しちゃっていたし、そんな私が特典だらけの特待生試験をさぼったら不思議かもしれない。

あまりの声量の勢いに背中を反らしちゃう私は、そのまま後頭部が背後にいたアーサーの胸にぶつかった。私が倒れないように肩に手を添えて支えてくれたけれど、見上げればアーサーはまだ口が空いたままだった。何故こんなことに、と言わんばかりの表情にどうやら私と同じ意見のようだ。

まさか知らないところでディオスとクロイだけでなく、彼らにまで心配をかけてしまっていたなんて。


「し、心配かけてごめんなさい。……でも、私達はもともと特待生試験は受けるつもりがなくって、……その」

家の都合で。と言おうとしたのと、彼らが「は⁈」「ええ⁈」と叫ぶか絶句したのは同時だった。

あまりにも大きすぎる反応に私の方が驚く。確かにあれだけお得な特典付きのものを不要とするのは不自然かもしれない。でも、と以前にステイルが考えてくれていた言い訳を改めて話してみれば、全員が目をぱちくりさせていた。……ファーナム姉弟はすんなり納得してくれたのに。

一体どうしてかしら、と思えば今日の調理実習で私の料理テロを全力フォローしてくれた女の子が凄く真剣な声で詰め寄ってきた。……あまりに予想外の言葉で。




「ジャンヌが特待生を狙っているって学校中で有名だよ……⁈」




え⁇⁇

学校中⁇と、もう疑問が重なって笑顔のまま顔が強張ってしまう。

一体どういうことなのか。いつの間に学校レベルで有名人になったの私。大体一度も自分が特待生を狙うなんて私は明言していない。

まさか成績が良い=特待生を狙っているとか勘違いされたのだろうか。口まで固まって舌まで動いてくれない中、彼女の台詞に周りもうんうんと同意の声を上げる。どうやら全員が知っていたらしい。

それどころか「まさか噂に遠慮してやめちゃったとか?」と全く的外れな心配までされてしまう。いや本当に一度も狙った覚えはない。生徒の為に作った制度なのに、たったひと月で学校を去る私がそんなのを取ったら意味がない。

まったく覚えがないことを首を振りながら訴えるけれど、誰一人納得してくれる人はいない。味方を求めてステイルとアーサーに振り返れば、アーサーも蒼い目を白黒させていた。

何か考えるようにステイルは眉間の皺を深くしながら口元に指関節を添えて考え出していた。「まさか……」と霞むくらい小さい声で聞こえたから、何かもう気付いたかもしれない。あとでゆっくり聞こうと決め、詰め寄る彼らに再び向き直る。まずは何処から沸いたかわからない噂よりも本当のことを訴えないと。

「いえ、本当にそのつもりはなかったの。それに、私は一度もそんなこと言った覚えもないわ」


「えっ。言ってたでしょ?私聞いたし」

あれ?


「私も聞いた」

「俺も俺も」

「今日も宣言してたよな?特待生なれたらお祝いとか」

「噂で聞いたけど、先週も高等部で宣言してたって」

「いやそれは嘘だろ?」

「流石に高等部に喧嘩は売らねぇだろ……」

あれ、あれ⁇


おかしい。情報が妙なことになっていて怖い。

まさか私のドッペルゲンガーか偽物でも現れたのかと思うほど、はっきりとクラスの子達に記憶まで統一されている。噂で聞いた、だけならわかるけれど本人達の目撃証言まであるとかちょっとしたホラーだ。いやでも私がそんなこと言う筈が


「あの双子と一緒に三人で特待生取るって意気込んでいたじゃない」


…………あーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー‼‼‼⁉︎

最後の証言に、私は顎が外れるほど絶句する。

やっと全て理解した。背後でステイルが「やはりか……!」と零す声と一緒にぺしりと額に手を当てたであろう音が聞こえた。

うん、よく分かった!完全に私の所為だ‼!

顔が絶句の笑顔のままボンドみたいに塗り固められた私に、クラスの子達がのぞき込んでくる。頭の中では高速で自分の今までの発言が思い出された。セドリックほどじゃなくても記憶力が良い方の私はしっかり覚えている。


『ごめんなさい。私達いま、特待生試験の為に自習中なので』

『三人で絶対に特待生を取りに行くんだから‼︎‼︎』

『昼休みに、またね。三人揃って特待生になれたらお祝いも』


確かに言った!ファーナム兄弟と一緒の時何度も何度も!

三人で特待生もぎ取りましょうねって焚きつけたのはこの私だ。だけどそれは私と、ではなく二人のお姉様をいれて三人でって意味だったのに‼︎‼︎

だけど事情を知らない人達が聞いたら、確かに誤解するなとも思う。普通に見たら私が勉強を教えているというよりも、皆で勉強会しているようにしか見えない。まさか中等部生徒が高等部のお姉様を教えると思うわけもないし、普通に考えて私が高等部様に教わっている側だ。

その後も彼らの話を聞けば聞くほど納得する。

私からすればファーナム兄弟に鼓舞をしていたつもりだけの発言が、完全に周囲からは「特待生は私達のものよ!」と宣言しているようにしか聞こえなかったらしい。

しかも私が成績トップで満点を取ったことはロバート先生に発表された時点で、中等部全体に広まっていたらしい。「中等部に実力試験で満点を取った生徒がいる」「その生徒も特待生を狙っている」と。その結果、我がクラスでもどうやら私が特待生試験は受けるものと思われていたと。

確かにそんなに周知の事実になっていたのに、当日になって現れなければ驚くのは当然だ。本当に紛らわしい言い方をしてしまったと反省する。

改めて私から今度こそ特待生試験を受けない尤もらしい理由を話し、一応納得して貰えた。「本当に厳しいお爺さんなんだな」と若干哀れみの声も上がったのは胸が痛むけれども。顔も知らないアラン隊長のお父様本当にごめんなさい。


三限目の授業を始めるべく選択授業の先生が扉から入ってきた。

「全員座れー」と気楽な様子で声を掛けてきたのは、また違った講師の先生だ。

蜘蛛の子を散らすように集まってきていた子達も自分の席へと戻っていく。私達も自分達の席に急ぎ、腰を下ろした。

そうして担当教諭が今日の授業内容と自己紹介をしてくれる中、…………思い出したようにお腹が鳴ってしまった。


両隣のステイルとアーサーには聞こえていたであろうその音に顔が熱くなり、お昼を食べなかったのを今さら後悔した。


Ⅱ68.71.82

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