Ⅱ84.支配少女は泣きかける。
「大人しくしてくれ……!もし後から俺らのことを話したら」
「ンなことしたら殺すからな?」
ンン、と口を片手塞がれたままプライドは返事ができない。
彼女の左腕を掴んだ男が耳元で言葉を掛けると同時に扉から離れた男が声を凄めて脅したが、それに対してプライドは怯えはしなかった。
冷静に状況を分析しながら最初に目隠しをしなかったところを見ると、このまま生きて返すつもりがないかもしくは脅せば泣き寝入りさせられると思っているのだろうと考える。更には二人の声色と姿から高等部の生徒だと判断した。
片手で彼女の口を押さえたままの男は、一人では彼女の両腕を縛れない。左腕を掴んだ手のままポケットから持ってきた縄を指で掴む。扉の鍵を閉めたもう一人が縛るのを手伝う為に足音を立てずに歩み寄ってくる中、プライドは殆ど無抵抗だった。
左腕を振り解くべく力を込めてみるが、当然ながら非力な自分では男一人にすら勝てない。ただでさえ今は十四歳の筋力しかない彼女だが、もし元の姿でいても唯一の弱点である力の土俵では彼らにすら勝てないだろうと思う。
塞いだ口から大して叫ぼうともせず暴れようともしない彼女に、彼らも大して疑問に思わない。怯えて動けないどころか声も出ないのだろうと判断し、互いに目を合わせた。手の空いている男の方が縄を受け取り、後ろ手にプライドを縛るべく彼女の右手も乱暴に掴んで一纏めにした。
そのまま縄で縛り上げようとすれば、またプライドからンンー、と何かを言うべく声が発せられる。しかし当然通じない。大声ともいえない控えめなそれに男の片割れは「黙れ殺すぞ」と潜めた声で脅しながら一纏めに掴んだ彼女の両手を
コンコンッ
ビクッッ‼︎と、ノックの音に分かりやすく男達の肩が痙攣のように跳ね上がった。
息を止め、プライドの腕と口を押さえる手にだけ力を込めながら、動きを止めて扉を見る。心臓がバクバク言うのを堪えながら、身動ぎ一つせずに固まり思考だけを動かせば数秒後にまた同じノックの音が鳴った。
よく聞けば自分達のいる教室ではなく、少し離れた別の教室を叩いた音だった。よかった、違ったかとは思ったが、近くに人の気配があることに一度縛り上げるのを中断して身を潜めることに徹底する。せめてそのノックの主がいなくなるまでは下手なこともできない。
代わりに彼女を床へと押しつけ、膝を折らす。せめて暴れにくく、そして足音を立てられないようにと小さく屈ませる。
コンコンッ、とまたノックが鳴る。三回目のその音に、次第に自分達の教室へ近付いて来ているとわかる。
階段脇の教室から一つ一つ叩いて確認しているらしいそれに、教師か警備の見回りだと見当づけた。
鍵がかかっていない教室はガラリと扉を開く音まで聞こえてくる。プライドを二人がかりで押さえ、掴み、その耳元で出来る限り凶悪に聞こえる低めた声で「音を出すなよ」「出したら殺すぞ」と再三にわたって脅し続ける。
鼻がなければ窒息しているというほどに彼女の口を強く押さえつけ、二人で挟む。コンコンッ、ガラリとまたノックと扉を開かれる音が近づいた。その間も抵抗は愚か、声も出さずに彼女は彼らと共に固まった。
コンコンッ。コンコンッ、と続き、そしてとうとう彼女達のいる部屋の扉の番になる。
コンコンッ。
「ンーーーーーーーーーーー!」
その途端、プライドが初めて全力で声を上げた。
ぎょっ、とする男達は片方はこの場で殴りつけようかと思ったが、今それをすれば確実に見つかってしまう。
強く押さえつけられた口で叫んだプライドの声は、彼らには幸いにも響くような音ではなかった。彼女を教室の中に引き込んだ時、奥の窓際まで離して正解だったと心から安堵する。鳴らされた扉も今の二回だけでそれ以上はもう鳴らされることもなかった。そして
ガシャアンッッ‼︎と、扉が蹴り壊された。
「ッ何をしてる‼‼︎︎」
刃のような怒声と、何よりも目の前の扉が一瞬で破壊された衝撃で男達は目を剥いたまま声も出ない。
口だけが大きく開いたまま固まれば、プライドを後ろ手に押さえつけ、口を押さえ、縄を持ち膝をつかせ、男二人で押さえつけている光景がそのまま確認された。現行犯の彼らに言い訳どころか、現状把握の間もなかった。
扉を破壊した主が、怒声を言い切るよりも先に駆け出した。素人二人の目には捉えられない速さで駆け込まれ、プライドですら目で追うのは困難だった。
彼から発せられる凄まじい覇気の方がずっと追いやすい。思っているのも束の間に一瞬で二人の眼前へ駆け込んだ彼は、殴打音と同時に散り散りに彼らを殴り飛ばした。
一人を殴ったその体勢のまま後脚でもう一人を空中で蹴り飛ばす。
ゴン、ガッと二音が殆ど同時にプライドの耳に届き、自分を押さえていた男達が吹き込んだ。口も腕も押さえる腕がいなくなり、やっと解放された。ぽかんと口を開いたまま、男達が吹き飛んだ方向を見回そうとしたが、それよりも先に「大丈夫ですか⁈」と凄まじい形相で片膝を折った彼に顔を覗き込まれる。
怪我は、何か変なことは、と次々と心配の声を上げてくれる彼にプライドはまず安心させるべく視線を合わせた。ペタリと床に座り込んだまま笑い、そのまま先ずは自分の無事を伝えるべく落ち着いた声で返す。
「ええ、お陰で怪我も何もありません。ありがとうございます、……アランさん」
あくまで学校での立場のままの呼び方でペコリと頭を下げて見せるプライドに、アランはやっと息を吐いた。
緊張がほつれた息で強張った肩が下り、乱れた呼吸を必死に整える。良かった……と思わず溢してしまいながら少しだけ脱力してしまった。
アランさんと呼ばれた気恥ずかしさよりも、自分の方がプライドに対して敬語で話してしまったことに今更気付く。しかし、誰にも聞かれずに済んだしまぁ良いかと軽く思い直せば、何よりも彼女に怪我がないことに安堵した。
近衛騎士の護衛。生徒として潜り込んでいるアーサーが傍にいない二限からその前後には必ずアランかハリソンがプライドの護衛に付いていた。
アーサーがプライドから離れた時点で、密かに護衛として移動教室も含めて授業中も彼女を見張っていたアランだが、他の生徒教師に気づかれないようにあくまで身を潜めるか距離を取っての護衛を行っていた。
プライドが少し居残りを受けて他の生徒より遅れて教室を飛び出した時も、教室の外から見張っていた彼は距離を取って後を追ったが、階段を上り切った時点で彼女は突然姿を消していた。更に階段で上に上がったかとも思ったが、それらしき足音は聞こえない。
ならばこの階のどこかかと最初こそ早足で見回り追いかけたが、全くそれらしい影も足音もしないことに、彼女が消息を絶ったのだとすぐに判断した。
一番階段に近かった位置から順々にノックを鳴らし、鍵がかかっていない扉は開けた。鍵のかかった部屋にも耳を当て気配を探るを繰り返せば、当然ながら素人二人の犯行と隠蔽を見逃すアランではなかった。
鍵の掛かった部屋の奥で、くぐもった細い声がする。それだけで判断は充分である。
扉の前に彼女がいないことだけを気配で確認し、躊躇いなく扉を蹴り壊した。鍵がかかっているとはいえ、たかが扉一枚など彼には薄硝子に等しい。プライドの状況に一瞬だけ頭に火がついたが、それでも寸前で力を抑えたアランの拳と蹴りに男二人は一瞬で無力化された。
扉を蹴り壊してから、五秒もしなかった。
「こいつらは……?部外者でしょうか、見覚えはありますか」
「いえ……すれ違ったくらいはあるかもしれませんが」
アランが視線を自分から離してから、やっとプライドも倒された彼らへと目を向ければ顔が引き攣った。
完全に二人とも伸びている。自分の口を覆っていた方であろう男は右の壁へと背中を打ち付けたまま真っ赤な痕を残して白目を剥き、自分の腕を縛ろうとしていた男は窓際の壁にべたりと転がっていた。蹴られた腹も押さえることなく手足がだらりと放られたままだ。
アランもそれを確認し、指先で軽く頭を掻く。はは……と枯れた笑いをぎこちなく溢しながら「すみません……」と口を開く。
「極限まで手加減したつもりなんですけど、……少〜しだけ加減が足りなかったみたいです。多分、話を聞けるのは夜……いや、明日?かな……と」
手加減したのに⁈とプライドは心の中だけで叫ぶ。
自分の護衛についてくれている筈のアランが、少し待てば助けに来てくれるだろうことはプライドもわかっていた。
だからこそ無駄に暴れず大人しくし、ノックの音が叩かれた瞬間には躊躇わず声を上げた。自分が無駄に暴れればそれこそ余計に暴力を振るわれて大事になってしまう。うっかり怪我を負わされて自分以外の誰かが責任を問われる事態になる方が怖かった。自分一人でも無理をすれば彼らを倒せる気はしたが、その必要はないという絶対的な信頼の方が勝っていた。
……縛られて跡が残ったらどうしようと焦ったけど……。
彼らに縛られそうになった時、口さえ話せれば「抵抗しないから乱暴にしないで」と説得ができたが、それも不可能だった。
第一王女の手首に痣を作ったなどすれば、護衛のアラン達の責任だけでなくそれこそ男子生徒の極刑は免れない。
しかし、結果としてアランは自分が拘束されるよりも先に助け出してくれた。
すぐに事情聴取できない状態にしてしまったことに汗を滴らせるアランだが、プライドに怪我がなかったことの安堵が勝ってあまり落ち込めない。今度こそ未然に防げたことに大きく息を吐き出した後、若干いつもより脚に力が入らなかった。
遅れて申し訳ありませんでした、とそれでも謝ろうとプライドへ顔を向ければ
花のように笑う彼女が、そこに居た。
ふふっ、と口から溢れる声を指先で隠し、照れたように笑うプライドにアランは目を丸くしてしまう。
ついさっき男二人に襲われたのに何故そんな笑顔なのかと疑問が浮かぶ。明らかに裏稼業ですらなさそうな素人二人にプライドなら本気を出せば一人でもどうにかできたかもしれないとは思う。だからこその余裕と落ち着きかと思ったが、それにしてもそんな笑顔はこの場にそぐわない。
プライド様……?とつい、彼女の名を口に出してしまいそうになり、喉の奥で慌てて飲み込んだ。今、この場でその名だけは禁句である。しかし、プライドも自分を見返してポカンと口を開けるアランに自分が笑ってしまうのを疑問視されたのだけは理解した。「ごめんなさい」と早口で謝り、にこにこと顔が緩んだまま言葉を続けた。
「アランさんが来てくれると思っていたら本当にすぐ助けに来てくれて、嬉しくて。……すっごく格好良かったわ。お陰で最初から全然不安にならなかったもの」
ハリソンもアランも、基本的に極秘の護衛中は見回しても姿は見えない。
しかし、教室に連れ込まれた時から絶対にアランがすぐ来てくれるとは思えた。異常に気付いたステイルが瞬間移動するよりきっとアランの方が早いだろうと確信がそこにあった。そして本当に姿も見えなかったアランがすぐに来て助けてくれた。見えなくてもちゃんと守ってくれているのだという安心感が、プライドには純粋に嬉しかった。
波打つ髪を一つに纏めた十四歳の身体でありながら、アランは目の前にいる少女が第一王女であると思い知る。仕草一つ一つから溢れ出す気品と優美さは隠せるものではなかった。
迷惑かけたのにごめんなさい、と途中で慌てるように謝るプライドだが、アランはそれに返事ができなかった。片膝をついたまま、プライドに言われた言葉一つ一つを噛みしめ……顔が、上気した。
じゅわわわ、とヤカンのように湯気を出すアランの顔が真っ赤になっていることに、気付いたプライドは目を見張る。あまりにも暢気な発言をし過ぎてしまっただろうかと慌てふためき出す。
「ご、ごごごごめんなさい!勿論、その、捕まったのはわざとではなくて!抵抗しなかったのもちゃんと理由が」
必死に弁解するが、アランの頭には一割も届かなかった。
いえ、大丈夫です、と口が一応動くが、表情は追いつかない。頭の中で必死に「任務に戻れ‼︎」と自分に喝をいれ続ける。もうこれは酒を片手にカラム達に自慢しようとここで決めた。
慌てて目を泳がし続けるプライドは、ふと視線が一箇所で止まる。教室の壁に掛けられた時計に目が止まり、はっ‼︎と息を飲む。口が開いたまま、顔色だけが青くなっていく。
プライドのその様子に「どうかなさいましたか」とやっとアランも頭が冷えた。彼の呼びかけにプライドは唇を震わせながら振り返る。
「試験が……始まっちゃう……」
もう試験開始まで時間はなかった。
急がなきゃ!とプライドは口を両手で覆って声を上げた。アランが「あの姉弟のですか⁈」と尋ねれば、勢いあまって強い一声でそれに返してしまう。
アランも当然、プライドがファーナム姉弟と当日に試験直前も付き添うと約束していたことを知っている。気を失った二人は逃げこそしないだろうが、このまま置いていくわけにもいかない。だがプライド一人で行かせるわけにもいかず、アランは慌てて扉のない入り口から廊下を覗いた。だが、生徒の殆どが急ぎ特待生試験会場に向かってしまった為誰もいない。
自分がプライドを見失った時から気配はなかったが、これでは生徒に教師を呼ばせてこの場を任せることもできない。ステイルも校内では瞬間移動を安易に使えない。
その間にもプライドは私一人でも行きますと立ち上がってしまう。それはいけません!とアランが静止を掛けるが、プライドは構わずさっきまで床に広がっていたスカートを走りやすいようにと捲し上げ
「……!キャアッッ⁈‼︎」
悲鳴を、上げた。
自分の背後を首だけで振り返った直後、ぺたりと腰が抜けたかのように自分からスカートを押さえて座り込んでしまう。
あまりの悲鳴と崩れるように座り込んだプライドに「どうしました⁈」とアランは一瞬で扉の前から彼女の傍に駆け寄った。まさか足でも捻ったのか目を剥いて視線を合わせれば、プライドは少し泣きそうな顔でアランを見返してしまう。
アワアワと震わした唇と、赤くなれば良いのか青くなれば良いのかわからない顔色と潜ませ過ぎて掠れた声で訴える。
「ぁっ……その、……背後は、見ないで下さいっ……」
背後⁇とアランは眉を寄せる。
まさか背中に怪我をしたのかと逆に覗き込みたくなり首を軽くだけ傾ける。すると慌てるようにプライドは「駄目です!!」と声を上げ、後ずさった。
あまりの激しい反応に「ッすみません!」とアランも慌てて謝罪し背中を反らす。見ていません、と意思表示の為に両手を顔の前で挙げて見せるが、プライドはじわじわと顔を火照らしたままアランから更に距離を取るべく数センチだけ引いてしまった。ワンピースの服ごとスカート部分を引き摺って下がるプライドに、アランは再び首を捻る。
「どう……なさいましたか?」
「いえっ、その……、…………ええと」
アランの問いにプライドは目を泳がせた。
こうしている間にも時間は刻々と過ぎているのに動けない。服の下からはみ出した足を靴ごと行き場が無いように摺り合わせ、布と肌が刷れる音だけがうっすらとアランの耳に届く。
少なくとも放り出された足が怪我していないことを目視で確認し、火照る顔を俯けるプライドに眉を寄せてしまう。何かを隠しているのは明らかだが、それが何かがわからない。念のために「お怪我は?」ともう一度尋ねれば、プライドからは慌てるように「ないです本当です!」と早口が返ってきた。
ならばどうして急に座り込んでしまったのか、自分から言いにくそうにするプライドにアランは思考を巡らすがやはりわからない。ここにカラムやエリックがいれば察せたのだろうかと考えてしまう。
すると唇をぎゅっと結んだプライドの視線に気付く。チラッチラッと盗み見るように自分の背後に目を向ける彼女の視線を追えば、壊された扉により開け放しになった入り口がそこにあった。
やはりすぐにでも教室を出たいのかと思ったが、なら何もせずに固まるのはおかしい。……ふと、そこでアランは自分が蹴り壊した扉の残骸に気付く。鉄板の塊のようなシンプルな設計の扉だったが、廊下の窓から漏れる明かりに照らされてちらりと違う色合いのものが目に入った。
どこか見覚えがある気がするそれに、アランは一度プライドの前から立ち上がり近づいた。再び腰を下ろせば、小さくプライドから「ぁっ……」と慌てるような声が漏れる。やっぱりこれか、と倒れた扉の下敷きになっていたそれを引っ張り出せば、ただの破けた布きれだった。
どこか見覚えのあるその色の布は、幅は二センチ程度だが長さは五十センチ程の長さがあった。それを手に取り、模様などがないことを確認したアランは少しだけ考え、そして気付く。
「…………、………………へ」
気付いてしまった、と。
プライドではなく、アラン自身がそう思った。
バッ!!と風を切る勢いでプライドの方へ振り返れば、もう察せられることが予想できていた彼女は顔を真っ赤にしたまま更に窓際へ引いてしまった。顔ごとアランの視線から逃げるように逸らし、口を絞る。カァァァァァと火照った顔と泣きそうな表情とアランの手の中にある布が全てを物語っていた。
「あー……、……」
察した瞬間、もの凄く申しわけない気分になったアランは、布の塊を小さく丸めて手の中にしまうと今度はゆっくりとプライドに歩み寄る。
「ジャンヌ」と呼び、彼女から一メートルほど手前の位置で足を止めた後はその場でしゃがみ込んだ。片膝をつくのではなく、曲げた両膝に肘をつき、上目で彼女を覗くようにしてそっと優しい口調で呼びかける。
「……試験会場に行くのは、……諦めましょう。そのお姿では……流石に」
「………………はい」
むぎゅぅっ……とスカートの裾を自分で掴みながら、深々と頷いたまま項垂れたプライドは完全に心が折れた。
アランに気付かれてしまったことも、今の自分の現状も口に出すことが憚れるほど恥ずかしい。敢えて言葉で確認をしないでくれるアランに心から感謝しながらも居心地悪そうに足を摺り合わせた。
プライドが了承したことで安堵したアランは、団服を脱ぐと正面からバサリと羽織らせた。マントのように長い上着は、以前に貸した時と同じようにすっぽりと彼女の身体を隠してくれた。
スカート部分五十センチがまるまる縦に破け下着まで露わになってしまった背後も全て。
「因みにですが、こいつらにやられた訳ではないですよね?」
まだプライドを拘束どころか口すら塞いでいない状態でそのような乱暴をしたとは考えにくい。
更に言えば、そういった行為があったなら彼女のスカートの裂かれた部品は扉の下敷きではなく彼らのどちらかが持っている筈だろうとアランは思う。そして、その推測通りだとプライドはしぼんだ声で言葉を返した。
彼らに教室へ引き込まれた拍子にスカートが扉の金具に引っかかり、その勢いのまま……と、プライドが言えばアランも少しだけ安心する。本当に自分がプライドを救出するのが迅速に済んで良かったと思う。そうでなければ、本気で暴力以上の行為に発展しなかったとは言い切れない。
まだ彼女を拘束することに夢中だった彼らも、プライドの服が破れたことにすら気付いていなかったが、気付いていたら状況だけは最悪だった。
……ほんっっとに危なかった……
心の中で絶叫と安堵を叫ぶアランは額から冷や汗を垂らした。
もしそんなことになれば、大問題にもなるがそれ以上に自分も死にたくなる。プライドのことで必死になりすぎた結果、こうして現行犯二人へ少しだけさじ加減を忘れてしまったアランだが、本当に気絶させて良かったと今は思う。
「あー……カラム、まだ外に居っかなぁ」
ここには居ないもう一人の近衛騎士の名前を零す。
プライドから何気なく顔を背けつつ、外へと繋がる窓へと移動した。
もうアランの貸してくれた団服のお陰で背後を見られても平気になったプライドだが、一枚剥げば下着まで見えてしまっている自分の状況を思えば、それでも平然とはしていられなかった。背後のスースー具合を肌で感じながら、締め切られていたカーテンを開けるアランに口を閉ざす。
「お、いたいた」と呟いた彼の言葉にほっと息を吐いたが、やはりその場から動けない。
アランから団服を借りるのも、そしてスカート破損で大事故を起こすのもこれで二回目だという事実に、プライドは泣きそうになるのを口の中を噛んで堪えた。




