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フリージア王国備忘録<第二部>  作者: 天壱
支配少女とキョウダイ

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〈コミカライズ八話更新・感謝話〉副団長は、想う。

本日、コミカライズ第八話更新致しました。

感謝を込めて特別エピソードを書き下ろさせて頂きました。

時間軸は「外道王女と騎士団」です。

本編に繋がっております。


『先ほど、馬車を通れる範囲の道を確保致しました。しかし、まだ全員分は……』


わかった、と。

そこで騎士からの報告を遮った。それ以上は言われずともわかる。

通信兵から送られてきた映像を眺めながら、絶え間なく騎士達へと指示を飛ばす。私だけではない、殆どの騎士が昨日の事故から不眠不休で動き続けている。今も作戦会議室では大勢の騎士が行き交い、現場へ滞在する騎士がいくつも〝回収〟を果たしては戻ってくる。通信兵からの映像で、今も変わらず大勢の騎士達が発掘作業と整備を一晩明けた今も進めているのを確認し続けた。


新兵と騎士の遺体捜索と奇襲者の情報収集。そして、……我が国の女王への帰路を確保する為の整備だ。


『私が帰るまでにちゃあんと馬車が通る道は確保しておいてちょうだいね?遠回りなんて冗談じゃないわ』

崖崩落事故の後、……一方的に通信を切った女王が再び送ってきた指令はそれだけだった。

今は隣国へ滞在している女王が帰国する為の道づくり。それが、〝騎士団長〟である私へ最初に任じられた仕事だった。

隣国へ滞在している女王が、近々馬車で帰ってくる。遠回りしないように瓦礫を片付けておけ、と。

本来、今の状況の騎士団へ命じる仕事ではない。緊急でもないならば騎士団ではなく王族の名で下請けにでも雇えば良い。国の復興の為ならば当然動くが、たかだか馬車に乗る時間の短縮の為に我々騎士団は動くものではない。

いっそこのまま馬車ごと我が国へ帰って来なければいい。……あの女王こそが瓦礫の下敷きになってしまえばどんなにかと思ったのは、もう何度目だろうか。

それでも私がその命令に応じたのは、何より都合が良いからだった。崖の崩落から新兵達と先行部隊の遺体も全ては見つかっていない。今ではもう生存は絶望的だが、せめて遺体の一部だけでも遺族へと返してやりたかった。

ロデリック達を襲った奇襲者の情報も、まだ何も得てはいない。隣国との同盟反対の輩であろうと見当はついているが、れっきとした証拠はない。その為にも崖地帯の撤去作業は必要なことだった。

女王の命令である馬車の道整備など、それこそ我々にとってはついでだ。しかしそうでなければ、あの愚かな女王は崖地帯へ今も騎士団を派遣させるなど許しはしなかっただろう。自分の帰るべき城を守らせる為に、一隊も出陣の許可を降ろさなかった可能性もあった。


「ふくっ……、クラーク騎士団長。今、現場から荷車と共に騎士達が〝帰りました〟」

「ああ、今迎えよう。…………引き続き、ここに〝運んで〟くれ」

作戦会議室へ戻ってきた騎士が、礼と共に報告をしてくれる。

既にもう数度目となる報告に私はまた足を動かした。

振り返れば既に持ち帰られた多くの騎士の〝一部〟がそこに並べられている。昨日から一晩かけて掘り起こした、我らが〝騎士〟達だ。

頭のついた胴体を回収できれば幸福な方だった。腕一本、足を始めとした身体の一部。中には肉体ではなく、私物しか回収できなかった〝騎士〟もいる。……そう、先行部隊だけではない全員が殉職し昇級を認められた我らが〝騎士〟だ。

先行部隊が全滅した今、遺体を運び込むのにも時間がかかった。あの荷車を引く発明を動かせるのは、それを作った先行部隊達しかいない。その為、今は馬と荷馬車を使って少しずつ運ばせるしかなかった。

作戦指揮の席から外れた私は、開けられた扉の前で彼らを待つ。荷馬車からひとつ一つ粗雑に扱われることなく帰国を果たした騎士達が運ばれる。両手に収まる大きさの者は布に包まれ、それ以上の大きさまで形状が残った者は死体袋に詰められながら丁重に床へ並べられた。

団服や鎧で我が騎士と確認できた者は全て、死体安置所の前にこの作戦会議室へ運ぶように私が指示を出した。奇襲者の骸は全て情報収取の為に別の設備に運ばせたが、せめて騎士達だけはここで休ませてやりたかった。……ロデリックと共に必死で生き抜こうと努めてくれた立派な騎士達だ。


「……任務、ご苦労だった」

答えることも叶わずただ床に並べられる彼らに、私はまた同じ言葉で労った。

あれから一人として、生きて発見された者はいない。崖崩落の前後に飛び出した騎士隊も含め、崖の崩落を終えてからも七番隊を含めた複数の騎士達を派遣した。第一は生存者の捜索、そして第二が遺体の捜索。次が瓦礫の撤去作業だ。

ただでさえ女王の護衛で数隊の騎士が隣国に連れられたこともあり、もともとの騎士の数が少ない。その中で残りの全軍を崖地帯へ向かわせるわけにもいかなかった。ここで他国に攻め込まれでもしたらそれこそ史上最悪の事態も有り得る。


「クラーク騎士団長、お疲れ様です。現時点で七割方騎士を発見できました。奇襲者の方は元の人数が不明ですが首領らしき男の遺体を回収し、ただいまお持ち致しました」

「ああ、通信兵からも聞いたよ。わざわざご苦労だったなカラム。……すまないな、騎士隊長になったばかりのお前に早速現場を任せることになって」

いえ、と。一言返した彼は僅かに顔を歪めた。

いつもきっちり整えている団服も今は汚れ切っている。顔や髪にも泥やこびりつき、そして両手は乾いた血の跡で汚れていた。本隊騎士になったばかりの彼だが、三番隊の半数と共に彼もまた現場に向かっていた。他の隊長格とも連携し、彼にも現場の指示を任せた。命を落とした先行部隊での中には隊長格も含まれていた為、的確な指示を出せる立場の存在は貴重だった。

通信兵からの報告でも、彼は部下へ指示を続けながら瓦礫撤去にも自ら進んで能力を活かしてくれた。正直、彼の指導力だけでなくその怪力の特殊能力に私自身頼った部分は大きい。彼の性格ならば言わずとも撤去作業へ尽力的に力を貸してくれると思った。そしてその結果、……凄惨な光景を最も多く目に焼き付けたのも彼だろう。

大岩を彼が持ち上げても、上がるのは歓声ではなく原形を留めない同士達〝だったもの〟なのだから。

今までも仲間の死を見たことはあるカラムだが、これほどの数は初めての筈だ。

彼だけではない。ここ数年は死者が減っていた騎士団でこれだけの数が一度に死亡することは珍しかった。しかも一人は騎士団長であるロデリックだ。

今も目の前のやるべきことに思考を埋めている騎士は多いだろう。カラムだけではない。休息を命じても現場で手を止めようとする騎士は一人もいなかった。

崖崩落した直後に一番隊を連れて馬を走らせた副隊長のアランも、現場に駆けつけてからはいくつも瓦礫に潰された騎士達を単独でも掘り起こしてくれている。副隊長である彼もまた、本来なら部下に指示する立場にも関わらず率先して動いてくれている隊長格の一人だ。カラムと同じで昇進して間もないこともあるかもしれないが、それを抜いても彼の人間性が大きい。「まだ一人くらい生きてるかもしれねぇだろ⁈」と叫ぶのが通信兵の映像からも漏れ聞こえた。現場に到着して尚生存を信じ続けてくれたのは彼くらいかもしれない。……いま、大きな柱を失ったばかりの騎士団では。


「無理せず休むように現場の騎士達に声をかけてくれ。お前も、……無理だけはしてくれるな」

そう言って肩に手を置けば、一言返したカラムの表情が一層険しくなった。

ありがとうございますと私に言葉を返しながら、言い淀むように唇を噛む彼に「どうした」と促してみる。言いにくいことなど山のようにあるだろう。今ならば私の胸の内にとどめることもできる。

昨日から他の騎士と同じく不眠不休で働く彼に、今私がしてやれることは少しでも心の負担を担ってやることだけだった。報告の為にわざわざ一度現場から騎士団演習場まで足を運んでくれた彼だが、これからまた現場に戻ることになる。まだ、彼の指導力も特殊能力もどちらも必要だ。

実は、と一度言葉を切った彼は更に声を潜めた。周囲で遺体を並べる騎士達にも聞こえないように注意を払う彼へ私も耳を近づける。私に耳を貸させたことに一度謝罪した彼から囁かれたのは……本来、想定できたことだった。


「ハリソンが。……〝あれ〟から、一向に。我々から命じてもあの場から動こうとすらしません。大変お手数とは存じますが、できればクラーク騎士団長から彼に帰還を命じては頂けませんでしょうか……?」


申し訳ありませんと重ねて謝りながら言う彼に、改めてよく後輩達を見ていると思う。

現場の安全が確認されてから、遅れて現場に向かわせる隊の一人として志願したハリソンだが今はもう抜け殻のようになっているらしい。彼が現場に到着して暫くしない内に、目的は果たされたのだから。

それから報告と運搬作業が進行された今も彼はその場で膝をついたまま放心して動かないとカラムが説明してくれた。他の騎士もハリソンに長くは構っていられず、話しかけても無視され肩を貸そうとすれば刃を向けてくる彼は今もそのままだと。まるで亡霊のような彼に、……私ももっと早く気付いてやるべきだったと口の中を噛みしめる。彼がそうなっていることは、冷静に考えれば想像できたことだった。


「……わかった。ありがとうカラム。すぐに私からハリソンを帰還させよう。面倒をかけたな」

引き続き頼む、ともう一度彼の肩を叩いた。

ちょうど積まれた分の遺体を並べ終えたところだった。そのまま運び作業を行っていた騎士達を連れてカラムも作戦会議室を去っていった。彼らが扉から再び最も凄惨な戦場へと発つのを見届けてから、私は再び指揮の場へと戻った。

通信兵に命じ、私の名でハリソンを呼ばせる。数分待てば、一瞬で映像の視点に彼が駆けつけてくれた。突然の表出に、まだ高速の足を使う余力は残っていたのだと少しだけ安堵する。

お疲れ様です、お呼びでしょうかと頭を深々下げる彼は涙の痕が未だ泥と一緒にくっきりと残っている。目に生気の欠片もない彼に、つい昨日ここで崩れ落ちていた友の息子を思い出す。

今は騎士団演習場内で〝遺族〟として預かっているが、未だにまともに喋れる状態ではない。ハリソンもそれに近いだろう。


「ハリソン、今すぐ戻ってきて欲しい。戦力として、お前に少しだけ留守を預けたい。……私が休まないと、騎士達も休めないだろう」

何かあったらすぐに報告する役目を頼みたいと言えば、僅かにだがハリソンが目を見開いた。

さっきまで沼の底のような目をしていた彼が、その紫色の瞳を揺らす。役目さえあれば、道標さえあればまだ動けるのだと示してくれた彼に笑みを向ければ、その硬直した表情筋にも力が入るのがみてとれた。

私を引き合いに出してしまったことは悪いが、そうでもしなければ彼はきっと戻れの一言を戦力外通告と判断してしまう。


「承知致しました、すぐに戻ります。すぐに」

張りのある声で返してくれた彼は、また一瞬で姿を消した。

私の返事も待たずに消えた彼の後、馬の嘶きが上がり、蹄の音が聞こえた。

もう飛び乗ってくれたのだろうと、理解した。



……



「本当に、……まいったよ」


ハァ、と息を吐き椅子に腰掛ける。

ハリソンが到着してから何かあった時はすぐに私の元へ来てくれと頼み、私は騎士団の誰よりも先に休息を取ることにした。

次の荷車と馬車が到着するまでにも時間はある。仮眠と呼ぶには短いが、それでも私には充分だ。死臭に鼻も慣れていたが、一度作戦会議室から出た時はやはり鼻が慣れ過ぎていたのだなとわかった。私自身は血を浴びてもいないのに、床に並べられた彼らの匂いが服から落ちない。


「折角休息を取ったのに、アーサーの様子を見に行ったら帰ると言い出すんだ」

まだ服だけは副団長のままの団服を上だけ脱ぎ、椅子に掛ける。

アーサーも、私が訪れるまで待ってはいてくれた。

ベッドどころか椅子にも座らず部屋の隅で膝を抱え座り込んでいた彼は、私が来るまで誰とも口を利かなかったらしい。声を掛けた途端「帰る」と言った彼は、長い銀髪の向こうからのぞかせる目も澱んだままだった。

「お袋が待ってる」とだけ言った彼に、帰したいとも思ったがクラリッサさんに夫の死を隠し通せるとも思えなかった。

もともと嘘が苦手なアーサーだ。その上、隠しきれないその顔色だけでも充分に彼女には気づかれてしまう。私から再三説明しなんとか押しとどまって貰った。まだ彼女に知らせるわけにはいかない。


「〝お前〟のそんな姿を見せたら、流石のクラリッサさんも平然としていられないだろう。…………なぁ」

一度預けた背もたれから起こし、身体を向ける。

反射的に上げてしまいそうな首の角度を途中で下げた。部屋に入ってから当然のように語り掛けていた存在が、今はもうその位置にはいないのだと理解する。新兵の頃から身体つきにも背にも恵まれた彼が、今は私よりも遥かに低い位置だ。




「友よ」




騎士団長室。

団服と同じくまだ私のになっていない部屋のベッドに横たえられた友の亡骸に、私は投げかける。

自分でも意外なほどに穏やかな声になってしまえば、自然と表情もそれに釣られた。彼の死を知ってから初めて自然に零れたそれは、きっと人生で最も酷い笑みになっているだろう。

ロデリックの死体は、……騎士達の中でも比較的早くに見つかった。通信兵の特殊能力が死んでも継続するものだったことが幸運だった。

ロデリックの足を引き留めていた大岩に視点が固定されていたお陰で、ある程度の見当がついた。騎士達で行った撤去作業は時間もかかったが、それでもハリソンが到着してから間もなくには発見も叶った。身体の殆どが大岩で潰され、右腕だけが原形をとどめていた。ロデリックと判断できた材料は団服の装飾だけだ。……最後の瞬間、彼が私達への視点に向けて伸ばしていたあの腕が今は単体でそこにある。

他にも騎士達がせめてもと拾い集めてくれたロデリックの〝一部〟がいくらか共にベッドに並べられているが、きっとクラリッサさんでもそれがロデリックのものだと確証は持てない。

ただの肉塊だ。いくら部品ごとに並べても彼にはならない。アーサーにもまだ、彼と再会させることはできなかった。

身内ではない騎士達ですら膝から崩れ、絶望に声を無くし、涙を禁じえなかった。ロデリックの居たその場から動けなくなったのも、ハリソンだけではない。騎士団長の存在はそれだけ大きかった。


「……どうするんだロデリック。これからだった筈だろう?」

これからの、筈だった。本隊騎士を育成し、そして新兵の大規模な募集をかけ彼らを育て、これから騎士団はまた一つ大きくなる筈だった。彼が私と共に今の地位を築く前から語っていたことだ。

しかし新兵が全員死亡し、先行部隊も全滅し、騎士団長である彼を失った騎士団がその高みへ行けるのは、…………もう遥か後だろう。

私も、騎士達と一緒だ。彼だからこそ信じついてきた。彼の代わりなど見つかる筈もない。史上最年少騎士団長の名を得た彼が、死ぬのはあまりにもあっけなかった。

せめて戦場で死ぬくらいの恰好はつけてくれと皮肉を言いたくなるが、笑みが自然と枯れ落ちる。言おうとした口が開いたまま動かなかった。私が何を言おうとも返す者はここにいない。


「アーサーはまだ十三だぞ。……いつかあの酒場で一緒に飲みかわしたいと言っていたじゃないか」

口どころか顔もない彼は答えない。

アーサーが産まれて間もない頃、男児が生まれたと喜んでいたロデリックが何度も言っていた言葉だ。アーサーが騎士を目指すのを諦めてからは自然と口にしなくなっていたが、たとえ彼が騎士以外の道を選んでも彼はいつかそうしたいと望んだだろう。

平坦な声が自分の耳でも滑稽に響いた。さっきまでは騎士達の前でずっと立ち続けても何も感じなかった筈なのに、今は手も足も鉛のように重い。

私が代わりにアーサーと飲んでしまうぞと、軽口でも言おうとすればそれだけで胸が酷く絞られた。きっとそうしなければならない時が来るのだろうと、事実としてそう思う。

ぱたり、ぱたりと手の甲に雫が落ちたと思えば私だった。口角を不出来に上げながら、友の亡骸とも呼べないそれに語り掛ける。こんな姿は騎士達にも見せられない。

やはり彼の遺体だけでもここに移動させて良かったと思う。騎士団の要だった彼のこんな姿を、他の騎士が何度も平然と視界に入れられる筈がない。

目から零れる滴を押さえつけようと片手のひらで目を覆う。その途端、止まるどころか余計に増した。喉までしゃくり上げそうなそれに、このままでは数時間程度じゃ足りないと頭の冷静な部分が思う。しかしもう止められない。



「……本当に、手間のかかる男だよ」



最期まで、と。

その言葉も言えず、壁一枚向こうに漏れぬようただ声を押し殺した。







………





「それでも‼︎貴方が戦場に出られるより遥かに良い‼︎」


謁見の間に響き渡る声で、友が声を荒げる。

慣れている私ですらあまりの声量に顔を顰めた。ロデリックがこう出ることは昨日の時点で予想できていた。

彼がプライド様の行動を窘めることも、この場で自ら進言するつもりだったことも。

流石のプライド様も、先ほどまでの詰め寄りとは異なる怒声に肩を強張らせた。私が落ち着けと止めに入ったところで、彼は止まらない。


「貴方はその騎士としての生き方に泥を塗るところだったのです‼︎」


ロデリックの言い分は正しい。

あの場でプライド様まで命を落としていれば、これまでの功績を地に落とすどころか彼の騎士としての名を貶めていただろう。

あそこでもし、ロデリックや私に冷静に判断する時間を与えられていれば、確実に彼も副団長である私も名誉ある死を選んだだろう。本来、王族を巻き込むこと自体あってはならないことだ。……ただな、友よ。やはりそれでも私は


「己が価値を理解していないのは貴方もです騎士団長‼︎貴方に関わる人間がどれほど貴方を慕い、愛し、心を傾けていることか‼︎」


生きていてくれて良かったと、心の底からそう思う。

ロデリックへ反じる彼女の声は、凛とした鋭さを持って響かされた。

その怒りも、鋭さも本来ならば彼女自身の為に使うべきだった。あんな危険な崖地帯に王族である自分は行けない。代わりの案を、代理を用意しろと言えば私達はすぐに先行部隊か新兵に通信を試みただろう。……だが、当時彼らのいる座標も不確定だったあの時点で動いても間に合ったかはわからない。試みている間にロデリックが奇襲者に撃ち殺されていた可能性も大いにある。だからこそ今、彼がこうして立っていることはそれだけで奇跡だった。


「プライド様。ここが、公式の場ではなく個人の言葉も許されるというのならば私からも一つ宜しいでしょうか」


私からの進言に、プライド様は一言で許された。

このように彼女を尊じることなど少し前までは生涯ないだろうとまで思っていた。形式の礼や謝罪以外で頭を下げる日など、想像もしなかった。

跪き、感謝を言葉にすれば誰よりも先にロデリックから戸惑いの声が上がる。彼が止めに入ることも想定内だ。「並びに‼︎」と喉を張り、今度は私が彼の声を打ち消した。今だけは彼の部下としてではなく、私として言わせて貰う。

ロデリックの言い分はこれ以上ない騎士としての正論だ。だがしかし、それでも…………すまない、友よ。






お前が死んだら、悲しいよ。






「我が友…ロデリック騎士団長をお救い頂き、心より感謝しております。…ありがとうございます…!」


私も、騎士達も。

Ⅰ 367-3.36-2

Ⅰ 30-幕


ゼロサムオンライン様(http://online.ichijinsha.co.jp/zerosum)より第八話無料公開中です。

今回は特に作者にとっても大事なエピソードなので、是非ご覧頂きたいです。物語としてもそうですが、視覚化されたかった場面が目白押しでした。

様々な登場人物の感情や関係性の変わる物語になり、全頁が見どころです。

どうかよろしくお願いします。


クラークもまた、無自覚にプライドに人生を変えられた一人でした。


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