第99話 勧誘
「そうだ、ここから先はトラップが増えるのでご注意ください」
アシュレイが思い出したようにそう告げてきた。
トラップか。聞いたことはある。今までの階層にもあったんだろうが、運よく引っかかることはなかった。
アリサが盗賊系スキルを持っていた気がするし、何も言わないんだから当たらなかったんだろう。
「どんなトラップがあるの〜?」
「矢が飛んできたり、毒が噴射されたり、魔物が湧いて出る部屋に閉じ込められたり、大きな岩が転がってきたり、棘が生えた天井が落ちてくるのを見たという報告もありました」
それ、ちょっとした罠ってレベルじゃないよな? 引っかかったら死ぬレベルだ。
「岩が転がってくるって典型だね。それはぜひ見てみたいし追われてみたいね〜」
「あたし達なら岩が転がってきても逃げられるし楽しそう。矢は危ないけど避ければいいし、毒は無効だし、魔物くらい平気だし、天井は破壊できるなら平気だよね?」
普通は平気じゃないんだ。俺たちにとっては平気でも。
ほらみろ、アシュレイが呆れた顔で見ているぞ。アシュレイもこっちの世界に来てみるか?
「あ、でもアシュレイが毒浴びたら拙くない? 状態異常無効とか持ってたりする?」
「いえ、多少の毒なら浴びても解毒剤を飲めば問題ありませんが、一瞬で死に至るようなものだと厳しいでしょうね」
レオンが俺を見た。それはアシュレイに状態異常無効を『コピペ』しようとしているんだな?
それはダメだ。ココのように国から出たことがなく、パーティーメンバーで、他に仲間や知り合いがおらず吹聴する恐れがない者ならいいが、アシュレイはダンジョン攻略が終われば別行動になるんだろ?
口が軽そうには見えないし、分別あるように見えるが、信じるにはまだアシュレイのことを知らなすぎる。
俺は左右に首を振った。
「アシュレイ、勇者パーティーに入らない?」
レオン、お前はまたホイホイと気軽に勧誘などして……
「はい?」
ほらみろ、アシュレイが戸惑っているじゃないか。
それなりに生きているであろうエルフで、Aランクにまで上り詰めたのにソロで活動しているんだから、ソロ冒険者でいる理由があるんだろう。強ければ色々なパーティーから声がかかるだろうし、それを受けずにいるんだから、そう簡単に首を縦に振るとも思えない。
「俺たちのパーティーに入って、一緒に魔王に会いに行かない?」
「うーん……」
アシュレイは腕を組んで考え込んでしまった。即答で断られると思っていたが、この先まだ行動を共にしなければならないんだから、無碍に断るのも悪いと思ったんだろうか?
「入ります」
え? アシュレイ、なんて言った?
「私の力を頼られて搾取されるのは嫌だったんですが、このパーティーはそれがない。なぜなら私より皆さんの方が強い。私はこの容姿なので男も女も色欲の目で見てくる者が多いが、このパーティーではそれもない。問題があるとすれば、私が皆さんの足を引っ張ってしまうことでしょうか……」
そう言えば随分前に、俺が寝込んでいた時にレオンが冒険者にいいように利用されて搾取されていたな。同じようなことがあったんだろうか?
美形にも美形の悩みがあるということか。色欲の目で見られるのも可愛い女の子限定ならいいが、そうもいかないんだろう。苦労してるんだな。なんだか同情的になってしまった。
「アデルいい〜?」
「なんで俺に聞くんだよ。レオンがリーダーなんだからレオンがいいならいいだろ。反対はしない」
「みんなは?」
「俺はいいぞ」
「あたしもいいよ〜」
「私もいいわ」
一緒にいて何の問題もないどころか、知識も豊富で特にダンジョンのことについては本当に助かっている。
パーティーメンバーになって一緒に来るなら監視できるし、その間に見極めてもいい。
「アシュレイ、ってことで色々あげるね〜」
「はい? あげるとは?」
アシュレイが戸惑っている。そうなるよな。勇者は非常識だからな。そのうち慣れる。
「アシュレイ、こちらの世界へようこそ」
「こちらの世界? パーティーへようこそではなく?」
色々常識を外れたことが襲いかかってくるが、もう遅い。どうにか耐えてくれ。
「街に戻ったら歓迎会しようぜ」
「ワイバーンとシュアも紹介しないとな」
「アデル、可愛いヴァイスも忘れないで〜」
ワッフ〜
ポチも歓迎しているらしい。今まで大人しくしていたポチが、尻尾をブンブン振って俺の足にバシバシ当ててくる。お前は子どもかもしれないが普通の犬じゃないんだから尻尾が当たるだけで結構痛いんだぞ。
レオンがアシュレイに『コピペ』したスキルの話をすると、アシュレイはしばらく放心していた。
これくらいで驚いていたら大変だぞ。
自分のステータスは見ないことをお勧めする。俺はもう怖くてしばらく見ていない。今後もできれば見ないでおこうと思う。
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