第93話 7階層の悪夢
「ねえ、なんかさ、嫌な感じするんだけど〜」
階層を下る石でできた階段を下りたところでレオンが足を止めた。
「レオン奇遇だな。俺もだ」
「アデルまでどうしたんだ? 俺は何も感じないぞ」
ドランは鈍感になってしまったらしい。
ここでダンジョンの情報を唯一持っているのはアシュレイ。みんな揃ってアシュレイの方を向いた。
「皆さんなら苦労せず突破できると思いますが、7階層で出てくるのはスケルトンとゾンビですね」
「なるほど。レオンとアデルが嫌な感じだと言っていた理由が分かった」
魔物の種類が分かった瞬間にドランは表情を歪めた。
王都の森の6階層で俺たちはえらい目に遭ったからな。もう二度とアンデッドはごめんだと思ったんだ。
俺とレオンとドランが苦々しい顔をしていたから、アシュレイとアリサとココが不思議そうな顔をしていた。
あの時は恐らく高位のリッチがいた。あの頃より俺たちは強くなっているし、ここはまだ浅い階層だから、レオンの光魔法を使ってもすぐにアンデッドに囲まれるということはないと思うんだが……
ペタリペタリ、ベチャッと怪しい音がこちらに近づいてくる。
あれはもしかしなくてもゾンビなんじゃないか?
嫌だな。弱くても臭いし見た目も不快だし、あの日からしばらく俺は夜中に魘されることになったんだ……
「あたし無理かも。獣人になってから鼻がよくなったから、マスクしてもこの腐臭は無理」
鼻と口を覆う布でできたマスクという、レオンとアリサがいた世界では当たり前に使われていたらしい病気を予防するものをつけたアリサが、その上からもハンカチを何重にも当てて眉間に皺を寄せている。
「俺もここ無理なんだけど〜、もうさ、光一発かまして次の階層まで駆け抜けない? アシュレイって俊足持ってる? 身体強化は? うちは全員どっちも使えるんだよね」
「私は身体強化は使えるが俊足はないな」
身体強化は戦うものであれば大抵最初に覚える魔法だからな。俊足はやはり持っていないか。レオン、スキルを気軽に人に与えてはいけない。俺はレオンの挙動をじっと見つめた。頼む、伝わってくれ。
「じゃあアシュレイは俺が担いでいくね〜」
「それがいいな」
サーン
眩い光が階層全体を照らすと、目が開けていられず、手で顔を覆った。久々にレオンの大型魔法を見た気がする。これ、マジでこの階層の全ての魔物が消えたんじゃないか?
「じゃあ行くよ〜、よーいドン!」
謎の掛け声と共にレオンがアシュレイをヒョイっと担ぎ上げて走っていった。
「あっ、ちょっ……待っ、わあぁぁぁ!!」
アシュレイ、がんばれ。
アシュレイの叫び声が遠くなっていくと、俺はその声を目指して走り出した。
方向分かんねえ。アシュレイがいるからいいと思っていたが、アシュレイと離れてしまったら、俺は迷子になる自信がある。
引き離されてたまるかと、それはもう必死に走った。
アリサは鼻が効くと言っていたな。ココやドランは大丈夫だろうか? 俺も必死だから、後ろを振り返る暇もない。索敵で探るにしても、道を誤れば近くにいても合流できない可能性がある。
ダンジョンの壁って破壊して通り抜けるってことはできるんだろうか?
幸いレオンの光魔法の効果でダンジョンの中は洞窟なのに昼間のように明るい。
右へ左へと分岐を曲がりながらレオンを必死に追いかけていると、やっと階層を下る階段と、地面に両手と膝をついて肩で息をしているアシュレイとレオンを見つけた。
アシュレイ、これが勇者パーティーだ。
「あれ〜? ドランは?」
「は?」
後ろを振り向くと。アリサとココはいるんだが、ドランがいない。まさか途中で見失ったか? そういえばドランはこの前も森で迷子になっていたな。
「誰が迎えにいく?」
ダンジョンに詳しいアシュレイが一番いいんだが、とても走れる状態には見えない。
アリサは鼻が効くが、この階層は苦手そうだ。ココは……分からんが向いているとも思えん。まさか俺じゃないよな? 無理だぞ。俺だってあの迷路のようなところを正しくここまで戻ってこられる自信はない。
「ポチ、いける? ドラン分かるよね?」
ガウガウ
「じゃあお願いね」
ガウー!
ホッ
ポチがドランを迎えにいってくれるようだ。
「ちょっとだけこの辺り浄化するから、みんな避けて〜」
「避ける?」
やっと少し復活してきたアシュレイが不思議そうに首を傾げた。まだ顔色は青い。
アシュレイは知らないんだよな。レオンの浄化が服まで真っ白にしてしまうことを。
「アシュレイ、服が真っ白になったら困るだろ?」
「ええ、まあ」
アシュレイにレオンの浄化の効果を説明しながら、後退させた。
「床とかもめっちゃ綺麗になったね〜、なんだっけ? 鏡面仕上げ?」
「大理石みたいね」
「あ〜それそれ!」
よく分からないが、洞窟の中でもこの一帯だけ、顔が映るほどに磨き上げられた地面と壁が出来上がった。
「ドランが戻ってくるまでおやつでも食べて待ってようよ」
「そうだな。ちょうど休憩したいと思っていた」
レオンがテーブルと椅子とクッション、この前作っていた栗のジャム、白いパンと紅茶を出した。
ここは木がないから焚き火はできないんだが、コンロの魔道具があれば料理はできる。湯を沸かして紅茶を飲むこともできるんだ。
「レオン、あなたのアイテムボックスはかなり容量が大きいのですか?」
「そうだね〜、無限だから。アシュレイのアイテムボックスも船が入るんだから大きいでしょ?」
「無限……」
そりゃあびっくりするよな。俺だって、アイテムボックス∞がなければ、机や椅子、布団なんかを持ち歩こうとは思わないからな。
気を確かに持て、アシュレイ。これが勇者パーティーだ。
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