第90話 栗という木の実
「これが栗か……」
目の前には、レオンが作ったという栗という木の実を剥いて煮たやつと、マッシュポテトのようなものがある。
「砂糖とか貴重なのか高かったけどさ、レシピあればなんとかなるもんだね〜、栗ご飯は無理だったけど、モンブランも夢じゃないよね! 黄色くないけど甘露煮っていうの? これとか結構再現率高くない?」
「甘露煮はこんな味だった気がする。おせちの栗きんとんに乗ってるやつ」
「そうそうそれ! 黄色かったのってさ、色付けてたんだね〜」
「着色料ってやつだ?」
相変わらずレオンとアリサは何を言っているのかよく分からないが、上手くできたらしいということは分かった。
ドランは普通に食っているし、ココはちょっと食べるのを迷っている。
「甘いな」
ドランが呟いたが、感想はそれだけなのか? 砂糖を使ったと言っていたから甘いんだろうが、もう少し何か感想はないのか?
「アデルもココも食べてみてよ〜、この栗ジャムなんて、結構いい感じだと思うんだよね。パンに乗せたらめっちゃ美味い」
「分かった」
煮たやつを一つ口に入れてみた。確かに甘いな。甘い芋のような味だ。苦かったり渋かったり変な味はしない。
「ココ、大丈夫そうだ。食感は芋に近くて、苦くも渋くもない。菓子みたいだ」
「そう。なら食べてみる」
恐る恐るココは栗を煮たものを口に運んだ。
「ん……? あ、美味しい」
「でしょ〜? 栗ってスイーツの定番だから、美味しいに決まってる。こっちも食べてみてよ。ジャムみたいにパンに塗って食べるんだ」
「ジャムというのはフルーツを砂糖で煮たものではないのか?」
「いいじゃん細かいことは。美味しいんだからそれでいいでしょ?」
ドランは相変わらず、無言で食べ進めている。今度は黙々と食べている感じで、特に感想はない。
もしかして、栗のジャムとやらが気に入って夢中で食べているのか?
パンをちぎってそこに乗せて食べてみる。
美味いな。これは想像以上だった。伝記にも書いてあった。当時は他の人たちも食べていたと。これほど美味しいものなのに、なぜ今は食べられていないのか不思議だった。
まさか取り尽くしたんだろうか?
「みんなも栗の美味しさが分かったでしょ? モンブラン作りたかったんだけど、それはケーキ屋さんに頼むしかない」
ケーキ屋? 山だと言っていなかったか? ケーキ屋が山と関係しているのか? よく分からんが、俺たちが苦労するわけでなく美味いものが食えるなら悪くはない。
「レオン、アリサ、豆を焦がして煮出した飲み物を知っているか?」
「知ってる〜、コーヒーだよね? この世界にもあんの?」
やはり知っていたか。ということは伝承の勇者はレオンと同じ世界から来た人間だったんだろう。
「勇者の伝記に載っていたが、今はあるか分からない」
「そっか。もっと南の暖かい国じゃないとコーヒー豆育たないから、そのせいかもね」
「ブラジルとかだよね。それってこの世界だどどの辺なんだろう? カカオとかあったらチョコとかもあるんじゃない?」
「それいい! チョコレートはお菓子の定番だよね〜」
分からないが、その豆は暖かい国でないと育たないのなら、俺が知らないのは仕方ないのかもしれない。
豆を焦がして煮出して飲むって、なんなんだ? 普通は焦げてしまったら捨てるだろ。
キィー
っとワイバーンたちからの食事の要請が入った。俺の肉焼き職人の仕事の時間だ。
「今日も俺の収納に入ってるやつ出すね〜、残りが少なくなってきたから、出したらバルムンク連れてワイバーンたちの食料調達に行ってくる〜」
レオンはそう言うと、アイテムボックスから大量に魔物を出して、森の奥へと走っていった。
ここ数日レオンは栗の料理に夢中だった。レオンのアイテムボックスには大量に魔物が入っていると言っても、ワイバーンの消費も大量だから残りが少なくなったんだろう。
コカトリスやロック鳥などの鳥系が多いんだが、今日はその中に変なのが混ざっていた。
「ちょっとドラン来てくれ」
「なんだ?」
「これってドラゴンに見えないか?」
そこにはワイバーンたちより少し小さいんだが、鳥ではない魔物が含まれていた。
体は鱗に覆われているし、翼は蝙蝠みたいな皮膜のような感じで羽根はない。嘴もないし……
「ドラゴンに見えるな。ただ、ちょっとドラゴンにしては小さくないか?」
「そうなんだよな。ドラゴンにしては小さい。子どものドラゴンか?」
「親は?」
「知らん。レオンが持っていたものだからな」
「親が嗅ぎつけたら拙いんじゃないか?」
俺は慌ててアイテムボックスにしまった。もしあれがドラゴンで、子だけ倒していたのだとしたら拙い。
子を殺された親ドラゴンは地の果てまで追ってくると言う。
レオンのアイテムボックスに親も入っているのならいいんだが、それは分からない。
怖いものを気軽に出すんじゃねえ。俺は人間辞めているがまだワイバーンにも勝てないんだ。
ドラゴンなんかに襲われたらすぐに死んでしまう。
俺は怖くなって、索敵を広範囲に広げながらワイバーンたちの肉を焼くことになった。
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