第89話 伝記の読破
「ドラン、勇者の伝記って作者は誰だ?」
「知らん」
「だよな。本にも書き写した人物の名前しか載っていなかった」
ドランに聞いてみたが、やはり伝記を書いた人物が誰かはわからなかった。
誰が書いたのかが気になったのは、魔王らしきものの正体が曖昧で、強さどころか戦いの詳細が何も書かれていなかったからだ。
書いた人物は勇者の側にいた者ではないということだ。だが、どうせ書くのなら、そんなのは魔王を倒した勇者に聞けば分かるだろう。聞かなかったのか、聞けなかったのか、聞いたけどあえて書かなかったのか。
勇者パーティーは世界に平和をもたらしたが、そのパーティーの仲間のその後は書かれていない。
勇者のその後の話もないんだ。魔王を倒し平和をもたらした。そこで伝記は終わっていた。
魔王の居城は、南西の端と書かれている。まさか騎士団長が言った「南西に魔王の城がある」という発言は伝記の中のことで、本当にそこに魔王が住む城があるのか調べてもいないということはないよな?
だとしたら、俺たちは一体何をやっているんだ?
とりあえず伝記に書かれている魔王の居城があったと言われる場所にに行ってみるしかないか。
レオンにこの話をするかどうかは迷ったんだが、話すことにした。
「そっか。もし魔王がいなくて魔王の城も見つからなかったら、俺は冒険者として生きてくことになるの〜? それでも別にいいんだけど。目的なく過ごすのはつまんないけど、この世界は楽しくて好きだよ」
一応、どうでもいい記録として書かれていた、栗の食べ方というものはレオンに教えてやった。
硬い皮を剥いて甘く煮たりするとか、穀物と一緒に炊くとか、すり潰して菓子に混ぜるとかそんなことが書かれていた。
それを伝えたせいで、レオンがやる気になってしまい、この街の滞在が伸びてしまったのは誤算だった。
しかし、急いでいるわけでもない。緊急事態というわけでもないんだ。
目的もなくレオンをこの世界に連れてきてしまった俺をレオンは責めなかった。だから俺はせめてレオンがやりたいようにさせてやろうと思った。なんだよ。やっぱりレオンはいい奴なのかよ。
俺だったら激怒するところだぞ?
「シュア、俺は何してんだろうな?」
「シュアと一緒に寝てる」
「うん。今はそうだな」
「今度、次男と一緒に飛びたい」
俺はその言葉にガバッと起きた。
俺の大切なシュアを危険に晒すつもりか?
次男に抗議に行ったが、キィーキィーと言っているだけで何を言っているのか全然分からない。だよな……
そして俺は次男にシュアごと羽で囲われて半日ほど出してもらえなかった。
これは新手の罰なのか? 弱い人間如きが逆らうなと脅しているのか?
くそぅ、人間辞めているはずなのに、まだ俺はワイバーンには敵わないらしい。
「シュア、美味いか?」
「美味い!」
それならいいんだ。ワイバーンたちに肉を焼いてやると、次男はシュアにも焼いた肉を分け与えていた。
恐ろしい姿になったシュアに庇護欲でも湧いたんだろうか?
害がないならいいんだ。シュアは肉をもらって喜んでいるし、なんだか仲がよさそうにキィーキィーと話している。俺もワイバーンの言葉を理解できたら、また違う世界が見えるんだろうか?
レオンかアリサに聞けば、次男が何を言っているのか分かりそうだが、なんとなく聞くのが怖いと思っていて聞けずにいる。
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