第87話 調べ物
「南西ってさ、曖昧だよね〜、せめて何キロとか、どこどこの国の先とか、そういうの教えてもらえないと全然分かんない」
「そうだな。俺もあれほどまでに魔王の情報がないとは思わなかった」
レオンの発言に同意しながら考える。国は何を思って勇者召喚などしようと思ったのか……
伝承の勇者を見てみたかったとか、異世界人をみてみたかったとか、国を優位に立たせるためとか、俺が恐れていた答えな気がしてならない。
俺がため息をついていると、長老がドンマイとでも言うように、俺の肩に羽を乗せてきた。
ワイバーン同士でやるならいいんだが、重すぎて俺の足が地面にめり込んだんだが……
そんな重さにも耐えられる体になってしまった自分が怖い。
「ドラン、伝承の勇者って、500年くらい前の話だったか?」
「もっと前じゃないか? 1000年は経っていなかったと思う。伝記がボロボロになる度に何度も書き写してきたから、原本はもう無いと聞いているし、途中で書き変わっている可能性もあるな」
書き変わっている可能性など考え始めたら、もう何も信じられなくなる。
もう少し魔王と勇者の戦いの伝記を読んでおけばよかった。
俺たちはひたすらに南西に向けて進んでいったんだが、全然魔王の城というものは見つからなかった。
「全然ないね〜、ずっと空飛ぶのも飽きてきたしちょっと街とか寄って気晴らししようよ〜」
「あたしもちょっと休日とか欲しい」
「他国の街は楽しみだわ」
レオンとアリサは完全に遊ぶ気でいるが、ココも鎖国された国から出てからは、街に寄ったり色々な景色を見たりするのがとても楽しいらしい。
「俺は森が近くにあるか、シュアを召喚してもらえればなんでもいい」
「そうだな近くの街に降りて、少し情報収集もしたい」
戦いたいだけのドランの意見は無視だ無視。しかしワイバーンたちを滞在させなければならないから森は必要だな。シュアは俺のだ。体が更にでかくなったシュアは、その辺では呼び出せない。
ブラッディオーガになってもシュアは凶暴になんてならなかった。優しいシュアのままだ。俺の癒し。
とにかくそんな会話もあって、俺たちは街に行くことにした。
俺としてはできれば大きめの図書館があってほしい。
レオンとココとアリサは、街の散策に出かけるそうだ。
ドランはワイバーンたちが滞在している森に、シュアを召喚して置いてきた。
「シュアなの、分かった?」
「キィー」
「うん、キィー」
「キィー、キィー」
「そうなの。キィー」
「キィ……」
シュアはブラッディオーガに進化したら、ワイバーンが怖くなくなったそうだ。なぜか次男と謎の会話を繰り広げていた。俺の天敵、次男。俺のシュアを取るなよ?
そして俺は街の図書館に向かった。
伝承の勇者と魔王の本を探す。あったのは、幼児向けの絵が描かれた薄っぺらい本と、ボロボロで文字が滲んでいるような古い本だけだった。
両方開いてみたんだが、幼児向けのものは全く何の手掛かりもなかった。違う世界から勇者が来て、魔王を倒して平和をもたらすという内容だったんだが、魔王はどう見てもトロールの絵だったし、勇者に至っては真っ黒なローブを着てフードを目深に被っているから姿が分からなかった。子ども向けの本なのにこんなに怪しい勇者でいいんだろうか?
ボロボロの本は、背表紙の部分が取れかかっており、乱暴に扱ったら全部バラバラになってしまいそうなほど酷い状態だった。
字も滲んでいるし、ところどころ古代文字が使われていて意味が分からない部分もある。
古代文字の辞書を片手に解読しながら読み進めていくのは結構大変な作業だった。
これは何日かかけないと全て読むことはできないな。
勇者召喚をし、その勇者は黒目黒髪だったということが分かった。レオンと同じだな。
しかし名前は字が滲んでどうしても読めなかった。マ……キ? 分からん。ダメだ。
そして面白いものを見つけた。勇者は栗を食ったらしい。あの焚き火に入れると襲撃してくる木の実だ。
もしかして、レオンと同じ世界から来た奴なのか? 当時は栗をこの世界の人も食べたと書かれていたが、今は食べていない。食べなくなった理由はなんだ?
当時の勇者は竜殺しの剣を振り回し、とてつもない魔法を使ったとも書かれている。
レオンに似ているんだが……
バルムンクも竜殺しの剣と呼ばれる剣だし、レオンは森を抉ったり、騎士団の演習場を更地にしたりもした。
まさかとは思うが、さっきの絵本の勇者がローブを目深に被っているのは髪型が気に入らないからじゃないよな?
いや、それはない。そんなことあるわけない。魔王がトロールなんだから、きっと勇者も適当に描いたんだろう。
ふぅ、今日はここまでにするか。集中して文字ばかり追っていたから目が疲れた。
本を閉じ、眉間をグリグリと揉み込んで、首もぐるぐると回すと、席を立った。
今日の俺の仕事はこれで終わり。といきたいところだが、これから森に行き、ワイバーンたちの肉焼き職人の仕事が待っている。シュアにも美味しい肉を焼いてやるか。そしてまだちょっと慣れない獰猛な姿のシュアに癒されて、それから街に戻ることになる。
岩塩はまだでかい塊があるからいいとして、ハーブはまだあったよな?
とりあえずレオンを捕まえてワイバーンたちの食料を確保しなければならない。
さよなら、俺の静かな時間……
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