第85話 悪なのか
「レオン、悪い知らせがある」
「何〜? アデルから悪い知らせってちょっと怖いんだけど〜」
俺は団長との会話をそのまま話した。
魔王を討伐する必要がないかもしれなくて、レオンを召喚する必要もなかったのかもしれないということも伝えた。
「すまん、レオン」
「そっか〜、でも俺、この世界好きだよ。みんな優しいし、俺はチート授かってるから危険はないし。でも一応魔王には会いに行こうかなって思ってる。アデルも一緒に行くでしょ?」
「そうだな。一緒に行こう」
レオンは次の日、ギルドに行くとベフおじさんとかいう、前によく畑の手伝いの依頼を受けていた人の依頼を受けた。
農家の荷運びなどもうしなくても、もっと稼げる方法があるのにな。
「レオンじゃねーか」
「お! 本当だ、レオンだ」
「戻ってきたのか?」
「魔王はどうした?」
やっぱりレオンは人気者で、ギルドに戻ると冒険者たちが集まってきた。
「みんな久しぶり〜、旅はしてたんだけど、一旦戻ってきた〜、魔王のところにはこれから行くよ〜」
レオンは軽い感じで言ったんだが、その場がシンと静まり返った。
前の俺でもそういう反応をしたんだろうな。死地に行くんだと思われているんだろう。
俺は正直分からん。魔王が存在するというのも伝承なだけで、いないって可能性もあるんじゃないかと思っているし、災害や魔物が増えていないのなら、何もしていないのではないかとも思える。
悪なら倒す気ではいるが、倒せるかと問われても分からん。
家に帰って聞いてみると、レオンとアリサは知らなくて当然なんだが、ココも魔王討伐というのは漠然としか分かっていなかった。
魔王が魔物を生み出して災害を引き起こしているという話は鎖国しているからなのか、ココの出身地であるアリーナ王国では知られていなかったんだ。
「ドランはどう思う? ってドランはどこいった?」
「あ〜、ドランは寝てると思う〜、レイナさんにたくさん布渡されてたから、刺繍で徹夜したんじゃない?」
なるほど……
レイナ様は相変わらずだな。ドランが見当たらないと思ったら、刺繍をさせられて寝落ちしていたか。
ドランもきっと魔王は悪いやつで、いつか倒さなければならないと教わっていただろうし、どんな反応を見せるのか気になるところだ。
昼過ぎにドランが起きてきたからレオンたちに話した魔王の件を話してみた。
「そうか。いないんだったらどうしようもないな。いるなら戦ってみたい。強いんだろ?」
「分からん」
悪かそうでないかはドランにとっては重要ではないらしい。ドランは強いやつと戦えればなんでもいいらしい。
難しい反応をして、昔から教えられてきたことと現実との葛藤をする姿を見られるかと思ったが、ドランはドランだった。
でもそれでよかったのかもしれない。「絶対に魔王を倒す!」と熱くなる男なら、色々と説明も難しかったかもしれないからな。
聞くことも聞いたし、ドランのアイロンも直った。レオンのワックスの予備も買って、アリサとココの化粧水とやらも買って、もう出立するだけとなったんだが、それに待ったがかかった。
「あと3日待ってくれ」
そう言ったのはドランだった。
その理由は刺繍が仕上がらないからだ。いや、勇者パーティーが刺繍が仕上がらないために出立を遅らすとかどうなってんだよ。
もうこのパーティーは元からおかしいんだから、どうしようもない。
俺はその延期された暇な日々は、ミアに謎の化粧品を顔に塗りたくられることになった。
ミアはしばらく見ない間にちょっと大人になっていた。なんでも、婚約者ができたのだとか。
俺にもまだ婚約者がいないのに……
ココとアリサは森に行っている。いつの間にか2人はBランクになったらしい。
俺も化粧品を塗りたくられるくらいなら森に行きたかった……
そして3日経ってやっとドランの刺繍が終わり、寝ていないのに出立するのは可哀想だと、追加で1日休養日をとって出かけることになった。
「はぁ、シュア、お前だけだ。俺の味方は」
「ミカタ」
「好きってことだ」
「トト、シュキ」
「俺もシュアが好きだぞ」
俺の休養日はシュアと庭で日向ぼっこをしてゆったりと過ごした。
「トト、ヘン」
「ん? どうした?」
急にシュアが蹲って息を荒げ始めると、体が発光し出した。なんだ? 赤ちゃんの頃から見ているのに、こんなことは初めてだ。
「トト、タスケテ」
「シュア! シュア! しっかりしろ」
謎の光は強くなってシュアが見えなくなる。シュアに触れようとしたら結界のようなものでバチッと弾かれた。
なんだよこれ……
魔物が病気になるってことがあるのかは分からない。どうしたらシュアを助けられる?
俺に何ができる? 俺は狼狽えることしかできなかった。
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