第84話 一時帰国
しばらく歩くと、なんとも簡素な家が立ち並んだ集落についた。いつの間にか雨も上がって、少し日も射して暑くなってきた。
「ねえ、なんか違うんだけど〜」
「だよね。大昔の日本? なんだろ、縄文時代みたいな感じ?」
「それそれ。俺の中では武士がいる江戸自体とかそんなの想像してたんだけどさ、何これ文明遅れすぎじゃない?」
目の前には石の槍を持って、動物の毛皮を体に纏った人たちがいる。
文明遅れすぎと言ったレオンの言葉がそのままの意味のような光景だ。
「ここにレオンが欲しいものがあるのか?」
「ない気がする〜」
「ねえねえそこの人、ここでは何食べて生きてるの?」
「○;・#A*;!、>?」
レオンが質問しているが、返ってきた言葉は意味不明だった。全然何話してるのか分からないな。ここでは言葉も違うのか……
「レオン、なんて言ってるんだ?」
ドランが腕を組んだままレオンに聞いた。
「肉と森の果物を食べて生活してるんだって」
「それがレオンが欲しかったものなのか?」
「全然違う。この島に用はない。戻ることにする〜」
はあ? きたばかりなのにもう戻るのか?
次男と目が合うと、後ろに乗れと背中を顎で指し示した。無理。お前に乗ったら死ぬからな。
長老頼んだぞ。長老のためにちゃんと美味い肉を焼いてやるからな。
よしよし、その首の痒そうなところも掻いてやる。ガシガシと掻いてやると、長老は気持ちよさそうにフィ〜っと鳴いた。
そんな声出るんだな。
そして俺たちは、来たばかりの島を早くも旅立って、さっきの岩に波が打ちつける大陸の端の海まで戻ってきた。
「期待外れで残念すぎる。エルミーツさんに会った時にちゃんと聞いてみる。東方って言ってたけど、あの島じゃなかったのかも」
「ご飯食べたかった。和菓子も。あんな原住民みたいな人が住んでるとは思わなかったよね」
「醤油も味噌も米もない。和菓子もないなんてショック。完全に和食を食う気でいたのに」
「あたしも〜、和食じゃなくていいからご飯だけでも食べたかったな〜」
レオンとアリサはとてもショックを受けて落胆しているが、俺に盗っては未知の食材などちょっと怖いからほっとしている。
「とりあえず国に戻るか? 俺のアイロンがちょっと調子悪いんだよな。魔道具屋のクリスに見てもらいたい」
ドラン、旅の途中で髪を整えるアイロンなんてものを気にするやつはお前しかいないと思うぞ。
「俺も戻りたい。アデルも魔王のこと聞かなきゃだしさ、戻るか〜、アリサも化粧水欲しいって言ってたしな」
こうして俺たちは、修行の旅に出て魔王を討伐していないのに国に戻ることになった。
どんな顔して戻ればいいんだよ!
ワイバーンの飛行速度が速いとはいえ、一日で着くことはなく、結構な日数をかけて国に向かっている。
こんなに遠くまで来ていたのか。
「あれ? なんか違うところに来てるっぽい。地図アプリで見たらこっちじゃなかった」
遠くまで来ていたのかと感慨深く思っていたが、見当違いの方向へ向かっていたらしい。
そしてレオンの『地図アプリ』という謎のお告げに導かれて、俺たちは王都に戻ってきた。
まだ魔王を討伐していないのに恥ずかしいが、俺は騎士団長に約束を取り付けて騎士団に向かった。
「団長殿、魔王の強さを教えていただきたいのですが。というのも、俺たちは修行の旅に出ましたが、どれほどのレベルになれば魔王討伐に向かえるかの判断ができなかったんです」
「ふむ、そう言われてもな……俺も会ったことがないんだから分からん。南西の端に魔王の城があるとは聞いているが、強さは分からん」
マジかよ。どうすんだよ。
「では今分かっている情報を教えていただきたいのですが」
「魔王が魔物や天候を操っているらしいということ、南西の端に魔王の城があるということだけだ」
はい? それだけの情報で勇者召喚したのか? 嘘だろ?
しかも魔物や天候を操っているらしいって、『らしい』ってなんだよ。確定じゃないのか?
そして見たこともないし強さも分からない。存在するかどうかも怪しくなってきたな。
俺も昔は、魔王という悪い奴が人間の生活を脅かしているのだと思っていた。しかしレオンと出会ってから色々な常識が覆って、違う視点から見てみるということを覚えた。昔の俺だったら、魔王は悪いやつで人間に害を及ぼす存在として疑問なんて持たなかったんだろう。
「では、各地で近年、魔物による被害が出ているとか、魔物の数が増えたということは?」
「冒険者ギルドが各国から統計が毎年出されているんだが、統計を取り始めた頃から、それは変わっていない」
統計をいつから取っているのかを聞いてみたら、200年ほど前からだと言われた。
いや、それ、魔王討伐する必要ある? ずっと変わってないんだろ?
俺は何のためにレオンを召喚したのか。学校でも魔王が悪さをしていて倒さなければならないと習った。あれは何だったんだ? 誰がそんなことを言った?
頭が痛くなってきた。
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