第79話 東へ向かう
「東ってどっち?」
「太陽が登ってくる方じゃない? あれ?でもこの世界って太陽じゃないんだっけ? じゃあどっちだろう?」
「アデルー、東ってどっち?」
なんで方角が分からないんだ? 羅針盤を見れば分かるだろ。俺は羅針盤を取り出してレオンに見せた。
「コンパスあるの? 地球と同じ仕組み? NとかSじゃないけどこれどうやって見るのー?」
「は? N? なんだそれは。白い丸が南、黒い丸が北、白い三角が東で黒い三角が西だ。」
「へえー、じゃあ東は白い三角ね。オッケー、オッケー、ワイバーンたちー、とりあえずあっちにずーっと飛んでみてくれる?」
ワイバーンたちもようやくレオンの声で起きると、羽をバサバサと伸ばしている。
それは俺たちが腕を上に上げて伸びをするようなものなのか?
俺もさっき起きたところなんだが、俺以外の三人はきっちりと髪が整えられているところを見ると、俺よりだいぶ早く起きて時間をかけてアイロンとワックスというやつで髪を整えていたんだろう。
ここには俺たちとワイバーンしかいないのに、よくもまあ毎日そんなことに時間を使えるものだ。
「さあ、出発!」
顔を洗って軽く髪を手櫛で整えると、もう出発だと言われた。
おい、マジかよ。
既にみんなが飛び立っていて、そこに残っているのは次男と俺だけだ。
次男の目がキラッと光った気がして背筋に悪寒が走った。
仕方なく俺は次男の背中に乗ってしっかりと皮を握る。
「うわあーーー!!」
やると思った。
死ぬかと思った。
こいつは俺と相性が悪いんだ。飛んでいる途中で宙返りだの急降下だの、散々な目に遭わされた。
昼に地上に降りた瞬間に、俺は何も入っていないはずの腹の中のものを全部吐き戻して倒れた。酸っぱくて透明な液体しか出なかった……
「お願い、長老、俺のこと運んで。次男は嫌だ……」
風を受けて乾燥した目から、ポロッと涙がこぼれ落ちた。
必死に力を込めて握っていた腕は今でもプルプルと震えているし、本当に、本当に、勘弁してください。
肉、焼くからさ。ちゃんと塩もハーブも用意するからさ。
俺の願いは聞き入れられて、午後からは長老が乗せてくれることになった。
おいこら次男、その程度で情けないと言いたげな顔をするんじゃねえ。誰のせいだと思っているんだ。
その後、俺は快適な空の旅を楽しんだ。
その合間に何度か山ほどある魔物の肉を焼かされたんだが、命があるだけいい。
「ねー? たまには街とか行ってみたい」
そんなレオンの気まぐれで、夜は街に泊まることになった。
その前に俺はまた、ワイバーンたちが滞在する森の奥地で、肉を大量に焼くことになったんだが、もうそれは仕方ない。
やはり俺のこのパーティーでの役割は、肉焼き職人らしい。誰が肉焼き職人だ!
街か。確かに久しぶりだ。魔物を使役している奴は結構いるが、ワイバーンを連れて入れる街は無い。
俺たちは先に、ギルドに寄って先日狩ったオーガを売ることにした。
「オーガなんていつ狩ったのー? 俺知らないんだけどー」
「レオンが栗を探しに行っていた時だ」
「あーなるほどね。そっか。俺だけいつの間にかハブられたのかと思った」
はぶ? また意味の分からないことを。
しかし俺は日々学んでいる。ここで突っ込むと更に分からない言葉を並べられて混乱するだけなんだ。俺は何事もないという風に聞き流した。俺は聞き流すというスキルを手に入れた。
そして受付の女の子は怯えている。
そりゃあそうだろ。オーガがどんどん台の上に積み重なっていくんだからな。
血抜きはしたが、アイテムボックスの中に丸ごと全て入るというのはとても便利だ。
全て買い取ってもらったから、俺たちの懐は温かくなった。
レオンもアイテムボックスの中に入っていた魔物を少し売ったみたいだが、恐らくレオンのアイテムボックスには、このギルドが埋め尽くされるほどの魔物が入っている。あれはアイテムボックスという名の魔物の墓場だ。
そしてあの硬い小動物が食う、栗という木の実も大量に入っているんだろう。
冬眠するリスみたいだな。
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