第72話 ゆっくり始まった旅
「精神的HP、俺ゼロになった。」
「俺も疲れた。」
「え〜?アデルもドランもどうしちゃったの〜?
馬車乗る予定だったからさー、この日差しはキツイよねー
あれ?でも太陽じゃないからUV無いのかな?」
「ええ??太陽じゃないの?どういうこと?太陽出てるよね?」
「アリサー、あれ太陽じゃないんだよー
何だっけ?ドラン、あの上の眩しいの何だっけ?」
「あれは天が光を与えてくれているんだ。」
「え?え?天が光?」
「そういうことー、面白いよね〜、初めて聞いた時、衝撃的だったもん。因みに夜は天が休んでるからみんなも寝るんだって。地球じゃないから月もない。月っぽいのは天のプレゼントで、星っぽいのはあるけど、何なのか分かんない。」
「そうなんだ。そうだよね。地球じゃないんだもんね。月が天のプレゼントってお洒落だね。」
「だよねー」
今は訳の分からない話は聞きたくない。見世物にされて出鼻挫かれて、俺は精神的に疲れてるんだ。
森にでも駆けて行って魔法バンバン放ちたい・・・。
それかシュアでも召喚して癒されようか。魔物だからな。街道で出していいものか迷う。
「シュアに癒されたい・・・」
「アデル、シュア呼ぶの〜?アデルってさ、召喚できるのシュアとヴァイスだけ?」
「いや、あとはレターピジョンという鳥がいる。名前の通り遠くまで手紙を運んでくれる。どこまででも飛べる訳じゃなくて距離は最大で徒歩で1日から2日程度の距離だが。」
「へー、伝書鳩ってやつか。この世界にもいるんだね〜、他は?」
「今はそれだけだ。前にスレイプニルという足の速い馬がいたが、言うことを全然聞かないから手放した。」
「足の速い馬かー、それいいな〜。でも俺、馬乗れないや。」
「ダメじゃん。あたしも乗れないけど。」
そうなのか。2人は馬に乗れないのか。平民だからそうなるか。
俺たちはしばらく街道を歩くと、街道から少し森に入ったところで昼休憩をとった。
「トトー、ダッコ」
結局シュアを召喚して俺は癒やされている。
「シュア抱っこって、抱っこされる側じゃなくてする側じゃん〜ウケる。」
「いいんだ。俺たちにはこれが抱っこなんだから。」
俺は胡座をかいたシュアの膝の上に座っている。
俺がシュアを抱っこしたら潰れるからな。
ん?今の俺なら人間辞めてるからいけるのか?
腕力的ににいけても、体格的に難しいだろう。
シュアは可愛い。はぁ、癒やされる。
温かいし。人の筋肉のように力を入れていない時の筋肉は柔らかいし。胸毛が首にモシャモシャするが。
「そんなに疲れてるならカモミールティー淹れてあげる。」
アリサが全員分のカモミールティーを淹れてくれた。
「あれ?アリサお湯出せるようになったんだ?やるじゃ〜ん。これ意外と難しいよねー。火と水混ぜ合わせるのー」
「かなり練習したよ。まだできるようになったばかり。熱湯はいけるけど、細かい温度調整はまだ無理かなー」
「そっか。でも頑張ってて偉いじゃん。」
俺は全然気付かなかった。お湯など水を出して沸かすものだと思っていたし、水と火を混ぜるなど、そもそも二つの魔法を混ぜる発想がなかった。
さすが違う世界から来た彼らは発想が違うのだと思い知った瞬間だった。
シュアは火が苦手だから、ここで火を使われたら怯えたかもしれない。アリサがそのことを知っていたかは分からないが。
ドランも疲れたと言っていたな。そう思い出してドランを見てみると、木にもたれて腕を組んで目を瞑っていた。寝てるのか?
まさか旅に出る前にレイナ様に刺繍をさせられていたんじゃないだろうな?
疲れたというのも、あの見世物にされたことではなく、夜通し刺繍した疲れか?
まぁ急ぐことはない。森でサンドイッチを片手にのんびり過ごせた今日も、悪くはないのかもしれない。
と思っていたが、次の街に着いて逃げたくなった。
『ようこそ勇者様御一行』と防壁には大きな垂れ幕がかけられ、誰が知らせたのか、門を潜ると歓迎のための人が押し寄せた。
俺たちの絵姿でも出回っているのか?
あれよあれよという間に街の中央広場に連れて行かれ、そのまま宴会が始まった。
「凄いね〜、俺たち有名人じゃん。サインとか考えとかなきゃじゃない?」
「この世界にサインってあるの?」
「えーじゃあお相撲さんみたいに手形とか〜?」
「それも無いと思う。見たことないし。」
「握手もあんましないよねー」
「そういえばそうかも。」
レオンとアリサが何やら話しているが、王都の疲れに上塗りされて、もう俺は逃げたい気持ちでいっぱいだった。
ドランを見るとボーッとしているから、やはり寝不足なのだろう。
しかも夜は宿ではなく街長宅に泊まることになった。レオンやアリサが要らんことをしないといいんだが・・・。
翌朝、何もないよな?と少し不安になりながらレオンに問いかけた。
「んー別に何もなかったと思う〜、
夜中までアリサと話してたら、街長の娘さんっぽい人が寝ぼけて部屋に来たくらいかな?」
「は?どういうことだ?詳しく聞かせてくれ。」
「下着みたいな格好で部屋に来たんだけど、アリサと一緒に出たら走って部屋に戻ってったー」
「あれは寝ぼけてたんじゃなくてレオンのこと誘惑しようとしたんだと思う。あたしがいなかったら部屋の中まで入ってきたんじゃない?」
そういう思惑で俺たちを屋敷に泊めたのか。次からは貴族の屋敷には泊まらないと決めた。
「・・・レオン、前に一度話したが、貴族令嬢と2人きりで同じ部屋に入ったら結婚させられる。気をつけろよ。」
「え?え?俺、もしかして狙われてたの?マジかー、怖っ。鍵かけて寝ることにする。」
アリサでも気付いているというのに、全くレオンはボーッとしすぎだ。




