第61話 似てねえな
母上から手紙が届いたのは10日前だ。
領地で暮らす母上に手紙を書くとだいたい10日ほどで領地に着く。
そして母上から届いた手紙には妹を連れて王都に遊びに行くという内容だった。
だからそろそろ到着すると思うんだが。
妹か。
俺が王都の学園に通うために家を出たのが10歳で、学園を卒業してすぐに宮廷魔法師団に入ったから、12年ぶりか。当時はまだ赤ちゃんで喋ることすらできなかったな。
母上はたまに王都に来ていたから久しぶりではあるが2年ぶりくらいか?
「アデルー、妹ってどんな子?可愛い?」
「さー、知らん。俺も12年ぶりに会うし、前に会った時は赤ちゃんだった。」
「そうなんだ。ってことは12歳とかなんだね。ドランから聞いたんだけどアデルって貴族なんでしょ?じゃあ妹は貴族令嬢ってことだよね?ドレスとか着てんのかな?ちょっと楽しみ〜」
「ああ見えてドランも貴族だぞ。」
「嘘!?マジ?ドランも貴族なの?」
やっぱりな〜俺のことは話しても自分のことは話さなかったんだな。
「あぁ。俺もドランも男爵家だし、3男以下だから平民みたいなもんだ。」
「男爵家?男爵芋?ジャガイモ作ってる?」
「は?芋?領地では作っているだろうが、俺の親は作ってない。
で、ドランはどこ行った?」
「ドランは寝てると思う〜
お姉ちゃんに刺繍頼まれて、今日は寝れないから明日は休むって昨日言ってた。」
マジかよ。
そう言えば今でも頼まれるとか言ってたな。
現役刺繍職人だな。
ん?待てよ。5階層で怪我をしてレオンが助けに行ったのにヒールをかけても起きなかった日、何日か寝れなかったとか言ってた理由ってまさか姉に頼まれた刺繍をしていて寝れなかったのか?
マジかよ。寝ずに刺繍して命落としかけるとかどんだけだよ。
ドランがそれだけ従っている姉って、かなり怖いんだろうな・・・。
ドランに似てゴツい女なんだろうか?
会いたくはないな。
コンコン
「勇者様、レイナ・コンコーレ様という方がドラン様に会いたいと仰っているのですがドラン様のお部屋を訪ねても返事がなく、いかがいたしますか?」
コンコーレ?聞いたことあるな。
コンコーレ、コンコーレ・・・ドランだ。
「ドランの家名はコンコーレだ。ドランの身内じゃないのか?」
「それなら入れてあげて〜
ドラン寝てるだけだから俺が起こしてくるし〜
それまでアデル相手よろしくねー」
マジかよ。母ならいいが刺繍を頼む姉だったらどうすんだよ。怖いんだが・・・。
と思ったがめちゃくちゃ綺麗な淑女だった。
真っ直ぐ腰まで伸びた金髪に、吸い込まれそうな深いブルーの瞳。透き通るような白い肌に薄っすらと微笑みを浮かべている。
「あなたはドランのお友達かしら?私はレイナよ。ドランの姉でコンコーレと名乗ったけれど、今は嫁いでコンコーレではないんだけれどね。」
「そうですか。俺、いえ私はアデル・ラナーロと申します。」
あまりにも美しい人を前に、俺は久しぶりに緊張していた。
あー、レオンを真似して少しくらい髪に気を遣えばよかった・・・
蜜蝋とか髪につければよかった。
今更遅いが。
コンコン
「レオンでーす、ドラン連れてきたよ〜」
「入っていいぞ。」
レオンは普段通り身だしなみを整えているが、ドランは本当に寝起きのままで、髪には寝癖がついており寝巻きのままだし、目も半分開いてない。
「あ〜、刺繍だろ?こんなとこ来なくても後で届けたのに。」
「ふふふ、気にしないで。ドランのお友達も見てみたかったし。」
「え?え?刺繍ってことはこの人ドランのお姉ちゃん?ドランのお姉ちゃんこんなに綺麗なの?どこかの国のお姫様みたい。」
「あら、あなたもドランのお友達?」
「俺はレオンでーす。」
「私はレイナです。」
「ドランにこんなに綺麗なお姉さんがいるなんて知らなかった〜
全然似てないねー
ドランが貴族ってことはレイナさんも貴族でしょ?貴族の令嬢って初めてみたかも〜」
貴族令嬢からしたらレオンのこの話し方はちょっと受け入れ難いものがあるだろう。
少し顔が引き攣っているようにも見える。
身分の高い者から名乗るのが常識とされる貴族社会でレオンの方が先に名乗ったしな。
怒り出したらドランに任せよう。
みんなが席に座ると、執事が紅茶を出してくれた。紅茶は身分の1番高い者に最初に置かれ、次に客人に置かれる。その後は適当だ。
ドランの姉はレオンの前に最初に紅茶が置かれたのを見て、目を見開いた。
恐らく、俺かドランの前に先に置かれたら、レオンを平民だと判断して不敬だと言おうと思っていたのだろう。
綺麗な見た目とは裏腹にドランに寝ずに刺繍をさせるような女だからな。それくらいは考えていそうだ。
そんな姉を見てドランが笑い出した。
恐らくドランも俺と同じことを思っていたんだろう。
ふははははは
「え?何?紅茶配っただけなのに面白いことあった〜?それとも徹夜でおかしなテンションになっちゃった?」
「姉上、よく耐えたな。少しは大人になったんだな〜」
「何よその言い方。彼は何者なの?他国の方かしら?」
「ん〜、他国と言えば他国だね〜」
「そ、そう。」
「レオンは勇者だ。」
「は?え?勇者?あの?」
ドランの姉は淑女にはあるまじき表情で驚いている。そうなるよな。
ドラン、お前はこれを見たくて姉をここに来るよう仕向けたんじゃないか?やるな。




