第49話 だよな。勇者だもんな。
ギルドの訓練場に直接向かうと、イライラした様子のメワクと、呆れた様子のドランがいた。
「おう、レオン遅かったな。」
「うん。お腹空いたからさ、途中でサンドイッチ食べてた。腹が減っては戦はできぬからねー」
「そうか。」
「これドランの分ね。」
「おう。いいのか?」
「いいよー、でこれはメワクの分ね。」
レオンがメワクにサンドイッチの包みを差し出したが、メワクは受け取らなかった。
「そんなもん要らねーよ!!」
「もーなんでそんな怒るの?せっかく買ってきたのに。お腹空いてるからイライラしちゃうんじゃない?」
レオン、お前は気付いていないだろうが、メワクが怒っているのはお前が煽るからだぞ。
メワクはもう誰が見てもイライラが最高潮に達しようとしているんだが、レオンは気付いていないらしい。
ドランは笑いを堪えながらサンドイッチに齧り付いているし、俺もこのレオンとメワクの温度差に笑いが込み上げてくる。
「早くやるぞ!」
「分かった〜」
レオンが木剣を構えた。もちろんすっぽ抜けないよう紐が付いたレオン専用の木剣だ。
「おい!なんだその紐は!何をしようとしてやがる!」
「気にしないで〜
俺まだ剣の扱いそんな慣れてないから、すっぽ抜け防止で付けてるだけだから〜」
「は?ここにきてまだふざけるのか?いい加減にしろ!」
「いや、すっぽ抜けたら危ないし。俺まだ剣握ってから1年経ってないしさ。安全のためにこれは許して。」
まぁ普通はそうなるよな。
紐が付いた木剣など聞いたことがないし。
すっぽ抜け防止など、どれだけ初心者なんだと呆れるよな。
しかしあれは本当に必要なんだ。命が惜しいならな。
「まあいい、おかしな小細工でないなら許してやる。」
「ねードランー、ドランとやる時みたいに軽く打ち合わせるって感じでいいかな?」
「いいと思うぞ。」
「なっ!軽くだと!!?俺をバカにするのもいい加減にしろ!」
レオン、気持ちは分かるが煽りすぎだ。模擬戦どころではなくなったではないか。
そう思っていると、激昂するメワクに近づいて行ったのはドランだった。
「まあまあまあ、メワク落ち着け。レオンが言うことは気にせずお前は全力でいけばいい。そしてあのレオンを負かしたら英雄だぞ?」
「そ、そうか。」
「まあ頑張れ。」
「分かった。」
ドランのおかげでメワクは落ち着いたらしい。
あんなふざけた奴に負けるわけがないとやる気に満ちた目でレオンを睨んでいる。
単純な奴だ。
そういえばレオンは討伐の時はバルムンクが勝手に剣技を繰り出しているから強いが、木剣だとどうなんだ?やはりまだ初心者なのか?
それだと負けてしまうのでは?
負けたらどうなるんだろうな?勇者はふざけた奴で弱いとでも吹聴されるんだろうか?
あまり良くない噂は流してほしくないんだが・・・。
「両者構えろ。・・・はじめ!」
ドランの声で開始の合図が聞こえたと思ったら、一瞬で距離を詰めたレオンがメワクの首筋に木剣を当てていた。
もし負けたら・・・そんなことは杞憂だった。
そうだよな。レオンには剣聖のスキルがあったんだった。
一歩も動けず、呆気に取られるメワク。
「えっと、もう一回やる?」
「・・・お願い、します。」
唇を噛み締め、メワクは声を絞り出すように言った。
そして、何度やっても結果は同じだった。
それなりに腕に自信があるから挑んできたんだと思ったが、違ったようだ。
何度やっても敵わないことが分かると、意気消沈した様子で小さな声で呟いた。
「俺の負けです・・・」
実力差を見せつけられて心が折れたか。
それも人生だ。これに懲りたら無謀なことはやめておくんだな。
メワクがいなくなったんだから、俺とレオンは「ログハウス可愛い」とレオンが謎の言葉を発した元の家に戻るんだよな?
あの屋敷に住んでいいのか?
後で聞いてみなければ。
そう思っていると、訓練場を出る際に、メワクは捨て台詞を吐いて立ち去った。
『俺はお前なんか勇者と認めねーからな!』
どうやら諦めていないらしい。
しばらくは屋敷に住むことになりそうだ。




