第46話 並々ならぬ髪への執着
ある日の冒険者ギルドでそれは起こった。
「レオン、何でいつもローブのフード被ってんだ?暑いだろ。取れよ。」
そう気軽に声をかけたのは何とかという冒険者だったか?パルチザンという槍を持った奴だった。
別にそいつも、レオンをバカにしようだとか、悪意があったわけではないと思うんだが。
その男がレオンのフードを取ろうとしたんだ。
「触るな!!」
驚いた理由はレオンの声の大きさか、それともレオンが怒ったという見たことのない状況になのかは分からないが、ギルドから一瞬で音が消えた。
フードに手を伸ばした男もサッと手を引き、固まっている。
「レオン、ご、ごめん。
そんなに怒ると思ってなくて、嫌がらせしようと思ったわけじゃないんだ。ごめん。許してくれ。」
レオンに頭を下げて平謝りする男を見て、レオンは我に返ったんだろう。
「ごめん。怒鳴って。」
静かにそう言ってレオンはフードをより深く被って顔さえ見えなくしてしまった。
俺の驚きは、レオンの唯ならぬ髪への執着か、レオンが怒ることがあると知ったことか、どちらだっただろう?
そして、レオンは居心地が悪くなったのか、ギルドからさっさと出ていってしまった。
「気にするな。レオンは今、髪が自分の気に入らない状態なんだ。だから髪を他人に見られたくないらしい。それほど髪にこだわっているんだ。みんなもしばらくはレオンの髪には触れないでやってくれ。」
俺はそう言うと、レオンを追いかけた。
怒ったが、魔法を出したり剣を抜いたり、そんなことをしなかったのはよかった。
もう俺では止められないからな。
そしてギルドではレオンの髪に触れないということが暗黙の了解になった。
そこまでするか?
「レオン、お前ギルドで怒鳴ったんだって?お前も怒ることがあるんだな。なんか安心したぞ。」
「まぁねー、だって人間だし怒らない人なんていないでしょ。」
「しかも髪に強いこだわりがあるんだって?」
ドラン!お前は!皆が触れないようにしていることをそんな気安く。俺は知らないからな。
「ドランもでしょ?いつも綺麗に髪立ててるじゃん。」
「まぁなー、髪は大事だよな。」
えー、マジかよ。ドランも、レオン側の人間だった。髪にこだわる奴2号がここに現れた。
俺には全く分からん。
「だよねー、あと1ヶ月くらいはフード取れない。」
「散髪屋に失敗されたか?」
「魔道具の試作品でやらかした。」
「へー、前に言っていたアイロンとかいうやつか?」
「それ。」
「散髪屋で切った髪もらって試せばいいんじゃないか?」
「うわーそれ!それいい!ドラン天才じゃん。ちょっと今からクードおじさんとこ行ってくる!」
走り出したレオンはドランが追ってくれたから、俺はゆっくりと食事を進めた。
いてよかったドラン。
ドラン頼んだぞ。俺ではレオンの足に追いつけないしな。
こうしてドランの案で、理髪店で切った髪で試作を繰り返してレオンがフードを外す頃にヘアアイロンとかいうやつが完成した。
「クードおじさん、ありがとう!」
レオンの説明によると、寝癖などで畝った髪が、その魔道具を当てることで真っ直ぐになるらしい。
俺としてはへーという感想だった。
そんなもの水をちょっとつけて手櫛で梳かしておけばいいだろ。とは思ったが、レオンを怒らせてもいけないのでそれは心の中に留めておいた。
髪にこだわる奴2号のドランもそれを買ったらしい。これはいいと絶賛していた。俺には理解できないが、まぁ彼らがいいならいいんだ。
その後、真っ直ぐにするものとは逆に、クルクルとカールさせるとかいうものも発売されて、それは女性に人気が出て貴族や王族も使っているらしい。
そんなに髪にこだわる奴らがいたことに俺は驚いた。それとも俺がおかしいんだろうか?
髪型をどうにかしろと注意されたことはないから、俺はこのままでいいんだ。
注意されるようになれば考えるかもしれないが。




